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弁護士・亀井英樹先生の法律ノウハウ

地震と賃貸管理

 震度6弱の地震は想定の範囲内なので、その程度で被害を被るのは建物が悪いからだとの意見がある。建物が地震で被害を受けた場合、家主に責任があるのですか。
 工作物責任(民法717条)の問題。建築基準法違反や修繕未了等、建物自体に問題があったのなら家主は責任を負う場合があります。
 仙台における震度6の地震による工作物の崩壊による被害について免責を認めた判例もありますが、下記のとおり、阪神・淡路大震災による建物の倒壊について賃貸人・所有者に土地工作物責任を認めた判例もあります。

〔神戸地裁平成11年9月20日判決〕(出典:判例マスター)
・阪神・淡路大震災により賃貸マンションの一階部分が倒壊し、賃借人が死亡した事故について、賃貸人・所有者の土地工作物責任を肯定した事例
・前記損害賠償額の算定に当たって、自然力の損害発生への寄与度を割合的に斟酌し五割の限度で土地工作物責任を認めた事例
・前記事故においてマンションの賃貸借契約を仲介した宅地建物取引業者の損害賠償責任を否定した事例
 地震の場合、管理会社はどこまで責任を負いますか。
 管理会社が建物の維持管理を受託しており、その維持管理に過失があれば、建物の占有者として、工作物責任を負います。例えば建物の劣化を知りながら家主への改修提案等を一切行っていない等の場合には工作物責任が発生することが考えられます。



事例1:分譲マンションを賃貸に出している。地震により水道とガスの供給が止まったほか、玄関のドアの開閉が不能になった。入居者は窓から出入りしている。

 

 この状況は、賃貸借契約の継続が不可能であると考えて宜しいのですか。
 建物の損壊の状況が、建て替えと同視しうるような大修繕を要する場合には経済的にみて賃貸借契約の履行は不能であると評価される場合があります。単にドアを交換すれば足りる状況であれば、不能とは言えないでしょう。
 但し、履行不能とは認められない場合でも、水道、ガスの供給がストップしている状況では、賃料全額を取得しうる状況ではないため、その履行の不能の程度に応じた賃料の減額はやむを得ません。

 

 上記の事例1の場合入居者が不便であるとの理由で退去を希望している場合、賃貸借契約は解除されてしまいますか。
 履行不能と評価される場合には、そもそも賃貸借契約は地震による損壊により終了しておりますので、入居者の申出は意味がありません。その後の入居者の占有は事実上の占有に過ぎません。 履行不能とまでは認められないときは、通常の退去の申出ですので、通常通りの取扱をすれば足ります。
 但し、退去までの間の不能の程度に応じた賃料の減額には賃料減額請求が出された場合には応じる必要があります(民法611条)。

 

 当社の賃貸借契約書には敷引きの条項があります。その取り扱いはどのようにするべきですか。
 阪神大震災に関する判例では、履行不能になったにも拘わらず敷引き特約を適用した場合について、その特約は無効であると判断した判例が多数出ております。
 したがって、今回のケースでも、建物の損壊の程度が履行不能の程度まで達していれば、敷引き特約の適用は認められませんが、履行不能ではなく通常の退去申出であれば、敷き引き特約の適用は認められます。(なお敷引き特約自体は、その内容が不当でない限り消費者契約法に違反するものではありません。)

 

 入居者から一時的な仮住まいとしてのホテル代や引越し費用を請求されたとき、支払う必要がありますか。
 家主または管理会社に工作物責任が発生する可能性がある場合には、ホテルの宿泊費や引越費用についても、損害として認められる可能性もあります。

 

 

事例2:分譲マンションの3階の部屋を賃貸に出している。地震により電気温水器の配管が破損し、2階と1階の部屋に漏水した。

 

