インターネットの普及で、家族の株式取引も多くなってきました。また、上場株式等の譲渡損失を翌年に繰り越すためには確定申告が必須となります。
今回は、家族の方が株式取引について所得税の確定申告を行なう場合と、譲渡損が生じた場合の留意点について確認をしてみたいと思います。
株式取引と申告
1.特定口座と一般口座
証券会社に開く株式口座には一般口座と特定口座の2種類の口座があります。
一般口座とは個人の方がご自身で株式の譲渡所得の計算を行なう口座です。これに対し、特定口座とは上場株式等について証券会社が譲渡所得の計算をする口座です。また、特定口座は源泉徴収を選択した口座(源泉徴収口座)と選択していない口座とに分かれます。たいていの方はこの源泉徴収口座です。
一般口座と源泉徴収口座でない特定口座については確定申告が必要ですが、源泉徴収口座については確定申告が不要です。その名の通り、源泉徴収により税金が自動的に口座から納付され納税が完了しているためです。しかし、不要であるからといって確定申告が出来ないわけではありません。
2.申告出来る場合
源泉徴収口座について確定申告できる場合とは、所得税が安くなる場合です。
では、所得税が安くなる場合とはどんな場合でしょうか。一つは、複数の口座を持っている場合で、譲渡益を出している口座と譲渡損を出している口座がある場合です。この場合、確定申告により損益を通算することができ、所得税が減少します。また、医療費控除を受けるために確定申告することもできます。
申告すべきか否か
ところで、この確定申告においては本人が他の誰かの配偶者控除や扶養控除等の対象になっていないかを確認することが重要なポイントとなります。
先の複数の口座を持っている場合で、源泉徴収口座Aでは2百万円の譲渡益、源泉徴収口座Bでは42万円の譲渡損のとき。A口座では2百万円の7%の14万円の所得税が源泉徴収されています。この2口座を申告すれば損益通算により158万円(2百万円―42万円)が株式の譲渡所得となり、他に所得がないとすると基礎控除額(38万円)を引いた額120万円の7%、8万4千円が所得税額となり、5万6千円(14万円―8万4千円)が還付されます。ところで、この場合、この本人の合計所得金額(所得控除前の金額)が120万円となります。従って、合計所得金額が38万円を超えるため、配偶者等は、配偶者控除(扶養控除)の適用がなくなります。所得税の税率が20%の方の場合、適用がなくなることにより38万円の20%、7万6千円、所得税額が増加します。結果、世帯では差引2万円、所得税は増加してしまいます。
また、医療費控除を適用するために申告した場合、源泉徴収口座の譲渡益が80万円、医療費控除額が12万円とすると、本人自身は所得税額が2万1千円(30万円×7%)となり、還付は3万5千円となります。ただ、この場合も本人の合計所得金額は80万円となりますので、配偶者控除(扶養控除)を受けることが出来なくなり、所得税の税率が20%の方の場合、やはり世帯で4万1千円(76千円―35千円)、所得税は増加してしまいます。
このように、家族の方について配偶者控除や扶養控除が適用できなくなれば結果として損をしてしまうことも起こります。申告するか否かは世帯単位で検討することが必要です。
譲渡損が生じた場合の注意点
源泉徴収口座は証券会社が譲渡損益の計算、納税を自動的に行なってくれる口座です。
便利な口座ですが盲点があります。それは譲渡損がでた場合、確定申告をしないと譲渡損の繰越(上場株式等に限り3年間)が出来ない点です。しかも、その後も連続して確定申告をすることが必要です。
今年は新興市場の株価下落、サブプライムローン問題による株価の急落など、泣く泣く損切をされた方も多いのではないでしょうか。是非とも譲渡損の繰越の確定申告を忘れないでください。
終わりに
所得税では配偶者控除・扶養控除など、本人以外の所得の多寡により適否が決まる控除があります。この点に気をつけて世帯単位で税額計算をしてから確定申告を行ないましょう。