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弁護士・亀井英樹先生の法律ノウハウ

民法改正と賃貸借契約への影響について

出典:法務省法制審議会

http://www.moj.go.jp/shingi1/shingikai_saiken.html

第1 民法改正の法律案

 平成29年5月26日、民法改正案が国会で可決され、同年6月2日公布されました。この結果、公布日から3年以内に改正後の民法が施行されることとなりました。賃貸業務や家賃債務保証業務にとって、民法の賃貸借契約や保証契約の内容が変更されることになれば業務に重要な影響を及ぼすことになります。 民法改正案の成立により、平成32年4月1日に施行されることとなっております。このため、今後早めに準備するためにも、賃貸借業務及び保証業務に関連する部分について、その内容を説明します。

第2 賃貸借

1 賃貸借の成立(民法第601条関係)

(賃貸借)
第601条 賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。

(改正の趣旨)
民法第601条の規定を基本的に維持しつつ,賃貸借の終了によって賃借人の目的物返還債務が生ずる旨を明記するものであり,賃料支払債務と並ぶ賃借人の基本的な債務(民法第616条,第597条第1項参照)を賃貸借の冒頭規定に盛り込むものである。

(改正への対応)
今回の改正は、賃貸借契約の明確化であり、これまで以上に、契約書の締結、物件の引渡業務の実施についてのコンプライアンスの徹底が必要となります。

2 短期賃貸借(民法第602条関係)

(短期賃貸借)
第602条 処分の権限を有しない者が賃貸借をする場合には、次の各号に掲げる賃貸借は、それぞれ当該各号に定める期間を超えることができない。契約でこれより長い期間を定めたときであっても、その期間は、当該各号に定める期間とする。

一 樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃貸借 10年
二 前号に掲げる賃貸借以外の土地の賃貸借 5年
三 建物の賃貸借 3年
四 動産の賃貸借 6箇月

(改正の趣旨)
本文前段は,民法第602条の「処分につき行為能力の制限を受けた者」という文言を削除するものである。この文言は,未成年者,成年被後見人,被保佐人及び被補助人を指すものとされているが,これらの者が短期賃貸借をすることができるかどうかは同法第5条,第9条,第13条,第17条等によって規律されており,同法第602条の存在はかえって短期賃貸借であれば未成年者や成年被後見人であっても単独ですることができる等の誤解を生むおそれがあることを理由とする。
本文後段は,民法第602条各号に定める期間を超える賃貸借をした場合にはその超える部分のみを無効とする旨を定めるものであり,同条に関する一般的な理解を明文化するものである。

(改正への対応)
  短期賃貸借は、抵当権の実行に関わる民法395条との関係では適用の余地はなくなりましたが、共有者関係における管理行為や、財産管理人の管理権限との関係で重要な意味を有するものですので、特に、相続により、物件が共同相続された場合には、重大な意味を有する条項であることを理解しておく必要があります。

3 賃貸借の存続期間(民法第604条関係)

(賃貸借の存続期間)
第604条 賃貸借の存続期間は、50年を超えることができない。契約でこれより長い期間を定めたときであっても、その期間は、五十年とする。
2 賃貸借の存続期間は、更新することができる。ただし、その期間は、更新の時から50年を超えることができない。

(改正の趣旨)
賃貸借の存続期間の上限(20年)を廃止するものである。特則の置かれている借地借家法等ではなく民法第604条の適用がある賃貸借であっても,例えばゴルフ場の敷地の賃貸借,重機やプラントのリース契約等においては20年を超える存続期間を定めるニーズがあるとの指摘を踏まえたものである。
もっとも,長期の存続期間を一般的に認めると賃借物の損傷や劣化が顧みられない状況が生じかねないこと等から存続期間の上限を50年に改めることとした。

(改正への対応)
 土地の賃貸借契約等で、長期の賃貸借契約を締結している場合には、今後は、契約期間を50年とする賃貸借契約は可能となるので、契約書類の訂正や見直しが可能となりますので、改正に向けて準備が必要であると考えられます。

4 不動産賃貸借の対抗力、賃貸人たる地位の移転等(民法第605条関係)

(不動産賃貸借の対抗力)
第605条 不動産の賃貸借は、これを登記したときは、その不動産について物権を取得した者その他の第三者に対抗することができる。

(不動産の賃貸人たる地位の移転)
第605条の2 前条、借地借家法(平成3年法律第90号)第10条又は第31条その他の法令の規定による賃貸借の対抗要件を備えた場合において、その不動産が譲渡されたときは、その不動産の賃貸人たる地位は、その譲受人に移転する。
2 前項の規定にかかわらず、不動産の譲渡人及び譲受人が、賃貸人たる地位を譲渡人に留保する旨及びその不動産を譲受人が譲渡人に賃貸する旨の合意をしたときは、賃貸人たる地位は、譲受人に移転しない。この場合において、譲渡人と譲受人又はその承継人との間の賃貸借が終了したときは、譲渡人に留保されていた賃貸人たる地位は、譲受人又はその承継人に移転する。
3 第1項又は前項後段の規定による賃貸人たる地位の移転は、賃貸物である不動産について所有権の移転の登記をしなければ、賃借人に対抗することができない。
4 第1項又は第2項後段の規定により賃貸人たる地位が譲受人又はその承継人に移転したときは、第608条の規定による費用の償還に係る債務及び第622条の2第1項の規定による同項に規定する敷金の返還に係る債務は、譲受人又はその承継人が承継する。

