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弁護士・亀井英樹先生の法律ノウハウ

東京高裁平成25年3月28日消費者契約法判決について

出典:ウエストロー・ジャパン
http://www.westlawjapan.com/


1 明渡遅滞の場合の損害賠償の予定と消費者契約法
建物賃貸借契約において明渡遅滞の場合の損害賠償の予定を定める特約について、以前東京地裁判決を紹介致しましたが(東京地裁平成24年7月5日判決)、平成25年3月28日、東京高裁において控訴審判決が下され、判決が確定しました。今後の賃貸実務にも重要な影響があると思いますので、下記のとおり報告致します。

2 事案の概要

本件は、適格消費者団体である控訴人(一審原告)が、不動産賃貸業等を営む事業者である被控訴人(一審被告)に対し、被控訴人が不特定かつ多数の消費者との間で建物賃貸借契約(以下、単に「賃貸借契約」又は「契約」ということがある)を締結又は更新する際に使用している契約書には、【1】更新料の支払を定めた条項及び【2】契約終了後に明渡しが遅滞した場合の損害賠償額の予定を定めた条項が含まれているところ、これらの条項が消費者契約法9条1号及び10条に規定する消費者契約の条項に当たると主張して、消費者契約法12条3項に基づき、その契約の申込み又は承諾の意思表示の停止及び契約書用紙の破棄並びにこれらを従業員に周知・徹底させる措置をとることを求めた事案です。

