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弁護士・亀井英樹先生の法律ノウハウ

宅地建物取引業法の改正について

出典:国土交通省ホームページ

【1】宅地建物取引業法の改正の趣旨・内容
1.悪質勧誘行為の禁止の創設の趣旨
宅地建物取引業法の改正が平成23年8月31日交付され、同年10月1日より施行されました。今回の改正の趣旨は、悪質な勧誘行為の禁止を目的とするもので、宅地建物取引業法(昭和27年法律第176号)第47条の2第3項に基づき、同法施行規則第16条の12において、宅地建物取引業者等の勧誘行為について、相手方等を困惑させることが禁止されていますが、今般、宅地建物取引に係る悪質な勧誘行為の実態調査の結果を踏まえ、以下の事項を明文化する等の改正を行いました。

  1. (1)勧誘に先立って宅地建物取引業者の商号又は名称、勧誘を行う者の氏名、勧誘をする目的である旨を告げずに、勧誘を行うことを禁止
  2. (2)相手方が契約を締結しない旨の意思(勧誘を引き続き受けることを希望しない旨の意思を含む)を表示したにもかかわらず、勧誘を継続することを禁止
  3. (3)迷惑を覚えさせるような時間の電話又は訪問による勧誘を禁止

2.具体的な条項の内容
具体的な条項は以下のとおりです。
宅地建物取引業法施行規則
第16条の12法第47条の2第3項の国土交通省令・内閣府令及第16条の12法第47条の2第3項の国土交通省令で定める行為及び同項の国土交通省令で定める行為は、次に掲げるものとする。
一 宅地建物取引業に係る契約の締結の勧誘をするに際し、宅地建物一宅地建物取引業に係る契約の締結の勧誘をするに際し、宅地建物取引業者の相手方等に対し、次に掲げる行為をすること。取引業者の相手方等に対し、次に掲げる行為をすること。

  1. (略)
  2. (略)
  3. 当該勧誘に先立って宅地建物取引業者の商号又は名称及び当該勧誘を行う者の氏名並びに当該契約の締結について勧誘をする目的である旨を告げずに、勧誘を行うこと。
  4. 宅地建物取引業者の相手方等が当該契約を締結しない旨の意思(当該勧誘を引き続き受けることを希望しない旨の意思を含む)を表示したにもかかわらず、当該勧誘を継続すること。
  5. (略)
  6. (略)

3.改正の効果
今回の改正により、勧誘に先立ち勧誘をする目的を告げない宅建業者や、断ったにもかかわらず勧誘を継続する宅建業者、迷惑を覚えさせる時間に電話・訪問勧誘を行うような宅建業者などが宅建業法違反の対象であることが明確になりました。さらに、こうした禁止事項を明文化することにより、そもそも悪質な勧誘行為自体が減ることが期待されます。

【2】改正の注意点

1.勧誘に先立つ名前等を不告知の禁止
勧誘に先立って、宅地建物取引業者名、担当者名、勧誘目的を告げずに勧誘を行うことの禁止(宅地建物取引業法施行規則第16条の12第1号ハ関係)は、宅地建物取引業に係る契約の締結の勧誘に際して、会社の名称や勧誘の目的等を告げないことに起因する苦情やトラブルが多く見受けられる実態にかんがみ、相手方等が宅地建物の勧誘を受けているという認識を明確に持ち得るよう、勧誘に先立って、所定の事項を告げなければならないことを規定したものです。

