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弁護士・亀井英樹先生の法律ノウハウ

農地法の改正について

第1 農地法の改正と不動産事業の多様化
 平成21年6月、農地法が改正されました。これまで賃貸住宅に関わる法律に関する話を中心にしてきましたが、不動産事業という大きな視点から見たとき、今回の農地法の改正は、不動産事業として農地の事業に関わるための大きな転機になると思います。これまで、不動産事業の内農地の事業については、農地法等の法律によって、農業分野への算入が厳しく制限され、その結果、農地の有効な利用が図られず、約38.6万ヘクタールにも及び耕作放棄地の出現や、農業人口の減少、地方の過疎化の進行という、農業の衰退と食料自給率が41パーセントにまで落ち込むという事態に進行していました。
 今回の農地法の改正は、他の産業分野から農業への算入を容易にするものであり、戦後の農業政策の中でも極めて大きな変革であると言えます。そして、これまで考慮されることがなかった不動産事業としての農業を見つめ直す大変良い機会であると思います。
 そこで、今回の農地法の改正を機に、不動産事業として建物賃貸や、駐車場経営だけでなく、様々な農産物を生産する場として農地の事業化の手法として、今回の農地法の改正を機に、新たな手法がどんどん生まれてくることになれば、不動産事業の手法が一層多様化を図ることになり、資産家にとっては、自分の資産に適した不動産事業の手法が増えることとなります。
 このため、今回の農地法の改正により、どのように他業種からの算入が容易になったかについて説明したいと思います。

第2 所有と経営の分離の容認
 これまで農地法において採用されていた基本的な方針は、所有と経営の一致でした。すなわち、農地の利用については、戦後直後に施行された自作農創設特別措置法と農地法により、自作農すなわち耕作者が自ら所有することが最も適当とされ、それ以外の農地の利用は厳しく制限され、賃借権等の利用権の設定には農業委員会の許可が必要である上、農業者又は農業生産法人以外の農地の利用は否定されておりました。

 しかし、農地の利用について、上記の通り、所有または使用権と経営の一致が厳しく要求されたことから、農業の衰退、遊休地の拡大が生じたことに鑑み、農地法について、これまでの基本方針を抜本的に変更し、所有と経営の分離を容認することにより、農地の有効利用を図ることが出来るように今回改正されることとなりました。
 今回の農地法の改正の趣旨は、食料の安定供給を図るための重要な生産基盤である農地について、転用規制の見直し等によりその確保を図るとともに、農地の貸借についての規制の見直し、農地の利用集積を図る事業の創設等によりその有効利用を促進することとされております。これは、まさにこれまで堅持してきた所有と経営の一致を放棄し、農地の有効利用のために農地における所有と経営の分離を容認することを意味するものです。
 これまで、土地所有者本人でなければ、農地の活用が出来なかったのですが、今回の改正により、農業生産法人でない一般の株式会社やNPO法人等の法人であっても農地を賃借して、農業に参入することが可能となりました。このため、農地所有者が経済力や専門的知識・技能・ノウハウを有する法人に農地を有効に活用させるという所有と経営の分離の実現が容易になったのではないかと思います。
 なお、今回の農地制度の見直しと併せて、農地の相続税の納税猶予制度について、現行では自ら営農を行わない限り認められないものを一定の貸付けの場合にも適用する見直しが行われることになりました。

第3 改正の内容
農地法等関連の法律改正の概要は下記のとおりです。

1.農地法の改正
(1)法律の目的の見直し

  1. 農地法第1条の目的規定について、農地が地域における貴重な資源であること、農地を効率的に利用する耕作者による地域との調和に配慮した権利の取得を促進すること等を明確化する。
  2. aの見直しに併せ、農地について所有権、賃借権等の権利を有する者はその適正かつ効率的な利用を確保しなければならない旨の責務規定を新たに設ける。

(2)農地転用規制の見直し

  1. 現行では国又は都道府県が病院、学校等の公共施設の設置の用に供するために行う農地転用については、許可不要とされているが、これを見直し、許可権者である都道府県知事等と協議を行う仕組みを設ける。
  2. 違反転用が行われた場合において、都道府県知事等による行政代執行制度を創設するとともに、違反転用に対する罰則を強化(罰金額の引き上げ)する。
  3. 農地の農業上の利用を確保するために特に必要がある場合において、農林水産大臣は、都道府県知事に対し、農地転用許可事務の適切な執行を求めることができることとする。

