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弁護士・亀井英樹先生の法律ノウハウ

賃借人の居住安定確保に関する法律案について

はじめに

 平成22年2月12日、国土交通省より、「賃貸住宅における賃借人の居住の安定確保を図るための家賃債務保証業の業務の適正化及び家賃等の取立て行為の規制等に関する法律案」(以下「賃借人居住安定法」といいます)が公表されました。
賃借人居住安定法は、賃貸住宅の家賃等の悪質な取立て行為の発生等の家賃の支払に関連する賃貸住宅の賃借人の居住をめぐる状況にかんがみ、賃貸住宅の賃借人の居住の安定の確保を図るため、家賃債務保証業の登録制度の創設、家賃に係る債務の弁済の履歴に関する情報の収集及び提供の事業を行う者の登録制度の創設、家賃等の悪質な取立て行為の禁止等の措置を講ずるために今国会での成立を目指して作成された法案です。
 賃借人居住安定法は、少子高齢化、人間関係の希薄化等により、連帯保証人の確保が困難なために家賃債務保証会社を利用するケースが急激に増加している中で、家賃債務保証会社により、鍵の交換、深夜に及ぶ督促等、家賃等の悪質な取立て行為の発生が増加していることから、急遽国土交通省において作成されるに至った法案です。
 しかし、賃借人居住安定法は、単に家賃債務保証会社を対象としているだけでなく、家賃等弁済情報のデータベースを作成する事業者や、家賃等の取り立てを行う一般の賃貸人も対象にしており、規制の対象が極めて広範に及ぶものであるため、賃貸事業を行っている人にとっては、法人、自然人を問わず、その法律案の内容を施行されるまでに正確に理解し準備しておく必要があります。
 また、賃借人居住安定法はこれから国会で審議される段階ですので、条文の内容として不十分な点があれば、国会の審議において修正していただく必要がありますので、現段階において法案の内容を正確に理解することは賃貸事業者及び家賃債務保証会社の方にとっては急務ではないかと思います。

賃借人居住安定法の概要

 賃借人居住安定法は、大きく分けて次の3つに分類されます。そして、適用対象は、賃貸住宅すなわち賃貸の様に供する住宅の賃借人に限定されており、商業ビルや事業目的の賃貸借の賃借人は含まれません。また、家賃債務保証業も賃貸住宅の賃借人の委託を受けて当該賃借人の家賃の支払いに係る債務を保証することを業として行う場合に限られます。(同法第2条)

(1) 家賃債務保証業の登録制度

  1. 登録の義務付け(第3条)
  2. 保証委託契約締結の前後の書面交付義務(第18,19条)
  3. 暴力団員等の使用の禁止(第6、14条)
  4. 勧誘時の虚偽告知等の禁止(第15条)
  5. 誇大広告の禁止(第16条)
  6. 14.6%超の違約金を定める契約の禁止(第17条)
  7. 暴力団員等への求償債権の譲渡禁止(第24条)
  8. 帳簿の備付け(第21条) 
  9. 業務改善命令監督処分(第26条乃至32条)
  10. 罰則(第70条乃至80条)
    30万円以下の科料から5年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金まで

(2) 家賃等弁済情報データベースの登録制度
<データベース作成事業者>

  1. 登録の義務付け(第23条)
  2. 業務規程の作成・届出義務→国土交通大臣による変更命令(42条)
  3. 収集・提供する弁済情報の内容(42条)
  4. 情報漏洩防止措置(第42条)
  5. 苦情の処理に関する事項(第42条)1
  6. 賃借人への情報開示(第45条)
  7. 加入業者の名簿縦覧(第46条)
  8. 秘密保持義務(第48条)
  9. 業務改善命令・監督処分(第49条乃至55条)
  10. 罰則(第70条乃至80条)
    30万円以下の科料から5年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金まで

<加入業者>

  1. 情報提供時:賃借人の同意取得義務(56条)
  2. 情報利用時:賃借人の同意取得義務(57条)

(3) 家賃等の悪質な取立行為の禁止

  1. 家賃債務保証業者、住宅の賃貸事業者、賃貸管理業者による悪質な取立て行為の禁止(取立ての委託先も含む。)(第60条)
  2. 禁止行為
    1. 面会、文書送付、貼り紙、電話等の手法を問わず、人を威迫すること
    2. 人の私生活又は業務の平穏を害するような言動
  1. 禁止行為の例
    1. 鍵の交換等(ドアロック)(第60条1号)
    2. 動産の持ち出し・保管(第60条2号) 
    3. 深夜・早朝の督促(第60条3号)
    4. これらの行為を予告すること(第60条4号)
  2. 罰則(第72条)
    2年以下の懲役若しくは300万円以下の罰則

