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弁護士・亀井英樹先生の法律ノウハウ

賃貸住宅管理業登録制度活用のポイント(第1回)

【1】はじめに
平成23年9月30日に国土交通省より賃貸住宅管理業者登録規程(国土交通省告示第998号)及び賃貸住宅管理業務処理準則(国土交通省告示第999号)が公布され、同年12月1日から施行されることとなりました。
そして、平成23年10月25日には、賃貸住宅管理業者登録規程及び賃貸住宅管理業務処理準則の解釈・運用の考え方(以下「解釈・運用基準」といいます)も公表されるに至りました。
賃貸住宅管理業登録制度は、賃貸住宅管理業者の登録の手続等を定めた賃貸住宅管理業登録規定と、賃貸住宅管理業者が賃貸住宅管理業務を遂行する上で遵守すべき一定のルールを定めた賃貸住宅管理業処理準則からなっています。そこで、それぞれの規定について、この解釈・運用基準を参考にして、賃貸住宅管理業登録制度の活用のポイントについて説明をしたいと思います。
今回は、賃貸住宅完了登録規定について説明したいと思います。

【2】賃貸住宅管理業者登録規定について

  1.   I.第1条関係
    第1条は、賃貸住宅管理業登録制度の目的を定めています。
    「賃借人等」とは、賃借人及び賃貸人を指します。入居予定者は、賃借人に含まれませんが、業務等状況報告書等の閲覧は可能です。
    このことから、賃貸住宅管理業登録制度に登録すると業務状況報告書については、入居予定者すなわち一般の消費者に開示されることとなります。
  2. II.第2条関係
    第2条は、管理事務、基幹事務、賃貸住宅管理業、賃貸住宅管理業者の定義を定めています。
    1. 1.第1項「管理事務」等について
      「管理事務」とは、賃貸住宅の賃貸人から委託を受けて行う管理事務又は賃貸住宅を転貸する者(以下、「サブリース業者」という)が行う管理事務であって、基幹事務(家賃、敷金等の受領に係る事務、賃貸借契約の更新に係る事務又は賃貸借契約の終了に係る事務)のうち少なくとも一の事務を含むものをいいます。
      したがって、重要なことは、自ら所有する賃貸住宅を賃貸する賃貸業(貸家業)は登録対象とならず、また、基幹事務を受託せず建物・設備の保守点検業務等のみを行っている場合は、本条の「管理事務」には該当しません。
      「管理事務」の中には、基幹事務の他にも、建物・設備の点検、維持管理、賃借人等からの問い合わせや管理報告、苦情対応などを行う運営・調整業務等が含まれますが、登録を受けた賃貸住宅管理業者(以下「登録業者」という。)は、これらの事務を総合的に実施することで賃借人及び賃貸人の双方の信頼に応える賃貸住宅管理業を営むことが期待されていますが、本制度においては、基幹事務以外のその他の事務は規制の対象となる業務には該当せず、標準管理委託契約書その他の書類においても、その他の事務については考慮されておりません。したがって、これまで一般的に言われていた賃貸管理業務と賃貸住宅管理業登録制度の対象とする管理業務とは、業務の対象・範囲が異なりますので、賃貸住宅管理業登録制度を利用する場合には、これまでの契約書をどのように変更すればよいのかについて注意を払う必要があります。
      なお、本制度の趣旨が、管理業務に関して一定のルールを設け、賃借人等と管理業者との信頼関係を構築し、賃貸住宅管理業の適正化と紛争の未然防止に資することにあることなどに鑑み、再転貸や再々転貸などの複数の転貸において、サブリース業者間で締結される賃貸借契約については、本制度の対象外となります。ただし、その場合においても、転貸借を行う者でない賃貸人及び賃借人との賃貸借契約については、本制度の対象外にならないことに留意する必要があります。
      次に、「賃貸住宅」とは、人の居住の用以外に供する家屋の部分は含まないものをいいます。例えば、店舗併用住宅の場合、店舗部分については本制度の対象となりません。店舗併用住宅を一体として契約している場合においては、賃貸住宅部分については本制度に則った事務が求められることとなり、重要事項説明書を初めとして、本制度の適用のある事務と本制度の適用のない事務とが併存する場合には、管理委託契約書や重要事項説明書についても作成方法に注意が必要となってきます。もし、賃貸住宅を中心に業務を行っているのであれば、本制度の適用がない、店舗、事務所等の業務系の賃貸借についても、本制度において要求される契約書類等を準備しておくことが混乱を避ける上で望ましいと考えられます。
