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弁護士・亀井英樹先生の法律ノウハウ

家賃債務保証に関する判例について

【1】はじめに
家賃債務保証会社は、近年急速に拡大しており、賃貸住宅居住安定法案にあるとおり、法律による規制の対象とされる可能性も生じてきております。現実にも、これまでの法律の対象とされていなかった分野であるため、様々な契約形態が存在し、そのため、求償債権の取立方法だけでなく、保証料や違約金等の支払をめぐってもトラブルが生じてきております。
最近名古屋地方裁判所において、家賃債務保証に関する新たな判決が出されましたので、家賃債務保証契約の内容の適正を判断する上で、一つの指針になると思いますので、その内容を紹介したいと思います。

【2】事案の概要

(1)賃貸借契約

原告は、株式会社Bから、平成19年11月7日、以下の約定等で、名古屋市(以下略)所在の△△○階○号室(以下「本件建物」という)を賃借し((以下「本件賃貸借契約」という)、本件建物の引渡しを受けた。

  1. I.期間 平成19年11月7日から平成21年11月6日まで
  2. II.賃料及び共益費(以下「賃料等」という)1か月7万8000円(賃料7万円、共益費8000円)支払期日 毎月末日限り翌月分を支払う。
  3. III.原告が賃料等の一部でも支払を遅延した場合、原告は遅延した金額とこれに支払日の翌日から支払をなした日まで年14%(1年を365日とした日割計算)の割合による遅延損害金を付してBに支払う。

(2)家賃債務保証委託契約

原告及び被告は、平成19年11月7日、以下の約定を含む「住み替えかんたんシステム」の契約(甲3。以下、この契約全体を「本件住み替えかんたん契約」という) を締結して、原告は被告に対し、本件賃貸借契約に基づく原告のBに対する債務の連帯保証を委託し(以下「本件保証委託契約」という)、被告はBに対し、同日、本件賃貸借契約に基づく原告のBに対する債務を連帯保証した(以下「本件連帯保証契約」という)。

  1. I.期間 平成19年11月7日から平成20年11月6日まで
  2. II.初回保証委託料4万500円
  3. III.原告は被告に対し、本件保証委託契約締結後1年経過ごとに1万円の更新保証委託料(以下「経過更新料」という)を支払う。
  4. IV.原告が賃料の支払を1回でも滞納した場合、本件保証委託契約は、B及び原告の承諾の有無にかかわらず無催告で自動的に債務不履行解除された上で、自動的に同一条件で更新される(以下「解除更新特約」といい、この更新を「解除更新」という)。
  5. V.解除更新の場合、原告は被告に対し、その都度1万円の更新保証委託料(以下「解除更新料」という)を支払う(以下「解除更新料特約」という)。
  6. VI.被告は、原告が2か月分以上賃料の支払を滞納したとき又は原告が2か月以上更新保証委託料の支払を滞納した場合は、B及び原告の意向にかかわらず、被告単独にて本件賃貸借契約を解除することができる(以下「単独解除特約」という)。
  7. VII.B及び原告は、前記?の場合、被告がB及び原告の意向にかかわらず本件賃貸借契約についての契約解除権を行使することに異議を述べない。
  8. VIII.原告が本件賃貸借契約に基づき負担する債務の履行の全部又は一部を遅滞したため、被告がBから本件連帯保証契約に基づく債務(以下「本件連帯保証債務」という)の履行を求められたときは、被告は原告に対して民法所定の事前の通知をすることなく、本件連帯保証債務の履行(代位弁済)をすることができる。
  9. IX.被告が本件連帯保証債務の履行をしたときは、原告は被告に対し、その弁済額、弁済に要した費用その他被告が負担した費用の全額を速やかに償還する。
  10. X.被告は、本件賃貸借契約が解除その他の事情によって消滅・終了したときは、Bに対し、被告の費用負担をもって速やかに原告を本件建物から退去させて建物を明け渡させるように努力する。
  11. XI.原告は被告に対し、被告が前記?等に基づき本件建物の明渡し手続をとるために必要な限度において、ドア施錠の解除及び取替並びに本件建物内への入室・家財道具等の動産類の搬出・保管を行うことを予め許諾する。
  12. XII.契約期間満了1か月前までに、B又は被告からの書面による解約の申出がない場合には、本件住み替えかんたん契約は当然に1年間更新され、それ以降も同様とする。