(合意による不動産の賃貸人たる地位の移転)
第605条の3 不動産の譲渡人が賃貸人であるときは、その賃貸人たる地位は、賃借人の承諾を要しないで、譲渡人と譲受人との合意により、譲受人に移転させることができる。この場合においては、前条第3項及び第4項の規定を準用する。

(改正の趣旨)
605条は,まず,民法第605条の「その後その不動産について物権を取得した者」という文言について,「その他の第三者」を付加するとともに,「その後」を削除するものである。同条の規律の対象として,二重に賃借をした者,不動産を差し押さえた者等が含まれることを明確にするとともに,「その後」という文言を削除することによって賃貸借の登記をする前に現れた第三者との優劣も対抗要件の具備の先後によって決まること(最判昭和42年5月2日判時491号53頁参照)を明確にするものである。また,本文(1)では,同条の「その効力を生ずる」という文言を「対抗することができる」に改めている。これは,第三者に対する賃借権の対抗の問題と,第三者への賃貸人たる地位の移転の問題とを区別し,前者を605条,後者を605条の2で規律することによって,同条の規律の内容をより明確にすることを意図するものである。
605条の2は,民法第605条の規律の内容のうち賃貸人たる地位の移転について定めるものであり,賃貸人たる地位の当然承継に関する判例法理(大判大正10年5月30日民録27輯1013頁)を明文化するものである。なお,605条の2は,所有者が賃貸人である場合が典型例であると見て,その場合における当該所有権の譲受人に関する規律を定めたものであるが,地上権者が賃貸人である場合における当該地上権の譲受人についても同様の規律が妥当すると考えられる。
605条の3は,賃貸人たる地位の当然承継が生ずる場面において,旧所有者と新所有者との間の合意によって賃貸人たる地位を旧所有者に留保するための要件について定めるものである。実務では,例えば賃貸不動産の信託による譲渡等の場面において賃貸人たる地位を旧所有者に留保するニーズがあり,そのニーズは賃貸人たる地位を承継した新所有者の旧所有者に対する賃貸管理委託契約等によっては賄えないとの指摘がある。このような賃貸人たる地位の留保の要件について,判例(最判平成11年3月25日判時1674号61頁)は,留保する旨の合意があるだけでは足りないとしているので,その趣旨を踏まえ,留保する旨の合意に加えて,新所有者を賃貸人,旧所有者を賃借人とする賃貸借契約の締結を要件とし(本文(3)前段),その賃貸借契約が終了したときは改めて賃貸人たる地位が旧所有者から新所有者又はその承継人に当然に移転するというルールを用意することとしている(本文(3)後段)。
605条の2第3項は,賃貸人たる地位の移転(当然承継)を賃借人に対抗するための要件について定めるものであり,判例法理(最判昭和49年3月19日民集28巻2号325頁)を明文化するものである。
605条の2第4項は,賃貸人たる地位の移転(当然承継)の場面における敷金返還債務及び費用償還債務の移転について定めるものである。敷金返還債務について,判例(最判昭和44年7月17日民集23巻8号1610頁)は,旧所有者の下で生じた延滞賃料等の弁済に敷金が充当された後の残額についてのみ敷金返還債務が新所有者に移転するとしているが,実務では,そのような充当をしないで全額の返還債務を新所有者に移転させるのが通例であり,当事者の通常の意思もそうであるとの指摘がある。そこで,上記判例法理のうち敷金返還債務が新所有者に当然に移転するという点のみを明文化し,充当の関係については解釈・運用又は個別の合意に委ねることとしている。費用償還債務については,必要費,有益費ともに,その償還債務は新所有者に当然に移転すると解されていることから(最判昭和46年2月19日民集25巻1号135頁参照),この一般的な理解を明文化することとしている。

(改正への対応)
賃貸人の地位が移転することは、実務においては、オーナーによる物件売却等により発生することは度々あり、賃貸管理業者としては、オーナーによる物件売却が生じた場合の賃貸借契約の効果については、サブリース契約の場合を含めて、本状の内容を日頃から確認しておくことが重要であると考えられます。
  特に、サブリース契約についても賃貸借契約であると判例上は認定されているが、その点を理解していないオーナーや不動産業者が多数存在してるため、佐ブース契約の場合には、オーナーによる物件売却が生じても、賃貸人の地位が生じるのみで、契約終了原因とはならないことをサブリース契約書上も明記しておくことが望ましいと考えられます。

5 不動産の賃借人による妨害排除等請求権

(不動産の賃借人による妨害の停止の請求等)
第605条の4 不動産の賃借人は、第605条の2第1項に規定する対抗要件を備えた場合において、次の各号に掲げるときは、それぞれ当該各号に定める請求をすることができる。
一 その不動産の占有を第三者が妨害しているとき その第三者に対する妨害の停止の請求
二 その不動産を第三者が占有しているとき その第三者に対する返還の請求

(改正の趣旨)
対抗要件を備えた不動産の賃借人が賃借権に基づく妨害排除請求(第1号(停止請求)又は第2号(返還請求))をすることができる旨を定めるものであり,判例法理(最判昭和28年12月18日民集7巻12号1515頁等)を明文化するものである。他の法律が定める対抗要件としては,借地借家法第10条・第31条,農地法第16条等がある。対抗要件の不存在を主張する正当な利益を有しない第三者(不法占拠者等)に対する妨害排除等請求の要件としても対抗要件の具備が要求されるかどうかについては,それが要求されないという解釈を排除する趣旨ではない。

6 敷金

第4款 敷金
第622条の2 賃貸人は、敷金(いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。以下この条において同じ。)を受け取っている場合において、次に掲げるときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。

