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弁護士・亀井英樹先生の法律ノウハウ

明渡遅延使用料と消費者契約法

明渡遅延使用料と消費者契約法

 

賃貸借契約においては、契約終了後も賃借人が物件を明け渡さない場合に備えて、明渡遅延使用料として賃料の倍額を課する特約を定める場合があります。しかし、これまで、明渡遅延使用料特約と消費者契約法との関係について判断した裁判例は見あたりませんでした。
ところが、平成20年12月24日、東京地方裁判所において、明渡遅延使用料と消費者契約法に関する判決がありましたので、これまで判断されたことがない特約についての判断であると思いますので照会したいと思います。

 

事案の概要


  定期建物賃貸借契約において期間満了により賃貸借契約が終了したにも関わらず賃借人が退去しない場合において、賃貸人が、建物の明渡請求と共に期間満了後退去するまでの間について、賃料の倍額を課する明渡遅延使用料特約に基づいて、賃借人に明渡遅延使用料の支払いを請求したもの。

 


裁判所の判断


(1)    消費者契約法9条1号について
消費者契約法9条1号は、消費者契約の解除に伴う損害賠償の予定又は違約金を定める条項に関する規定であるところ、本件規定はそのような条項ではないから、同号の適用はない。同契約の解除以外の終了の場合にも同条が適用されるとする被告らの主張は、同号の明文に反する主張であって、採用することができない。

(2)    消費者契約法10条について
消費者契約法10条は、民法等の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法1条2項に規定する基本原則(権利の行使及び義務の履行における信義誠実の原則)に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする旨規定する。
 ところで、賃借人は賃貸借契約の終了と同時に賃貸借の目的物を返還すべき義務を負い、賃借人が、これを任意に履行しない場合、賃貸人は強制執行手続きによってその返還を受けることになるが、債務名義がなければこれを得るために相当の時間と費用をかけて訴訟手続等をする必要があり、強制執行手続自体にも時間と費用を要するところ、必ずしも後にこれらの費用全部を確実に回収できるわけではない。また、賃料及び管理費は、目的物の使用収益の対価及び実費であるが、賃貸人は、賃借人が契約終了と同時に目的物を返還すべき当然の義務を果たさない場合に備えておく必要があるところ、その場合に賃借人が従前の対価等以上の支払をしなければならないという経済的不利益を予定すれば、それは上記義務の履行の誘因となるものであり、しかも賃借人が上記義務を履行すれば不利益は現実化しないのであるから、そのような予定は賃借人の利益を一方的に害するものではなく、合理性があるいえる。他方、上記の場合に、賃借人が従前と同じ経済的負担をすれば目的物の使用収益を継続できるとするのは契約の終了と整合しない不合理な事態であり、賃借人に返還義務の履行を困難にさせる経済的事情等があるとしても、その事情等が解消するまで賃貸人の犠牲において同義務の履行を免れさせるべき理由はない。以下略。
以上のとおり、本件規定は、信義誠実の原則に反し、被告らの利益を一方的に害するものといえないから、消費者契約法10条によって無効となるべきものではない。

 


判決の評価


  今回の判決は、明渡遅延使用料の特約について、定期借家契約における期間満了による終了の場合には、消費者契約9条の適用が無いことを明確にした点において、まず注目する必要があると思います。
  次ぎに、明渡遅延使用料として特約により賃料の倍額の支払義務を賃借人に課することについても、消費者契約法10条に違反しないと判断したことも重要な点であると思います。
  賃貸借契約に関しては、これまでのような敷金と原状回復に関する紛争から、昨年頃から更新料や礼金といった他の特約についても消費者契約法との関係で争われるようになりました。そして、今後は、今回の明渡遅延使用料のような違約金特約についても裁判で争われる可能性があります。このため、今回の判決は、今後の賃貸借契約と消費者契約法との関係に関する裁判の動向についての参考事例の一つになると思います。
      

2009.01/27

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亀井英樹(かめいひでき)
東京弁護士会所属(弁護士)
昭和60年中央大学法学部卒業。平成4年司法試験合格。
平成7年4月東京弁護士会弁護士登録、ことぶき法律事務所入所。
詳しいプロフィールはこちら ≫

【著 作 等】
「新民事訴訟法」(新日本法規出版)共著
「クレームトラブル対処法」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「管理実務相談事例集」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「賃貸住宅の紛争予防ガイダンス」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修