大家さん、管理会社様の賃貸不動産経営支援サイトREPROS(リプロス)

トップページ ≫ ノウハウ ≫  弁護士・亀井英樹先生の法律ノウハウ ≫ 消費者集団訴訟制度について

弁護士・亀井英樹先生の法律ノウハウ

消費者集団訴訟制度について

出典:消費者庁ホームページ
http://www.caa.go.jp/planning/index14.html


1 消費者集団訴訟制度の設立
「消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律(消費者裁判手続特例法)」が、平成25年12月4日に参議院本会議において全会一致で可決され成立し、同年12 月11 日に法律第96 号として公布されました。
この法律は同種の被害が拡散的に多発するという消費者被害の特性に鑑み、消費者被害の集団的な回復を図るための二段階型の訴訟制度を設けるものです。本制度を活用することにより、消費者の財産的被害を適切に回復し、消費者の利益の擁護を図るだけではなく、消費の活性化、健全な事業者の発展や公正な競争をもたらすことを期待して創設されました。
消費者集団訴訟制度は、公布から3年以内に施行されますので、今から契約内容の訂正等を含めて今から準備しておくことが必要です。

2 消費者団体訴訟制度の内容

  1. 対象となる請求(3条1項)
    消費者団体制度の対象となる請求は次の請求に限られています。
    1. (1)契約上の債務の履行の請求
    2. (2)不当利得にかかる請求
    3. (3)契約上の債務の不履行による損害賠償の請求
    4. (4)瑕疵担保責任に基づく損害賠償の請求
    5. (5)不法行為に基づく損害賠償の請求
  2. 対象外の損害(3条2項)
    次の損害は上記の請求の対象外となります
    1. (1)いわゆる拡大損害
      消費者契約の目的となるもの以外の財産が滅失・損傷したことによる損害
    2. (2)逸失利益
      消費者契約の目的物の提供があれば得るはずであった利益を喪失したことによる損害。
    3. (3)人身損害
      人の生命または身体を害されたことによる損害
    4. (4)慰謝料
      精神上の苦痛を受けたことによる損害
  3. 被告となる者
    本制度において被告となる者は次のとおりです。
    1. (1)消費者契約の相手方である事業者
    2. (2)不法行為に基づく損害賠償請求における、債務の履行をする事業者、勧誘をする・させる・助長する事業者
      被告の範囲の拡大から、今後は不動産の仲介業者等の契約の斡旋をした者も被告となる可能性があります。
  4. 手続きの流れ
    本制度は、2段階の訴訟制度を予定しており、1段階目では、特定の適格消費者団体から特定の事業者に対して、当該事業者が相当多数の消費者に対して、これらの消費者に共通する事実及び法律上の原因に基づき金銭支払う義務を負うべきことを確認する共通義務確認訴訟を提起することが定められています。
    次に、共通義務確認訴訟の結果、当該事業者について消費者に対する共通義務があることが認められると、2段階目で、個別の消費者の債権を確定するための簡易確定手続きが設けられています。
    したがって、これまでの適格消費者団体による差止請求訴訟は第1段階の共通義務確認訴訟に類似しておりましたが、本制度が施行されると、2段階目の手続きにより、事業者は債権を届け出た消費者に対して、裁判所が確定した債権額について債務の弁済手続きを行わなければならないという重大な負担を負うこととなります。

3 1段階目の手続(共通義務確認訴訟)

  1. 管轄(6条)
    共通義務確認訴訟の管轄は次のとおり認められています。
    1. (1)被告の本店所在地の管轄裁判所
    2. (2)被告の事務所、営業所の所在地の管轄裁判所
    3. (3)不法行為があった地の管轄裁判所
    4. (4)義務履行地の管轄裁判所(債権者である消費者の住所地等)
    5. (5)(1)から(4)の所在地を管轄する高等裁判所の所在地の管轄裁判所等(請求権の届出をすることが見込まれる消費者が一時しく多数である場合等)
  2. 移送・併合(6条、7条)
    次の場合には、複数の共通義務確認訴訟について移送・併合が認められています。
    1. (1)同一の共通義務確認訴訟承継人は移送・併合して審理する。
    2. (2)同種の共通義務確認訴訟は、移送・併合して審理することができる。
  3. 個別訴訟の中止(62条)
    共通義務確認訴訟と、その共通義務に関連する請求権にかかる個別の訴訟とが同時に係属した場合には、裁判所は個別訴訟を中止することができる。
  4. 和解(10条)
    共通義務があることを認める旨の訴訟上の和解は二段階目の手続きの開始原因となるとされています。

