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弁護士・亀井英樹先生の法律ノウハウ

賃貸管理業務と弁護士法

取り立て行為と弁護士法等との関係

 賃貸管理実務においては、賃貸人より賃料受領業務について委託を受けて、管理会社が賃貸人に代わり賃借人から賃料等の金銭を定期的に受領しているのが通例です。しかし、管理会社による賃料の督促業務が行き過ぎますと法令違反の可能性が生じてきます。

 最近も、不動産会社が賃借人との立ち退き交渉について、所有者と偽って立ち退き交渉を行ったことが、弁護士法違反として逮捕されるに至りました。

 このため、賃貸管理実務においては、借地借家法だけでなく、弁護士法等の諸法令について十分に認識しておくことが必要です。

取り立て行為にかかわる法令として以下の法令が考えられます。

(1) 非弁行為の禁止

弁護士法第72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。

(2) 業として債権譲渡による権利実行の禁止

弁護士法第73条(譲り受けた権利の実行を業とすることの禁止)
何人も、他人の権利を譲り受けて、訴訟、調停、和解その他の手段によつて、その権利の実行をすることを業とすることができない。

(3) 訴訟信託の禁止


信託法第10条(訴訟信託の禁止)
信託は、訴訟行為をさせることを主たる目的としてすることができない


判例実務

 上記の法令が賃貸管理実務においてどのように適用されるかについては、これまでのところ直接争われた判例はありませんが、以下の判例が参考になります。

(1) 債権者から取り立て委任を受けたことが弁護士法違反とされた判例
〔最高裁昭和37年10月4日決定〕(出典: 判例マスタ)

・弁護士でない者が報酬を得る目的で原判示のような事情のもとで、債権者から債権の取立の委任を受けて、その取立のため請求、弁済の受領、債務の免除等の諸種の行為をすることは、弁護士法七二条の、「その他一般の法律事件」に関して、「その他の法律事務」を取り扱った場合に該当する。

(2) 金銭債権の譲渡が弁護士法違反とされた判例
〔東京高裁平成3年6月27日判決〕(出典: 判例マスタ)

・金銭債権の譲受人である貸金業者の金銭請求訴訟の提起は弁護士法七三条に違反する・弁護士法七三条に違反する金銭債権の譲受けとその効力(無効)

(3) 債権譲渡が弁護士法違反とされた判例
〔東京地裁平成13年8月30日判決〕(出典: 判例マスタ)

・原告は、訴外会社から被告に対する売買代金債権の回収を委託され訴外会社の代理人として回収に当たったが、同被告から回収できなかったため、債権譲渡を受けてその直後に本訴を提起していること、原告の経営する〇〇有限会社は、訴外会社に対し、180万円の損害賠償債権を有していると主張している(その根拠となる客観的証拠は原告から提出がない。)が、原告は訴外会社に対し何らの債権を有しておらず、原告が訴外会社から債権譲渡を受ける実体的根拠が存在しないこと、被告からの回収額から180万円と回収費用を控除した残額を原告と訴外会社において折半する約定は、原告の回収業務に対する成功報酬の趣旨を含むものであることが認められるのであり、これらの事情を考慮すると、訴外会社から原告に対する債権譲渡は、本訴の提起及び遂行という訴訟行為を主たる目的として行われたものとみるべきであり、弁護士法の趣旨を潜脱し、また、信託法にも違反するものであって、無効である。

(4) 債権譲渡が信託法11条(現行法10条)に該当するとされた判例

〔札幌高裁函館支部昭和38年2月12日判決〕(出典: 判例マスタ)

1債権譲受人が債権譲渡人の顧問の地位にあつて従来法律的に処理の困難な事件の処理の依頼を受けており、2債権譲渡契約の内容が、「譲渡人が債務者の資力を担保し、譲受人が強制執行までして取立てた金額が譲渡代金に達しないときは、譲渡人は譲受人にその不足額を支払うこと」等譲受人が訴訟行為をなすことを当然に予期した取立委任契約の実質を有し、また3譲受人が弁護士でないのに訴訟資料の提出、認否、証人尋問の技術等法廷における訴訟活動に極めて練達であり、かつ極めて迅速巧妙に訴訟を自ら遂行していること等の事情があるときは、右債権譲渡は訴訟行為をなさしめることを主たる目的として信託的に譲渡したものと認めるのが相当である。