(3)保証料の支払い

原告は、Bないし仲介業者に対し、平成19年11月2日ころまでに、本件賃貸借契約について11月分の賃料5万6000円及び共益費6400 円、家財保険料2 万1000円、室内殺菌消毒・消臭セット代2万1000円、安心入居サポート代1 万5750円、事務手数料3万1500円、本件保証委託契約の初回保証委託料4万500円 の合計19万2150円を支払った。


(4)原告の請求の内容

  1. I.解除更新料の返還請求
    原告は被告に対し、平成20年中に解除更新料合計10万円を支払ったため、消費者契約法9条1号及び10条に反するとして、その返還を求めた。
  2. II.慰謝料請求

    被告は原告に対し、原告の無知及び窮迫に乗じ、法律上の原因がないことを知りながら、解除更新料等の徴収に根拠があるかのように装い、また、被告が正当に原告に退去を求めることができるかのように装って、原告に解除更新料10 万円等の理由のない支払をさせ、さらに毎月の支払期日前後に、約5分間に10 回以上の不在着信を残すなどの原告への執拗な請求や退去の勧告等を何度も行った。原告は、被告の前記カの行為により、被告の請求や退去の勧告等が正当なものだと誤信して、幼い子をかかえながら罪の意識に苛まれ、経済的に苦しい中で、根拠のない部分を含め精一杯の支払をし、被告の攻撃的な電話による督促等に悩まされ、睡眠障害やうつ病に陥り、その結果、生活保護を受けざるを得なくなるなど、多大な精神的苦痛を被ったため、慰謝料及び弁護士費用として125万円の支払を求めた。

  3. III.入金履歴開示費用の返還
    原告は被告に対し、平成21年4月ころ、本件保証委託契約に関する原告から被告への入金履歴の開示を請求したところ、本件保証委託契約には開示手数料の規定はないのに、被告は開示手数料2100円を支払わなければ開示しないとして開示を拒絶した。さらに原告は、被告に対し、同年5月30日到達の内容証明郵便で入金履歴の開示を請求したが、被告が同様の理由で開示を拒絶したため、2150円( 50円は過振込)を振り込んで開示を請求した。被告の拒絶行為は、本件保証委託契約の受任者の義務に反するものであり、原告はこれにより、前記ケの内容証明郵便の代金1470円並びに振込金2150円及びその手数料105円(合計3725円)の損害を被ったため、その損害の賠償を求めた。

【3】裁判所の判断

平成22年度税制改正において、特殊支配同族会社における業務主宰役員給与の損金不算入制度が廃止されましたが、個人事業主との課税の不均衡を是正し、「二重控除」の問題を解消するために平成24年度税制改正大綱で給与所得控除額が見直される予定です。

(1)解除更新料の返還請求について

解除更新特約は、原告が賃料の支払を1回でも滞納した場合、本件保証委託契約が、 B及び原告の承諾の有無にかかわらず無催告で自動的に債務不履行解除された上で、 自動的に同一条件で更新されるというものである。しかし、本件保証委託契約については、「お家賃の引き落としが間に合わなかった場合にオーナー様へお家賃をお立て替えするサービスです」とされ、初回保証委託料が4万500円とされ(前記前提事実のとおり、原告は被告にこれを支払っている)、契約締結後1年経過ごとに、1万円の経過更新料を支払うこととされているもので、継続的契約である本件賃貸借契約の借主(原告)の債務を保証するものである。それにもかかわらず、上記のように原告が賃料の支払を1回滞納しただけで、B及び原告の承諾の有無にかかわらず無催告で自動的に債務不履行解除されるというのは、原告(委託者)が初回保証委託料4万500円を支払って、被告(受託者)に対する債務を履行しているのに、被告が自ら受託した保証債務を履行する前に、自動的に債務不履行解除されることになるのであって、明らかに契約の趣旨に反するものであり(またこの時点において、被告との関係で「債務不履行」というのも虚偽の論理である)、その場合自動的に同一条件で更新されるとされてはいるが、原告はその都度1万円の解除更新料を支払わなければならないとされているものであるから、解除更新特約及び解除更新料特約は、消費者の権利を制限しかつ消費者の義務を加重するものであるし、信義誠実の原則(民法1条2項)に反して消費者の利益を一方的に害するものであって、消費者契約法10条により、無効というべきであるとして、解除更新料として実際に支払った7万円の返還を命じた。