4 2段階目の手続(簡易確定手続)

  1. 申立期間
    適格消費者団体かは、共通義務確認訴訟における判決の確定等の日から原則として1カ月以内に簡易確定手続きを申し立てることができる。
  2. 消費者加入のための制度
    簡易確定手続きに消費者の加入が促進されるために次のような手続が定められています。
    1. (1)裁判所の公告
      特定適格消費者団体は、対象債権を有する消費者に対し、書面または電磁的方法により個別に通知する義務があります。
    2. (2)特定適格消費者団体の通知・公告義務
      1. 特定適格消費者団体は、対象債権を有する消費者に対し、書面または電磁的方法により個別に通知する義務があります。
      2. 特定適格消費者団体は、相当な方法(インターネット等も可)により公告する義務があります。
      3. 通知・公告費用は特定適格消費者団体の負担となります。
    3. (3)事業者の公表義務
      1. 事業者は、裁判所の公告事項について公表義務が生じます(インターネット等も可)。
      2. 事業者は、裁判所に対して、対象消費者の情報が記載された文書の開示義務を負います(但し、不相当な費用または時間を要する場合を除く。)。そして、徳的適格消費者団体の申立により、裁判所が事業者に対して当該文書の開示を命令することができます。
    4. (4)消費者庁の公表
      消費者庁は、確定判決等の概要をインターネット等で公表します。

5 仮差押えの制度

特定適格消費者団体は、仮差押命令の申立が次のとおりできます。

  1. 被保全権利の疎明の内容
    被保全権利の疎明の内容としては、対象債権・対象消費者の範囲、対象債権の総額が疎明の対象となります。
  2. 保全命令手続きにおける訴訟要件
    通常の訴訟要件のほかに、共通義務確認の訴えを提起できる事案であることが用件とされています。
  3. その他の要件
    1. 保全の必要性として、財産の隠匿・散逸等のおそれのあることを疎明する必要があります。
    2. 仮差押目的物の特定が必要です。
    3. 裁判所の決定により担保をたてること。

6 手続を追行する主体となる者

本制度を利用できる者は、適格消費者団体の内、一定の要件を満たす者を内閣総理大臣が認定することが必要となります(特定適格消費者団体と呼ばれます)(有効期間3年)。

  1. 認定要件(65条)
    被害回復関係業務を適切に遂行するための要件として下記の要件が必要となります。
    1. (1)差止請求関係業務を相当期間にわたり継続して適正に行っていること。
    2. (2)体制(弁護士理事の選任等)、業務規定、経理的基礎等が被害回復関係業務を適性に遂行するために足りること。
    3. (3)授権契約の内容を業務規定の記載事項とすること。 これにより、授権契約の内容を監督の対象とすることで業務を適正化をはかります。
    4. (4)報酬または費用が不当なものでないこと。
      消費者から支払を受ける報酬または費用がある場合、その額または算定方法、支払方法、その他の必要な事項を定めており、且つ、それが消費者の利益の擁護の見地から不当なものでないこと(基準(上限等)をガイドラインに規定する予定。)
  2. 責務規定・行為規範
    1. (1)濫訴等の禁止
      不当な目的でみだりに訴えの提起等は禁止される。
    2. (2)報酬
      被害回復業務を行うことに関し、授権契約により対象消費者から報酬を受ける旨を定めること。
    3. (3)弁護士の訴訟追行
      民事訴訟に関する手続き等は弁護士が追行しなければならない。
    4. (4)通知・報告義務
      一定の事項について他の特定適格消費者団体への通知義務、内閣総理大臣への報告義務が課せられています。
    5. (5)個人情報の適正な管理
      被害回復関係業務において消費者の個人情報を適正に管理するための必要な措置をとること
    6. (6)財産上の利益の受領禁止
      原則として、被害回復裁判手続に係る相手方から、その被害回復手続の追行に関し、金銭等の受領は禁止されます(判決に基づく支払等正当な場合を除きます)。
    7. (7)徹底した情報公開
      特定適格消費者団体については、定款、業務規定、財務諸表等の提出・公表、閲覧請求等の情報公開が定められています。
    8. (8)報告・立入検査
      責務規定・行為規範に違反した場合、内閣総理大臣(消費者庁)による監督の対象となり、報告義務や立入検査等が発生します。
    9. (9)罰則等
      責務規定・行為規範に違反した場合には、適合命令・改善命令、特定認定の取消などの処分や罰則等が課せられます。

