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弁護士・亀井英樹先生の法律ノウハウ

明渡遅延特約と消費者契約法

出典:消費者機構日本ホームページ
http://www.coj.gr.jp/index.html

【1】明渡遅延特約について
 賃貸借契約においては、契約が解除された場合や期間満了により終了した場合、また、賃借人が賃貸物件から明渡を遅延する場合などに、その履行を強制するため、違約金を定める特約を締結することがよくあります。
 この明渡遅延特約と消費者契約法との関係については、これまで明確に判断された判決例はありませんでした。しかし、東京地裁において平成24年7月5日、明渡遅延特約と消費者契約法との関係についての判断が示されましたので、次のとおり紹介します。

【2】事案の概要

 適格消費者団体である原告が、不動産賃貸事業者である被告が使用している賃貸借契約に下記の明渡遅延をした場合の損害賠償の予定の条項が存在していることから、消費者契約法9条1号及び10条に違反するとして、当該条項((以下「本件倍額賠償予定条項」といいます)の差し止めを求めたもの。

 

 

第●●条(明渡し遅延による使用損害金)

  1. 1.乙が第21条に違反して本物件の明渡しを遅延した場合には、乙は甲に対して、賃貸借契約終了日の翌日から明渡完了日までの期間について、賃料等相当額の2倍相当の使用料相当損害金を支払う。但し、乙は当該使用料相当損害金と別に賃料を支払う必要はない。
  2. 2.乙の本物件明渡し遅延により、甲において賃料等1ヶ月分相当額を上回る損害が特別に発生した場合、これを特別損害分として、乙は甲に対して前項の使用料相当損害金に加えて、当該特別損害分の賠償をしなければならない。

【3】判旨

  1. (1)消費者契約法9条1号該当性
     消費者契約法9条1号は、事業者が消費者契約の解除に伴い高額な損害賠償の予定又は違約金の定めをして消費者に不当な金銭的負担を強いる場合が有ることを鑑み、消費者が不当な出捐を強いられることのないように、消費者契約の解除の際の損害賠償額の予定又は違約金の定めについて、一定の限度を超える部分を無効とする規定である。
     この点、本件倍額賠償予定条項は、約定解除権又は法定解除権が行使されて契約が終了する場合のみならず、契約が更新されずに期間満了により終了する場合も含め、賃貸借契約が終了する場合一般に適用されるものでありその条項上の文言としても、契約の解除ではなく,契約が終了した日以降の明渡義務の不履行を対象としていることからすれば、本件倍額賠償予定条項は、契約が終了したにもかかわらず賃借人が賃借物件の明渡義務の履行を遅滞している場合の損害に関する条項であって、契約の解除に伴う損害に関する条項ではないと解すべきである。
  2. (2)消費者契約法10条該当性
    1. ア.10条前段該当性
       本件倍額賠償予定条項は、契約終了後の明渡義務の履行が遅滞した場合の損害賠償額を予め定めて、その賠償義務を賃借人に負わせる特約であって、具体的な損害の発生やその金額の主張立証を要することなく一定金額の損害賠償請求を賃貸人に認めるという意味において、任意規定の適用による場合に比し、消費者である賃借人の義務を加重するものに当たる。
      したがって、本件倍額賠償予定条項は、消費者契約法10条前段の用件を充足すると言うべきである。
    2. イ.10条後段該当性
       予定される損害賠償額を、契約期間中において毎月支払うこととされていた賃料その他の付随費用の合計額を超える金額とすることは、賃貸人に生ずる損害の填補としての側面からも、また、契約終了時における明渡義務の履行の促進する機能としての側面からも、相応の合理性を有すると言うことができる。
       他方、消費者である賃借人にとっても、契約終了に基づく明渡義務という賃貸借契約における一般的義務を履行すればその適用を免れるのであるから、賃料等の1か月分相当額を上回る損害金を負担することとなっても直ちに不合理であるともいえない。
       以上の諸事情を総合考慮すると、本件倍額賠償予定条項における賃料等の2倍の額という賠償額の定めは、賃貸人に生ずる損害の填補あるいは明渡義務の履行の促進という観点に照らし、不相当に高額であると言うことはできない。
       従って、消費者契約法10条後段にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」には当たらないと解するのが相当である。

【4】今回の判決について

 今回の判決は、適格消費者団体が消費者契約法無効であると主張している明渡遅延に伴う倍額賠償予定条項について、消費者契約法との関係で有効であると判断したもので有り、これまで明渡遅延の場合の損害賠償予定条項と消費者契約法との関係については、明確な判決例が無かったことから、極めて重要な判決で有ると思います。今後の賃貸実務においても、明渡遅延の際に賠償予定条項を定める場合には、必ず参考にしていただきたいと思います。
 なお、今回の判決は確定しておらず、控訴審において係属中ですので控訴審において判決が出された場合には、また、紹介致します。

2012.09/11

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亀井英樹(かめいひでき)
東京弁護士会所属(弁護士)
昭和60年中央大学法学部卒業。平成4年司法試験合格。
平成7年4月東京弁護士会弁護士登録、ことぶき法律事務所入所。
詳しいプロフィールはこちら ≫

【著 作 等】
「新民事訴訟法」(新日本法規出版)共著
「クレームトラブル対処法」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「管理実務相談事例集」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「賃貸住宅の紛争予防ガイダンス」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修