(3)農地の権利移動規制の見直し
農地の権利移動の規制について、農地の権利を取得しようとする者が、

  1. 農地のすべてを効率的に利用すること
  2. 個人の場合は農作業に常時従事すること
  3. 法人の場合は農業生産法人であること

という現行の許可要件を引き続き原則とした上で、次のように見直す。

  1. 農地の集団化、農作業の効率化その他周辺の地域における農地の農業上の効率的かつ総合的な利用の確保に支障を生ずるおそれがある場合には農業委員会は許可しないとの要件を新たに設ける。農業委員会のチェックを通じて、地域における農業の取組を阻害するような権利取得を排除する。
  2. 農地の貸借について、次の要件のすべてを満たすときは、農作業に常時従事すること(個人の場合)及び農業生産法人であること(法人の場合)の要件を課さないことができることとする。
    1. 農地を適正に利用していない場合に貸借の解除をする旨の条件が契約に付されていること。
    2. 地域の他の農業者との適切な役割分担の下に継続的かつ安定的な農業経営を行うと見込まれること。
    3. 法人にあっては、その業務執行役員のうち一人以上の者が農業に常時従事すると認められること
  3. bにより許可を受けた者が上記の要件を満たさなくなった場合等には、農業委員会は、勧告、許可の取消し等の措置を講じるものとする。
  4. 農業生産法人について、農業生産法人は地域の農業者を中心とする法人であるとの基本的性格を維持した上で、出資制限を次のように見直す。
    1. 農業生産法人の構成員については、法人に農地を貸している者等は議決権制限を受けないのに対して、これらの者と実態的に違いのない法人へ農作業を委託している者には議決権制限が課されている。この差を解消するため、法人へ農作業を委託している者についても、議決権制限を受けない構成員とする。
    2. 関連事業者の議決権を1事業者当たり1/10以下とする制限を廃止(ただし、最大で関連事業者の議決権の合計の上限(原則1/4)まで)するとともに、農業生産法人と連携して事業を実施する一定の関連事業者(農商工連携事業者等)が構成員である場合には、関連事業者の議決権の合計の上限を最大総議決権の1/2未満までとする。
  5. 農地の権利取得に当たっての下限面積(原則50a以上)について、地域の実情に応じ農業委員会の判断でこれを引き下げられるようにする。
  6. 相続等により許可を受けることなく農地の権利を取得した者は、農業委員会にその旨を届け出なければならないものとする。

(4)遊休農地対策の強化
遊休農地対策については、遊休農地のうち地域の農業振興を図る観点から市町村が指定したものについて、必要な措置を講ずるという現行の仕組みを、全ての遊休農地を対象とした仕組みに見直す(現行の農業経営基盤強化促進法に基づく仕組みを農地法に基づく仕組みとする)。その際、農業者等が遊休農地がある旨を申し出ることができる仕組み、所有者が判明しない遊休農地についても利用を図る措置等を新たに設ける。

(5)その他

  1. 小作地の所有制限及び小作地を国が強制的に買収する措置を廃止する。
  2. 農地の賃貸借の存続期間について、民法により20年以内とされているところを50年以内とする。
  3. 国が自作農創設のために強制的に未墾地を買収し、農家に開墾させる制度、標準小作料制度等を廃止する。
  4. 「小作地」、「小作農」等の用語の見直しを行う。

2 農業経営基盤強化促進法の改正
(1) 農地利用集積円滑化事業の創設
農地を面的にまとめることにより効率的に利用できるようにするため、市町村、市町村公社、農業協同組合等が、農地の所有者の委任を受けて、その者を代理して農地の貸付け等を行うこと等を内容とする農地利用集積円滑化事業を創設する。(現行の農地保有合理化のための転貸事業等もこの事業として実施できることとする。)
なお、貸付け等の実施に当たっては、農用地利用集積計画(注)の仕組みを活用する。
(注)農用地利用集積計画:市町村が、複数の農地の権利移動について一括して定める計画を作成・公告することにより、農地法の許可を受けることなく、農地の権利の設定・移転が行われる仕組み。
なお、これにより設定・移転された賃借権等は、法定更新が適用されず、存続期間の満了により農地は確実に返還されることとなる。

