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公認会計士・友弘正人先生の税制ノウハウ

法人税法における不良債権の取り扱い

はじめに


昨今の経済事情から不良債権を抱えている中小企業の方も多くおられると思います。
税法上、貸倒損失の計上についてはいろいろな制限が設けられています。今回は、法人税法における貸倒れの取り扱いについてご説明いたします。

 

貸倒損失の計上ができる場合


法人税法では、売掛金その他の債権については評価損の計上が認められていません。金銭債権が完全に取立不能に陥った場合には、貸倒損失として損金に算入されますが、その計上には厳しい制限が設けられています。
貸倒損失が計上できるのは、取立不能に陥ったかどうかの事実認定の基準として設けられている下記の3つの基準のいずれかに該当する場合です。

(1) 金銭債権の全部又は一部の切捨てをした場合の貸倒れ(法律上の貸倒れ)
(2) 回収不能の金銭債権の貸倒れ(事実上の貸倒れ)
(3) 一定期間取引停止後弁済がない場合等の貸倒れ(形式基準による貸倒れ)

 


書面による債務免除の活用(法律上の貸倒れ)

 

会社更生法等の決定により債権の全部又は一部が切り捨てられる場合などで法律によって債権が消滅した場合には、貸倒損失として処理します。この場合、債権者である法人はその債権について貸倒処理するかどうかの選択の余地はありません。
また、会社更生法等の決定がない場合でも債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その債権の弁済を受けることができないと認められた場合においては、法人は債務者に対し書面により債務免除をすることを明らかにすることによって、債権が消滅し貸倒処理することが可能となります。この書面による債務免除については、法人の選択により行うことができますので、税務上おおいに活用することができます。

 

■書面により債務免除を行う際の留意点
書面による債務免除については、当事者間の協議により締結された契約書であるとか、公正証書等の公証力のある書面による必要はなく、債権者である法人が債務者に対して書面において債務免除の事実を明らかにしていれば足りるものとされています。
しかし、法人の任意において計上するため、後日、税務調査の際に問題となる可能性がおおいにあります。債務者が債務超過であり債権の弁済を受けることができない事実を証明する客観的な証拠が必要です。また、書面により債務免除したことを立証できるように、内容証明郵便にしておくべきでしょう。
また、債務者の財産状態からみて回収の可能性がある場合や、法人と債務者の間に特殊な関係があり特に有利に扱っている場合には債務者に対する寄附金とされる可能性もあるので注意が必要です。

 


形式基準による貸倒れ(売掛債権の特例)


売掛債権については、貸付金などの一般債権のように、履行が遅延したからといって直ちに債権確保の手続きをとることが困難であるという事情があります。そのため、取引を停止した後1年以上経過した場合、又はその売掛債権の額が取立費用に満たない等の事情がある場合には、その売掛債権について備忘価額を付し、残額を貸倒損失として処理したときは認められることとなっています。
この貸倒処理は、営業活動によって生じた売掛債権についてだけ認められるもので、貸付金のような他の一般債権については適用ありません。また、不動産取引のように何らかの関係で1~2回程度の一時的な取引で一般的に継続取引とは考えられない取引から生じた債権なども適用はありません。

■取引停止後1年以上経過しているかどうかの判定基準
判定基準として、次の3つのうち一番遅い時になります
(1)販売取引を停止した時
(2) 最後の弁済期(契約上の支払日、手形の支払期日を含みます。)
(3) 最後の弁済の時(現実に支払われた日)

 


担保物がある場合


回収不能が見込まれる債権に担保が付されていない場合には、貸倒損失の要件のいずれかに該当することにより貸倒処理することとなります。
しかし、担保が付されている場合には、その担保物が処分されるまでは貸倒処理をすることができません。(担保には、保証人がいる場合の人的保証による担保も含みます。)
また、担保物の処分等によりある程度の回収が見込まれるが、担保物の処分に時間がかかるような場合には、貸倒損失が計上することができませんので、個別評価による貸倒引当金を計上することで対応していくことになります。(貸倒引当金については後記参照)

 


後日回収されることとなった債権について

 

貸倒損失として処理した後において、その債務者の業況が回復した場合や第三者による債務引受があった場合などのように、後発的な理由に基づいて回収可能となった場合には、弁済を受けた時に収益として計上します。貸倒処理をした債権については、実際に弁済を受けるまで修正を行わないのが会計慣行となっています。したがって、税務上も実際に回収を受けた時にその受けた額が収益となります。

 


貸倒処理できないときは貸倒引当金制度を利用

 

法人が有する金銭債権が不良債権化して事実上回収不能となっても、法人税上の基準を満たさない限り貸倒処理することはできません。また、債権の一部についてだけを貸倒処理することは認められません。
例えば、受取手形が不渡りとなったときは、ほとんどの場合に回収不能となりますが、不渡りを出したというだけでは貸倒処理することはできません。
ただし、貸倒処理ができないとしても、手形の不渡りなどの一定の事実が発生した場合には、個別評価金銭債権として債権金額の一定額を貸倒引当金として繰入することができます。貸倒損失の条件を満たされないときはまず債権金額の一定額を貸倒引当金として繰入をしておき、後日条件が整ったときにその債権について貸倒損失の計上を行うのが上手な対応の仕方となります。

 


まとめ


貸倒損失の計上については、債権ごとにその種類及び債務者の個々の状況等を考慮し判断していくことが大事です。
税務調査を受けたときの最大のポイントとなるのが、回収不能の事実が本当にあるかどうかにあります。例えば、債務者が死亡・行方不明になったからといって直ちに貸倒れとなることはなく、それ相応の回収の努力が必要です。債権回収ができないと判断した場合であっても、その行方をよく調査していなかった場合や回収の努力が行われていない場合には、税務上否認される可能性があるので注意が必要です。貸倒損失の計上については、税法の取り扱いを十分理解し上手に対応していく必要があります。
 

2008.12/16

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友弘正人 (ともひろまさと)
(公認会計士・税理士・CFP・行政書士)
昭和24年生まれ。
中央大学商学部卒業。昭和50年公認会計士第2次試験合格開業。監査法人大成会計、アクタス監査法人社代表社員を経て、平成12年株式会社トータル財務プラン代表取締役。株式会社アート相続プラン代表取締役を兼任している。
NHK文化センター、商工会議所、日本経済新聞社、中小企業センター、三和総研、日本総研、その他講義・講演マネジメントサービス活動を展開。
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