  1. (1)「勧誘に先立って」について
    「勧誘に先立って」とは、契約締結のための勧誘行為を開始する前という意味である。勧誘を行うに当たっては、相手方等が勧誘を受けるか拒否するかを判断する機会を勧誘行為を開始する前に確保することが重要であることから、「勧誘に先立って」、所定の事項を明確に告げなければなりません。具体的には、個々の事例ごとに判断することになりますが、一般的には、電話による勧誘(以下「電話勧誘」という)の場合は、相手方等に電話が繋がった時点で告げなければならず、訪問による勧誘(以下「訪問勧誘」という)等の場合は相手方等と接触し、会話を開始した時点で告げることになります。また、相手方等が宅地建物取引業者の事務所等を訪れた場合には、相手方等に物件の具体的な内容等について説明を開始する時点で告げる必要があります。
  2. (2)「宅地建物取引業者の商号又は名称」について
    宅地建物取引業者の宅地建物取引業の免許における「商号又は名称」を相手方等が明確に認識できるよう告げる必要があります。例えば、名称の一部や略称、フランチャイズの名称のみを告げることは本規定における「商号又は名称」を告げたことにはなりません。実際の勧誘行為を宅地建物取引業者から委任された代行業者(宅地建物取引業法(以下「法」という)第47条の2に規定する「代理人」をいう)が行っている実態も見受けられますが、その場合は、委任をした宅地建物取引業者の「商号又は名称」を告げることが必要となります。また、この場合において、相手方等が当該勧誘の内容について代行業者に問い合わせ等を行うことも想定されることから、代行業者の「商号又は名称」、並びに当該代行業者が宅地建物取引業者から委任をされている旨も勧誘に先だって告げることが望ましいとされています。
    なお、訪問勧誘等、相手方等に直接勧誘を行う場合には、法第48条第2項の規定により、相手方等の求めに応じて従業者証明書を提示しなければならないことに留意する必要があります。
  3. (3)「勧誘を行う者の氏名」について
    実際に勧誘を行う担当者の氏名を告げることが必要です。なお、宅地建物取引業者から委任された代行業者が勧誘を行う場合においても、実際に勧誘を行う当該代行業者の担当者の氏名を告げることとなります。
  4. (4)「契約の締結について勧誘をする目的である旨」について
    勧誘の対象となる物件の契約を締結することが勧誘の目的である旨を告げることが必要であり、「投資用マンションの購入について説明をさせて頂きたい」など、具体的な勧誘目的を明確に告げなければなりません。例えば、マンションの売買契約の締結を行うことが具体的な勧誘目的であるにもかかわらず、それを明確に告げる前に、「年金や老後の生活設計に関する提案をさせて欲しい」、「将来の資産運用に関して説明をさせて欲しい」などの説明を行うことは、その説明自体が勧誘行為に該当するものであることから、「勧誘に先立って」、勧誘目的を告げたことにはなりません。

2.相手方等の拒絶の場合の再勧誘の禁止
相手方等が当該契約を締結しない旨の意思(当該勧誘を引き続き受けることを希望しない旨の意思を含む)を表示した場合の再勧誘の禁止(省令第16条の12第1号ニ関係)は、宅地建物取引業に係る契約の締結の勧誘に際して、相手方等が勧誘を断っているにもかかわらず、執拗に面会を求めたり、繰り返し電話を架ける行為を行うことによる苦情等が多く見受けられる実態にかんがみ、相手方等が「契約を締結しない旨の意思」、「勧誘を引き続き受けることを希望しない旨の意思」を表示した場合の再勧誘の禁止を明示的に規定したものです。

  1. (1)「契約を締結しない旨の意思(当該勧誘を引き続き受けることを希望しない旨の意思を含む。以下同じ)」について
    相手方等の「契約を締結しない旨の意思」は、口頭であるか、書面であるかを問わず、契約を締結する意思がないことを明示的に示すものが該当します。具体的には、相手方等が「お断りします」、「必要ありません」、「結構です」、「関心ありません」など明示的に契約の締結の意思がないことを示した場合が該当するほか、「(当該勧誘行為が)迷惑です」など、勧誘行為そのものを拒否した場合も当然該当することとなります。
  2. (2)「勧誘を継続すること」について
    相手方等が契約を締結しない旨の意思表示を行った場合には、引き続き勧誘を行うことのみならず、その後、改めて勧誘を行うことも「勧誘を継続すること」に該当するので禁止される。同一の宅地建物取引業者の他の担当者や同一の宅地建物取引業者から委任されたすべての代行業者の担当者による勧誘も同様に禁止されます。電話勧誘又は訪問勧誘などの勧誘方法、自宅又は会社などの勧誘場所の如何にかかわらず、相手方等が「契約を締結しない旨の意思」を表示した場合には当該勧誘行為は禁止されます。
    再勧誘の禁止の対象については、勧誘の相手方等が契約を締結しない旨の意思をどのように示したかにより異なるため、個別の事例ごとに判断することとなります。例えば、投資用マンションの売買契約の締結に係る勧誘において、相手方等から、
    1. I「投資用マンションは結構です」との意思表示がなされた場合には、「投資用マンション」の勧誘を行うことは再勧誘に該当します。
    2. II「マンションの勧誘は結構です」との意思表示がなされた場合には、「投資用」のみならず、「居住用」も含め、広くマンションの勧誘を行うことは再勧誘に該当します。
    3. III「御社(宅地建物取引業者)からの勧誘は結構です」との意思表示がなされた場合には、当該勧誘を行った宅地建物取引業者が行う勧誘はすべて再勧誘に該当します。
    なお、当該契約について「勧誘を継続すること」がどの程度の期間にわたって禁止されるかについては、個別の事例ごとに判断することになるが、相手方等もある一定期間が経過することにより、勧誘を受けることの意思が変化することも十分考えられることから、相手方等が将来にわたってすべての勧誘を拒否した場合など、明確な意思の表示があった場合を除き、将来にわたって当該相手方等への勧誘がすべて禁止されるものではないと考えられます。いずれにしろ、相手方等が契約を締結しない旨の意思をどのように具体的に示したかという事実を踏まえ判断されることになるため、慎重に対処することが望ましいとされます。例えば、ある一定期間経過後に同様の勧誘を行う場合は、相手方等から「契約を締結しない旨の意思」が示されたことを踏まえ、トラブル防止の観点から、新たな勧誘であることについて、相手方等に改めて意思の確認を行うなどした後に勧誘を行うことなどが考えられます。

