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公認会計士・友弘正人先生の税制ノウハウ

従業員が交通事故を起こした場合の損害賠償金について

人は自動車を運転中にいくら注意を払っていても事故を起こす可能性があります。事故を起こしてしまってから慌てても遅いのですが、今回は、法人の保有する車輌で従業員が交通事故を起こし、その損害賠償金を法人が支払った場合について考えてみたいと思います。

 

法人が支出した従業員の損害賠償金

 

従業員の起こした交通事故による損害について、法人が損害賠償金を支出した場合には、税務上、次の二つに分けて処理をすることになります。

 


(1)    給料以外の損金とする場合


発生した交通事故が次の二つの要件の両方を満たす場合は、その自動車の保有者である法人は、その損害について賠償する責任があるものとされます。そこで支出した損害賠償金は給与以外の損金(例えば雑損失)とします。
[1] 発生した交通事故が法人の業務の遂行に関連するものであること。
[2] 発生した交通事故が故意又は重過失に基づかないものであること。



(2)事故を起こした従業員個人に対する債権とする場合

 

発生した交通事故が法人の業務の遂行に関連するもので、運転していた従業員の故意又は重過失に基づくものである場合の損害賠償金は、その事故を起こした従業員個人の責任において負担すべきものとなります。その損害賠償金を法人が支出した場合には、その事故を起こした従業員に対して求償すべきものとされます。したがって、法人が支払った損害賠償金を、ただちに法人の損金の額に算入することは適当ではありません。そこで、法人が支出をした損害賠償金に相当する金額は、従業員に対する債権(求償権)として処理します。
また、つぎの場合にも同様に事故を起こした従業員に対する債権(例えば貸付金)として処理します。
[1] 従業員が法人に無断で車輌を使用し、交通事故を起こした場合。
[2] 法人の業務に関係のない交通事故である場合



損害賠償金に係る債権の処理

 

事故を起こした従業員に対する債権は、その従業員の支払能力等からみて求償できない場合があります。そのような場合に、法人が支出した損害賠償金の全部又は一部の金額を従業員に対する貸し倒れとして損金経理をした場合には、損金の額に算入することができます。また、法人が支払った損害賠償金をいったん従業員に対する債権として処理せず、直接損金の額に算入した場合も同様に損金として認められます。
ただし、その貸し倒れ等とした金額のうち、その従業員の支払能力等からみて回収が確実と認められる部分の金額については、従業員に対する給与とします。
なお、法人の支出する損害賠償金が損害賠償責任保険等によって補てんされる場合には、その受取保険金は収益として計上します。したがって、一方で損害賠償金として損金の額に算入し、もう一方で受取保険金として益金処理することになり、法人が損害賠償金を受取保険金の額を超えて支払った場合には、その超える部分の金額が損金として認められることになります。

 


自動車による人身事故に係る内払の損害賠償金

 

一般の損害保険にあっては、損害が確定し損失として認められるものであっても、それについて収入すべき保険金が見込まれる以上、収支対応の思想から、次の2通りの処理の選択適用が認められています。

[1] 保険金の額が確定するまで損失は仮勘定として損金に算入しない。
[2] 損失を発生事業年度で損金に算入する一方で保険金の見積計上をする。

これは、保険をかける目的が将来の偶発的な損害の補てんであり、その保険料は支出をした事業年度において損金の額に算入しているので、損害賠償金を支払った都度、先行して損金に算入することは不合理であるという考えから認められる処理といえます。
しかしながら、[1]の処理つまり、保険金の確定までその損失を仮勘定とすることは、例えば、保険金を明らかに超える金額を内払いしている場合であっても、一度支払ったものは返金されることはまず考えられないことや、交通事故の場合は治療が長期にわたる場合や示談等まで長期間を要することが考えられ、保険金の確定まで仮勘定として経理しなければならないこととなり、適当とはいえません。
そこで、交通事故では、[2]の損金の発生事業年度で保険金を見積計上する方法に準じた方式を適用して、収支対応を図ることとなっています。つまり、税務上は次のように処理することが認められています。
法人が損害賠償金として支出した金額は、示談の成立等による損害賠償金総額の確定前に内払いとして、治療費、治療期間中の休業補償等として支出したものならば、その支出した事業年度の損金の額に算入することができます。他方で受取保険金を見積もります。そして損金の額に算入した損害賠償金に相当する金額の受取保険金は、益金の額に算入します。ただし、益金の額に算入する受取保険金の額はその人身事故について既に益金の額に算入した保険金がある場合には、その累積額をその人身事故に係る保険金見積額から控除した残額を限度とします。
(注)保険金見積額とは、その法人が自動車損害賠償責任保険契約又は任意保険契約を締結した保険会社に対して保険金の支払を請求しようとする金額をいいます。

 

事 例
  交通事故に対する保険金見積額…30万円←A
  当期に損害賠償金として支払った金額が10万円、
  翌期に損害賠償金として支払った金額が30万円 である場合
 
 当 期  法人が内払いした損害賠償金…10万円
       損金経理する金額  10万円←B
       収益に計上する金額 10万円←C
       実質的に損金となる金額 B-C=0円

 翌 期  法人が内払いした損害賠償金…30万円
       損金経理する金額  30万円←D
       収益に計上する金額 A-C=20万円←E
       実質的に損金となる金額 D-E=10万円


この事例の場合は、当期には実質的に損金となる金額はありませんが、翌期は10万円が実質的に損金となることになります。
ただし、その損害賠償金が事故を起こした従業員に対する債権とする場合は、この内払いした損害賠償金を損金の額に算入する取扱いの適用はありません。

 

2009.02/03

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友弘正人 (ともひろまさと)
(公認会計士・税理士・CFP・行政書士)
昭和24年生まれ。
中央大学商学部卒業。昭和50年公認会計士第2次試験合格開業。監査法人大成会計、アクタス監査法人社代表社員を経て、平成12年株式会社トータル財務プラン代表取締役。株式会社アート相続プラン代表取締役を兼任している。
NHK文化センター、商工会議所、日本経済新聞社、中小企業センター、三和総研、日本総研、その他講義・講演マネジメントサービス活動を展開。
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