    2. 2.第2項「家賃、敷金等の受領に係る事務」について
      「家賃、敷金等の受領に係る事務」とは、家賃、敷金、共益費などの賃貸借契約に定めのある金銭の受領に係るものをいい、宅地建物取引業法における貸借の媒介又は代理業務として賃借人から敷金、家賃等を一時的に預かり、賃貸人や賃貸住宅管理業者等に送金する事務は含まれません。このように、宅建業法上の適用のある事務については本制度の業務から除かれています。
      サブリース業者の場合、基幹事務は、転借人(入居者)に対して行われるサブリース業者の事務(賃貸人として行う事務)を指すことから、家賃、敷金等の受領事務は、サブリース業者が転借人から家賃、敷金等を受領する事務を指します。本制度が、サブリース事業も対象とすること定められたものです。
      賃貸人の委託を受けて家賃債務保証を行う会社等(以下「保証会社等」という。)が家賃の受領を行う場合、当該事務が「家賃、敷金等の受領に係る事務」に該当するかについては次のとおり保証会社による賃貸人への送金についても一部基幹事務に該当する場合が有ります。
      1. (1)保証会社等が集金し、賃貸人又は管理業者に送金する場合
        賃貸人の委託を受けて保証会社等が家賃の集金を行い(カード決済を含む)、賃貸人又は管理業者に送金する場合は基幹事務に該当します。
      2. (2)再委託を受けた保証会社等が集金し、直接賃貸人に送金する場合
        賃貸人から家賃の受領事務を受託した管理業者から保証会社等が再委託を受けて家賃を集金し(カード決済含む)、直接賃貸人に送金する場合は基幹事務に該当します。
      3. (3)再委託を受けた保証会社等が集金し、管理業者に送金する場合
        賃貸人から家賃の受領事務を受託した管理業者から保証会社等が再委託を受けて集金し(カード決済を含む)、管理業者に送金する場合は基幹事務に該当しませんが、家賃滞納時に保証会社等が賃借人から直接家賃を集金して賃貸人に送金する場合、当該滞納家賃の受領については基幹事務に該当します。
      4. (4)保証会社等が代位弁済し、求償する場合
        家賃滞納時に、家賃債務保証契約等に基づき保証会社等が家賃を立て替えて代位弁済し、賃借人に求償する場合は基幹事務に該当しません。
    3. 3.第3項に規定する「賃貸住宅管理業」について
      本項の「業として行う」とは、賃貸住宅の管理事務を社会通念上事業の遂行とみることができる程度に行う状態を指すものであり、その判断は、報酬の有無にかかわらず、反復継続的に管理事務を行っているかどうか等について個別の事案を総合的に勘案して行うとされています。なお、反復継続性の判断については、契約行為を反復継続して行っているかどうかに加え、一の契約であってもこれに基づく業務実施の継続性について考慮する必要があることに留意する必要があります。
  3. III.第4条関係
    第4条は、登録の申請に当たって、国土交通大臣に提出する登録申請書に記載すべき必要な事項について定められています。
    1. 1.「事務所」について
      第1項第4号の「事務所」は、次のとおり営業の拠点となる施設としての実体を要することが要求されています。
      1. (1)本店又は支店(商人以外の者にあっては、主たる事務所又は従たる事務所)として商業登記簿等に登載されたもので、継続的に賃貸住宅管理業者の営業の拠点となる施設としての実体を有するものが該当し、賃貸住宅管理業を営んでいない支店は該当しません。なお、登記していない個人事業者にあっては、営業の本拠が本店に該当するものとされます。
      2. (2)(1)のほか、継続的に業務を行うことができる施設を有する場所で、賃貸住宅管理業に係る契約の締結又は履行に関する権限を有する使用人を置くものとされています。「継続的に業務を行うことができる施設を有する場所」とは、賃貸住宅管理業者の営業活動の場所として、継続的に使用することができ、社会通念上、事務所として認識される程度の形態を備えたものとされており、営業所としての実体があれば該当すると考えられます。また、「契約の締結又は履行に関する権限を有する使用人」とは、支店における支店長又は支配人に相当する者をいいます。
