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弁護士・亀井英樹先生の法律ノウハウ

暴力団排除条例と賃貸借について

出典:警察学論集
警視庁ホームページ
http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/sotai/haijo_q_a.htm

【1】はじめに
東京都において、暴力団排除条例が、平成23年10月1日施行されました。この条例は、東京都における暴力団排除活動に関し、基本理念を定め、都及び都民等の責務を明らかにするとともに、暴力団排除活動を推進するための措置、暴力団排除活動に支障を及ぼすおそれのある行為に対する規制等を定め、もって都民の安全で平穏な生活を確保し、及び事業活動の健全な発展に寄与することを目的として定められたものです。ところで、不動産の賃貸借の場面でも、暴力団排除条例の施行に伴い、契約内容を見直す動きが出ております。そこで、今回は、暴力団排除条例の不動産賃貸借への影響について、説明したいと思います。

【2】暴力団排除条例の該当条項

暴力団排除条例の内、民間の賃貸借契約にも適用されるのは、下記の条項です。

  1. (1)18条(事業者の契約時における措置)
    1. 1.事業者は、その行う事業に係る契約が暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなる疑いがあると認める場合には、当該事業に係る契約の相手方、代理又は媒介をする者その他の関係者が暴力団関係者でないことを確認するよう努めるものとする。
    2. 2.事業者は、その行う事業に係る契約を書面により締結する場合には、次に掲げる内容の特約を契約書その他の書面に定めるよう努めるものとする。
      1. 一.当該事業に係る契約の相手方又は代理若しくは媒介をする者が暴力団関係者であることが判明した場合には、当該事業者は催告することなく当該事業に係る契約を解除することができること。
      2. 二.工事における事業に係る契約の相手方と下請負人との契約等当該事業に係る契約に関連する契約(以下この条において「関連契約」という)の当事者又は代理若しくは媒介をする者が暴力団関係者であることが判明した場合には、当該事業者は当該事業に係る契約の相手方に対し、当該関連契約の解除その他の必要な措置を講ずるよう求めることができること。
      3. 三.前号の規定により必要な措置を講ずるよう求めたにもかかわらず、当該事業に係る契約の相手方が正当な理由なくこれを拒否した場合には、当該事業者は当該事業に係る契約を解除することができること。

    本条項は、第1項において事業者が、その事業に伴って行う契約が暴力団の活動を助長することとなるなどの疑いがあると認められる場合に、事業者が当該契約の関係者が暴力団関係者でないことを確認することを規定すると共に、第2項において契約を締結する際には、当該契約の特約として、暴力団を関与させないこと及び暴力団の関与が判明した場合は、契約を解除できることを書面に定めるよう規定したものです。本条は、健全な事業発展を図るために、暴力団に対する対抗措置としての規定と考えられています。
    本条項の『暴力団関係者』とは、暴力団員又は暴力団若しくは暴力団員と密接な関係を有する者をいい、いわゆる暴力団周辺者等、暴力団に協力し、又は暴力団を利用する者を指し、その範囲については、事業者の事業形態や社会的要請に基づき、個々のケースで判断することとなります。
    また、本条項の事業者とは、事業(その準備行為を含む)を行う法人その他の団体又は事業を行う場合における個人を言います。したがって、賃貸人が個人であっても、暴力団排除条例上は事業者に該当することとなります。


  2. (2)第19条(不動産の譲渡等における措置)
    1. 1.

      都内に所在する不動産(以下「不動産」という)の譲渡又は貸付け(地上権の設定を含む。以下「譲渡等」という)をする者は、当該譲渡等に係る契約を締結するに当たり、当該契約の相手方に対し、当該不動産を暴力団事務所の用に供するものでないことを確認するよう努めるものとする。

    2. 2.

      不動産の譲渡等をする者は、当該譲渡等に係る契約を書面により締結する場合には、次に掲げる内容の特約を契約書その他の書面に定めるよう努めるものとする。

      1. 一.

