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弁護士・亀井英樹先生の法律ノウハウ

国土交通省「個人住宅の賃貸流通の促進に関する検討会」 の最終報告について

出典:国土交通省ホームページ
http://www.mlit.go.jp/report/press/house03_hh_000091.html


1 新しい賃貸借契約の方法の公表
平成26年3月20日、国土交通省は、全国の空き家の総数(平成20年)は約760万戸に及び、そのうち個人住宅が約270万戸を占めており、適切な管理が行われていない住宅は、防犯や衛生などの面で地域の大きな問題となっていることから、「個人住宅の賃貸流通の促進に関する検討会」における最終報告書を公表致しました。
なお、総務省が7月29日に発表した2013年10月1日現在の住宅・土地統計調査結果(速報)によれば、総住宅数は6063万戸と、5年前に比べ305万戸(5.3%)増加し、空き家は820万戸と、5年前に比べ63万戸(8.3%)増加し、空き家率(総住宅数に占める割合)は、13.5%と0.4ポイント上昇し、過去最高となり、別荘等の二次的住宅数は41万戸であることから、二次的住宅を除くと空き家率は12.8%であると発表しました(総務省統計局ホームページ、http://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2013/10_1.htm)。
このため、今回の国土交通省が発表した賃貸借契約の方式は、今後の空き家の活用の有力な方法となることが予想されますので、紹介したいと思います。

2 新しい賃貸借契約の提案の目的

全国で約270万戸も存在している空き家の個人住宅については、適切な管理が行われていない住宅は、防犯や衛生などの面で地域の大きな問題となっている一方で、既存の住宅ストックを活用した住替えの支援やライフスタイルに応じた住生活の実現が求められる中、特に地方部では定住促進やUIJターンの受け皿として空き家の活用が期待されていますが、個人住宅の賃貸流通や空き家の管理については、賃貸用物件と比べて取引ルールや指針が整備されておらず、市場の形成はまだ不十分な状態となっています。  このため、国土交通省において、昨年9月に有識者の検討会を設置し、議論を行ってきましたが、今般、最終報告書をとりまとめ、所有者(貸主)と利用者(借主)双方のニーズや懸念事項に対応した個人住宅の賃貸流通に資する指針(ガイドライン)を作成しました。
ガイドラインの内容としては、(1)「取組み推進ガイドライン」(報告書第5章)として、定住対策や空き家活用に取り組む自治体や事業者向けに、空き家物件の掘り起こしや定住相談など具体的な支援策の提示や先進的な地域の取組み事例を紹介しています。(2)「賃貸借ガイドライン」(報告書第6章)として、貸主が修繕を行わず現状有姿のまま賃貸し(賃料を相場より安く設定)、借主が自費で修繕やDIYを行う借主負担型の賃貸借契約の指針を新たに策定しております。(3)「管理ガイドライン」(報告書第7章)では、空き家や留守宅の管理の必要性や、管理業者を選ぶ際の留意事項、実際に所有者が管理サービスを選択する際の確認事項などの指針を新たに策定しています。
この中でも、賃貸管理業者が直接参考になるのは、「賃貸借ガイドライン」と「管理ガイドライン」であると思いますので、そのガイドラインの内容を紹介します。

 

3 賃貸借ガイドライン

  1. ガイドラインの背景と目的
    これまで主に地方部において、地方公共団体が空き家を借り上げて定住対策のための住宅として確保したり、借主が自費で修繕やリフォームを行う形の、事業用賃貸物件にはあまり見られない、柔軟な賃貸借契約によって個人住宅を活用するなどの新たな取組みの動きが見られます。
    この背景には、取引経験や十分な情報のない空き家等の所有者の、通常の賃貸事業のように費用をかけて修繕や入居者募集を行うことが難しいが、現状のままであれば貸してもいいというニーズと、入居者の自分の好みの模様替えを行って生活を営みたいというニーズが一致したところがあり、今後の賃貸住宅市場の活性化を図る上で有効な方策になると考えられます。
    しかしながら、個人が自宅等を賃貸化して事業を営むためには、法制度や契約に関する一定の知識やノウハウが求められるため、これまで事業経験のない住宅所有者でも、少ない負担で円滑に個人住宅の賃貸化(CtoC)が行いやすくなるような、賃貸借契約の指針となるガイドラインの整備を行い、住宅ストックを活用した賃貸流通市場の整備を図ることが必要です。