(2)慰謝料請求について

被告は、消費者契約法10条により無効であることを知りながら、原告に解除更新特約及び解除更新料特約を含んだ本件住み替えかんたん契約を締結させて、解除更新料合計7万円を支払わせ、これに加えて、原告に年14.6%の割合による遅延損害金を支払わせて自らこれを取得し、さらには不明瞭な処理を行い、Bへの家賃等の振込手数料210円のほかに、「振込手数料」として840円、「その他・別途振込手数料」として3496円などと、根拠の明らかでない金銭も含め原告に過分な支払をさせていたこと、原告が何回か支払を遅滞した後は、原告とBとの間の信頼関係が破壊されたと認められる状況には至っていないにもかかわらず、本件建物から出て行くように働きかけていたこと、被告は、資本金3億3200万円の賃貸住宅、店舗及びオフィス等の入居者の保証人受託業務等を目的とする株式会社で、本件住み替えかんたん契約の契約書や、「ご入金明細書」は被告の上記業務についての一連のシステムの中で作成されたものであり、このような不当な請求や退去の勧告を組織的に行っていたことが認められ、社会通念上許容される限度を超えたもので、不法行為に該当するものというべきである。また、上記証拠等によれば、これらの被告の行為によって、原告は被告の請求する金額(ただし、上記のとおり過大ないし根拠の不明確なものを含む)を支払えないことや、本件建物からの退去の勧告に精神的に圧力を感じ、心身の不調をきたすなど、 少なからぬ精神的苦痛を被ったことが認められる。以上によれば、被告の不法行為により、原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料としては、20万円が相当であり、弁護士費用としては、5万円が相当であるとして、その支払いを命じた。

(3)入金履歴開示費用の返還について

被告は、本件保証委託契約の受任者として、委任者である原告から請求があるときは、委任事務の処理の状況を報告する義務があり(民法645条)、本件保証委託契約は有償で、原告は初回保証委託料4万500円を被告に支払っており、種々の詳細な規定をおいている中で、開示に関する手数料については規定していないのであるから、原告の請求が濫用にわたるような特段の事情がある場合を除き、被告は原告の請求に対し、手数料なしに入金履歴等の開示をする義務があるというべきである。
ところが、被告は手数料2100円を要求して原告の請求を拒み、しかも、原告が手数料を振り込んだ後、「ご入金明細書」によりこれを開示したものの、後にその正確性に疑問のある履歴しか開示しなかったのであって、これは被告の債務不履行であり、そのため原告は、支出せざるを得なかった内容証明郵便の代金1470円並びに振込金2150円のうち被告が開示手数料として要求した2100円及びその振込手数料105円(合計3675円)の損害を被ったことが認められるとして、その損害の賠償を命じた。

 

【4】判例に対する評価

今回の判例は、家賃債務保証委託契約の内容について判断したもので有り、今後、ますます増加することが予想される家賃債務保証契約に関するトラブルにおいて、参考になるものと考えられます。特に、解除更新特約のような極めて暴利性の高い特約については、本判例において示されたとおり、無効となる可能性が高いものであって、家賃債務保証契約に携わる場合には、そのような特約が存在していないか注意すべきであると思います。
また、保証会社の社員が無効な特約を理由に過大な要求を賃借人に対して行った場合には慰謝料の支払義務が発生する点も十分に留意すべきであると思います。
さらに、本判決では、保証会社に入金履歴の開示義務を認めた点も着目すべきであると思います。

2012.05/15

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亀井英樹(かめいひでき)
東京弁護士会所属(弁護士)
昭和60年中央大学法学部卒業。平成4年司法試験合格。
平成7年4月東京弁護士会弁護士登録、ことぶき法律事務所入所。
詳しいプロフィールはこちら ≫

【著 作 等】
「新民事訴訟法」(新日本法規出版)共著
「クレームトラブル対処法」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「管理実務相談事例集」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「賃貸住宅の紛争予防ガイダンス」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修