一 賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき。
二 賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき。
2 賃貸人は、賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭の給付を目的とする債務を履行しないときは、敷金をその債務の弁済に充てることができる。この場合において、賃借人は、賃貸人に対し、敷金をその債務の弁済に充てることを請求することができない。

(改正の趣旨)
622条の2第1項前段は,敷金(民法第316条,第619条第2項参照)の意義を判例(大判大正15年7月12日民集5巻616頁等)や一般的な理解を踏まえて明確にするものである。
622条の2第1項後段は,敷金返還債務が生ずる時期を明確にするものである。判例(最判昭和48年2月2日民集27巻1号80頁)は,賃貸借が終了し,かつ,目的物が返還された時に敷金返還債務が生ずるとしている。また,賃借人が適法に賃借権を譲渡したときも,賃貸人と旧賃借人との間に別段の合意がない限り,その時点で敷金返還債務が生ずると考えられる(最判昭和53年12月22日民集32巻9号1768頁参照)。そこで,本文(2)では,これらの理解を明文化することとしている。
622条の2第2項は,敷金返還債務が前項により具体的に生ずる前における敷金の充当に関する規律について定めるものであり,判例法理(大判昭和5年3月10民集9巻253頁)を明文化するものである。

7 賃貸物の修繕等(民法第606条関係)

(賃貸人による修繕等)
第606条 賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。
2 賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない。

(賃借人による修繕)
第607条の二 賃借物の修繕が必要である場合において、次に掲げるときは、賃借人は、その修繕をすることができる。
一 賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、又は賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき。
二 急迫の事情があるとき。

(改正の趣旨)
606条は,旧606条の規定を維持するものである。
607条の2は,賃借人の修繕権限について定めるものである。民法第608条第1項が含意しているところを明文化するものであるが,賃借物は飽くまで他人の所有物であることから,賃借人が自ら修繕し得る要件については,契約に別段の定めがない限り,修繕の必要が生じた旨を賃貸人に通知し(民法第615条参照。),又は賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず,賃貸人が必要な修繕をしないことを要するとする一方で,急迫な事情がある場合には例外を許容することとしている。
なお,賃借人が必要な修繕をしたことにより民法第608条第1項の必要費償還請求権が生ずるかどうかは,専ら同項の要件を満たすかどうかによって決せられるため,当該修繕が607条の2の修繕権限に基づくものかどうかという問題とは切り離して判断されることを前提としている。

8 賃借物の一部滅失等による賃料の減額等(民法第611条関係)

(賃借物の一部滅失等による賃料の減額等)
第611条 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。
2 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は、契約の解除をすることができる。

(改正の趣旨)
611条第1項は,民法第611条第1項の規定を改め,賃借物の一部滅失の場合に限らず賃借物の一部の使用収益をすることができなくなった場合一般を対象として賃料の減額を認めるとともに,賃借人からの請求を待たずに当然に賃料が減額されることとするものである。賃料は,賃借物が賃借人の使用収益可能な状態に置かれたことの対価として日々発生するものであるから,賃借人が賃借物の一部の使用収益をすることができなくなった場合には,その対価としての賃料も当然にその部分の割合に応じて発生しないとの理解に基づくものである。
611条第2項は,旧611条第2項の規定を改め,賃借物の一部滅失の場合に限らず賃借物の一部の使用収益をすることができなくなった場合一般を対象として賃借人の解除権を認めるとともに,賃借人の過失によるものである場合でも賃借人の解除権を認めることとするものである。賃借物の一部の使用収益をすることができなくなったことによって賃借人が賃借をした目的を達することができない以上,それが一部滅失によるものかどうか,賃借人の過失によるものかどうかを問わず,賃借人による解除を認めるのが相当であると考えられるからである。賃貸人としては,賃借人に対する損害賠償請求等によって対処することになる。

(改正への対応)

  民法611条第1項は任意規定であることから、賃借物の一部滅失によるトラブルを避けるため、賃貸借契約書に下記の条項を設けることが望ましい。

(一部滅失等による賃料の減額等)
第○○ 条 本物件の一部が滅失その他の事由により使用できなくなった場合において、それが乙の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用不能の箇所に応じて下記の期間及び割合に応じて、減額されるものとし、下記の表記載の免責期間は、賃料の減額はなされないものとする。

9 転貸の効果(民法第613条関係)

(転貸の効果)
第613条 賃借人が適法に賃借物を転貸したときは、転借人は、賃貸人と賃借人との間の賃貸借に基づく賃借人の債務の範囲を限度として、賃貸人に対して転貸借に基づく債務を直接履行する義務を負う。この場合においては、賃料の前払をもって賃貸人に対抗することができない。
2 前項の規定は、賃貸人が賃借人に対してその権利を行使することを妨げない。
3 賃借人が適法に賃借物を転貸した場合には、賃貸人は、賃借人との間の賃貸借を合意により解除したことをもって転借人に対抗することができない。ただし、その解除の当時、賃貸人が賃借人の債務不履行による解除権を有していたときは、この限りでない。

(改正の趣旨)
613条第1項前段は,適法な転貸借がされた場合における転借人が賃貸人に対して直接負う義務の具体的な内容について定めるものであり,旧613条第1項前段の規律の内容を一般的な理解に基づいて明確にするものである。
613条第1項後段は,旧613条第1項後段の規律の内容を明確にするものであり,判例法理(大判昭和7年10月8日民集11巻1901頁)を明文化するものである。
613条第2項は,旧613条第2項の規律を維持するものである。
613条第3項は,適法な転貸借がされた後に原賃貸人と転貸人との間の賃貸借契約が合意解除された場合には,その合意解除の時点において債務不履行解除の要件を満たしていたときを除き,原賃貸人はその合意解除の効力を転借人に主張することができない旨を定めるものであり,判例法理(最判昭和62年3月24日判時1258号61頁,最判昭和38年2月21日民集17巻1号219頁等)を明文化するものである。

