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不動産・コンサルタント倉橋隆行先生の不動産投資ノウハウ

不動産コンサルタント始末記

バブルが残したトラブル処理(その3)

 その後、司法書士が登場し、何枚かの委任状に署名捺印を行うと、その司法書士がファイナンス会社の社員に合図をし、やがて銀行員が吉田の預金通帳と何枚かの小切手を持って現れた。

 「金額を確認してください」

 銀行員が吉田に対して通帳類を渡そうとすると、権藤が吉田のかわりにそれを受け取り、通帳の数字と小切手の数字を照らし合わせた。
 銀行員が退席すると、外から3人ほどの男が部屋に入って来、権藤から小切手を受け取ると、次々に司法書士に書類を渡して立ち去った。一人は、明らかに銀行員のようであったが、他の2人は、どう見ても堅気の人間ではないように思えた。

  「はい、これ」

 権藤は、吉田に売買価格が3500万円と書かれた契約書と、売主が発行した3500万円の領収書、そして通帳を手渡した。
  「少し、お金残っているけど、遣っちゃっても構わないよ」
 権藤が言うと、松本は吉田を見て笑い、2枚の小切手を背広の内ポケットにしまった。

 

 「いやぁ、不動産の取引って、わかんないよね」
 吉田には、正直、何が何だか分からないまま取引が終了し、若干の不安を抱きながら権藤に言った。
 「3800万円も借金しちゃって、大丈夫なの?」
 「問題ないよ。俺に任せておけば大丈夫」
 妙に自身たっぷりで権藤は笑いながら吉田に言った。
 「後は、任せておけよ」

 

 ベンツのリアシートにもたれかけ、先ほど作ったばかりの通帳をぼんやり眺めながら、せっかくだから明日は役場を休んで実家にでも帰ろうとふと思った。口座には80万円を超えるお金が残っていた。

 

 松本の運転で羽田ではなく、東京駅まで送ってもらった。駅に到着するとベンツのリアのドアを権藤が外からあけ、権藤と松本は、吉田に深々と慇懃な礼を言って去っていった。吉田は、銀行に立ち寄り作ったばかりの通帳から20万円を引き出し、駅のデパートで少し派手なネクタイと洒落た腕時計を買い、実家に向かった。

 実家についた頃は既に日が暮れていたが、久しぶりの帰郷に、古い友人たちと駅の近くにある居酒屋に繰り出し、焼きかぜを振る舞い、地酒を飲んだ。焼きかぜは、うにを貝の上に山盛りにして焼いて食べる郷土料理である。
 酒を飲み、不動産を購入したこと、銀座で飲んだことなどを大げさに話しながら、いつしか吉田は、自慢口調になっていた。集まった友人たち中には、吉田が中学時代、密かに憧れていた礼子もおり、彼の話をうんうんとうなずきながら聞いていた。
 農家に嫁いだ礼子は、昔の面影はあったものの、顔も体つきもだいぶ変わっていたが、吉田は、礼子の前で不動産を購入した話ができたことに満足感を覚えた。  
 その後、礼子は帰ってしまったが、残った連中で居酒屋から場末のスナックに移動し、昨日とは打って変わって、安っぽい化粧と衣装のママの音頭でカラオケを歌った。流行の曲を大声で熱唱しながら、吉田は一昨日までの自分と今の自分が大きく変わったことを感じ、また、心の何処かで権藤に感謝していた。

 翌日、遅めの朝食を取りながら、母親に不動産を購入したことを話し、その仲介者が権藤であることを話した。昨日同様、吉田は自慢口調で話したのであるが、母親は少し驚き、不安な顔つきで表情が曇った。
 「そういえば、権藤君から電話があって」
 厳格な父と連れ添い、長く人生を歩んできたせいか母も厳格な身の振る舞いが身についており、昔から和服姿を通している。卓袱台にお茶を差し出しながら母は言った。
 「お前の電話番号を教えてくれって言うから、教えたんだけど、それが悪かったのかねぇ」
 「何言ってるんだよ」
 吉田は母の一言に不安を覚えたが、否定するように言った。
 「権藤の会社の社長さんだっていい人だし、心配はいらないよ」

 

 「いい人」とは言ってみたが、銀座で寿司をご馳走になり高級クラブで飲ませてくれたことが「いい人」の物差しにはならないことぐらい吉田にも分かっていた。が、少なくとも経済力はありそうで、いざというときには助けてくれるだろうという安易な期待をもっていただけであった。
 東京に戻り、また平凡な毎日が続いた。 

 


 吉田が、あのマンションを購入して4カ月が経ち、銀行で通帳の記入を行うと、権藤の個人名義で毎月15万円が振り込まれ、その後、例のファイナンス会社から13万何某かのお金が引き落とされ、毎月1万円強のお金が口座に溜まっていた。吉田は、念のためにと自分の持っていた預貯金からこの口座に100万円を入れていたが、何も心配はいらない、ということを悟った。むしろ、機会があればもう一つ買ってもよいかな、とさえ思っていた。

 


 「吉田さんですか」

 

 それから1年も経たないある日、吉田の自宅にファイナンス会社からの電話が入った。
 「誠に申し上げ難い話ですが、銀行口座の残高が不足で引き落としができません」
 吉田には、それが何を意味するのか、まったく見当がつかなかった。

2005.06/21

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倉橋隆行 (くらはしたかゆき)
1958年9月25日生
96年に(社)全国賃貸住宅経営協会横浜南部支部支部長に就任し、翌年、同協会の神奈川連合会の創設に伴い副会長に就任。98年、不動産業界に関するシンクタンクである不動産体系研究所創設に伴い、取締役所長に就任。99年、総合的な月貸し賃貸の運用会社である(株)月極倶楽部を創立、代表取締役に就任。同時に(株)三春情報センターを退職。そして、資産運用管理会社である(株)CFネッツを創立し、代表取締役に就任。2001年、2002年JREM国際CPM協会副会長就任。2003年4月、IREM(全米不動産管理協会)より、CPM(公認不動産管理士サーティファイド・プロパティマネージャー)の称号を日本で初めての公式試験受験による取得者となる。現在、グループ企業4社の代表取締役と取締役、その他公益法人の役職をこなし、超多忙な仕事をこなしている。
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