  2. 賃貸借の基本的な形態
    1. (1)契約によって発生する権利と義務
      賃貸借は、「当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うことを約することによって、その効力を生ずる(民法601 条)」ものであり、使用収益させる債務と賃料支払債務が対価関係に立つ有償・双務契約とされています。法律上は、貸主と借主は以下のような権利義務を有するが、具体的な内容は、契約事項や特約によって定められています。
      【貸主】
      賃料債権を有する一方で、借主に使用・収益させ、必要な修繕を行う義務が発生し、場合によっては瑕疵担保責任や工作物責任を負う場合がある(民法559,601,606,608,717 条等)。
      【借主】
      使用・収益権のほか、修繕請求、必要費等の費用請求等の権利を有する一方で、賃料支払や用法遵守、善管注意、原状回復等の義務が発生する(民法594,598,601,608 条等)
    2. (2)個人住宅と事業用賃貸住宅との相違点
      個人住宅を賃貸住宅として貸す場合も、元々賃貸事業用に建てられたアパートやマンションを貸す場合も、民法や借地借家法等の法的地位は変わらず、契約自由の原則により、契約内容によって貸主借主の具体的な権利義務が定められる。なお、消費者契約法上は、自宅、空き家など個人住宅を貸す場合も貸主は事業者として扱われるとされています。
      賃貸事業用の物件は、入居前に清掃や必要な修繕、設備更新等を行って、借主を入居させるのが通例となっている一方で、個人住宅は、物件によって築年数や内装、設備の劣化状況等が大きく異なることから、貸主の中には自ら修繕等を行わず現状有姿のまま賃貸し、借主が模様替えや設備更新を行う場合は借主負担で認める契約の事例が見られます。
      また、個人住宅の場合、一旦賃貸化した場合でも、後で貸主が自宅として居住する可能性もあるため、予め契約期間を確定させておきたい場合は、正当事由を問わずに契約期間が終了する定期借家契約の活用が有用な場合があります。(なお、契約解除後の明渡し等の手続きについては、普通借家と定期借家で異なることはない)

    3. (3)賃貸流通を促進するための枠組み
      実際に自宅を賃貸化する際に活用が考えられる賃貸借契約の形態は、大きく次の3類型に分けることができるが、A、Bタイプが主として一定水準以上の賃料を得られるような都市部において、住み替えのために自宅を賃貸化するような場合の活用が想定される形式であり、Cタイプは、主として賃料水準の高くない地方部において、貸主が修繕等の負担を負わずに空き家を活用し、借主が自費で模様替え等を実施するような場合が想定されます。

      (1) Aタイプ(賃貸一般型)
      貸主が自己の負担で入居前に清掃や必要な修繕、設備更新を行い、基本的に近隣の市場相場並みの家賃収入を得ることを想定する契約形態で、入居期間中に必要となった修繕は、貸主の負担で実施します(電球交換など小修繕については、特約で修繕義務を免除する場合がある)。
      借主が、壁紙や床の張り替えなどの模様替えを行うことは原則禁止し、借主の造作買取請求は認めません。
      退去時の原状回復は、通常損耗や経年劣化を除き、原則として借主の義務となるが、紛争が生じた場合は「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(以下、「原状回復ガイドライン」という)」等に基づいて判断されることになります。

