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弁護士・亀井英樹先生の法律ノウハウ

民法改正試案における保証契約及び契約締結の改正点について

出典:法務省法制審議会民法部会
http://www.moj.go.jp/shingi1/shingikai_saiken.html


第1 民法改正試案の内容の続き
平成25年3月11日、法制審議会民法部会において、民法改正に関する中間試案が公表されました。賃貸業務にとって、民法の賃貸借契約の内容が変更されることになれば業務に重要な影響を及ぼすことになります。
3/19の記事では賃貸借契約についての改正点の説明をしましたが、今回は、賃貸実務において重要な保証契約の改正点及び、契約の締結に関する改正点について説明したいと思います。

第2 保証債務

    1. 保証債務の付従性(民法第448条関係)
      保証債務の付従性に関する民法第448条の規律を維持した上で、新たに次のような規律を付け加えるものとする。
      1. (1)主たる債務の目的又は態様が保証契約の締結後に減縮された場合には、保証人の負担は、主たる債務の限度に減縮されるものとする。
      2. (2)主たる債務の目的又は態様が保証契約の締結後に加重された場合には、保証人の負担は、加重されないものとする。

      (説明)

      本文(1)は、民法第448条の解釈として、保証契約の締結後に主債務の目的又は態様が減縮された場合には、保証人の負担もそれに応じて減縮されるとされている(大連判明治37年12月13日民録10輯1591頁参照)ことから、これを明文化するものです。 本文(2)は、保証契約の締結後に主債務の目的又は態様が加重された場合の処理について、一般的な理解を明文化するものです。



    1. 主たる債務者の有する抗弁(民法第457条第2項関係)
      民法第457条第2項の規律を次のように改めるものとする。
      1. (1)保証人は、主たる債務者が主張することができる抗弁をもって債権者に対抗することができるものとする。
      2. (2)主たる債務者が債権者に対して相殺権、取消権又は解除権を有するときは、これらの権利の行使によって主たる債務者が主たる債務の履行を免れる限度で、保証人は、債権者に対して債務の履行を拒むことができるものとする。

      (説明)
      主たる債務者が債権者に対して抗弁権を有している場合について、主たる債務者の相殺のみを定めている民法第457条第2項を改め、類似の状況を規律する会社法第581条の表現を参考にして、規律の明確化を図るものです。
      本文(1)は、主たる債務者が債権者に対して抗弁権を有している場合全般を対象として、一般的な理解(最判昭和40年9月21日民集19巻6号1542頁参照)を明文化するものであり、会社法第581条第1項に相当します。
      本文(2)は、主たる債務者が債権者に対して相殺権を有する場合のほか、取消権又は解除権を有する場合に関する近時の一般的な理解を明文化するものであり、会社法第581条第2項に相当します。

    2. 保証人の求償権
        1. (1)託を受けた保証人の求償権(民法第459条・第460条関係)民法第459条及び第460条の規律を基本的に維持した上で、次のように改めるものとする。
          1. ア.民法第459条第1項の規律に付け加えて、保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、主たる債務の期限が到来する前に、弁済その他自己の財産をもって債務を消滅させるべき行為をしたときは、主たる債務者は、主たる債務の期限が到来した後に、債務が消滅した当時に利益を受けた限度で、同項による求償に応ずれば足りるものとする。
          2. イ.民法第460条第3号を削除するものとする。

          (説明)

          本文アは、委託を受けた保証人が主たる債務の期限の到来前に弁済等をした場合の求償権について、そのような弁済等は委託の趣旨に反するものと評価できることから、委託を受けない保証人の求償権(民法第462条第1項)と同様の規律とするものです。

          本文イは、民法第460条第3号の事前求償権の発生事由(債務の弁済期が不確定で、かつ、その最長期をも確定することができない場合において、保証契約の後10年を経過したとき)には、そもそも主たる債務の額すら不明であって事前求償になじむ場面ではないという問題点が指摘されていることから、同号を削除するものです。


