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弁護士・亀井英樹先生の法律ノウハウ

大阪高裁平成25年11月22日賃貸借契約解除判決について

出典:ウエストロー・ジャパン
http://www.westlawjapan.com/

【1】家賃債務保証会社による保証弁済と賃貸借契約解除との関係
建物賃貸借契約において、賃借人が賃料債務を滞納しても、家賃債務保証会社による保証債務の弁済があるときは、滞納の事実は消滅するとして、賃貸借契約の解除は認められないとするのが、これまでの裁判所の一般的な見解でした。 しかし、平成25年11月22日に大阪高裁において下された判決は、これまでの一般的な裁判所とは異なり、賃貸借契約の解除を認める判断を下しました。また、この判決は最高裁においても賃借人の上告の不受理により確定されたため、家賃債務保証会社による代弁済が実行された場合においても、例外的に賃貸借契約の解除が認められる場合の事例として非常に着目すべき判決ですので、下記のとおり紹介致します。

【2】事案の概要
(1)賃借人の賃料の滞納
被告は、平成24年2月分から毎月滞納を繰り返し、原告らは催告を繰り返すが、賃料滞納は常態化したままであり、未払賃料は増加の一途をたどる。
被告は、原告らが再三にわたり催告しているにもかかわらず、本件賃貸借契約に基づく賃料等のうち、平成24年4月分から同年8月分を支払わない。
また、本訴の提起後も賃借人から賃料の支払いがなく、賃借人は、平成24年9月分から平成25年3月分までの7ヶ月分の賃料を支払わない。賃借人は、保証人に賃料を請求しろと主張し、自ら賃料を支払う意思がない。(以上地裁判決)

(2)賃貸借契約の解除
そこで、賃貸人は、平成25年3月4日の第2回口頭弁論期日で陳述した第1準備書面において、本件賃貸借契約解除の意思表示をした。(以上地裁判決)

(3)保証会社の弁済
家賃債務保証会社は、保証委託契約に基づき、賃貸人に対し、被告のために平成24年4月9日、同年5月10日、同年6月7日、同年7月9日及び同年8月7日に、各7万8000円ずつ合計39万円を代位弁済した。(以上地裁判決)

(4)請求の内容

  1. 1.賃貸人の請求は、賃貸人が賃借人との間で締結した本件建物の賃貸借契約について、賃借人の賃料、共益費、水道代(以下「賃料等」という)の不払を理由に解除したと主張して、賃貸借契約終了による目的物返還請求権に基づき、本件建物の明渡しを求める事案である。
  2. 2.保証会社の請求は、賃借人が保証会社との間で締結した保証委託契約に基づき、賃貸人に対し、賃借人の賃料等39万円(月額7万8000円の5ヶ月分)を代位弁済したと主張して、保証委託契約による求償債務の履行請求権及び保証事務費用請求権に基づき、上記39万円及び保証事務手数料5000円の支払を求める事案である。


【3】裁判所の判断
(1)被控訴人X1(賃貸人)の請求について(本件賃貸借契約は解除されたか)