        なお、事務所の実態がない場合は、賃借人等と連絡対応を行うことができず、賃貸住宅管理業者として適切に管理業務を行うことが期待できないことから、登録を受けることができません。
    2. 2.「本人確認に利用することができる書類」について
      第3項第2号及び同項第3号の「本人確認に利用することができる書類」とは、犯罪による収益の移転防止に関する法律と同様に、次の書類を本人確認書類として取り扱うこととされていますので、等炉に当たっては、本人確認書類の準備が必要となります。
      ・運転免許証、健康保険証、国民年金手帳、児童扶養手当証書、母子健康手帳、住民基本台帳カード(氏名、住居、生年月日の記載のあるもの)、旅券、外国人登録証、その他官公庁から発行された書類等で氏名、住居、生年月日の記載のあるもの(顔写真のあるもの)
  4. IV.第8条関係
    第8条は業務及び財産の分別管理等の状況の国土交通大臣への報告について定められています。
    1. 1.第8条の趣旨
      第8条は、家賃等の受領を行う登録業者の業務状況や財務の分別管理等に関する状況を国土交通大臣が適切に把握するほか、当該状況を閲覧対象とすることにより、賃借人や賃貸人などが賃貸住宅や管理業者の選択に資する目的で設けたものです。賃貸住宅管理業が、建物所有者の大事な資産を預かり、その収益事業の根幹部分に携わることから、本制度においてもその重要性に鑑み定められたものです。第8条に基づく報告書面は、国土交通大臣が特定の管理方法を求めるものではなく、情報提供の仕組みを設けることにより、取引関係者が管理業者を適切に選択・判断できるようにするものであり、登録業者の経営規模や経営状況を審査することが目的ではないことに留意する必要がありますが、分別管理の方法は各管理業者の差別化を図る重要な手段になると考えられます。
      なお、報告書中、未記載の項目がある場合には、記載を求めることとされていますが、正当な理由がなくて報告を怠ったり、重要な事項について虚偽記載が判明したりしたときは、第12条に基づき、登録の抹消対象となりますので十分注意する必要があります。
    2. 2.「業務及び財産の分別管理等の状況」について
      業務及び財産の分別管理等の状況を報告する書類の記載内容については、各登録業者において毎事業年度の終了後3月以内に業務状況等を記載し、国土交通大臣に報告する必要がありますが、留意点は次のとおりである。
      1. ア.業務の状況
        業務の状況の記載についての考え方は、次のとおりであるが、報告内容により登録業者の経営規模や経営状況を判断するものではないことに留意する。
        1. (1)管理受託の実績について
          受託契約件数、委託賃貸人数、受託棟数及び受託戸数については、報告基準日を設定し、当日時点における受託契約件数等について記載するものとされています。
          報告基準日については、報告対象の事業年度の最終日である必要はなく、当該事業年度中に基準日が設定されていればよいとされています。
          委託賃貸人数は、管理受託契約を締結した相手方の賃貸人の数を記載するものとし、受託棟数については、例えば、ある賃貸マンションにおいて受託戸数が1戸しかない場合であっても、1棟とみなされます。
          受託契約金額(管理受託契約に基づき、登録業者が賃貸人から受領する金額(いわゆる管理報酬))は、当該事業年度中に受領した年間の受託契約金額の合計を記入するものとされています。
        2. (2)転貸借の管理実績について
          原契約件数(以下、「原契約」とはサブリース業者と賃貸人との間の賃貸借契約をいう。)、原契約賃貸人数、原契約棟数及び原契約戸数については、報告基準日を設定し、当日時点における原契約件数等について記載するものとされています。
          報告基準日及び原契約棟数についての考え方は、前記と同様です。
        3. (3)基幹事務の受託数について
          基幹事務の受託数は、他者に委託することなく登録業者自らが実施する基幹事務の対象賃貸住宅戸数(受託戸数及び原契約戸数)を、基幹事務の3分類ごとにそれぞれ記載するものとされています。
