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特集記事

業界の動向

重要事項説明書のIT化が招く不動産業界の危機

皆さん、こんにちは。リプロス代表の松尾です。
随分と原稿を書くのをさぼっていました。6年ぶりの原稿です。今回、不動産業界に迫る危険を皆様に知って頂きたくて、緊急特集的なコンテンツとして、原稿を書きました。

今、不動産業界に、静かに大きな波が押し寄せようとしています。
その波の正体は、IT業界です。
このIT業界の進出により不動産業界の秩序ある世界を崩壊する危機に直面しています。


こう書くと私が変革を嫌う時代遅れの人間に聞こえるかもしれませんが、そうではありません。IT業界の力で不動産業界が良くなるのであれば大歓迎だと思っています。
私自身、96年に日本で初めて不動産会社のパソコンから、リアルタイムに賃貸物件の情報を更新できるポータルサイトを創りました。この時は、悪徳業者を排除した広告媒体を創りたくて始めたわけですが、つまり、ITによる業界の変革を嫌う者ではありません。むしろ、どうすればIT化によって業界が良くなるのか、不動産会社でサラリーマンをしている時からそんな事ばかりを考えている人間です。

ですから、余計にIT化によって、不動産業界の秩序が乱れる事に対して、黙っていることができず、皆様に聞いて頂きたいと思います。また、是非とも拡散もお願いしたいと思います。

松尾が国交省へ提出した意見書はこちら

では、不動産業界がどのような危機に直面しているのかを話す前に、国交省がいま取組んでいる事について、少し説明をさせて下さい。
今、国交省では、安倍内閣が2013年12月20日に発表した「IT利活用の裾野拡大のための規制制度改革集中アクションプラン」に基づき「IT化を活用した重要事項説明等のあり方に係る検討会」を行っています。
国土交通省のホームページによれば、『インターネット等を利用した、対面以外の方法による重要事項説明等について、具体的な手法や課題への対応策に関する検討する場として多方面の有識者からなる「ITを活用した重要事項説明等のあり方に係る検討会」を設置した』と書かれています。

これだけを読むと国交省が業界の事を考えて、積極的に主導しているかのように見えますが、実は、このプランを発案したのは国交省ではありません。内閣が発表したアクションプランよりも先に、楽天の三木谷社長が率いる一般社団法人新経済連盟が2013年11月14日に「不動産のインターネット取引の実現に必要な規制改革」というタイトルで既に発表しているのです。 その資料によれば、過去には医薬品が薬剤師による対面での販売が義務付けられていたが、今日ではインターネットによる販売が可能となった事を示し、不動産取引においても、インターネットで重説等の説明ができるようになれば、5つのメリットがあると謳われています。

1.不動産市場の活性化
情報量の増大、利便性の向上、仲介料金の低下、海外からの投資増加等により不動産市場(および建設投資)が活性化

2.消費者の利便性の向上
在宅で契約でき、遠方の不動産契約・高齢者・障害者・海外赴任者等の利便向上

3.十分な説明による消費者保護の充実
消費者のペースで説明が受けられるため、より冷静な判断が可能

4.不動産仲介業者の経営の効率化
繁閑の差が少なくなり、経営が効率化

5.宅建主任者の多様な働き方(在宅勤務等)の実現
子育てや介護などの理由で在宅勤務等を希望する宅建主任者のニーズに合致


これを初めて見たときには、流石、楽天の三木谷社長だと感心しました。ただ、様々な資料を読んでいくと、これらは、不動産業界に精通していない三木谷社長が考えたのではなく、楽天が大株主にもなっている不動産ポータルサイト「ホームズ」を運営するネクストの井上社長が中心になって取りまとめられたということが判りました。(国交省の第2回議事録を参照ください)
とはいうものの、いずれにせよ、目の付けどころが良いとは思いました。

ところが、です。新経済連盟の資料をさらに読み進めていくと、メリットの記載ばかりで、一切のデメリットや留意する点の記載がないため、深く考えるうちに大きな問題がある事に気付きました。それは、私だけではなく国交省の検討会でも、不動産業界の団体を代表する委員の方は、その問題について気付かれて意見をされていましたが、残念ながら会議の時間的制約もあり、上手く他の業界とは関係の委員に伝わっていません。
また、第3回議事録を読めばわかりますが、国交省が発表した中間とりまとめを作成する過程で、新経済連盟の事務局長の関委員(元楽天の執行役員)は不動産業界団体の意見とは、まったく異なる見解を持っておられるようで、この流れに押し流される危惧を感じます。
更に、私は業界団体の方が指摘した問題点以外にも問題を感じており、これらは、意見しないと国交省に伝わらないと思いましたので、意見書を作成する事にしました。