10 賃借物の全部滅失等による賃貸借の終了

(賃借物の全部滅失等による賃貸借の終了)
第616条の2 賃借物の全部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合には、賃貸借は、これによって終了する。

(改正の趣旨)
賃借物の全部滅失等により、賃借物の全部の使用収益をすることができなくなったことを賃貸借の終了事由とするものであり,判例法理(最判昭和32年12月3日民集11巻13号2018頁,最判昭和36年12月21日民集15巻12号3243頁等)を明文化するものである。

11 賃貸借終了後の収去義務及び原状回復義務(民法第616条、第598条関係)

(賃借人の原状回復義務)
第621条 賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

(使用貸借の規定の準用)
第622条 第597条第1項、第599条第1項及び第2項並びに第600条の規定は、賃貸借について準用する。

(期間満了等による使用貸借の終了)
第597条 当事者が使用貸借の期間を定めたときは、使用貸借は、その期間が満了することによって終了する。

(借主による収去等)
第599条 借主は、借用物を受け取った後にこれに附属させた物がある場合において、使用貸借が終了したときは、その附属させた物を収去する義務を負う。ただし、借用物から分離することができない物又は分離するのに過分の費用を要する物については、この限りでない。
2 借主は、借用物を受け取った後にこれに附属させた物を収去することができる。

(改正の趣旨)
本文(1)は,民法第616条(同法第598条の準用)の規定のうち収去義務及び収去権に関する使用貸借の規定を準用することを明文化するものである。
本文(2)は,民法第616条(同法第598条の準用)の規定のうち原状回復義務に関する規律の内容を明確にするものであり,賃借人の原状回復義務に関する一般的な理解を明文化するものである。このうち本文(2)の括弧書きは,いわゆる通常損耗(経年変化を含む。)の回復は原則として原状回復義務の内容に含まれないとする判例法理(最判平成17年12月16日集民218号1239頁)を明文化するものである。

12 賃貸借終了後の費用償還請求権・消滅時効(民法第600条関係)

(損害賠償及び費用の償還の請求権についての期間の制限)
第600条 契約の本旨に反する使用又は収益によって生じた損害の賠償及び借主が支出した費用の償還は、貸主が返還を受けた時から1年以内に請求しなければならない。
2 前項の損害賠償の請求権については、貸主が返還を受けた時から1年を経過するまでの間は、時効は、完成しない。

(改正の趣旨)
600条第1項は,民法第621条(同法第600条の準用)の規定のうち賃借人の用法違反による賃貸人の損害賠償請求権に関する期間制限(除斥期間と解されている。)の部分の内容を維持しつつ,同法第600条の「契約の本旨に反する」という表現を「契約の趣旨に反する」という表現に改めるものである。「本旨」という言葉は法令によっては「本質」といった意味で用いられることがあり,そのままでは賃借人による用法違反の態様等を限定する趣旨に誤読されるおそれがあるとの指摘があるため,そのような誤読を避けることを意図するものである。
600条第2項は,賃借人の用法違反による賃貸人の損害賠償請求権に関する消滅時効(民法第167条第1項)について新たな停止事由を定めるものである。この損害賠償請求権は,賃貸人が賃貸物の返還を受けた時から起算される1年の除斥期間(第1項)のほかに,賃借人が用法違反をした時から起算される10年の消滅時効(民法第167条第1項)にも服するとされており,長期にわたる賃貸借においては,賃貸人が賃借人の用法違反の事実を知らない間に消滅時効が進行し,賃貸人が賃貸物の返還を受けた時には既に消滅時効が完成しているといった事態が生じ得る。第2項は,このような事態に対処する趣旨のものである。

第3 保証債務

1 保証債務の付従性(民法第448条関係)

(保証人の負担と主たる債務の目的又は態様)
第448条 保証人の負担が債務の目的又は態様において主たる債務より重いときは、これを主たる債務の限度に減縮する。
2 主たる債務の目的又は態様が保証契約の締結後に加重されたときであっても、保証人の負担は加重されない。

(改正の趣旨)
448条第1項)は,民法第448条の解釈として,保証契約の締結後に主債務の目的又は態様が減縮された場合には,保証人の負担もそれに応じて減縮されるとされている(大連判明治37年12月13日民録10輯1591頁参照)ことから,これを明文化するものである。
448条第2項)は,保証契約の締結後に主債務の目的又は態様が加重された場合の処理について,一般的な理解を明文化するものである。

2 主たる債務者の有する抗弁

(1) 主たる債務者の有する抗弁
(主たる債務者について生じた事由の効力)
第457条 主たる債務者に対する履行の請求その他の事由による時効の完成猶予及び更新は、保証人に対しても、その効力を生ずる。
2 保証人は、主たる債務者が主張することができる抗弁をもって債権者に対抗することができる。
3 主たる債務者が債権者に対して相殺権、取消権又は解除権を有するときは、これらの権利の行使によって主たる債務者がその債務を免れるべき限度において、保証人は、債権者に対して債務の履行を拒むことができる。

(改正の趣旨)
主たる債務者が債権者に対して抗弁権を有している場合について,主たる債務者の相殺のみを定めている旧457条第2項を改め,類似の状況を規律する会社法第581条の表現を参考にして,規律の明確化を図るものである。
457条第2項は,主たる債務者が債権者に対して抗弁権を有している場合全般を対象として,一般的な理解(最判昭和40年9月21日民集19巻6号1542頁参照)を明文化するものであり,会社法第581条第1項に相当する。
457条第3項は、主たる債務者が債権者に対して相殺権を有する場合のほか,取消権又は解除権を有する場合に関する近時の一般的な理解を明文化するものであり,会社法第581条第2項に相当する。