      (2) Bタイプ(事業者借上げ型)
      主として、所有者の転勤引越し時や住み替え時の自宅活用など、賃料水準の高い都市部での活用が想定される場合で、基本的な契約形態はAタイプと同様であるが、事業者の関与の度合いにより、次の二種類に分けられます。
      不動産事業者が、所有者から管理業務と契約代行業務を受託し、物件紹介や入居審査、入退去手続きを実施(仲介手数料のほか、家賃に応じた一定の管理報酬を受領)
      不動産事業者が、所有者から住宅を自ら借り上げ、貸主の立場で借主に転貸(サブリース)を実施(借上げ賃料の一定割合や家賃保証をする場合の保証手数料を所有者から受領)
      貸主が自己の負担で入居前に清掃や必要な修繕、設備更新を行い、基本的に近隣の市場相場並みの家賃収入を得ることを想定する契約形態で、入居期間中に必要となった修繕は、貸主の負担で実施します(電球交換など小修繕については、特約で修繕義務を免除する場合がある)。老朽化の状況によっては、修繕やリフォーム費用が多額になる可能性もあるため、一部金融機関が提供している賃料債権担保ローンなどを活用して貸主が予め修繕等を行うことも、貸主の持出しを抑えて事業化を支援する方策として有効です。
      借主が、壁紙や床の張り替えなどの模様替えを行うことは原則禁止し、借主の造作買取請求は原則として認めないため、入居中に借主が自費で新たにエアコン等を取り付けた場合は、退去時に撤去する必要があります。
      ただし、造作により明らかに客観的な価値が増加し、貸主が将来自分で居住する場合等、残置することが貸主の利益にもなると考えられる場合は、事業者と調整の上、双方の合意で残置も認めます(残置する場合は、無償を原則とする)。 退去時の原状回復は、通常損耗や経年劣化を除き、原則として借主の義務となるが、紛争が生じた場合は原状回復ガイドライン等に基づいて判断されることになります。

      (3) Cタイプ(借主負担DIY型)
      主として、地方部の空き家等を活用する際、貸主が原則として修繕義務を負わない代わりに低廉な賃料とし、借主が自費で修繕や模様替え等をする形態で、当該箇所について退去時の原状回復義務を免除する。(DIYはdo it yourself の略語で、一般的には、専門業者に頼らず自らの手で補修や組み立て、日曜大工等を行うこととされているが、本ガイドラインでは、借主が業者に発注して好みの設備更新や模様替えを実施することも含めている)
      借主負担DIY型の契約は、従来の賃貸住宅市場においては、あまり見られなかった契約形態であるが、貸主、借主ともに相当の潜在的ニーズがあることが確認され、具体的には双方に以下のようなメリットがあることが考えられます。

      ○所有者(貸主)のメリット
      自らの費用持出しなしで、業者発注や施工確認の手間をかけることなく、現状そのままの状態で貸すことが可能となる。
      安定した賃料収入(又は借主が買い取る場合の売却益)を得ることが期待できる。
      退去後、設備や内装等の価値が上がった状態の住宅として戻るため、次に賃貸化して入居募集する際に有利に働き、家賃を高く設定できる可能性がある。
      ○利用者(借主)のメリット
      自分の好みの設備を入れ替え、模様替えをすることができるため、持ち家と同じような感覚で居住することが可能となる。
      修繕やDIYの費用を加味する分、賃料を近隣相場よりも安くすることができる。
      自らが修繕する場合、施工方法や材料の選択、リフォーム業者等との交渉でコストを引き下げることが可能となる。
      DIY実施箇所は原状回復義務が免除されるので、追加的な費用が発生せず、退去時のトラブルを避けられる。
      等のこれまでの賃貸住宅事業には見られなかったメリットが多く考えられ、貸主と借主の間に新たなウィンウィンの安定的賃貸関係を築くことが可能となります。
      ただし、DIY型の契約を活用する際は、後の紛争発生を防ぐため、事前の説明や確認、双方の合意事項が必要となることから、円滑な契約手続きを行うために、専門性を有する不動産事業者や地方公共団体が適切な助言や支援をして、取引のサポートをすることが求められます。

      Cタイプは、現状の設備故障や要修繕具合の状況により、以下のように二通りに分類することができます。
      なお、貸主(所有者)は、瑕疵担保責任や工作物の設置・保存に関する責任を負うことから、建物の安全性の確保について十分留意することが必要です。(著しく老朽化し安全性に懸念のある住宅や、修繕に多額の費用がかかると見込まれる住宅については、解体・除却することが現実的な選択肢となる場合もある)