(2) 農用地利用集積計画の策定の円滑化
複数の者により共有されている農地について、5年を超えない利用権の設定を内容とする農用地利用集積計画を策定する場合には、共有者全員の同意ではなく共有持分の2分の1を超える同意でよいこととする。

(3) 特定農業法人の範囲の拡大
関係者の合意に基づき、担い手がいない地域における農地の引き受け手として位置づけられる特定農業法人の範囲について、農地の貸借の規制の見直しに伴い、農業生産法人以外の法人にも拡大する。

(4) その他
農地法において農地の権利移動規制を見直すことに伴い、特定法人貸付事業を廃止する等所要の規定を整備する。

3 農業振興地域の整備に関する法律の改正
(1)農用地面積の目標の達成に向けた仕組みの整備
都道府県知事が農業振興地域整備基本方針において定める農用地面積の目標の達成状況について、都道府県知事は農林水産大臣に報告し、農林水産大臣は、これを取りまとめ、公表するとともに、目標の達成状況が著しく不十分な都道府県知事に対し、農林水産大臣は必要な措置を講じるよう求めることができることとする。

(2)農用地区域からの除外の厳格化
農用地区域内の農用地について、担い手に対する利用の集積に支障を及ぼすおそれがある場合には、同区域からの除外を行うことができないこととする。

4 農業協同組合法の改正
農地の貸借の規制の見直しに伴い、農業協同組合(連合会を含む。)が、総会における特別議決等の手続きを経た上で、農地の農業上の利用の増進を図るため、自ら、農地の貸借により農業経営の事業を行うことを可能とする。

5 その他
この法律の施行後5年を目途として、国と地方公共団体との適切な役割分担の下に農地の確保を図る観点から、農地転用許可事務の実施主体の在り方、農地の確保のための施策の在り方等について検討を加え、必要があるときは、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。

6 施行期日
公布の日から起算して6月を超えない範囲で政令で定める日から施行される。平成21年12月に施行される予定である。

第4 結語
 農地法の目的は、戦後長期にわたり、自作農の創設維持が目的となっており、農地の有効活用や農業の振興・発展が見過ごされてきました。
 今回の改正により、一般の法人であっても一定の要件の下で農地の賃貸が可能となったことにより、一般の法人の農業への参入が容易になり、それにより、農地の有効活用と、農業の再活性化につながる可能性は高いと思います。
 そして、農地所有者の不動産事業としての農業という側面から考えたときに、農業の経営マネジメントをプロに任せたたり、プロと一緒になって農地の有効活用をしたり、自分の農地だけでなく近隣の農地も集約して特定の法人に農業を任せることにより、規模の拡大や農業事業の効率化を図ることができ、所有する農地による安定収益の確保という不動産事業の側面を持つことにつながる可能性があります。
 また、一般の法人に於いても、これまで参入することが出来なかった農業に新たに参入することが可能となり、新たな不動産事業としての農業を積極的に関わっていくことが可能となるため、個人の農家単体では行えなかった、農地の集約化と機械等の導入による農業事業の効率化を図ることが可能となり、また、付加価値の高い生産物を作ることについて、リスクの分散を図ることも可能となってくるのではないかと思います。

 以上の通り、今回の改正により農地の賃貸が積極的に進むことになれば、1農地所有者1耕作者のドグマから開放され、自由な農業経営の道が開かれることなると思いますので、今後は、不動産事業の一部門として、不動産業者や建設会社の方も、この機会に農業分野への参入について検討されてみたらいかがでしょうか。

出典:農林水産省ホームページ (http://www.maff.go.jp/j/keiei/koukai/kaikaku/

2009.11/03

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亀井英樹(かめいひでき)
東京弁護士会所属(弁護士)
昭和60年中央大学法学部卒業。平成4年司法試験合格。
平成7年4月東京弁護士会弁護士登録、ことぶき法律事務所入所。
詳しいプロフィールはこちら ≫

【著 作 等】
「新民事訴訟法」(新日本法規出版)共著
「クレームトラブル対処法」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「管理実務相談事例集」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「賃貸住宅の紛争予防ガイダンス」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修