3 保証人の求償権

(1) 委託を受けた保証人の求償権(民法第459条関係)

(委託を受けた保証人の求償権)
第459条 保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、主たる債務者に代わって弁済その他自己の財産をもって債務を消滅させる行為(以下「債務の消滅行為」という。)をしたときは、その保証人は、主たる債務者に対し、そのために支出した財産の額(その財産の額がその債務の消滅行為によって消滅した主たる債務の額を超える場合にあっては、その消滅した額)の求償権を有する。
2 第442条第2項の規定は、前項の場合について準用する。

(委託を受けた保証人が弁済期前に弁済等をした場合の求償権)
第459条の2 保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、主たる債務の弁済期前に債務の消滅行為をしたときは、その保証人は、主たる債務者に対し、主たる債務者がその当時利益を受けた限度において求償権を有する。この場合において、主たる債務者が債務の消滅行為の日以前に相殺の原因を有していたことを主張するときは、保証人は、債権者に対し、その相殺によって消滅すべきであった債務の履行を請求することができる。
2 前項の規定による求償は、主たる債務の弁済期以後の法定利息及びその弁済期以後に債務の消滅行為をしたとしても避けることができなかった費用その他の損害の賠償を包含する。
3 第1項の求償権は、主たる債務の弁済期以後でなければ、これを行使することができない。

(改正の趣旨)
   民法459条1項は、旧459条第1項が、委託を受けた保証人が求償できる場合について規定しているが、保証人が支出した財産の額と主債務者が消滅した額が一致していない場合の求償可能額が明らかでないという問題があったため、このような問題に対応するために求償権の基準となる額を明らかにするものである。
  459条第2項は、旧459条2項を維持するものである。
  459条の2第1項は,判例(大判大正3年6月13日民録20号476頁)は、主債務者の期限の利益を尊重し、主債務の弁済期までは求償できないものとしているため、この判例の考え方を明文化し、主債務者がその当時利益を受けた限度で求償権を認めるものである。
459条の第2項は、第1項と同様に主債務者の期限の利益を尊重する見地から,弁済期到来後に求償できる利息、費用及び損害について、?期限以後の法定利息?期限以後に履行したとしても避けることができなかった費用その他の損害に限定するものである。
459条の2第3項は,保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において,主たる債務の期限が到来する前に,弁済その他自己の財産をもって債務を消滅させるべき行為をしたときは,主たる債務者は,主たる債務の期限が到来した後に,債務が消滅した当時に利益を受けた限度で,同項による求償に応ずれば足りるものとしたものである。

(2) 委託を受けた保証人の事前の求償権(民法第460条関係)

(委託を受けた保証人の事前の求償権)
第460条 保証人は、主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、次に掲げるときは、主たる債務者に対して、あらかじめ、求償権を行使することができる。
一 主たる債務者が破産手続開始の決定を受け、かつ、債権者がその破産財団の配当に加入しないとき。
二 債務が弁済期にあるとき。ただし、保証契約の後に債権者が主たる債務者に許与した期限は、保証人に対抗することができない。
三 保証人が過失なく債権者に弁済をすべき旨の裁判の言渡しを受けたとき。

(改正の趣旨)
民法第460条第3号の事前求償権の発生事由(債務の弁済期が不確定で,かつ,その最長期をも確定することができない場合において,保証契約の後10年を経過したとき)には,そもそも主たる債務の額すら不明であって事前求償になじむ場面ではないという問題点が指摘されていることから,同号を削除するものである。
事前求償権として、保証人が過失無く債権者に弁済をすべき旨の裁判の言い渡しを受けた場合が追加された。

(3) 保証人の通知義務

(通知を怠った保証人の求償の制限等)
第463条 保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、主たる債務者にあらかじめ通知しないで債務の消滅行為をしたときは、主たる債務者は、債権者に対抗することができた事由をもってその保証人に対抗することができる。この場合において、相殺をもってその保証人に対抗したときは、その保証人は、債権者に対し、相殺によって消滅すべきであった債務の履行を請求することができる。
2 保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、主たる債務者が債務の消滅行為をしたことを保証人に通知することを怠ったため、その保証人が善意で債務の消滅行為をしたときは、その保証人は、その債務の消滅行為を有効であったものとみなすことができる。
3 保証人が債務の消滅行為をした後に主たる債務者が債務の消滅行為をした場合においては、保証人が主たる債務者の意思に反して保証をしたときのほか、保証人が債務の消滅行為をしたことを主たる債務者に通知することを怠ったため、主たる債務者が善意で債務の消滅行為をしたときも、主たる債務者は、その債務の消滅行為を有効であったものとみなすことができる。

(改正の趣旨)
463条第1項は,委託を受けた保証人と主たる債務者との間の事後の通知義務に関する規律として,先に弁済等をした保証人が事前の通知を怠たった場合には,主たる債務者は,債権者に対抗できる事由(相殺や消滅時効等)の対抗を受けることを定めたものである。
463条第2項は,委託を受けた保証人がある場合に,先に弁済等をした保証人が事後の通知を怠っていたために,主たる債務者が債務の消滅行為を行ったときは、主たる債務者は,自己の弁済等を有効とみなすことができるものとしている。
463条第3項は,主たる債務者の委託を受けて保証をした場合の主たる債務者の事後の通知義務に関して,旧443条第2項の規律を維持するものである。