      【C-1 DIY(現状有姿)】
      設備や内装が相当老朽化しており、通常の賃貸事業では更新が必要と判断されるが、故障や不具合はなく、そのままの状態で通常の生活を営むことは可能な物件が対象となる。
      契約前に、入居中に起こりうる修繕箇所や修繕費用の目安について必要な判断の目安となる項目を賃貸借ガイドライン別紙として整理したので、貸主や不動産事業者等がこのような書面を活用して借主に予め説明し、共通の認識を持つことが必要となります。
      入居中に修繕箇所が発生した場合、貸主は修繕義務を負わないこととするが、その場合の対応は、借主の修繕義務の有無によって以下の二通りに分かれます。
      (1)
      借主が当該箇所の修繕義務を負うこととする場合、借主の費用負担の上限や分担割合について予め説明し、修繕箇所の確認や通知方法について双方が合意することとします(ただし、躯体や雨漏り等の住宅の根幹部分は貸主の修繕義務)。
      (2)
      借主も当該箇所の修繕義務を負わないこととする場合、借主は、修繕箇所をそのままにしておくか(不便な状態のまま居住を続ける)、又は、自費で修繕するかについて、自らが選択できることになるが、修繕箇所の確認や通知方法について双方が合意することとします(ただし、躯体や雨漏り等の住宅の根幹部分は貸主の修繕義務)。
      ○賃料設定
      この方式による場合、後のトラブルの発生を防ぐために、契約前に、老朽化し修繕が予想される箇所や修繕費用の目安について借主が理解した上で、設定賃料と契約期間、予想修繕費用とのバランスが保たれることに留意する必要があります。

      ○DIYの取扱い
      借主が自費で壁紙や床を張り替える、水回り関係のリフォームを行う等のDIYを原則として認め、実施箇所の確認や通知方法等について双方が予め合意することとなります。ただし、DIY費用の請求は認めないこととする。DIYを実施した箇所の原状回復義務は免除するため、退去時の借主の負担は発生しません。
      なお、DIY実施箇所以外の原状回復については、通常損耗や経年劣化を除き、原則として借主の義務となるが、紛争が生じた場合は原状回復ガイドライン等に基づいて判断されることになります。

      ○造作の取扱い
      借主が入居中に行った造作の買取請求は認めない。造作物は退去時に借主が撤去し、撤去後の周辺設備や養生について確認する必要があります。ただし、借主が自費で新たにエアコンを取り付けた等、残置することが貸主の利益にもなる場合は、双方の合意で残置も認めます(残置する場合は、無償を原則とする)。

      【C-2 DIY(一部要修繕状態)】
      設備の故障や建付不具合等の要修繕箇所が一部にあり、そのままの状態では通常の生活を営むことが難しい、不便な物件だが、立地状況や格安の賃料等の事情で、借主が自ら修繕の判断をすることを想定して、そのままの状態で賃貸する物件が対象となります(ただし、躯体や雨漏り等の住宅の根幹的な部分については貸主の修繕義務)。貸主や不動産事業者等は、賃貸借ガイドライン別紙等の書面を活用して、借主に予め説明し、共通の認識を持つことが必要となります。
      入居時点での要修繕箇所について、貸主は修繕義務を負わないこととするが、その場合の対応は、借主の修繕義務の有無によって以下の二通りに分かれます。
      (1)
      借主が要修繕箇所の修繕義務を負うこととする場合、借主の要修繕箇所の費用負担の上限や分担割合及び入居後にさらに別の修繕箇所が発生した場合の対応(C-1参照)について予め説明し、修繕箇所の確認や通知方法について双方が合意することとします(ただし、躯体や雨漏り等の住宅の根幹部分は貸主の修繕義務)。
      (2)
      借主も当該箇所の修繕義務を負わないこととする場合、借主は、修繕箇所をそのままにしておくか(不便な状態のまま居住を続ける)、又は、自費で修繕するかについて、自らが選択できることになるが、修繕箇所の確認や入居後にさらに別の修繕箇所が発生した場合の対応(C-1参照)について双方が合意することとします(ただし、躯体や雨漏り等の住宅の根幹部分は貸主の修繕義務)。
      ○賃料設定
      この方式による場合、一部要修繕状態のまま賃貸することから、後のトラブルの発生を防ぐために、契約前に、予め要修繕箇所や費用目安を明示し、さらに入居後に修繕が予想される箇所等について借主が理解した上で、設定賃料と契約期間、要修繕費用、予想修繕費用とのバランスが保たれることに留意する必要があります。

