1 家賃の取り立てについての最近のニュース
平成21年2月17日、福岡簡裁で、家賃保証会社の社員が賃借人に対し、午後9時から午前3時頃まで支払の督促を行ったことが行き過ぎたものであるとして、その家賃保証会社に5万円の損害賠償を命じた判決がありました。賃貸人や、家賃保証会社が滞納家賃等を取り立てることは正当な権利行使として原則として許されておりますが、行き過ぎた権利行使は上記の判決のように、違法として損害賠償義務が認められる場合があります。
そこで、どのような場合に行き過ぎたと判断されるのか、過去の判例を紹介したいと思います。
2 賃貸借における判例
東京地裁昭和56年8月25日判決(出典:判例マスター)では、建物賃貸人が自己の建物の道路に面したガラス戸に賃料増額請求に応じない賃借人を非難する趣旨で行った貼紙が、賃借人の名誉を侵害したとして損害賠償が命じられております。
また、東京地裁平成16年6月2日判決(出典:判例マスター)では、賃貸人が、賃借人の賃料不払を理由に建物賃貸借契約を解除した後に、賃借人に無断で建物の鍵を交換したことについて、違法な自力救済として不法行為が成立すると判断されております。
さらに、札幌地裁平成11年12月24日判決(出典:判例マスター)では、建物賃貸借契約に自力救済条項があっても、賃貸建物の管理会社の従業員が、右建物内に侵入したり、鍵を取り替えるなどしたことが違法であるとして、管理会社の不法行為責任が認められております。
このように、賃料不払いであったとしても、社会的相当性を逸脱した方法による賃料の取り立て行為や、それに伴う鍵の交換等の行為は、不法行為として、賃貸人や管理会社等について損害賠償責任が発生する可能性があります。
3 貸金業法上の規制
なお、債権回収業務については、貸金業法においては、取り立て行為の規制について詳細な定めがあり、今後、賃料等の回収業務においても、その取り立て行為の社会的相当性を判断する上で参考になると考えられます。そこで、貸金業法の定めを紹介致します。
但し、賃料の回収と貸金の回収とでは、債権者の債務者の滞納による損害の発生の内容の大きな相違が存することや、債権者が貸室または居宅に取り立てのために訪問する場合にあたっては債務者の法的な地位(居宅の占有権限の有無等)に大きな相違がある場合もありますので、全く同一には論じられない点がありますことを留意する必要があると思います。
貸金業法第21条第1項
貸金業を営む者又は貸金業を営む者の貸付けの契約に基づく債権の取立てについて貸金業を営む者その他の者から委託を受けた者は、貸付けの契約に基づく債権の取立てをするに当たって、人を威迫し、又は次に掲げる言動その他の人の私生活若しくは業務の平穏を害するような言動をしてはならない。
4 貸金業法に関する判例
また、貸金業者の取り立て行為に関する判例も、賃料等の取り立て行為について参考になると思われる判例が出ておりますので紹介致します。
福岡地裁小倉支部平成10年2月26日判決(出典:判例マスター)では、貸金業者が債務者から年金証書等を預かって貸付を行い、取立てのために債務者宅を繰り返し訪問し、不在の場合多数の名刺をドアにはさんで連絡を要請する等の行為が不法行為に当たるとして貸金業者に対し慰藉料50万円の支払が命じられております。
大阪高裁判決平成12年6月29日判決(出典:判例マスター)では、一連の威圧的な取立行為が社会通念上許容される範囲を逸脱したものであるとして、債務者の貸金業者に対する慰謝料請求が認められております。
東京地裁平成12年6月14日判決(出典:判例マスター)では、貸金業者の従業員の執拗かつ威迫的な取立行為が不法行為を構成するとして、貸金業者に対する慰謝料請求が認容されております。
5 まとめ
上記のとおり、賃貸借における取り立て行為や自力救済に関する判例も、少なからず出ており、今回の福岡簡裁の判例のように、社会的な相当性を逸脱するような取り立て行為は違法となることは、判例上明白となっております。しかし、賃料の取り立て行為については、法令上の明確な規制は存在しないため、その点についてまだ十分な理解が進んでいない可能性もあります。
この点、貸金業に関しては、これまで社会相当性を逸脱した取り立て行為について、判例理論が蓄積された上、さらに法令による規制が整備されております。勿論、上記のとおり直接賃貸業務における取り立て行為に適用できる訳ではありませんが、今後、賃貸業務等における賃料等の取り立て行為が一層適正なものとする上で、貸金業法上の判例や規制も十分に参考になると思います。