はじめに
不動産賃貸には入居者の入れ替わりがつきものです。その際、敷金・保証金の授受が行なわれますが、収入として、いつ・どれだけ計上すればいいかにはたと困る場合がでてきます。
今回は、その点について解説します。
敷金とは
敷金(保証金ともいいます)とは不動産、特に建物の賃貸借にあたって貸主の債権(未収賃料・修繕費)を保全するために貸主が預る金銭をいい、原則は返還すべき性格のものをいいます。これに対し権利金とは、借地権・借家権の対価の性格を持ち返還する必要がないものをいいます(権利金を受け取った場合の取扱いは前号をご覧ください)。ただし、権利金といっても実態は敷金である場合もありますので注意が必要です。関西地区ではこの敷金について一定割合を返還しない特約をつけることが多く、これを「敷引き」といいます。
返さなくていい金額が収入です
さて、入居者が決まり敷金を受け取る場合、その敷金の全額を収入計上しなければならないのでしょうか。
実は、敷金受領時の収入計上金額は賃貸借契約書の敷金の条項の内容によりケース・バイ・ケースとなります。
もっとも、計上すべき金額の考え方はいたってシンプルです。要は、入居者に対し返す必要がなくなった時に、その返さなくてよくなった金額を収入として計上すればよいということです。
では次に、敷金の条項例とともに具体的に見ていきましょう。
敷引きの金額が確定している場合
この例 I ・ II が一般的なパターンです。例 I
は「全額敷引き」とよくいいます。この条項によれば、受け取った時点で返還すべき金額がないことが確定しますので、受け取った時にその受け取った敷金全額を収入計上すべきことになります。
例 II
は「敷引き30万円」という言い方をします。この場合、受け取った時点で返還が不要になる金額30万円が確定しますので、その返還不要額30万円を収入計上すべきことになります。
この2例で賃貸住宅の契約書のほとんどがカバーされます。是非ご参考下さい。
こんな場合は
この例は店舗・事務所などの高額の賃貸物件によく見受ける契約内容です。いったん入居したテナントがすぐには出て行きにくい内容となっています。この場合もあわてる必要はありません。よく読めば、返還しなければいけない金額は解約するまでは確定しないことがわかります。したがって、収入に計上しなければならない金額は解約にならないかぎり生じません。そして、賃貸開始から4年以内に解約となった場合のみ、解約の時に返還しなかった金額を収入に計上すべきことになります。
この例はいかがでしょうか。例 III
とは逆に解約までの期間が延びれば敷金の返還額が減る契約です。入居したテナントとしては解約しやすい条件となっています。この場合もよく読めば返還しなければいけない金額は、賃貸開始から毎年敷金の2割ずつ確定していくことがわかります。したがって、収入に計上しなければならない金額も毎年敷金の2割ずつの100万円となります。
最後に
不動産所得では敷金の取扱いがよく税務調査の対象となります。また、敷引きの金額は大きくなることもありますので十分な注意が必要といえます。