4 連帯保証人に対する履行の請求の効力(民法第458条関係)

(連帯保証人について生じた事由の効力)
第458条 第438条、第439条第1項、第440条及び第441条の規定は、主たる債務者と連帯して債務を負担する保証人について生じた事由について準用する。

(連帯債務者の一人との間の更改)
第438条 連帯債務者の一人と債権者との間に更改があったときは、債権は、全ての連帯債務者の利益のために消滅する。

(連帯債務者の一人による相殺等)
第439条 連帯債務者の一人が債権者に対して債権を有する場合において、その連帯債務者が相殺を援用したときは、債権は、全ての連帯債務者の利益のために消滅する。

(連帯債務者の一人との間の混同)
第440条 連帯債務者の一人と債権者との間に混同があったときは、その連帯債務者は、弁済をしたものとみなす。

(相対的効力の原則)
第441条 第438条、第439条第1項及び前条に規定する場合を除き、連帯債務者の一人について生じた事由は、他の連帯債務者に対してその効力を生じない。ただし、債権者及び他の連帯債務者の一人が別段の意思を表示したときは、当該他の連帯債務者に対する効力は、その意思に従う。

(改正の趣旨)
民法第458条は,連帯債務者の一人について生じた事由の効力が他の連帯債務者にも及ぶかどうかに関する同法第434条から第440条までの規定を連帯保証に準用しているが,主債務者について生じた事由の効力に関しては,保証債務の付従性によって保証人にも及ぶことから,同法第458条の規定は,専ら連帯保証人について生じた事由の効力が主債務者にも及ぶかどうか明確にするために、連帯債務者の一人に生じた事由の効力の規定を準用することとしたのである。

5 根保証

(1) 極度額(民法第465条の2関係)

(個人根保証契約の保証人の責任等)
第465条の2 一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(以下「根保証契約」という。)であって保証人が法人でないもの(以下「個人根保証契約」という。)の保証人は、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、その全部に係る極度額を限度として、その履行をする責任を負う。
2 個人根保証契約は、前項に規定する極度額を定めなければ、その効力を生じない。
3 第446条第2項及び第3項の規定は、個人根保証契約における第一項に規定する極度額の定めについて準用する。

(保証人の責任等)
第446条 保証人は、主たる債務者がその債務を履行しないときに、その履行をする責任を負う。
2 保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない。
3 保証契約がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その保証契約は、書面によってされたものとみなして、前項の規定を適用する。

(改正の趣旨)
465条の2第1項は,現在は貸金等根保証契約のみを対象としている旧465条の2(極度額)と旧465条の4(元本確定事由)の規律について,その適用範囲を拡大し,主たる債務の範囲に貸金等債務が含まれないものにまで及ぼすものである。根保証契約を締結する個人にとって,その責任の上限を予測可能なものとすること(極度額)や,契約締結後に著しい事情変更に該当すると考えられる定型的な事由が生じた場合に,その責任の拡大を防止すべきこと(元本確定事由)は,貸金等債務が含まれない根保証にも一般に当てはまる要請であると考えられるからです。

(改正に対する対応)
  国土交通省が、連帯保証人の責任の範囲について調査した結果、裁判所の判決において、民間賃貸住宅における借主の未払い家賃等を連帯保証人の負担として確定した額は、平均で家賃の約13.2 か月分であった。
  裁判所の判決における連帯保証人の負担額(負担総額/月額家賃等)
平均値13.2ヶ月分、最小値2ヶ月分、中央値12ヶ月分、最大値33ヶ月分
※負担総額には、未払い家賃のほか、原状回復費用、損害賠償費等が含まれます。
 以上を踏まえて、極度額が高額になる場合には、暴利行為または消費者契約法に抵触する危険を考慮して、極度額の範囲を決定することが必要であると考えられます。

(2) 元本の確定事由(民法第465条の4関係)

(個人根保証契約の元本の確定事由)
第465条の4 次に掲げる場合には、個人根保証契約における主たる債務の元本は、確定する。ただし、第一号に掲げる場合にあっては、強制執行又は担保権の実行の手続の開始があったときに限る。
一 債権者が、保証人の財産について、金銭の支払を目的とする債権についての強制執行又は担保権の実行を申し立てたとき。
二 保証人が破産手続開始の決定を受けたとき。
三 主たる債務者又は保証人が死亡したとき。
2 前項に規定する場合のほか、個人貸金等根保証契約における主たる債務の元本は、次に掲げる場合にも確定する。ただし、第一号に掲げる場合にあっては、強制執行又は担保権の実行の手続の開始があったときに限る。
一 債権者が、主たる債務者の財産について、金銭の支払を目的とする債権についての強制執行又は担保権の実行を申し立てたとき。
二 主たる債務者が破産手続開始の決定を受けたとき。

(改正の趣旨)
  個人根保証契約を無制限に適用するときは借地借家法の適用のある契約の場合等不都合な場合があることが指摘されたことから、強制執行等や破産手続きの開始による元本の確定事由は貸し金債務の場合に限定したものである。

(3) 求償権についての保証契約(民法第465条の5関係)

(保証人が法人である根保証契約の求償権)
第465条の5 保証人が法人である根保証契約において、第465条の2第1項に規定する極度額の定めがないときは、その根保証契約の保証人の主たる債務者に対する求償権に係る債務を主たる債務とする保証契約は、その効力を生じない。
2 保証人が法人である根保証契約であってその主たる債務の範囲に貸金等債務が含まれるものにおいて、元本確定期日の定めがないとき、又は元本確定期日の定め若しくはその変更が第465条の3第1項若しくは第3項の規定を適用するとすればその効力を生じないものであるときは、その根保証契約の保証人の主たる債務者に対する求償権に係る債務を主たる債務とする保証契約は、その効力を生じない。主たる債務の範囲にその求償権に係る債務が含まれる根保証契約も、同様とする。
3 前2項の規定は、求償権に係る債務を主たる債務とする保証契約又は主たる債務の範囲に求償権に係る債務が含まれる根保証契約の保証人が法人である場合には、適用しない。