      1. (2)保証人の通知義務
        民法第463条の規律を次のように改めるものとする。
        1. ア.保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、保証人が弁済その他自己の財産をもって主たる債務者にその債務を免れさせる行為をしたにもかかわらず、これを主たる債務者に通知することを怠っている間に、主たる債務者が善意で弁済その他免責のための有償の行為をし、これを保証人に通知したときは、主たる債務者は、自己の弁済その他免責のためにした行為を有効であったものとみなすことができるものとする。
        2. イ.保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、主たる債務者が弁済その他自己の財産をもって債務を消滅させるべき行為をしたにもかかわらず、これを保証人に通知することを怠っている間に、保証人が善意で弁済その他免責のための有償の行為をし、これを主たる債務者に通知したときは、保証人は、自己の弁済その他免責のためにした行為を有効であったものとみなすことができるものとする。
        3. ウ.保証人が主たる債務者の委託を受けないで保証をした場合(主たる債務者の意思に反して保証をした場合を除く。)において、保証人が弁済その他自己の財産をもって主たる債務者にその債務を免れさせる行為をしたにもかかわらず、これを主たる債務者に通知することを怠っている間に、主たる債務者が善意で弁済その他免責のための有償の行為をしたときは、主たる債務者は、自己の弁済その他免責のためにした行為を有効であったものとみなすことができるものとする。

      (説明)

      保証人の事前の通知義務(民法第463条第1項による同法第443条第1項前段の準用)は、廃止するものとしています(連帯債務者間の事前の通知義務の廃止について前記第16、4(2)参照)。委託を受けた保証人については、履行を遅滞させてまで主たる債務者への事前の通知をする義務を課すのは相当ではないという問題点が指摘されており、また、委託を受けない保証人については、主たる債務者が債権者に対抗することのできる事由を有していた場合には、事前の通知をしていたとしてもその事由に係る分の金額については求償をすることができない(同法第462条第1項、第2項)のであるから、これを義務づける意義が乏しいという問題点が指摘されていることを考慮したものです。

      その上で、本文アは、委託を受けた保証人と主たる債務者との間の事後の通知義務に関する規律として、先に弁済等をした保証人が事後の通知をする前に、後に弁済等をした主たる債務者が事後の通知をした場合には、主たる債務者は、自己の弁済等を有効とみなすことができるものとしています。委託を受けた保証人に関して、連帯債務者間の事後の通知義務の見直し(前記第16、4(2))と同様の見直しをする趣旨です。

      本文イは、委託を受けた保証人がある場合に、先に弁済等をした主たる債務者が事後の通知をする前に、後に弁済等をした保証人が事後の通知をしたときについて、保証人は、自己の弁済等を有効とみなすことができるものとしています。現行の民法第463条第2項に相当するものです。

      本文ウは、主たる債務者の委託を受けないが、その意思に反しないで保証をした保証人の事後の通知義務に関して、現行の民法第443条第2項(同法第463条第1項で保証人に準用)の規律を維持するものです。

      なお、主たる債務者の意思に反して保証をした保証人については、事後の通知義務を廃止するものとしています。この保証人は、事後の通知をしたとしても、主たる債務者が求償時までに債権者に対抗することのできる事由を有していた場合には、その事由に係る分の金額については求償をすることができない(民法第462条第2項)のであるから、事後の通知を義務づける意義が乏しいという問題点が指摘されていることによります。



    1. 連帯保証人に対する履行の請求の効力(民法第458条関係)
      連帯保証人に対する履行の請求は、当事者間に別段の合意がある場合を除き、主たる債務者に対してその効力を生じないものとする。
      (注)連帯保証人に対する履行の請求が相対的効力事由であることを原則としつつ、主たる債務者と連帯保証人との間に協働関係がある場合に限りこれを絶対的効力事由とするという考え方がある。

      (説明)

      民法第458条は、連帯債務者の一人について生じた事由の効力が他の連帯債務者にも及ぶかどうかに関する同法第434条から第440条までの規定を連帯保証に準用しているが、主債務者について生じた事由の効力に関しては、保証債務の付従性によって保証人にも及ぶことから、同法第458条の規定は、専ら連帯保証人について生じた事由の効力が主債務者にも及ぶかどうかに関するものと解されています。