 階下の住人(区分所有者)から、漏水による被害の補修として70万円を請求されました。応じる必要はありますか。
 電気温水器の設置管理について瑕疵がある場合には工作物責任が発生し、その被害を賠償すべき義務を家主または管理会社は負うことになります。通常は、施設賠償保険で対応していると思います。

 

 上記事例2の場合で、請求に応じる必要がない場合、お見舞金という名目でいくらか支払ってもよいかと思っています。何か問題はありますか。
損害の賠償ではなく見舞金の給付であれば問題になる可能性は低いと思います。

 

 

事例3:分譲マンションの1階の部屋を賃貸に出している。電気、ガス、水道等は全て使用可能ですが、配水管の破損によりトイレの排水が流れない状態。
 

 仮設トイレの設置を検討しています。この設置費用を管理組合に請求することはできますか。それとも家主が負担しなければなりませんか。
 物件の提供義務を負っているのは家主ですから、家主の負担になります。

 

 上記事例3で入居者が「継続して住むことができない」との見解を示し、賃貸借契約の解除を申し出てきた場合、どのような対応になりますか。
 配水管の破損によるトイレの使用不能程度では、賃貸借契約の履行不能とまでは認められません。したがって、通常の解約申入として扱うことができます。ただし、トイレ等の使用不能の程度に応じた賃料の減額には応じる必要があります。配水管の閉塞の場合、賃料の3割減額を認めた判例があります。


事例4:賃貸アパートでは、電気温水器本体やその配管の破損等による水漏れが多く発生し、特に被害が大きい。
注:通常の給湯器は本体に2リットル~3リットルの水が入っている。一方、電気給湯器は深夜の割安な電力を利用して湯を沸かし、300リットル~400リットルの湯を本体に備蓄している。

 

 入居者の家財道具に生じた被害、階下の店舗の商品に生じた被害、階下の室内のクロスやフローリング等に生じた被害について。家主には損害を賠償する責任がありますか。
 工作物責任が発生するのであれば、責任が生じます。
 
 上記事例4で、特に電気温水器の被害が多かった。施工不良を証明できれば、建築会社に損害賠償を請求できますか。
 電気温水器の設置に問題があれば、請負人である建築会社に請負人の責任を請求できる場合があります。ただし、担保責任についての存続期間については特約がなければ引渡から5年であり、特約があればそれより短期になります。

 

 上記事例4で、電気温水器が使用できないとの理由による退去の申し出があった場合、これは契約の解除でしょうか。
 電気温水器の使用不能程度では賃貸借契約の履行不能とまではいえませんので、通常の解約申入れの手続として扱うことができます。ただし、解約退去日までの賃料の減額には応じる必要があります。

 

 上記事例4で、建物外壁の破損などによるコンクリートの落下等で、車やオートバイ等に被害があった場合、それらの請求に応じる必要がありますか。
 工作物責任が発生する可能性があります。その場合には、建物維持管理を請け負っている管理会社に過失があれば、管理会社も責任を負いますが、管理会社に過失がなければ所有者が責任を負います。

 

 上記事例4で、室内では、家具の転倒やテレビの落下などにより、フローリングに傷や穴が開くという被害がありました。それらはすべて、家主の負担で改修工事をしなければなりませんか。
 賃借人には、通常故意過失がないので、責任を問うことは難しいと考えられます。ただし、容易に予見できるような事情があれば、過失が場合によっては認められる可能性もあります。 室内の修繕については、入居期間中の修繕についての特約の内容によって定まります。特約がなければ、賃借人に過失がない限り家主負担になります。
2008.01/29

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亀井英樹(かめいひでき)
東京弁護士会所属(弁護士)
昭和60年中央大学法学部卒業。平成4年司法試験合格。
平成7年4月東京弁護士会弁護士登録、ことぶき法律事務所入所。
詳しいプロフィールはこちら ≫

【著 作 等】
「新民事訴訟法」(新日本法規出版)共著
「クレームトラブル対処法」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「管理実務相談事例集」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「賃貸住宅の紛争予防ガイダンス」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修