3.不適当な時間の電話・訪問による勧誘の禁止
迷惑を覚えさせるような時間の電話又は訪問による勧誘の禁止(省令第16条の12第1号ホ関係)は、宅地建物取引業に係る契約の締結の勧誘に際して、社会通念上、明らかに相手方等が迷惑を覚えるような不適当な時間に勧誘を行うことによる苦情等が多く見受けられる実態にかんがみ、不適当な時間帯における勧誘の禁止を明示的に規定したものです。

  1. (1)「迷惑を覚えさせるような時間」について
    「迷惑を覚えさせるような時間」については、相手方等の職業や生活習慣等に応じ、個別に判断されるものであるが、一般的には、相手方等に承諾を得ている場合を除き、特段の理由が無く、午後9時から午前8時までの時間帯に電話勧誘又は訪問勧誘を行うことは、「迷惑を覚えさせるような時間」の勧誘に該当するものと考えられます。
  2. (2)「電話し、又は訪問すること」について
    ここでは不適当な時間に電話勧誘又は訪問勧誘を開始することを禁止しているものであり、勧誘の途中で、「迷惑を覚えさせるような時間」に該当するに至ったとしても、本規定の禁止行為の対象にはなりません。
    また、本規定は、電話勧誘又は訪問勧誘を禁止しているものであることから、例えば、相手方等が事務所に訪問した場合など、これら以外の勧誘を「迷惑を覚えさせるような時間」に行ったとしても本規定の禁止行為の対象とはなりません。

4.深夜・長時間の勧誘等による困惑させる行為の禁止
深夜又は長時間の勧誘等によりその者を困惑させる行為の禁止(省令第16条の12第1号ヘ関係)は、深夜における勧誘や長時間にわたる勧誘など、私生活又は業務の平穏を害するような方法により相手方等を困惑させる行為を禁止するものです。最近における宅地建物取引業に係る契約の締結の勧誘に際して、深夜にわたる執拗な勧誘が行われたことによる苦情等が多く見受けられた実態にかんがみ、特に「その者を困惑させる行為」の例示として深夜における勧誘を加えたものです。
「その者を困惑させる行為」については、個別の事例ごとに判断がなされるものであるが、深夜勧誘や長時間勧誘のほか、例えば、相手方等が勤務時間中であることを知りながら執拗な勧誘を行って相手方等を困惑させることや面会を強要して相手方等を困惑させることなどがこれに該当するものと考えられます。

【3】結語

投資用マンションの販売は、超低金利の時代の経済環境においてはますます盛んになるものと予想されます。しかし、今回の宅建業法の改正により、仲介業者は電話等の勧誘に当たっても、被勧誘者に対して法律に従って勧誘を行わないと行政処分等の宅建業法上の不利益を受けることとなりますので、上記の解釈基準を参考にして、現在行っている勧誘行為が適法なものであるのか是非検証されることをお勧めします。

2012.02/28

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亀井英樹(かめいひでき)
東京弁護士会所属(弁護士)
昭和60年中央大学法学部卒業。平成4年司法試験合格。
平成7年4月東京弁護士会弁護士登録、ことぶき法律事務所入所。
詳しいプロフィールはこちら ≫

【著 作 等】
「新民事訴訟法」(新日本法規出版)共著
「クレームトラブル対処法」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「管理実務相談事例集」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「賃貸住宅の紛争予防ガイダンス」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修