      そして、連帯保証人に対する履行の請求の効力が主たる債務者にも及ぶこと(同法第458条、第434条)に対しては、連帯保証人は主たる債務者の関与なしに出現し得るのであるから、主たる債務者に不測の損害を与えかねないという問題点が指摘されています。そこで、当事者間に別段の合意がない場合には、連帯保証人に対する履行の請求は、主たる債務者に対してその効力を生じないものとしています。

      この点に関しては、相対的効力事由であることを原則としつつ、連帯保証人と主たる債務者との間に請求を受けたことの連絡を期待できるような協働関係がある場合に限り絶対的効力事由とする旨の規定に改めるという考え方があり、これを(注)で取り上げています。

      なお、連帯債務に関する民法第434条についても、以上と同様の見直しが検討されています。



    1. 根保証
      1. (1)民法第465条の2(極度額)及び第465条の4(元本確定事由)の規律の適用範囲を拡大し、保証人が個人である根保証契約一般に適用するものとする。
      2. (2)民法第465条の3(元本確定期日)の規律の適用範囲を上記(1)と同様に拡大するかどうかについて、引き続き検討する。
      3. (3)一定の特別な事情がある場合に根保証契約の保証人が主たる債務の元本の確定を請求することができるものとするかどうかについて、引き続き検討する。

      (説明)

      本文(1)は、現在は貸金等根保証契約のみを対象としている民法第465条の2(極度額)と同法第465条の4(元本確定事由)の規律について、その適用範囲を拡大し、主たる債務の範囲に貸金等債務が含まれないものにまで及ぼすものです。根保証契約を締結する個人にとって、その責任の上限を予測可能なものとすること(極度額)や、契約締結後に著しい事情変更に該当すると考えられる定型的な事由が生じた場合に、その責任の拡大を防止すべきこと(元本確定事由)は、貸金等債務が含まれない根保証にも一般に当てはまる要請であると考えられるからです。

      本文(2)は、民法第465条の3(元本確定期日)の規律の適用範囲の拡大について、引き続き検討すべき課題として取り上げるものです。元本確定期日の規律については、例えば、建物賃貸借の保証に関して、賃貸借契約が自動更新されるなどして継続しているのに根保証契約のみが終了するのは妥当でないなどの指摘があることから、仮に元本確定期日の規律の適用範囲を拡大するとしても、一定の例外を設ける必要性の有無及び例外を設ける場合の基準等について、更に検討を進める必要があるからです。

      なお、民法第465条の5(求償権の保証)については、本文(1)(2)の検討を踏まえた所要の見直しを行うことになると考えられます。

      本文(3)は、主債務者と保証人との関係、債権者と主債務者との関係(取引態様)、主債務者の資産状態に著しい事情の変更があった場合など、一定の特別な事情がある場合に根保証契約の保証人が主たる債務の元本の確定を請求する権利(いわゆる特別解約権)を有する旨の規定を設けるかどうかについて、引き続き検討すべき課題として取り上げるものです。後記6の検討課題とも関連するが、仮に特別解約権に関する規定を設ける必要があるとされた場合には、その具体的な要件の定め方について、更に検討を進める必要があるからです。



  1. 保証人保護の方策の拡充
      1. (1)個人保証の制限
        次に掲げる保証契約は、保証人が主たる債務者の[いわゆる経営者]であるものを除き、無効とするかどうかについて、引き続き検討する。
        1. ア.主たる債務の範囲に金銭の貸渡し又は手形の割引を受けることによって負担する債務(貸金等債務)が含まれる根保証契約であって、保証人が個人であるもの
        2. イ.債務者が事業者である貸金等債務を主たる債務とする保証契約であって、保証人が個人であるもの

        (説明)

        保証契約は、不動産等の物的担保の対象となる財産を持たない債務者が自己の信用を補う手段として、実務上重要な意義を有しているが、その一方で、個人の保証人が必ずしも想定していなかった多額の保証債務の履行を求められ、生活の破綻に追い込まれるような事例が後を絶たないことから、原則として個人保証を無効とする規定を設けるべきであるなどの考え方が示されています。

