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リプロス代表・松尾充泰の賃貸経営ノウハウ

第6回「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」のリプロス流解体新書

 今回で『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』の解体新書は最終回になります。
 前回は、賃借人(入居者)の負担において、経過年数を導入した考え方について解説しました。少しおさらいになりますが、この考え方は年数が経つほど賃借人(入居者)の負担割合は減少する事になっています。

 その理由として、入居期間中に経年変化によって自然に損耗するので、例え入居者が破損させてもその中から経過年数分は差し引き、経年変化後の残存価値から入居者が破損させた分を負担してもらうという内容でした。

 今回解説するガイドライン本文14ページには、前回とまったく違う、経過年数を考慮しないものについて書かれています。

 そして、最後に賃借人(入居者)が負担する場合の負担対象範囲について解説します。

--------------ガイドラインP14  本文抜粋 ここから--------------


3 経過年数(入居年数)を考慮しないもの
 もっとも、建物本体と同様に長期間の使用に耐えられる部位であって、部分補修が可能な部位、例えば、フローリング等の部分補修については、経過年数を考慮することにはなじまないと考えられる。

 なぜなら、部分補修としたうえに形式的に経過年数を考慮すると、賃貸人にとっては不合理な結果となるからである。
 フローリングを例にとると、補修を部分的に行ったとしても、将来的には全体的に張り替えるのが一般的であり、部分補修がなされたからといって、フローリング全体としての価値が高まったと評価できるものではない(つぎはぎの状態になる)。

 よって、部分補修の費用全額を賃借人が負担しても、賃貸人が当該時点におけるフローリングの価値(経年変化や通常損耗による減少を考慮した価値)を超える利益を獲得することにはならないので、経過年数を考慮する必要はない。

 むしろ、形式的に経過年数を考慮すると、部分補修の前後を通じてフローリングの価値は同等であると評価できるのに、賃貸人が費用の負担を強いられるという意味で不合理である。

 したがって、こうした部位等については、経過年数を考慮せず、部分補修費用について毀損等を発生させた賃借人の負担とするのが妥当であると考えられる。
 また、襖紙や障子紙、畳表といったものは、消耗品としての性格が強く、毀損の軽重にかかわらず価値の減少が大きいため、減価償却資産の考え方を取り入れることにはなじまないことから、経過年数を考慮せず、張替え等の費用について毀損等を発生させた賃借人の負担とするのが妥当であると考えられる。


--------------ガイドラインP14  本文抜粋 ここまで--------------


≪ポイント≫
1.フローリングの原状回復費用は、賃借人(入居者)の全額負担が妥当
2.襖紙、障子紙、畳表などは、費用負担は賃借人(入居者)の全額負担が妥当

 ここは勘違いして主張する入居者もいるので、おさえておきたいところです。

 また、どうして上記のように全額負担が妥当であると書かれているか、その根拠を理解しておくことが重要です。
 ガイドライン本文と重複しますが、ポイント「1」の根拠を解説します。
ポイント1‐根拠(1)
 フローリングは長期間の使用に耐える部位(部材)であり、かつ、部分補修が可能な部位(部材)は、経過年数を考慮することにはなじまないと考えられる。理由は、部分補修をしても将来的には全面を張り替えるのが一般的であり、部分補修をしてもフローリングの価値が高まることはない。
ポイント1‐根拠(2)
 仮にフローリングにおいて経過年数を考慮した場合、部分補修によってアップグレードとなることもないのに、賃貸人(大家さん)に費用を負担させる事は不合理である。

 上記の根拠を当てはめて考えると、柱、タイル、ガラスやガラスブロックなども同様の根拠により、賃借人(入居者)による全額負担が妥当であると考えられると思います。ただし、くれぐれも勘違いしてはいけないのが、地震、台風などの自然災害による損傷や施行問題により損傷などを含めて、入居者の故意、過失、善管注意義務違反がない場合は、もちろん賃貸人(大家さん)の負担になります。

 次にポイント「2」の解説をします。
 ここでは、先の根拠とはまったく、違う根拠により、賃借人(入居者)の負担であると書かれています。
ポイント2‐根拠
 襖紙、障子紙、畳表などは消耗品の性格が強く、結果として減価償却資産の対象にはならないとされている。よって経過年数は考慮せず補修費用を賃借人(入居者)の負担とする事が妥当である。

 もちろん、上記は通常損耗など含まれず、賃借人(入居者)による原状回復が必要と認められるような場合のみの話です。

--------------ガイドラインP14  本文抜粋 ここから--------------


(3) 賃借人の負担対象範囲
 1 基本的な考え方
 原状回復は、毀損部分の復旧であることから、可能な限り毀損部分に限定し、毀損部分の補修工事が可能な最低限度を施工単位とすることを基本とする。