  1. 1.前記前提事実1によれば、控訴人(賃借人)と被控訴人X1との間で、平成23年12月15日、本件賃貸借契約が締結されたことが認められるから、控訴人は、被控訴人X1に対し、賃料等月額7万8000円を支払う義務がある。
  2. 2.本件賃貸借契約では、控訴人が賃料等の支払を2ヶ月以上滞納すれば、被控訴人X1は本件賃貸借契約を解除することができる(本件賃貸借契約17条(1))ところ、弁論の全趣旨によれば、控訴人は、平成24年4月分?25年3月分までの賃料等を支払っていないことが認められる。よって、被控訴人X1は本件賃貸借契約を解除することができる。
    これに対し、控訴人は、平成24年4月分?平成25年1月分の賃料等については、被控訴人X2(保証会社)がこれを代位弁済しているから、控訴人に賃料等の不払はないと主張する。そして、証拠(甲7の1、2、甲8)及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人X2は、被控訴人X1に対し、平成24年2月?平成25年6月まで、毎月の賃料等7万8000円に相当する金額を代位弁済していることが認められる。
    本件保証委託契約のような賃貸借保証委託契約は、保証会社が賃借人の賃貸人に対する賃料支払債務を保証し、賃借人が賃料の支払を怠った場合に、保証会社が保証限度額内で賃貸人にこれを支払うこととするものであり、これにより、賃貸人にとっては安定確実な賃料収受を可能とし、賃借人にとっても容易に賃借が可能になるという利益をもたらすものであると考えられる。しかし、賃貸借保証委託契約に基づく保証会社の支払は代位弁済であって、賃借人による賃料の支払ではないから、賃貸借契約の債務不履行の有無を判断するに当たり、保証会社による代位弁済の事実を考慮することは相当ではない。なぜなら、保証会社の保証はあくまでも保証委託契約に基づく保証の履行であって、これにより、賃借人の賃料の不払という事実に消長を来すものではなく、ひいてはこれによる賃貸借契約の解除原因事実の発生という事態を妨げるものではないことは明らかである。よって、控訴人の上記主張は理由がない。
  3. 3. 被控訴人X1は、訴状で控訴人に対し未払賃料等の支払を請求しているから、訴状が控訴人に送達された平成24年9月13日(裁判所に顕著)に、被控訴人X1から控訴人に対し、未払賃料等の支払催告がされたと解することができる。また、被控訴人X1は、平成25年3月4日の原審第2回口頭弁論期日において陳述した第1準備書面において、本件賃貸借契約解除の意思表示をしたことが認められる(裁判所に顕著)。
  4. 4. これによれば、被控訴人X1の控訴人による賃料等の不払を理由とする本件賃貸借契約解除の意思表示は有効であるから、本件賃貸借契約は平成25年3月4日に解除されたものと認めることができる。

(2)被控訴人X1の請求について(信頼関係破壊の有無)

  1. 1.上記(1)2のとおり、控訴人は被控訴人X1に対し、平成24年4月分?平成25年3月分の賃料等を支払っていないことが認められる(甲7の1、2、甲8、弁論の全趣旨)。
  2. 2.また、控訴人は、被控訴人X2に対する求償債務についても、平成24年5月2日に15万8000円を支払っただけで、その後の支払をしていないことが認められる(甲8、弁論の全趣旨)。
  3. 3.上記1のとおり、控訴人が被控訴人X1に対する賃料等の支払を怠っていることからすると、本件賃貸借契約について、被控訴人X1と控訴人との信頼関係は破壊されているものと認めるのが相当である。
  4. 4.控訴人の主張について
    • ア.控訴人は、被控訴人X1が一度電話で督促しただけで、控訴人がパニック障害に罹患していることを奇貨として一方的に本件賃貸借契約を解除したと主張する。
      弁論の全趣旨によれば、控訴人がパニック障害に罹患していることが認められる。 しかし、上記1のとおり、控訴人は、少なくとも平成24年4月分以降賃料等を支払っていないのであるから、被控訴人X1による本件賃貸借契約の解除が一方的であるとは認められない。よって、控訴人の上記主張は理由がない。
      なお、控訴人は、上記事情から、被控訴人X1の請求が権利濫用であるとも主張するが、上記理由により認められない。  
    • イ.控訴人は、賃料等の不払はパニック障害に罹患し、自己管理能力が減退していたために、本件賃貸借契約の対応をZに一任していたのが原因であると主張する。
      しかし、控訴人がZに対し、本件賃貸借契約の対応を一任していたとしても、Zにおいて適切な対応をとっていないことを控訴人自ら自認しているから、この主張内容それ自体に照らし、信頼関係の破壊することを妨げる事情となるとはいえないことは明らかである。よって、控訴人の上記主張は採用できない。
    • ウ.控訴人は、賃料等を支払う努力を行っており、未払賃料等の一部を支払っていると主張する。  証拠(乙1?6)によれば、控訴人が、生活保護の申請を行い、平成25年8月2日に、同月分の賃料等を含め21万2500円を支払った事実が認められる。しかし、これらの事実は、本件賃貸借契約の解除(平成25年3月4日)後にされており、しかも、本件賃貸借契約の解除後約5か月も経過していることからすると、控訴人と被控訴人X1との信頼関係破壊を妨げる事情には当たらない。
    • エ.控訴人は、本件建物が控訴人の障害特性に適合した物件であり、他の適合する物件を探して転居することが困難であると主張するが、これをもって信頼関係破壊を否定するまでの事情とはいえない。