(改正の趣旨)
本文(1)と同様である。

(4) 契約締結時の情報提供義務

(契約締結時の情報の提供義務)
第465条の10 主たる債務者は、事業のために負担する債務を主たる債務とする保証又は主たる債務の範囲に事業のために負担する債務が含まれる根保証の委託をするときは、委託を受ける者に対し、次に掲げる事項に関する情報を提供しなければならない。
一 財産及び収支の状況
二 主たる債務以外に負担している債務の有無並びにその額及び履行状況
三 主たる債務の担保として他に提供し、又は提供しようとするものがあるときは、その旨及びその内容
2 主たる債務者が前項各号に掲げる事項に関して情報を提供せず、又は事実と異なる情報を提供したために委託を受けた者がその事項について誤認をし、それによって保証契約の申込み又はその承諾の意思表示をした場合において、主たる債務者がその事項に関して情報を提供せず又は事実と異なる情報を提供したことを債権者が知り又は知ることができたときは、保証人は、保証契約を取り消すことができる。
3 前2項の規定は、保証をする者が法人である場合には、適用しない。

(改正の趣旨)
契約締結時の主たる債務者の説明義務・情報提供義務に関する規定である。主たる債務者の信用状況に関しては,保証人が主たる債務者の信用状況を把握しているとは限らず,保証契約締結時には、保証人保護のため主たる債務者の財産状態(資産,収入等)や,主たる債務者が債務を履行することができなくなるおそれに関する事実(弁済計画等)を説明の対象とする必要があることから、説明すべき要件とその具体的内容等について定めたものである。
すなわち、保証契約の締結にあたり主債務についての信用状況の情報を保証人に付与するために,主債務者は、保証人に保証を委託するにあたり自らの財産及び収支の状況等の信用状況を保証人に情報提供することを義務付ける等の方策について定めたものである。本文アは主たる債務者の財産及び収支の状況などに関して説明すべき要件とその具体的内容等について定め、本文イは、主たる債務者が情報提供義務を怠った場合や虚偽の説明を行った場合にその取消権を定め、本文ウは、個人保証に限り情報提供義務を定め、法人の保証は除外したものである。

(5) 保証人の請求による主たる債務の履行状況に関する情報提供義務

(主たる債務の履行状況に関する情報の提供義務) 第458条の2 保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、保証人の請求があったときは、債権者は、保証人に対し、遅滞なく、主たる債務の元本及び主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのものについての不履行の有無並びにこれらの残額及びそのうち弁済期が到来しているものの額に関する情報を提供しなければならない。

(改正の趣旨)
主債務についての期限の利益の喪失を回避する機会を保証人に付与するために,主債務者の返済状況を保証人から請求があったときは、保証人に通知することを債権者に義務付けたものである。

(6) 主たる債務者が期限の利益を喪失した場合の情報提供義務

(主たる債務者が期限の利益を喪失した場合における情報の提供義務)
第458条の3 主たる債務者が期限の利益を有する場合において、その利益を喪失したときは、債権者は、保証人に対し、その利益の喪失を知った時から2箇月以内に、その旨を通知しなければならない。
2 前項の期間内に同項の通知をしなかったときは、債権者は、保証人に対し、主たる債務者が期限の利益を喪失した時から同項の通知を現にするまでに生じた遅延損害金(期限の利益を喪失しなかったとしても生ずべきものを除く。)に係る保証債務の履行を請求することができない。
3 前二項の規定は、保証人が法人である場合には、適用しない。

(改正の趣旨)
主債務についての期限の利益の喪失を喪失したことにより、遅延損害金等の過大な負担を保証人に負担させることを回避するために、期限の利益の喪失した場合の主たる債務者の保証人への通知義務を定めたものである。但し、本文ウは、個人保証の場合に限定し、法人による保証については情報提供義務を除外している。

第4 消滅時効

(債権等の消滅時効)
第166条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。
2 債権又は所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から20年間行使しないときは、時効によって消滅する。
3 前2項の規定は、始期付権利又は停止条件付権利の目的物を占有する第三者のために、その占有の開始の時から取得時効が進行することを妨げない。ただし、権利者は、その時効を更新するため、いつでも占有者の承認を求めることができる。

(改正の趣旨)
1 職業別の短期消滅時効の廃止
民法第170条から第174条までを削除するものとする。
職業別の細かい区分に基づき3年,2年又は1年という時効期間を定めている短期消滅時効(民法第170条から第174条まで)を廃止するものである。この制度に対しては,対象となる債権の選別を合理的に説明することが困難である上,実務的にもどの区分の時効期間が適用されるのかをめぐって煩雑な判断を強いられている等の問題点が指摘されていることを考慮したものである。
2 5年の消滅時効の新設
第166条1項2号は「権利を行使することができる時」から10年間という現行法の時効期間と起算点の枠組みを維持した上で,これに加えて同項1号は「債権者が債権発生の原因及び債務者を知った時」等の起算点から5年間という時効期間を新たに設け,いずれかの時効期間が満了した時に消滅時効が完成するとする考え方である。契約に基づく一般的な債権については,その発生時に債権者が債権発生の原因及び債務者を認識しているのが通常であるため,5年間という時効期間が適用され,それによって時効期間の大幅な長期化を回避することが想定されている。