3 裁判所の判断

  1. 更新料支払い特約について
    当裁判所も、本件更新料支払条項は消費者契約法9条1号又は10条に規定する消費者契約の条項に該当するものとは認められないと判断する。
    本件更新料支払条項に基づき更新料を支払うべき理由についての被控訴人の説明は変遷を重ね、その支払の根拠が不明確であると主張するが、本件更新料支払条項については、前記のとおり、契約書において、7条1項から3項までからなる本件更新料支払条項を明記しており、その条項の文言によれば、本件更新料は、賃貸借契約を締結する際に、賃貸人が、普通借家契約を選択することにより、法定更新制度を背景に自らの選択により契約期間を更新できる地位を取得し、契約期間満了時において、賃貸借契約の継続を選択する利益が具体化した場合に、その具体化した利益、すなわち、賃貸借契約を継続することの対価として支払われるものとされているものであるから、その根拠が不明確であるとは認められない。
    また、控訴人は、更新拒絶の正当事由がない限り賃貸借契約が更新されることは法によって認められているものであり、選択権行使は、法律上(借地借家法)付与された権利の行使であって、それについて、賃借人が賃貸人に対して対価を支払うべき理由はないと重ねて主張するが、本件更新料は、賃貸借契約の継続を選択する利益が具体化した場合に、その具体化した利益、すなわち、賃貸借契約を継続することの対価として支払われるものであることは、前述のとおりであり、選択権の行使自体は賃借人の権利の行使であったとしても、それによって賃借人において賃貸借契約の継続を選択する利益が具体化するものであることには変わりはないから、その対価を支払うべき理由がないとはいえない。ちなみに、最高裁判所平成23年7月15日判決は、賃貸借契約を更新するときは、1年経過するごとに賃料2か月分の更新料を支払うことを約した条項について、消費者契約法10条により無効とすることはできない旨の判示をしているものであるが、賃貸借契約の更新が、法定更新であるか、合意更新であるかによって、判断に差異を認めていない。
    本件更新料支払条項においては、前記のとおり、法定更新の場合も含めて更新料の支払義務は明記されており、更新される期間は2年間としたうえで、更新料の額を更新後の賃貸借契約における賃料の1か月分としているのであって、その額は賃料の額、賃貸借契約が更新される期間等に照らして特に高額に過ぎるなどの特段の事情があるとはいえない。また、本件更新料条項を締結するについて、賃貸人と賃借人との間に、情報の質及び量並びに交渉力の格差が存在することを窺わせる事情は認められない。
    したがって、本件更新料支払条項については、消費者契約法10条にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」には当たらないと解するのが相当である。
    なお、控訴人は、賃貸借契約継続後、その期間満了前に賃貸借契約が終了した場合には、更新料を賃借人の手元に留めておくべき根拠がないにもかかわらず、本件更新料支払条項は、これを返還しないものとしているのであるから、消費者契約法9条1号にも該当すると重ねて主張する。しかし、本件更新料は、賃貸借契約を継続することの対価として支払われるものであるから、賃貸借契約継続後、その期間満了前に賃貸借契約が終了した場合に、これを返還しないことが消費者契約法9条1号に該当するとも認められないことは、既に判示したとおりである。
  2. 明渡遅延損害賠償特約について
    当裁判所も、本件倍額賠償予定条項が、消費者契約法9条1号に規定する消費者契約の条項に該当するものとは認められず、また、本件倍額賠償予定条項及び本件特別損害賠償条項が、消費者契約法10条に規定する消費者契約の条項に該当するものとも認められないと判断する。
    1. 本件倍額賠償予定条項の消費者契約法9条1号該当性について
      本件倍額賠償予定条項は、契約終了の原因がいかなるものであるかにかかわらず、契約が終了した後において、賃借人が明渡し義務を履行せずに賃借物件の明渡しを遅延した場合における使用料相当の損害金一般について定めた規定であり、その対象となる損害は、契約の解除後に賃借人が賃借物件の返還義務を履行せずに使用を継続することによって初めて発生するものであって、契約の解除時においては、損害発生の有無自体が不明なものである。
      したがって、このような損害について賠償の予定額を定めた本件損害賠償予定条項を、消費者契約法9条1号に規定する消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し又は違約金を定める条項であると解することは相当でないというべきである。
      なお、控訴人は、割賦販売法6条1項1号、特定商取引法10条1項1号と立法趣旨が同じであるから、消費者契約法9条1号についても、解除により通常想定される明渡しまでを規制しているものと解すべきであると主張するが、消費者契約法9条1号は、割賦販売法6条1項1号、特定商取引法10条1項1号とは明らかに規定の仕方を異にし、その対象となる条項を「消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、...」と定めているのであるから、控訴人の上記主張のように解することはできない。
    2. 本件倍額賠償予定条項及び本件特別損害賠償条項の消費者契約法10条該当性について
      本件倍額賠償予定条項は、契約終了の原因がいかなるものであるか否かを問うことなく、賃借人が契約が終了した後において、明渡し義務に違反して賃借物件の明渡しを遅延した場合における使用料相当の損害金一般について定めた規定であることは前記のとおりであり、本件特別損害賠償条項と併せ読めば、本件倍額賠償予定条項は、明渡し遅延によるいかなる損害が生じても、被控訴人の請求し得る損害を賃料等相当額の2倍相当額に限定する趣旨を含むものではなく、本件特別損害賠償条項は、賃料等1か月分相当額を上回る損害が特別に発生したときには、その賠償を別途に特別損害分として請求することができる旨を定めているものと解される。