      ○DIYの取扱い
      借主が自費で壁紙や床を張り替える、水回り関係のリフォームを行う等のDIYを原則として認め、実施箇所の確認や通知方法等について双方が予め合意することとします。ただし、DIY費用の請求は認めないこととする。DIYを実施した箇所の原状回復義務は免除するため、退去時の借主の負担は発生しません。 なお、DIY実施箇所以外の原状回復については、通常損耗や経年劣化を除き、原則として借主の義務となるが、紛争が生じた場合は原状回復ガイドライン等に基づいて判断されることになります。

      ○造作の取扱い
      借主が入居中に行った造作の買取請求は認めない。造作物は退去時に借主が撤去し、撤去後の周辺設備や養生について確認する必要がある。ただし、元々壊れていたエアコンを借主が自費で新品に交換した等、残置することが貸主の利益にもなる場合は、双方の合意で残置も認めます(残置する場合は、無償を原則とする)。

    4. (4)上記に共通の枠組み
      自宅を賃貸する場合、転勤や相続等で貸主自身が使用する可能性もあることから、定期借家契約の締結により、確定的に賃貸借期間を終了させることも有用な場合があることが想定される。定期借家契約とするためには、契約時の書面説明や、期間が1年以上となる場合の半年前通知など、借地借家法に基づき、普通借家にはない制約があることに留意する必要があり、不動産事業者の適切な支援が求められます。
      なお、個人住宅の場合は、所有者側に家財や仏壇があるため、それらの対処ができれば他人に貸してもよいというニーズもあると考えられるが、その場合の対処方法として、貸し倉庫等を活用した家財の運搬・保管サービスの利用のほか、一住戸のうち、家財等の保管場所を除いた部分だけを賃貸借の対象物とすることも選択肢の一つとなります。その際、賃貸部分の確定や、入居期間中に貸主が立ち入る必要がある場合の連絡方法等について、予め合意しておくことが必要です。
      また、農山村地域においては、自宅と併せて付属する農地や菜園で耕作をしたり、UIターン等の定住者の中には農地付き住宅を求めるニーズもあるものと考えられるが、農地等の利用については農地法等の制約があるため、地元の自治体や農業関係団体等が適切な助言や指導を行うことが必要となります。

4 管理ガイドライン

  1. 趣旨
    個人住宅の取引を円滑に行う上では、市場の取引に相応しい、適切に維持管理された住宅の確保が必要になってくるが、空き家を含めた個人住宅の管理については、様々な事業者による管理サービスの展開が見られつつあるものの、全国的に十分な規模の市場が形成されているとは言い難い状況にあります。
    今後、空き家の増加が引き続き見込まれる中、個人住宅の管理を促し、良好な住宅ストックとして確保されるとともに、住宅所有者が適切に管理サービスを選択できるよう、契約時の留意事項や適切な管理内容を定めた管理ガイドラインを整備し、賃貸借ガイドラインと併せて個人住宅の賃貸流通を進めるための枠組みを整備する必要があります。

  2. 賃貸住宅の管理業務
    住宅の賃貸借関係は、契約を契機に生じ、その後退去手続きが終了するまで貸主と借主の間の権利義務関係が存続することになるが、その間の物件の維持修繕や入居者との連絡、クレーム対応など様々な業務が求められることから、専門性を有する事業者によって適切に賃貸住宅の管理が行われることが必要となります。
    一般に、管理業者が賃貸住宅の管理を行う場合の貸主と管理業者との契約形態については、・貸主から委託を受けて管理する「受託管理型」・貸主から賃借した住宅を転貸して管理する「サブリース型」に分類され、管理業務としては、「家賃・敷金等の受領保管事務」、「契約更新事務」、「入退去立ち会い、原状回復など契約終了事務」等の基幹的な業務のほか、
    ・物件管理(建物、設備の維持保全、点検、修繕、発注等)
    ・入居管理(入居募集、審査、入退去立ち会い、確認、クレーム対応、連絡調整) 等の業務を行うことが通例となっています。