(5) 手形の裏書きが訴訟信託に該当するとされた判例
〔大阪高裁平成9年1月30日判決〕(出典: 判例マスタ)

・裏書が訴訟行為をさせることを主たる目的としてされた隠れた取立委任裏書であり無効である。


債権管理回収業に関する特別措置法(サービサー法)との関係

 債権管理回収業に関する特別措置法(サービサー法)は、特定金銭債権の処理が喫緊の課題となっている状況にかんがみ、許可制度を実施することにより弁護士法の特例として債権回収会社が業として特定金銭債権の管理及び回収を行うことができるようにするとともに、債権回収会社について必要な規制を行うことによりその業務の適正な運営の確保を図り、もって国民経済の健全な発展に資することを目的として制定されました(同法1条)。

 しかし、サービサー法に定められる特定金銭債権には、賃料債権は含まれておりません。したがって、賃料債権の回収及び債権譲渡に関しては、これまでどおり弁護士法及び信託法の適用があることとなります。


賃貸管理会社が賃借人に請求できる場合

 賃貸管理会社が、賃貸人でない場合であっても、賃貸借契約書上に賃料等の支払先として賃貸管理会社が指定され、賃借人が賃料等の支払先として賃貸管理会社に支払うことを承諾していた場合には、賃料等の滞納があったとき、賃貸管理会社は当該賃貸借契約に基づいて賃料等を請求することが可能な場合があります。このような場合に関する判例としては、次の判例があります。

(1) 不動産仲介会社からの賃貸人に代わる更新料請求が認められた判例
〔東京地裁平成17年10月26日判決〕(出典: 判例マスタ)

・賃貸期間を二年間とし、更新時に一か月分の賃料を更新料として借主が貸主に支払う旨の特約がある建物居室の賃貸借契約において、更新料を支払わない賃借人(被告、控訴人)に対して賃貸人から賃料等の受領等賃貸業務の管理の委託を受けた不動産仲介業者(原告、被控訴人)がした更新料の請求が、消費者契約法一〇条、借地借家法三〇条、同法三七条に違反したり、権利の濫用に当たるものではないとして原審で認容され、これを不服として控訴した賃借人の請求が同様の理由により棄却された。

(2) マンション管理委託契約における督促業務に関する判例
〔東京地裁平成18年7月12日判決〕(出典: 判例マスタ)

・マンションの管理委託契約に規定されている管理費滞納者に対する未収金請求業務の内容は、管理費等について書面による督促や電話による督促等の通常業務に限られ、長期滞納者等の扱いについて法務部専門スタッフが法的手続を通じて無償で補助する旨の特別督促業務を行う義務までは認められない。

(3) 賃料の弁済供託が有効であると判断した判例
〔東京地裁平成15年2月19日判決〕(出典:判例マスタ〕

・賃貸人から賃貸用建物の管理を委託されていた会社に賃料を支払っていた賃借人が、賃貸人から直接に賃料の支払を求められた場合、債権者不確知を理由として行った弁済供託は有効とされた事例


結語

 以上のとおり、賃貸管理業者が賃貸人から賃料債権の取り立ての委任を受けて、賃料請求を行うことについては、上記の判例から、滞納等が発生してから、未払賃料の回収等を賃貸人が賃貸管理業者に委託したり債権譲渡することは弁護士法や信託法に反する恐れがありますが、当初から、賃貸借契約書上も賃貸人の委託した賃貸管理会社に対する賃料支払義務を明記しているような場合には、賃貸管理会社により滞納賃料の請求は契約上の債権に該当しますので、訴訟外で請求することは勿論、訴訟上も契約上の債権として請求しうる場合もあることが認められます。

 このため、賃貸管理業務における賃料等の回収・請求等にあたっては、弁護士法や信託法に違反しないように上記判例を参考にして頂ければと思います。

2008.06/24

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亀井英樹(かめいひでき)
東京弁護士会所属(弁護士)
昭和60年中央大学法学部卒業。平成4年司法試験合格。
平成7年4月東京弁護士会弁護士登録、ことぶき法律事務所入所。
詳しいプロフィールはこちら ≫

【著 作 等】
「新民事訴訟法」(新日本法規出版)共著
「クレームトラブル対処法」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「管理実務相談事例集」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「賃貸住宅の紛争予防ガイダンス」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修