7 その他

  1. 施行期日
    公布の日から3年を超えない範囲内で政令で定める日
  2. 経過措置
    1. (1)施行前に締結された契約に関する請求に係る金銭の支払義務には適用されません(不遡及)。
    2. (2)不法行為に基づく損害賠償の請求については、施行前に行われた加害行為に係る金銭の支払い義務には適用されません。
  3. 衆議院の修正
    1. (1)特定適格消費者団体がその権限を濫用して事業者の事業活動に不当な影響を及ぼさないようにするための方策について、速やかに検討を加え、必要な措置を講ずることとされました。(附則第3条)
    2. (2)特定適格消費者団体による業務の適正な遂行に必要な資金の確保、情報の提供等の支援の在り方について、速やかに検討を加え、必要な措置を講ずることとされました。 (附則第4条)
    3. (3)施行後3年を経過した場合において、消費者の財産的被害の状況、特定適格消費者団体による業務の遂行の状況等を勘案し、被害回復業務の適正な遂行を確保するための措置並びに対象となる請求及び損害の範囲等この法律の規定について検討を加え、必要があると認めるときは所要の措置を講ずることとされました。 (附則第5条第1項)
    4. この法律の施行の状況についての検討の年限を「施行後5年」から「施行後3年」に改められました。 (附則第5条第2項)
    5. (4)施行前事案に関する請求に係る金銭の支払義務に関し、重要消費者紛争解決手続(国民生活センター)等の裁判外紛争解決手続の利用の促進等の措置を講ずることとされました。 (附則第6条)
    6. (5)この法律の円滑な施行のため、この法律の趣旨及び内容について、広報活動等を通じて国民に周知を図り、その理解と協力を得るよう努める。 (附則第7条)

8 まとめ

消費者集団訴訟制度の骨子は上記の通りであり、施行されると事業者にとっては極めて大きな影響や費用負担が発生する可能性が高いことは十分に予測できます。
賃貸業務に限っても、これまで消費者契約法に違反すると判断された契約条項については、今後は差止だけでなく、その条項を使用して契約した消費者から特定適格消費者団体を通じて費用の返還を求められることとなり、そうなれば極めて巨額の費用負担が発生することも想定されます。
このため、消費者集団訴訟制度の内容を十分に理解され、現在使用している契約書やビジネス手法について,これまでの消費者契約法上の問題点がないか確認し、問題があれば、施行されるまでに是正しておくことが不可欠です。その意味で、この機会に是非ご自分の会社の業務内容、契約書等について消費者契約法上の問題点がないか確認することをお勧めします。

2014.05/27

関連記事

亀井英樹(かめいひでき)
東京弁護士会所属(弁護士)
昭和60年中央大学法学部卒業。平成4年司法試験合格。
平成7年4月東京弁護士会弁護士登録、ことぶき法律事務所入所。
詳しいプロフィールはこちら ≫

【著 作 等】
「新民事訴訟法」(新日本法規出版)共著
「クレームトラブル対処法」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「管理実務相談事例集」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「賃貸住宅の紛争予防ガイダンス」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修