        当該不動産を暴力団事務所の用に供し、又は第三者をして暴力団事務所の用に供させてはならないこと。

      2. 二.当該不動産が暴力団事務所の用に供されていることが判明した場合には、当該不動産の譲渡等をした者は、催告することなく当該不動産の譲渡等に係る契約を解除し、又は当該不動産の買戻しをすることができること。

    暴力団事務所を撤去するには、住民運動や訴訟活動等を行う必要があり、多大な時間と労力を必要とする。また、暴力団が不動産を一旦入手すれば暴力団事務所の開設を防ぐことは極めて困難であることから、不動産が暴力団の手に渡る前にこれを阻止する事が極めて重要となる。本条は、不動産の譲渡等に関する遵守事項を定めたものです。


  3. (3) 第20条(不動産の譲渡等の代理又は媒介における措置)
    1. 1.

      不動産の譲渡等の代理又は媒介をする者は、自己が譲渡等の代理又は媒介をする不動産が暴力団事務所の用に供されることとなることの情を知って、当該不動産の譲渡等に係る代理又は媒介をしないよう努めるものとする。

    2. 2.

      不動産の譲渡等の代理又は媒介をする者は、当該譲渡等をする者に対し、前条の規定の遵守に関し助言その他の必要な措置を講ずるよう努めるものとする。

    前条と同様に不動産が暴力団の手に渡る前にこれを阻止するために定められたものであり、不動産の譲渡等の代理又は媒介をする者に対して、不動産の譲渡等をしようとする者に対して助言その他の措置を講じなければならないことなどを努力義務として規定したものです。

【3】不動産流通4団体による契約条項の発表

政府においては、平成19年6月に「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」(犯罪対策閣僚会議幹事会申し合わせ)が取りまとめられ、同指針に基づき、平成22年12月には「企業活動からの暴力団排除の取組について」(暴力団取締り等総合対策WT)が取りまとめられました。その中で、政府の取組として、各府省は、標準契約約款に盛り込むべき暴力団排除条項のモデル作成を支援することとされたところです。また、地方公共団体においても、平成23年4月までに46都道府県において、暴力団排除条例が制定されるなど、暴力団排除に向けた取組強化の機運が高まっています。このような状況を踏まえ、不動産流通4団体では、不動産取引の契約書(売買・媒介・賃貸住宅)のモデル条項として、暴力団等反社会的勢力排除条項を定め、本年6月以降、各団体において順次導入することとなりました。

    (不動産流通4団体)

    社団法人 全国宅地建物取引業協会連合会
    社団法人 全日本不動産協会
    社団法人不動産流通経営協会
    社団法人 日本住宅建設産業協会

【4】具体的条項の内容

4団体で発表されている賃貸借契約の契約条項の内容は以下のとおりです。なお、当該契約条項は国交省で出されている賃貸借契約の標準契約をベースとして変更しておりますので、省略部分は国交省の標準契約書をご確認下さい。

  1. (反社会的勢力の排除)

    第X条 貸主(甲)及び借主(乙)は、それぞれ相手方に対し、次の各号の事項を確約する。

    1. 1.

      自らが、暴力団、暴力団関係企業、総会屋若しくはこれらに準ずる者又はその構成員(以下総称して「反社会的勢力」という)ではないこと。

    2. 2.

      自らの役員(業務を執行する社員、取締役、執行役又はこれらに準ずる者をいう)が反社会的勢力ではないこと。

    3. 3.

      反社会的勢力に自己の名義を利用させ、この契約を締結するものでないこと。

    4. 4.

      自ら又は第三者を利用して、次の行為をしないこと。

      1. ア.

        相手方に対する脅迫的な言動又は暴力を用いる行為

      2. イ.偽計又は威力を用いて相手方の業務を妨害し、又は信用を毀損する行為
  2. (禁止又は制限される行為)

    第Y条 (1、2略)

    1. 3.

       乙は、本物件の使用に当たり、別表第1に掲げる行為を行ってはならない。
      別表第1(第Y条第3項関係)

      1. 六.

        本物件を反社会的勢力の事務所その他の活動の拠点に供すること。

      2. 七.本物件又は本物件の周辺において、著しく粗野若しくは乱暴な言動を行い、又は威勢を示すことにより、付近の住民又は通行人に不安を覚えさせること。
      3. 八. 本物件に反社会的勢力を居住させ、又は反復継続して反社会的勢力を出入りさせること。
  3. (契約の解除)

    第Z条 (1、2略)

    1. 3.