    賃貸住宅の経営主体は、個人の貸主が全体の8割超を占め、管理業務を全て委託する貸主が6割を超えるなど、事業者による管理業務は賃貸住宅事業の実施に必要なサービスとして広く定着しているが、一方で賃貸住宅は、特に退去時の原状回復義務や敷金の返還に関し、多くの紛争が発生している現状があるため、管理業務に関し専門的な知識や経験を有する事業者によって適切な管理が実施されることにより、円滑な賃貸借契約や入退去の手続きが行われることが重要です。

  3. 個人住宅の管理の意義
    個人住宅の管理についても、市場規模は小さいものの、主として空き家や転勤による留守宅を対象に見回りや点検業務を行う「空き家管理サービス」が各地域で展開され始めており、報酬を得て管理サービスを提供する事業者は、不動産業や管理業者の他、工務店、造園業者、警備業者、NPO法人など多岐にわたっています。
    空き家の戸数は今後も増加することが見込まれ、それに伴い、管理不全な住宅が周辺環境に及ぼす悪影響についても、地域で大きな課題となっているが、住宅を適切に維持管理する重要性は、利用可能な住宅を確保し、良質な住宅ストックを形成する上でも、今後、益々高まっていくものと考えられます。
    個人住宅を適切に管理することで、所有者(貸主)は、住宅の資産価値を維持、向上させ、新たに賃料収益を産む資産として活用することが可能になるとともに、自宅を活用した住み替えや売却を行いやすくなることが期待できます。また、管理を行う事業者については、空き家の管理業務を契機に、賃貸借契約の仲介取引や貸し倉庫等の家財保管サービス、その後の修繕や売買、介護福祉など生活支援サービスなどの取引機会の拡大につなげ、市場の活性化が期待されます。
    現在、個人住宅については、このような賃貸流通の市場や管理関連ビジネスが十分に形成されているとは言えず、特に、地方においては、専門の事業者を選択する機会も限られていることから、空き家の活用に取り組む地方公共団体と関係事業者が連携協力することにより、所有者に適切な住宅の管理を促し、事業化の支援を図ることが求められます。

  4. 管理業務を選択する際の確認事項
    個人住宅の管理サービスの内容は、主として、室外業務、室内業務、代行業務に分けることができ、室外業務を基本メニューとして提供する例が多く見られ、各事業者の専門性を活用した多様なサービスが提供されています。契約金額は、業務内容によりますが、基本的なメニューのみの場合、月数千円程度から利用が可能となっています。

    <個人住宅の管理サービスの内容>
    ・室外業務:塗装外壁や庭木の確認など、住戸内に入ることなく、外からの目視で実施
    ・室内業務:所有者から鍵を預かり、室内の通気や雨漏り点検、清掃など住宅を常時使用可能な状態に維持
    ・代行業務:契約の仲介や入居中の賃貸管理を行うことを目的として、物件の管理や入居者の募集、入退去手続き、家賃の受領、必要な修繕等を実施

    個人住宅の所有者が空き家等の管理を委託する際は、目的に応じた管理サービスを選択する必要があり、個人住宅の場合、留守宅等住宅の維持保全のみを目的とする場合は、目視や外壁確認等の室外業務(及び雨漏り点検、通風等の室内業務)を委託することになりますが、将来の賃貸借取引、その後の入居管理までを含めて管理を委託する場合は、これらに加えて代行業務を委託することとなります。
    個人住宅の管理業務の内容は、業務範囲や連絡体制、報告方法、専門資格、追加サービスの有無等多岐にわたるため、管理の目的に沿ったサービスを選択する上で必要な判断の目安となる項目を管理ガイドライン別紙として整理されていますので、所有者がこのような書面を活用して予め事業者と業務内容について確認することが、適切な管理を行う上で必要となります。
    この点について、賃貸住宅の管理業務のうち、家賃等の受領事務、契約の更新・終了事務のいずれかを行う管理業者は国土交通大臣の登録を受けることができ、登録を受けた管理業者については、書面による契約前の重要事項説明が義務づけられていることから、管理業務の内容を含めた契約内容を十分に確認することが可能であり、登録の有無が業者選定に当たっての一つの判断材料になると考えられます。