 したがって、貸借人に原状回復義務がある場合の費用負担についても、補修工事が最低限可能な施工単位に基づく補修費用相当分が負担対象範囲の基本となる。
 2 毀損部分と補修箇所にギャップがある場合
 賃借人の負担対象範囲で問題となるのが、毀損部分と補修工事施工箇所にギャップがあるケースである。例えば、壁等のクロスの場合、毀損箇所が一部であっても他の面との色や模様あわせを実施しないと商品価値を維持できない場合があることから、毀損部分だけでなく部屋全体の張替えを行うことが多い。
 この場合に問題となるのが、「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反による損耗・毀損を復旧すること」である原状回復の観点から、賃借人にどのような範囲でクロスの張替え義務があるとするかということである。
 この点、当該部屋全体のクロスの色や模様が一致していないからといって、賃貸借の目的物となりえないというものではなく、当該部屋全体のクロスの色・模様を一致させるのは、賃貸物件としての商品価値の維持・増大という側面が大きいというべきで、その意味ではいわゆるグレードアップに相当する部分が含まれると考えられる。

 したがって、当該部屋全体のクロスの張替えを賃借人の義務とすると、原状回復以上の利益を賃貸人が得ることとなり、妥当ではない。
 他方、毀損部分のみのクロスの張替えが技術的には可能であっても、その部分の張替えが明確に判別できるような状態になり、このような状態では、建物価値の減少を復旧できておらず、賃借人としての原状回復義務を十分果たしたとはいえないとも考えられる。

 したがって、クロス張替えの場合、毀損箇所を含む一面分の張替費用を、毀損等を発生させた賃借人の負担とすることが妥当と考えられる(このように賃借人の負担範囲を大きくしても、経過年数を考慮すれば、金銭的な負担は不当なものとはならないと考えられる)。
 このように毀損部分と補修箇所に大きな差異が生じるような場合は、補修工事の最低施工可能範囲、原状回復による賃貸人の利得及び賃借人の負担を勘案し、当事者間で不公平とならないようにすべきである(別表2)。


--------------ガイドラインP15  本文抜粋 ここまで--------------


≪ポイント≫
1.賃借人(入居者)の負担対象範囲は、補修工事が最低限可能な施行単位
2.毀損部分と補修箇所のギャップがある場合の補修範囲

 ポイント「1」は解説するほどの事はなく、ガイドラインに上げられている別表2「賃借人の原状回復義務等負担一覧表」を参照して頂ければ、ここに工事施工単位として補修工事が最低可能な施行単位が書かれています。
 ポイント「2」の補修範囲についても、別表2の賃借人の負担単位等を参照して頂けるとわかると思いますが、クロスの色や模様を一致させる事は商品価値の維持・増大という側面が大きいと書かれています。

 賃貸人(大家さん)の立場になって考えますと、クロスの色が一致していないと次回の賃借人(入居者)が決まらないと思われるかもしれません。しかし、そもそも原状回復のガイドラインではクロスは原価償却資産の考え方をもちいて、経年経過とともに価値が下がるとされています。よって、新規募集の為にクロスを張り替える行為は、賃借人(入居者)にとって関係の無い話なので、それを負担させる事は妥当ではないとされているのです。

 なぜならば、解説の中でも繰り返し説明していますが、クロスの減価償却分は賃料に含まれているのです。

 実際に業務を行っていると、ガイドライン通りに考えても賃貸人(大家さん)、賃借人(入居者)の双方納得できるような負担割合などは簡単に算出できません。この事は、実務をされている大家さん、管理会社の方がもっともご存知の事と思います。

 だからこそ、ガイドラインの中身を理解した上で契約書や特約の作成をおこない、賃借人(入居者)、賃貸人(大家さん)にその内容を理解して頂く事により、未然にトラブルを防止する事が重要だと思います。これが基本でありそれ以上の策はないと思います。

  さて、今回で『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』のリプロス流解体新書を終わりますが、稚拙な解説を読んで下さった皆様には、心よりお礼申し上げます。ありがとうございました。

別表2「賃借人の原状回復義務等負担一覧表」

【注意】
このページは個人の解釈を元に作成していますので、解説による責任はいかなる場合も一切負いかねます。ご了承くださいませ。

2004.09/28

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松尾充泰 (まつおみつひろ)
(賃貸不動産経営コンサルタント)
昭和43年大阪生まれ。
96年に賃貸不動産業界での職務経験を生かし、賃貸不動産業界向けソフトウェア開発会社、アクセス株式会社を設立。その後、賃貸不動産会社に対する業務コンサルティング、大家さん・賃貸不動産業界のビジネス支援サイトを運営する、株式会社リプロスを2003年に設立。