      控訴人は、これらの条項は、賃借人にのみ賃料等相当額の2倍もの損害金の支払という極めて大きな不利益を強いるものであり、賃借人は、倍額相当額以下の損害しか発生していないことを立証しても免責されないものであって、民法1条2項に規定する基本原則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものであるから、消費者契約法10条に該当し、無効であると主張する。
      しかし、本件倍額賠償予定条項は、賃貸借契約が終了しているにもかかわらず、賃借人が当該契約の目的たる建物を明け渡さないために賃貸人がその使用収益を行えない場合に適用が予定されている条項であって、賃貸借契約終了後における賃借物件の円滑な明渡しを促進し、また、明渡しの遅延によって賃貸人に発生する損害を一定の限度で補填する機能を有するものである。このように、一方当事者の契約不履行が発生した場合を想定して、その場合の損害賠償額の予定又は違約金をあらかじめ約定することは、消費者契約に限らず、一般の双務契約においても行われていることであって、その適用によって賃借人に生じる不利益の発生の有無及びその範囲は、賃借人自身の行為によって左右される性質のものである。これらのことからすれば、本件倍額賠償予定条項は、賠償予定額が上記のような目的等に照らして均衡を失するほどに高額なものでない限り、特に不合理な規定とはいえず、民法1条2項に規定する信義誠実の原則に反するものとは解されない。
      そこで、本件倍額賠償予定条項の賠償予定額についてみると、賃借人が明渡しを遅滞した場合、当該目的建物を他に賃貸して収益を上げることができなくなるほか、賃借人との交渉や明渡し訴訟の提起、強制執行などに要する費用の負担の発生などの損害が発生することが容易に想定されること、本件倍額賠償予定条項の予定する目的のための使用料相当損害金には、明渡し義務履行の促進の機能を有するための違約金としての要素も含まれることなどを考慮すれば、本件倍額賠償予定条項において使用料相当損害金の額を賃料等の2倍と定めることは、高額に過ぎるとか、同条項の目的等に照らして均衡を失するということはできない。
      控訴人は、すべての場合に強制執行手続にまで進むわけでなく、手続のために要する弁護士費用を賃借人に請求することは認められないし、明渡し予定日を前提に新たな賃借人と契約を締結することはほとんどなく、賃貸人に通常生ずべき損害は賃料相当損害金だけであって、仮に損害が生じた場合には、それを立証することは容易であるとして、本件倍額賠償予定条項を設けなくても、賃貸人に不都合はないと主張する。
      しかし、賃借人の履行遅滞によって賃貸人が当該目的建物を自由に使用収益する権利が侵害されている以上、従前の賃料相当額を超える損害が発生していることは優に推認できるというべきであって、すべての場合に上記のような損害が生じるわけではないからといって、このような損害の発生を想定すること自体が不合理であるとはいえないし、また、本件倍額賠償予定条項が、前記のとおり、専ら損害賠償の填補としてのみ機能するものではなく、賃貸借契約終了後における賃借物件の円滑な明渡しを促進することも意図したものと解されることからすれば、本件倍額賠償予定条項において、使用料相当損害金の額を賃料等の2倍と定めることが不当であるとはいえない。
      さらに、控訴人は、本件では倍額賠償予定条項のほかに特別損害賠償条項が定められており、賃貸人は、賃料の倍額を超えて損害賠償を求められるのに対して、賃借人は、倍額相当額以下の損害しか発生していないことを立証しても免責されず、主張立証責任という面でも賃借人に一方的に不利益な条項であると主張するが、本件特別損害賠償条項自体は、前記のとおり、本来賃借人が負うべき責任を特に加重するものではなく、また、倍額賠償予定条項が設けられた趣旨及びその適用の前提を考慮すれば、倍額賠償予定条項だけをとらえて、賃借人側に一方的に不利益を強いるだけの条項であると認めることは相当でないというべきである。

4 今回の判決について

今回の判決では、更新料の特約については、平成23年7月15日の最高裁判決が追認され、倍額賠償予定条項については、消費者契約法9条及び10条に反しないと言うことで判決は確定しました。
今回の判決は東京高裁での判決であるため、通常の地裁判決よりも重要性が高い上、最高裁に上告されずに確定したことで、今後、倍額賠償予定条項の有効性の判断についての重大な指針になると考えられるため紹介致しました。
前回紹介致しましたとおり、消費者契約法については、集団訴訟制度が間近に迫っているため、賃貸借契約書の条項を見直し、消費者契約法に則した内容に是正する上で、今回の判決を参考にしていただければと思います。

2014.07/01

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亀井英樹(かめいひでき)
東京弁護士会所属(弁護士)
昭和60年中央大学法学部卒業。平成4年司法試験合格。
平成7年4月東京弁護士会弁護士登録、ことぶき法律事務所入所。
詳しいプロフィールはこちら ≫

【著 作 等】
「新民事訴訟法」(新日本法規出版)共著
「クレームトラブル対処法」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「管理実務相談事例集」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「賃貸住宅の紛争予防ガイダンス」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修

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