        4. (4)従事従業者数について
          従事従業者数は、賃貸住宅管理業に従事する従業者数を記載するものとされています。ここでいう賃貸住宅管理業に従事する従業者とは、例えば宅地建物取引業を兼務する従業者も含むものとされています。
        5. (5)その他報告事項について
          特段の報告事項があれば記載するものとされています。例えば、宅地建物取引主任者や管理業務主任者、マンション管理士の数や賃貸不動産管理に係る民間資格の取得者数等を記載することや、宅地建物取引業の免許等の番号、宅地建物取引業や管理業等の業歴、管理物件を取扱う地域、基幹事務以外の取扱管理事務、所属事業者団体を記載することなどが考えられます。
          例えば、日本賃貸住宅管理協会に所属していれば、それを記載するとか、賃貸不動産経営管理士の取得者数等を記載することが考えられます。また、賃貸管理業損害賠償保険に加入していることも管理業としての差別化を図るための記載事項になる考えられます。
      2. イ.財産の分別管理等の状況
        財産の分別管理等の状況の記載についての考え方は、次のとおりとされています。
        1. (1)受領した家賃等・敷金の分別管理
          記載例として、自社の集金専用口座において、入金家賃等を賃貸人ごとに勘定を明確に区分して管理し、定期的に各賃貸人に送金する方法などが考えられますが、業務処理準則第16条の規定に基づき、賃借人から受領した家賃が賃貸人へ送金されるまでの間、当該財産が適切に分別して管理されている状態が確認できるように措置されている旨を記載する必要があります。貸し主毎の専用口座を設けたり、送金額を報告したりする必要まではありませんが、会計ソフトで管理したり、貸し主毎に会計帳簿上の勘定を区分して、毎月決められた日に各貸し主に送金しているなど,家賃等を集金してから貸し主へ送金するまで,どのように管理されているかを分かりやすく確認できるようにする必要があります。
          賃貸人ごとに家賃の管理方法が異なる場合は、管理方法の種類について記載するものとされています。
        2. (2)その他保全措置等
          分別管理に際し、保全措置等を講じている場合にその方法を記載するものとされています。
          例えば、第三者機関を用い敷金を保全している旨、敷金を登録業者が管理することなく全て賃貸人が管理している旨などが考えられます。現在、第三者機関による敷金保全の方法としては、日本賃貸住宅管理協会が行っている預かり家賃保証制度への加入が挙げられます。

【3】登録規定に関するまとめ

以上のとおり、賃貸住宅管理業登録制度に参加し、同制度に登録されますと、「業務及び財産の分別管理等の状況」が公表されることとなります。今後、賃貸住宅市場は少子高齢化による供給の過大に伴い、市場競争がますます激化し、よりよい賃貸管理が求められることとなります。このため、賃貸住宅管理業登録制度に参加することを業務の負担の増大と捉えるのではなく、賃貸住宅の差別化のための有力なツールとして活用していただきたいと思います。そのためには、公表される「業務及び財産の分別管理等の状況」については、より差別化ができるような内容を是非とも盛り込んでいくことをお勧めします。
業務処理準則については、次回に譲りたいと思います。

2011.11/15

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亀井英樹(かめいひでき)
東京弁護士会所属(弁護士)
昭和60年中央大学法学部卒業。平成4年司法試験合格。
平成7年4月東京弁護士会弁護士登録、ことぶき法律事務所入所。
詳しいプロフィールはこちら ≫

【著 作 等】
「新民事訴訟法」(新日本法規出版)共著
「クレームトラブル対処法」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「管理実務相談事例集」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「賃貸住宅の紛争予防ガイダンス」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修