        これを踏まえ、民法第465条の2第1項にいう貸金等根保証契約(本文ア)と、事業者の貸金等債務(同項参照)を主たる債務とする個人の保証契約(本文イ)を適用対象として個人保証を原則的に無効とした上で、いわゆる経営者保証をその対象範囲から除外するという案について、引き続き検討すべき課題として取り上げています。

        適用対象とする保証契約の範囲がアとイに掲げるものでよいかどうか(例えば、イに関しては、債務者が事業者である債務一般を主たる債務とする保証契約であって、保証人が個人であるものにその範囲を拡大すべきであるという意見がある)、除外すべき「経営者」をどのように定義するか等について、更に検討を進める必要があるとされています。


      1. (2)契約締結時の説明義務、情報提供義務事業者である債権者が、個人を保証人とする保証契約を締結しようとする場合には、保証人に対し、次のような事項を説明しなければならないものとし、債権者がこれを怠ったときは、保証人がその保証契約を取り消すことができるものとするかどうかについて、引き続き検討する。
        1. ア.保証人は主たる債務者がその債務を履行しないときにその履行をする責任を負うこと。
        2. イ.連帯保証である場合には、連帯保証人は催告の抗弁、検索の抗弁及び分別の利益を有しないこと。
        3. ウ.主たる債務の内容(元本の額、利息・損害金の内容、条件・期限の定め等)
        4. 工.保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合には、主たる債務者の[信用状況]

        (説明)
        契約締結時の説明義務・情報提供義務に関する規定を設けることについて、引き続き検討すべき課題として取り上げたものであり、前記(1)の検討結果を踏まえた上で、更に検討を進める必要がある。取り分け主たる債務者の「信用状況」(本文エ)に関しては、債権者が主たる債務者の信用状況を把握しているとは限らず、仮に把握していたとしても企業秘密に当たるという意見がある一方で、契約締結時に債権者が知っているか、又は容易に知ることができた主たる債務者の財産状態(資産、収入等)や、主たる債務者が債務を履行することができなくなるおそれに関する事実(弁済計画等)を説明の対象とすることを提案する意見があったことなどを踏まえて、説明すべき要件とその具体的内容等について、更に検討する必要があるとされています。

      2. (3)主たる債務の履行状況に関する情報提供義務
        事業者である債権者が、個人を保証人とする保証契約を締結した場合には、保証人に対し、以下のような説明義務を負うものとし、債権者がこれを怠ったときは、その義務を怠っている間に発生した遅延損害金に係る保証債務の履行を請求することができないものとするかどうかについて、引き続き検討する。
        1. ア.債権者は、保証人から照会があったときは、保証人に対し、遅滞なく主たる債務の残額[その他の履行の状況]を通知しなければならないものとする。
        2. イ.債権者は、主たる債務の履行が遅延したときは、保証人に対し、遅滞なくその事実を通知しなければならないものとする。

        (説明)

        主債務についての期限の利益の喪失を回避する機会を保証人に付与するために、主債務者の返済状況を保証人に通知することを債権者に義務付ける等の方策について、引き続き検討すべき課題として取り上げたものです。前記(1)の検討結果を踏まえた上で、主たる債務者の履行状況などに関して説明すべき要件とその具体的内容等について、更に検討を進める必要があるとされています。


      1. (4)その他の方策
        保証人が個人である場合におけるその責任制限の方策として、次のような制度を設けるかどうかについて、引き続き検討する。
        1. ア.裁判所は、主たる債務の内容、保証契約の締結に至る経緯やその後の経過、保証期間、保証人の支払能力その他一切の事情を考慮して、保証債務の額を減免することができるものとする。
        2. イ.保証契約を締結した当時における保証債務の内容がその当時における保証人の財産・収入に照らして過大であったときは、債権者は、保証債務の履行を請求する時点におけるその内容がその時点における保証人の財産・収入に照らして過大でないときを除き、保証人に対し、保証債務の[過大な部分の]履行を請求することができないものとする。

        (説明)

        保証契約については、特に情義に基づいて行われる場合には、保証人が保証の意味・内容を十分に理解したとしても、その締結を拒むことができない事態が生じ得ることが指摘されており、保証人が個人である場合におけるその責任制限の方策を採用すべきであるとの考え方が示されています。