賃貸人・賃貸管理会社において注意すべき事項
 家賃債務保証業及び家賃等弁済情報提供事業は、当該事業がこれまでの賃貸事業においては存在しなかった新たな事業であり、そのために明確に行動指針が存在せず、賃借人との間でもトラブルが絶えなかったことから今回新たにその事業の内容について明確な規制基準が設けられたことは、やむを得ないと考えられます。
 しかし、今回の法案においては、新たに設けられた家賃等の悪質な取立行為の規制の適用対象が、家賃債務保証業者だけでなく、下記の条文において明記しているとおり、賃貸事業者すなわち一般の賃貸経営を行っている賃貸人(個人オーナーやサブリース事業者)や、家賃債権の取立を受託した者すなわち集金管理業者、収納代行業者も含まれる点で極めて広範である点については注意を要します。
 そして、今回特に家賃の取り立てにおいては、1.鍵の交換等のドアロック、2.動産の搬出・保管、3.深夜・早朝の督促、さらに4.それらの行為を告げることまで悪質な取立行為として明確に例示されているため、特に一般の大家さんは今回の法律の内容を知らないと、家賃の取り立ての仕方によっては刑事上の罰則(2年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金)を課せられることになりますので、特に注意が必要です。
 なお、深夜・早朝の具体的な時間においてはこれから政令で定められることとなりますのでこの点も今後注意していく必要があります。

 

第60条  家賃債務保証業者その他の家賃債務を保証することを業として行う者若しくは賃貸住宅を賃貸する事業を行う者若しくはこれらの者の家賃関連債権(家賃債務に係る債権、家賃債務の保証により有することとなる求償権に基づく債権若しくは家賃債務の弁済により賃貸人に代位して取得する債権又はこれらに係る保証債務に係る債権をいう。以下この条及び第六十二条において同じ。)を譲り受けた者又はこれらの者から家賃関連債権の取立てを受託した者は、家賃関連債権の取立てをするに当たって、面会、文書の送付、はり紙、電話をかけることその他のいかなる方法をもってするかを問わず人を威迫し、又は次に掲げる言動その他の人の私生活若しくは業務の平穏を害するような言動をしてはならない。
  1. 賃貸住宅の出入口の戸の施錠装置の交換又は当該施錠装置の解錠ができないようにするための器具の取付けその他の方法により、賃借人が当該賃貸住宅に立ち入ることができない状態とすること。
  2. 賃貸住宅から衣類、寝具、家具、電気機械器具その他の物品を持ち出し、及び保管すること(賃借人及びその同居人からの申出があった場合を除く。)。
  3. 夜間(社会通念に照らし連絡することが不適当と認められる時間帯として国土交通省令・内閣府令で定める時間帯をいう。以下この号において同じ。)以外の時間帯に連絡することが困難であることその他正当な理由がないのに、夜間に、賃借人若しくは保証人を訪問し、又は賃借人若しくは保証人に電話をかけて、当該賃借人又は保証人から訪問し又は電話をかけることを拒まれたにもかかわらず、その後夜間に連続して、訪問し又は電話をかけること。
  4. 賃借人又は保証人に対し、前三号のいずれか(保証人にあっては、前号)に掲げる言動をすることを告げること。

結語
 賃借人居住安定法は、当初は家賃債務保証業者及び家賃等弁済情報提供業者等のみを対象とした法案であると考えられていました。しかし、今回の法案を見る限り、家賃債務保証業者だけでなく、一般の大家さんが行っている家賃債務の取立行為にも重大な影響をもたらす内容が盛り込まれております。今回紹介した内容はまだ法律案の段階でありこれから国会の審議を経て正式に成立することとなりますので、まだまだその内容については修正される可能性がありますが、今国会で成立する可能性が高い以上、直ちにその準備にとりかかるべきであると思います。

以上

2010.03/02

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亀井英樹(かめいひでき)
東京弁護士会所属(弁護士)
昭和60年中央大学法学部卒業。平成4年司法試験合格。
平成7年4月東京弁護士会弁護士登録、ことぶき法律事務所入所。
詳しいプロフィールはこちら ≫

【著 作 等】
「新民事訴訟法」(新日本法規出版)共著
「クレームトラブル対処法」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「管理実務相談事例集」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「賃貸住宅の紛争予防ガイダンス」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修