(3)被控訴人X2の請求について

  1. 1.前記前提事実(2)のとおり、被控訴人X2と控訴人との間で、本件保証委託契約が締結されたことが認められる。
  2. 2.証拠(甲7の1、2、甲8)及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人X2は、本件保証委託契約に基づき、被控訴人X1に対し、控訴人のために、平成24年4月9日、同年5月10日、同年6月7日、同年7月9日及び同年8月7日に、計5回にわたって、各7万8000円ずつ合計39万円を代位弁済したことが認められる。
  3. 3.また、本件保証委託契約によれば、控訴人は、被控訴人X2に対し、代位弁済1回につき、1000円の保証事務手数料を支払う義務を負っている(本件保証委託契約3条)
  4. 4.したがって、控訴人は、本件保証委託契約に基づき、被控訴人X2に対し、上記代位弁済金39万円及び保証事務手数料5000円の支払義務がある。

(4) 以上のとおりであるから、被控訴人X1の本件賃貸借解除に基づく本件建物の明渡請求、被控訴人X2の本件保証委託契約に基づく代位弁済金39万円及び保証事務手数料5000円の支払請求は、いずれも理由があり、これを認容すべきであるから、これと同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がない。よって、本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

【4】今回の判決について

今回の事案は、契約解除時点における賃借人の滞納額と賃貸人への未払額について保証会社による代位弁済があることにより差異が生じているため、非常にわかりにくい内容となっています。
そこで、判決文から、平成25年3月4日に、契約の解除がなされた時点で、具体的に滞納額がどの程度であったかを読み解くと、賃借人は、平成25年8月2日に、平成25年4月分以降の滞納賃料を支払っていると考えられ、平成25年3月4日の時点では、平成24年4月分から平成25年3月分まで滞納していたことが認められます。
そして、保証会社は、上記滞納額の内、平成24年4月分から平成25年3月分までの賃料を代位弁済していたことが認められます。
すると、本件では、平成25年3月4日の解除の時点では、賃貸人にとっては賃料等の滞納は存在しないこととなります。
しかし、大阪高等裁判所は、賃貸借保証委託契約に基づく保証会社の支払は代位弁済であって、賃借人による賃料の支払ではないから、賃貸借契約の債務不履行の有無を判断するに当たり、保証会社による代位弁済の事実を考慮することは相当でない。なぜなら、保証会社の保証はあくまでも保証委託契約に基づく保証の履行であって、これにより、賃借人の賃料の不払という事実に消長を来すものではなく、ひいてはこれによる賃貸借契約の解除原因事実の発生という事態を妨げるものではないことは明らかである、と判断して、契約解除を有効であると認めたのです。
このため、今後は、保証会社による保証債務の弁済があっても、今回の判決のように契約解除が認められる可能性が出てきましたが、事案の内容を見る限り、賃借人の滞納の継続が1年を超える極めて長期間であることから、賃貸借契約上の滞納が存在しなくても、信頼関係破壊の事実を認めたものではないかと考えられます。
したがって、今後も同種の事案が発生することは考えられますが、今回の大阪高裁の判決は、賃借人が極めて長期間にわたり滞納を継続していたという状況を重視した特殊な事案ではないかと考えられますので、直ちに、他の事件についても同様に契約の解除が認められるかどうかは、今回の判断については最高裁が認めているとしても、まだ直ちに断定できないのではないかと考えられます。
このため、保証会社による代位弁済と契約の解除については、今回の判決だけで、代位弁済をしても契約解除が直ちに可能であると判断せずに、これまでと同様に慎重な対応をすべきではないかと思います。

2015.03/10

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亀井英樹(かめいひでき)
東京弁護士会所属(弁護士)
昭和60年中央大学法学部卒業。平成4年司法試験合格。
平成7年4月東京弁護士会弁護士登録、ことぶき法律事務所入所。
詳しいプロフィールはこちら ≫

【著 作 等】
「新民事訴訟法」(新日本法規出版)共著
「クレームトラブル対処法」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「管理実務相談事例集」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「賃貸住宅の紛争予防ガイダンス」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修