        これについての立法提案として、本文アでは身元保証に関する法律第5条の規定を参考にした保証債務の減免に関するものを取り上げています。これは、保証債務履行請求訴訟における認容額の認定の場面で機能することが想定されており、本文イではいわゆる比例原則に関するものを取り上げています。

        これらの方策は、個人保証の制限の対象からいわゆる経営者保証を除外した場合(前記(1)参照)における経営者保証人の保護の方策として機能することが想定されるものです。

      もっとも、以上については、前記(1)の検討結果を踏まえる必要があるほか、それぞれの具体的な制度設計と判断基準等について、更に検討を進める必要があるとされています。

第3 契約に関する基本原則等

    1. 契約内容の自由
      契約の当事者は、法令の制限内において、自由に契約の内容を決定することができるものとする。


      (説明)
      契約自由の原則のうち契約内容を決定する自由について、新たに明文の規定を設けるものである。いわゆる契約自由の原則について民法は明文の規定を設けていないが、これが契約に関する基本原則の一つであることは異論なく認められています。
      このような基本原則は、できる限り条文に明記されることが望ましいと考えられており、他方、契約内容を決定する自由は、単に原則や理念であるにとどまらず、契約内容が当事者の合意によって定まるという私法上の効果を持つものであり、比較的条文化になじみやすいと考えられます。
      以上を考慮して、本文では、契約自由の原則のうち契約内容を決定する自由のみを取り上げ、規定を設けることとしています。

    2. 履行請求権の限界事由が契約成立時に生じていた場合の契約の効力契約は、それに基づく債権の履行請求権の限界事由が契約の成立の時点で既に生じていたことによっては、その効力を妨げられないものとする。
      (注)このような規定を設けないという考え方がある。


      (説明)
      契約に基づく債務の履行が契約成立時に既に物理的に不可能になっていた場合など、履行請求権の限界事由(前記第9、2)が契約成立時に既に生じていた場合であっても、そのことのみによっては契約の効力は否定されない旨の規定を新たに設けるものです。
      そのような場合に契約が有効であるかどうかは一律に定まるものではなく、当事者が履行請求の可能性についてどのようなリスク分配をしたかに委ねるべきであるという考え方に基づきます。このような規定の下でも、履行請求権の限界事由が生ずることが解除条件となっている場合には当該契約は無効となる(民法第131条第1項参照)ほか、履行請求権の限界事由が生じていないと当事者が信じて契約を締結した場合には錯誤を理由に当該契約が無効になる場合があり得ます。
      これに対し、原始的に履行請求権の限界事由が生じていた場合は、実務上は契約は無効であると考えられていることなどを理由に、本文のような規定を設けないという考え方があり、これを(注)で取り上げています。

    3. 付随義務及び保護義務
      1. (1)契約の当事者は、当該契約において明示又は黙示に合意されていない場合であっても、相手方が当該契約によって得ようとした利益を得ることができるよう、当該契約の趣旨に照らして必要と認められる行為をしなければならないものとする。
      2. (2)契約の当事者は、当該契約において明示又は黙示に合意されていない場合であっても、当該契約の締結又は当該契約に基づく債権の行使若しくは債務の履行に当たり、相手方の生命、身体、財産その他の利益を害しないために当該契約の趣旨に照らして必要と認められる行為をしなければならないものとする。
        (注)これらのような規定を設けないという考え方がある。

      (説明)
      本文(1)は、契約の当事者が、当事者間で合意された義務のほか、相手方が契約を通じて獲得することを意図した利益を獲得することができるために必要な行為をする義務(付随義務)を負う旨の明文の規定を設けるものです。
      本文(2)は、契約の当事者が、契約の締結、債権の行使又は債務の履行に当たり、当事者が契約を通じて獲得することを意図した利益ではなく、相手方の生命・身体・財産などその他の利益を害しないように必要な行為をする義務(保護義務)を負う旨の明文の規定を設けるものである契約の当事者がこれらの義務を負うことについて、民法上は信義則以外に規定が設けられていないが、個別の事実関係に応じて契約の当事者がこれらの義務を負うことを認めた裁判例も多く、また、学説上も支持されています。
      もっとも、このような規定は民法第1条第2項と重複し、敢えて規定を設ける必要はないなどとして、規定を設けないという考え方もあり、これを(注)で取り上げています。