  5. 入居中の管理の重要性
    個人住宅は、住宅の質や設備、築年数などが物件によって大きく異なるため、専門性を有する不動産事業者が事業化の支援を行い、円滑な入退去の手続きを行うことが求められます。特に、管理ガイドラインにおいては、老朽化した物件や要修繕状態の物件も賃貸借取引の対象となることから、管理に関し専門知識や経験を有する事業者が、貸主に対し適切な助言や情報提供を行い、一般賃貸住宅に見られる原状回復トラブルの発生を防ぐ等、適切な調整業務を行うことが必要となります。
    今般、借主負担のDIY型賃貸借契約の枠組みの整備により、個人住宅を活用した賃貸化の動きが進むことが期待されますが、一方で、DIY型契約の場合、退去時の原状回復等の紛争発生を防ぐため、入居時の物件の状態や要修繕箇所の確認、DIYを行う前の確認手続きや施工方法について、取引経験の少ない貸主と借主の調整が円滑に行われるよう、賃貸借ガイドライン別紙や原状回復ガイドライン等を参考にして、専門知識や資格を有する管理業者が役割を担うことが重要になってきます。

  6. 関係者の取組みによる管理業務の展開
    個人住宅を管理するサービスはまだ広がりを見せ始めたところであり、今後、住宅の管理が適切に行われ、多様な関連事業を含めた市場が拡大するためには、空き家等の所有者が管理の必要性を理解して適切な事業者の選択ができるよう、管理内容を分かりやすく提示し、自らの希望や物件の状況に合ったサービスの選択ができることが求められます。
    特に、地方部においては、物件の数や取引件数も少ないことから、定住支援に取り組む地元の自治体やNPO法人等と連携して、所有者との調整や物件の掘り起こしを行うことが重要な取組みとなりますが、管理物件の所在が広範に点在する場合、管理業務だけで収益を確保することは難しいと考えられるため、管理のみならずリフォームも併せた、地域内のワンストップサービスの提供など効率的な事業運営が図られるような事業展開も必要となります。
    このように、管理を契機として、修繕やリフォーム等の建築分野のほか、住み替え支援や介護福祉も含めた総合的な生活サービスを提供できるような関連産業の発展により、市場全体の活性化を図ることが可能になると考えられます。

  7. 住まいの課題と地域づくり
    現在、人口減少や少子高齢化に直面する地方の中には、自治体、民間、地域が一体となって定住促進やUIターン対策に取組み、多くの成果をあげている例が見られますが、本検討会の目的である個人住宅の適切な管理や賃貸流通の促進による市場の活性化を進めるためには、単に住宅の視点のみならず、子育てや雇用、福祉等の公共サービスを含め、総合的な地域経営の観点から、地域の活性化に取り組むことが求められます。空き家や定住対策といった住まいの課題解決を端緒として、官民が地域づくりに取り組むことが、住宅の適切な管理や市場の活性化に寄与するものと考えられます。

5 まとめ

今回、国土交通省はDIY型の賃貸借契約を提案し、これにより空き家の賃貸住宅の流通の促進を図ろうとしております。そして、空き家の賃貸住宅の運営においては管理業務も極めて重要な役割を担うことから管理ガイドラインを公表しております。
空き家の賃貸住宅としての活用方法についてはこれまで統一的な指針やガイドラインがありませんでしたので、今回のガイドラインの公表はこれからの空き家の賃貸住宅としての利用にとって重要な指針となると考えられます。
このため、空き家を賃貸住宅として有効活用を考えているのであれば、是非今回公表されたガイドラインを十分に理解して使用することをお勧めします。

2014.08/05

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亀井英樹(かめいひでき)
東京弁護士会所属(弁護士)
昭和60年中央大学法学部卒業。平成4年司法試験合格。
平成7年4月東京弁護士会弁護士登録、ことぶき法律事務所入所。
詳しいプロフィールはこちら ≫

【著 作 等】
「新民事訴訟法」(新日本法規出版)共著
「クレームトラブル対処法」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「管理実務相談事例集」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「賃貸住宅の紛争予防ガイダンス」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修