数ある相続税対策のなかでも、もっとも基本的で比較的容易に実行できる方法が、今回ご紹介する生前贈与です。
生前贈与の考え方は、生きているうちに出来るだけ多くの財産を相続人などに贈与により移転し、相続時の財産を減らしておく、という単純なものです。
贈与税はかからないの?
贈与を使った方法、多額の贈与税がかかるのでは?という声をよく聞きます。
確かに、ある程度以上の金額(基礎控除額)を超えれば贈与を受けた方に贈与税がかかってきます。さらには、贈与税は超過累進税率といって、贈与される財産が増えると税率がぐんと上がる仕組みとなっています。下記の贈与税の計算方法の図をご覧ください。たとえば、一年に2千万円の贈与を受ければ、720万円(実効税率36%)も贈与税がかかってきます。
ところで、贈与税は毎年、もらった人単位で課税されます。前の例で、もし4人の方が500万円ずつ計2千万円の贈与を受ければ、各人が各500万円について53万円、合計212万円の贈与税の負担ですみます(他に贈与を受けていない場合に限る)。そこで、その制度を利用して、財産を少しずつ、できるだけ多くの人に繰り返し贈与する、それがこの生前贈与のコツです。
〔図〕贈与税の計算方法(暦年課税)
(1年間の贈与財産の合計額-基礎控除110万円)×速算表の税率-速算表の控除額=贈与税額
<贈与税の速算表> (参考)相続税の速算表
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【計算例】500万円の贈与を受けた場合 【 算出税額 =(A)×(B)-(C)】
(500万円-110万円)×20%-25万円=53万円
ほんとうにお得なの?
贈与税の基礎控除額は110万円です。その範囲内での贈与なら贈与税はかかりません。その意味ではまさしく節税になります。しかし、多額の相続財産に対しどれほど効果があるのでしょう。
たとえば、毎年110万円を息子・娘そして孫2人の計4人に10年間贈与し続けるとします。この場合、110万円×4人×10年=44百万円の財産が移転します。相続税の税率が30%と考えられる方なら44百万円×30%=1千320万円の相続税額が減少します。馬鹿にならない金額、まさしく「継続は力なり」です。
もっと速く
(1)
前項の例は、贈与税がかからない範囲での話です。相続税の税率の高い方は、多少の贈与税を払ってでも相続財産を減らしておいたほうがいい場合もあります。たとえば、贈与税率10%を覚悟すれば最高で年310万円を贈与することができ、前項の例では310万円×4人×10年=124百万円の資産が移転します。贈与税は(310万円―110万円)×10%×4人×10年=800万円です。
一方、相続税の減少は124百万円×30%=3千720万円となり、差引2千920万円、全体の税額は減少します。前出の例より16百万円も税金の額は減りました。
ここに注意
このように毎年繰返して贈与する方法を連年贈与といいます。毎年のことですので、金銭での贈与が多くなるかと思いますが、この場合、銀行振込を利用するなどして実際に贈与があったという証拠を残しておいてください。また、振込む口座は贈与を受けた本人が実際に管理(通帳と印鑑は贈与を受けた本人が必ず管理)していることが必要です。
また、毎年同額・同時期の贈与は定期金を贈与する意思があったとして、多額の贈与税が課税されるおそれがあります。連年贈与は金額や時期をなるべく不規則にして行なってください。
なお、相続時精算課税方式による贈与を行なった方はこの方法は使えません。
最後に
繰返しにはなりますが生前贈与は「継続は力なり」です。贈与税は1月から12月までの一年間の合計額を申告します。
今年も年末が近づいてきました。相続税が気になるかたは、まずは基礎控除額の範囲内での贈与をご検討してみては?