ここから、更に詳しく説明をすると話が長くなりますので、先に結論を申し上げます。
個人的には重要事項説明等を非対面で行えるようにするのは大賛成です。ただし、法人契約や外国からの投資目的の場合など、例外を認めるにしても、原則的には物件を案内した仲介業者が仲介する事が前提条件だと考えます。条件を付ける目的は、消費者である借主、買主、及び売主、貸主の保護です。なぜならば、物件を見ないで契約する消費者がいれば、後からトラブルになる事は不動産業界の方であれば、容易に想像ができると思います。

国交省の中間とりまとめのP2には、IT化によって新たな取引ニーズが生じ、市場が拡大する効果がもたらされる可能性があるとあります。これを書いた人がどのような市場を想像して書いたのかは不明ですが、もし、重説等が非対面によって可能になれば、恐らくネット専業の仲介業者が発生すると思います。また、案内係のような不動産の素人に案内させて、重説等は非対面でITを活用して行うような事が想像できます。
対面を好まず、非対面で取引を完結する消費者は確かにいると思いますが、それが、どのような結果を伴うのか?見ないで決めることにより、入居後に「イメージと違う」という人が現れたり、「写真と違う」や、「実測したら広さが違う」、「隣の工場が煩い、臭い」等々、様々な理由で、契約の無効を主張するようなトラブルが発生する事は容易に想像できます。
また、世の中には悪徳な業者は存在しますので、意図的に不都合な事実を隠ぺいし、退去しても仲介手数料は返金されずに消費者が泣き寝入りするようなトラブルも考えられます。
その他、例えば、消費者を案内した業者はA社でしたが、自らの判断で契約するとトラブルになると判断し仲介しない場合に、消費者がインターネット専業の仲介業者B社で取引をするような事も想定できます。B社は案内もせずに仲介手数料を得、その上、誰も消費者を確認することなく取引した結果、A社の判断通り、トラブルを起こすような人物であれば、家主や管理会社、近隣の住民までも被害を受ける可能性があります。
また、不動産の素人である案内係が案内して、重説を本部で一括して行うような仲介業のあり方が生まれたらどうなるでしょうか?売買後や賃貸の入居後に発生するようなトラブルに対して即座に対応できるでしょうか?東京のネット専業の仲介業者に大阪のトラブルを解決するができるでしょうか?私には無理があると思います。

家電量販店で家電を確認して、ネットショップ最安値を探して注文する消費者は多くいますが、賃貸の場合は借りて終わり、貸して終わりではありませんし、契約が始まりで、解約まで関係が続きます。仲介業者はこれまで地元で悪い噂がでると商売に支障もでますし、元々、地元住民とも交流をもった地元密着型の経営をしている不動産業者が多く、トラブルが発生した場合には、仲介した責任として、宅建業法上対応する義務が無くても、様々なトラブルで借主または、買主と貸主または、売主の間に立ち、対応し円滑にトラブルを解決してきました。それでも、重説関係のトラブルは絶えません。そこにネット専業の仲介業者が参入したらどうなるでしょうか?

IT化によって、非対面での取引を国交省に提案している勢力は、不動産業者ではありませんから、こうした想像はできないのかもしれませんが、だからこそ、不動産業界に関わる人達がしっかりと、国交省で行われている検討会に非対面による取引のトラブルを防止する為にしっかりと意見を伝えないといけません。

私は、非対面による重要事項説明等には賛成ですが、無条件ではありません。検討会に意見として申し上げたいことを整理すると以下の通りです。

1)消費者や家主の保護
2)物件を案内もせずに契約する事によって発生するトラブルの防止
3)原則、対面による重要事項説明
4)電子署名などに限定して、非対面の重説等を認めるのではなく、郵送やFAXでの重説を届けて電話で説明するような事も同時に認める

新経済連盟の方々は、医薬品や金融商品と同じように考えているのかもしれませんが、不動産業界での実務の経験がない以上、それも致し方ないことかもしれません。またある意味、IT業界から見れば、不動産業界は、魅力ある市場に見えるのかもしれませんが、IT業界がネット専業銀行や旅行代理店、ネットショップを行うのとは、まったく違うのだという事を他の委員会の皆さんにも知って頂き、消費者をはじめとする取引関係者がトラブルに巻き込まれないような制度設計を願いたいと思います。

詳細・関連

国交省
「ITを活用した重要事項説明等のあり方に係る検討会」中間とりまとめの公表及び今後の議論の方向性についての意見の募集について.

http://www.mlit.go.jp/report/press/totikensangyo16_hh_000107.html

 

議事録などの資料は以下のURLにあります。

http://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/sosei_const_tk3_000092.html

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