       甲又は乙の一方について、次のいずれかに該当した場合には、その相手方は、何らの催告も要せずして、本契約を解除することができる。

      1. 一.

        第X条の確約に反する事実が判明したとき。

      2. 二.

        契約締結後に自ら又は役員が反社会的勢力に該当したとき。

    2. 4.

       

      甲は、乙が別表第1第六号から第八号に掲げる行為を行った場合は、何らの催告も要せずして、本契約を解除することができる。

【5】暴力団排除条例上の注意点

  1. (1)暴力団等の情報の確認
    1. 警察では、暴力団との関係遮断を図るなど暴力団排除活動に取り組まれている事業者の方に対し、契約相手が暴力団関係者かどうかなどの情報を、個々の事案に応じて可能な限り提供するとしています。事業者の方で契約相手が暴力団関係者かもしれないとの疑いを持っているものの、本人に確認することが困難であるような場合などには、最寄りの警察署、組織犯罪対策第三課又は(公財)暴力団追放運動推進都民センターにご相談ください。


  2. (2)暴力団関係者と認められる場合
    1. 「暴力団関係者」は、「暴力団員又は暴力団若しくは暴力団員と密接な関係を有する者」と規定されており(第2条第4号)、「暴力団若しくは暴力団員と密接な関係を有する者」とは、
       例えば、

        ・暴力団又は暴力団員が実質的に経営を支配する法人等に所属する者
        ・暴力団員を雇用している者
        ・暴力団又は暴力団員を不当に利用していると認められる者
        ・暴力団の維持、運営に協力し、又は関与していると認められる者
        ・暴力団又は暴力団員と社会的に非難されるべき関係を有していると認められる者
      等が挙げられます。よって、単に次のような状況、境遇等にあるという場合には、それだけをもって「暴力団関係者」とみなされることはありません。
        ・暴力団員と交際していると噂されている
        ・暴力団員と一緒に写真に写ったことがある
        ・暴力団員と幼なじみの間柄という関係のみで交際している
        ・暴力団員と結婚を前提に交際している
        ・親族・血縁関係者に暴力団員がいる

  3. (3)「暴力団又は暴力団員と社会的に非難されるべき関係を有している」とは、どのような場合をいうのか
    1. 例えば、次のような場合が挙げられます。

        ・相手方が暴力団員であることを分かっていながら、その主催するゴルフ・コンペに参加している場合
        ・相手方が暴力団員であることを分かっていながら、頻繁に飲食を共にしている場合
        ・誕生会、結婚式、還暦祝いなどの名目で多数の暴力団員が集まる行事に出席している場合
        ・暴力団員が関与する賭博等に参加している場合
      したがって、暴力団員と分かっていながら上記のような交際を継続している場合には、暴力団関係者に該当する場合が生じますので、取引先が暴力団関係者かどうかは、十分に注意して判断する必要があります。

【6】まとめ

暴力団排除条例の上記の該当条項はいずれも、民間の事業者に対しては、努力義務を課したに過ぎないもので有り、法律上の義務まで発生しておりません。
また、発表された契約条項については、具体的に契約内容を定めた場合には、当該契約条項に基づき、直ちに賃貸借契約の解除が有効に認められるかどうかについても、これまで一連の賃貸借に関する判例を見る限り、直ちに肯定することは困難であると考えられます。
しかし、国及び地方自治体において、暴力団排除を積極的に推し進めており、そのような社会的な状勢及び暴力団排除条例等の法令の整備の進展に鑑みますと、裁判書としても、上記の契約条項の効力を無視することはできないと予想されます。
したがって、賃貸人や各賃貸管理業者におかれても、現在用いている賃貸借契約書について、上記の契約条項案に従って、速やかに契約条項の訂正を行うことをお勧めします。

2012.06/12

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亀井英樹(かめいひでき)
東京弁護士会所属(弁護士)
昭和60年中央大学法学部卒業。平成4年司法試験合格。
平成7年4月東京弁護士会弁護士登録、ことぶき法律事務所入所。
詳しいプロフィールはこちら ≫

【著 作 等】
「新民事訴訟法」(新日本法規出版)共著
「クレームトラブル対処法」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「管理実務相談事例集」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「賃貸住宅の紛争予防ガイダンス」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修