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弁護士・亀井英樹先生の法律ノウハウ

他の不動産業者の取扱物件の無断掲載について

 インターネットによる不動産賃貸物件情報の公開が重要となりつつありますが、他の不動産業者の取扱物件を無断で自社のホームページ上に掲載する例があるようです。このような場合に、どのような刑事上および民事上の問題点があるのでしょうか。

 

1 他の不動産業者の取扱物件を無断掲載することの法律上の問題点について
 他の不動産業者の取扱物件を無断掲載することの意味については、次の2種類考えられます。
  1 まず、賃貸人の承諾を得ているが、当該不動産業者の承諾を得ていない場合。
  2 次ぎに、賃貸人の承諾も当該不動産業者の承諾も得ていない場合。
 
2 賃貸人の承諾のある場合
 そこで、まず、1の賃貸人の承諾を得ている場合には、媒介業務のための広告行為の一種であるインターネット上への物件の掲載ですので、その行為自体は適法であると考えられます。
 しかし、当該不動産業者が賃貸人との間で専任媒介契約を締結している場合には、賃貸人が他の不動産業者に媒介を委託することは専任媒介契約を違反することとなりますので、それを知りながら自社のホームページに掲載した場合には、当該不動産業者に対して、賃貸人と共に民事上の損害賠償責任を負うことが考えられます。

3 賃貸人の承諾もない場合
 次ぎに2の賃貸人の承諾も得ていないでホームページに掲載する行為は、当該広告表示は全く無権限の広告行為ですので、一種のおとり広告であると考えられます。

 (1) 景品表示法違反
 上記のようなおとり広告の場合については、不当景品類及び不当表示防止法(以下「景品表示法」といいます)第4条第3号に定める商品・役務の取引に関する事項についての不当表示に関し、昭和55年4月12日公正取引委員会告示第14号に定める不動産のおとり広告に関する表示として、「自己の供給する不動産の取引に顧客を誘引する手段として行う次の各号の1に掲げる表示」のうち「2 取引の申出に係る不動産は存在するが、実際には取引の対象となり得ない不動産についての表示」を定めているため、本件のインターネット上の無断掲載は、上記不動産のおとり広告に該当するものと考えられます。
 したがって、当該不動産業者の行う無断掲載については、景品表示法違反として、都道府県知事による行為の取りやめ等の指示を受けることになり(9条の2)、その指示に従わない場合には、3万円以下の罰金に処せられることとなります(12条)。

 (2) 公正競争規約違反
 また、上記無断掲載行為は、景品表示法違反に該当するほか、不動産の表示に関する公正競争規約(以下「公正競争規約」といいます)第18条2項に定める「不動産の取引に関する事項について、事実に相違する表示であって、不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害するおそれあると認められる表示」に該当すると考えられますので、当該不動産業者は、公正取引協議会より50万円以下の違約金を課せられる場合があります。

 (3) 不正競争防止法違反
 さらに、おとり広告については、不正競争防止法違反に該当する場合も考えられます。
 この点、判例には、「広告主が、顧客を集めるために、実際には販売する意思がないか又は販売したくない商品について、あたかもこれを販売したいかのように広告すること(いわゆるおとり広告)は、直ちに不正競争防止法1条1項6号(現行法2条1項13号)に該当するということはできない。
 しかしながら、右のような広告をした上、広告された商品を購入しようとして来店した顧客に対し、右商品の購入を諦めさせ、これと同種の他の商品を購入させるために、広告された商品の品質等の欠点につき虚偽の事実を陳述する行為を恒常的に行う場合には、おとり広告は、広告主と競争関係にあり、かつ、広告された商品を扱う業者の営業上の信用を害する虚偽の事実を陳述・流布するための要素ともいうべき集客手段であつて、虚偽の事実を陳述・流布する行為と不可分一体のものということができるのであるから、前記条項に該当するものと解するのが相当である。」と判示して一定の限度で不正競争防止法1条1項6号の適用を認めた判例も存します(名古屋地裁平成5年1月29日判決)。

 したがって、上記無断掲載行為についても、直ちに不正競争防止法違反には該当しませんが、インターネット上の掲載された物件を賃借しようとして来店した顧客に対し、当該物件の賃借を諦めさせ、これと同種の他の物件を賃借させるために、広告された物件の品質等の欠点につき虚偽の事実を陳述する行為を恒常的に行う場合には不正競争防止法第2条1項13号に該当することが考えられます。

 そして、不正競争防止法違反に該当する場合には、当該不動産業者には差止請求(同法3条)、損害賠償請求(同法4条、5条)等の民事上の責任が認められる外、刑事上も3年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処せられる場合があります(同法14条1号)。

 

2006.09/26

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亀井英樹(かめいひでき)
東京弁護士会所属(弁護士)
昭和60年中央大学法学部卒業。平成4年司法試験合格。
平成7年4月東京弁護士会弁護士登録、ことぶき法律事務所入所。
詳しいプロフィールはこちら ≫

【著 作 等】
「新民事訴訟法」(新日本法規出版)共著
「クレームトラブル対処法」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「管理実務相談事例集」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「賃貸住宅の紛争予防ガイダンス」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修