(人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効)
第167条 人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第1項第2号の規定の適用については、同号中「10年間」とあるのは、「20年間」とする。

(改正の趣旨)
安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求権のように,不法行為構成を採用した場合の時効期間が短いために,債務不履行構成を採用することに意義があるとされているものについては,原則的な時効期間の定め方とは別に,生命又は身体に生じた損害に係る損害賠償請求権の消滅時効について特則を設けることによって,現在よりも時効期間が短くなるという事態の回避を図るものである。

第5 経過規定

1  施行期日

平成32年4月1日より施行
但し、定型約款については、施行日前(平成32年(2020年)3月31日まで)に反対の意思表示をすれば,改正後の民法は適用されない。
また、施行日前の平成32年3月1日から公正証書の作成を可能である。

2 経過措置

(1) 賃貸借契約

(贈与等に関する経過措置)
第34条 施行日前に贈与、売買、消費貸借(旧法第589条に規定する消費貸借の予約を含む。)、使用貸借、賃貸借、雇用、請負、委任、寄託又は組合の各契約が締結された場合におけるこれらの契約及びこれらの契約に付随する買戻しその他の特約については、なお従前の例による。
2 前項の規定にかかわらず、新法第604条第2項の規定は、施行日前に賃貸借契約が締結された場合において施行日以後にその契約の更新に係る合意がされるときにも適用する。
3 第1項の規定にかかわらず、新法第605条の四の規定は、施行日前に不動産の賃貸借契約が締結された場合において施行日以後にその不動産の占有を第三者が妨害し、又はその不動産を第三者が占有しているときにも適用する。

(2) 保証債務

(保証債務に関する経過措置)
附則第21条 施行日前に締結された保証契約に係る保証債務については、なお従前の例による。
2 保証人になろうとする者は、施行日前においても、新法第465条の6第1項(新法第465条の8第1項において準用する場合を含む。)の公正証書の作成を嘱託することができる。
3 公証人は、前項の規定による公正証書の作成の嘱託があった場合には、施行日前においても、新法第465条の6第2項及び第465条の7(これらの規定を新法第465条の8第1項において準用する場合を含む。)の規定の例により、その作成をすることができる。

(3) 賃貸借契約と保証契約の関係

出典:法務省ホームページ(http://www.moj.go.jp)

? 原則
原則として、施行日より前に締結された契約については、改正前の民法が適用され、施行日後に締結された契約については、改正後の新しい民法が適用される。

? 事例検討

(事例1)

a 施行日前の2019年4月、賃貸期間を2年間として、アパートを借りた。これに併せて、賃借人の親族が、賃借人が賃貸借契約に基づいて負う債務を保証した。
b 施行日後の2021年3月、賃貸期間満了により賃貸借契約が終了した、賃料の滞納と敷金の返還をめぐってトラブルになった。

(法適用の内容)
 施工日より前に賃貸借契約と保証契約の双方が締結されているので、いずれの契約についても改正前の民法が適用される。敷金について新たに設けられた民法622の2などの規定は適用されないし、保証契約についても、極度額の定めがなくても保証人は保証債務を負担する。

(事例2)

a 施行日前の2019年4月、賃貸期間を2年間として、アパートを借りた。これに併せて、賃借人の親族が、賃借人が賃貸借契約に基づいて負う債務を保証した。
b 施行日後の2021年3月、賃貸期間満了時、賃貸人と賃借人及び保証人は合意更新を行った。

(法適用の内容)
施行日後に当事者が合意によって、賃貸借契約や保証契約を更新したときは、当事者はその契約に新法が適用されることを予測していると考えられるので、施行日後に新たに契約が締結された場合と同様に、賃貸借契約及び保証契約はいずれも新法が適用される。
したがって、保証契約については、更新契約時に極度額の定めが必要となる。

(事例3)

a 施行日前の2019年4月、賃貸期間を2年間として、アパートを借りた。これに併せて、賃借人の親族が、賃借人が賃貸借契約に基づいて負う債務を保証した。
b 施行日後の2021年3月、賃貸期間満了時、賃貸人と賃借人が合意更新を行い、保証人は更新契約を行わなかった。

(法適用の内容)
施行日後に当事者が合意によって、賃貸借契約や保証契約を更新したときは、当事者はその契約に新法が適用されることを予測していると考えられるので、施行日後に新たに契約が締結された場合と同様に、賃貸借契約は新法が適用される。
しかし、施行日前に締結された保証契約が賃貸借契約の更新後に発生する債務も保証する趣旨で蟻、施行日後も合意更新がされることなく当初の保証契約が継続している場合には、当該保証契約については、施行日後も改正前の民法が適用される。
したがって、保証契約については、極度額の定めがなくても、保証人は賃貸人に対し保証責任を負担することとなる。

※事例(3)の図

第6 結語

以上のとおり、今回の民法改正により、賃貸借に関する改正点も多数存在しておりますので、改正法施行まで間近に迫っている現在において、再度、改正法への対応が十分であるのかご確認をお願い申し上げます。

以上

2019.12/17

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亀井英樹(かめいひでき)
東京弁護士会所属(弁護士)
昭和60年中央大学法学部卒業。平成4年司法試験合格。
平成7年4月東京弁護士会弁護士登録、ことぶき法律事務所入所。
詳しいプロフィールはこちら ≫

【著 作 等】
「新民事訴訟法」(新日本法規出版)共著
「クレームトラブル対処法」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「管理実務相談事例集」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「賃貸住宅の紛争予防ガイダンス」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修

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