    4. 信義則等の適用に当たっての考慮要素
      消費者と事業者との間で締結される契約(消費者契約)のほか、情報の質及び量並びに交渉力の格差がある当事者間で締結される契約に関しては、民法第1条第2項及び第3項その他の規定の適用に当たって、その格差の存在を考慮しなければならないものとする。
      (注)このような規定を設けないという考え方がある。また、「消費者と事業者との間で締結される契約(消費者契約)のほか、」という例示を設けないという考え方がある。


    5. (説明)

      消費者契約を始めとして、契約の当事者間に情報や交渉力の格差があるものに関しては、従来から、信義則を規定する民法第1条第2項、権利の濫用を規定する同条第3項などの一定の抽象性を備えた規定の解釈・適用に当たって、その格差の存在も一つの考慮要素とされてきた。具体的には、当事者間の情報、交渉力等に格差がある場合に、これを放置することが妥当な結論を導かないと考えられるときは、信義則上の義務が生じたり、権利の行使が濫用に当たるものとして阻止されることがあります。

      今日においては、民法の適用場面のうちの多くは、消費者契約その他の格差のある当事者間の契約であることにかんがみ、上記のような考慮が必要であることを明らかにする規定を設けるものです。

    これに対して、内容の明確性や実務的な有用性に疑問があるとしてこのような規定を設けるべきでないという考え方があり、また、例示として消費者契約を挙げるべきでないという考え方があります。これらを(注)で取り上げています。

第4 契約交渉段階

    1. 契約締結の自由と契約交渉の不当破棄
      契約を締結するための交渉の当事者の一方は、契約が成立しなかった場合であっても、これによって相手方に生じた損害を賠償する責任を負わないものとする。ただし、相手方が契約の成立が確実であると信じ、かつ、契約の性質、当事者の知識及び経験、交渉の進捗状況その他交渉に関する一切の事情に照らしてそのように信ずることが相当であると認められる場合において、その当事者の一方が、正当な理由なく契約の成立を妨げたときは、その当事者の一方は、これによって相手方に生じた損害を賠償する責任を負うものとする。
      (注)このような規定を設けないという考え方がある。

      (説明)

      契約を締結するための交渉が開始されたが、結果的に契約の成立に至らなかったとしても、交渉の当事者は、互いに、相手方に対して契約が成立しなかったことによる損害を賠償する義務を負わないのが原則であり、本文の第1文は、この原則を明らかにするものです。

      もっとも、契約交渉の一方の当事者が契約の成立が確実であると信じて費用を支出した後に、他方の当事者が正当な理由なく契約締結を拒絶した場合などには、契約の締結を拒絶した当事者が相手方に対して損害賠償責任を負う場合があります。

      このように、契約を締結するかどうかが自由であることに対する信義則上の制約があることは、裁判例によっても認められ、学説上も支持されています。

      そこで、これを踏まえ、本文の第2文(ただし書)では、契約交渉の当事者が契約の成立が確実であると信じ、かつ、そのように信ずることが相当であると言える段階に至っていた場合に、その後に他方の当事者が正当な理由なく契約の成立を妨げたときは、それによって生じた損害を賠償しなければならないこととしています。

      契約の成立を妨げるとは、典型的には、交渉の当事者が自ら契約の締結を拒絶した場合を指しますが、交渉の当事者が不誠実な交渉態度に終始したために、相手方が契約の締結を断念せざるを得なくなった場合も含まれます。

      以上に対して、このような規定を設けるべきでないという考え方もあり、それを(注)で取り上げています。



    1. 契約締結過程における情報提供義務
      契約の当事者の一方がある情報を契約締結前に知らずに当該契約を締結したために損害を受けた場合であっても、相手方は、その損害を賠償する責任を負わないものとする。ただし、次のいずれにも該当する場合には、相手方は、その損害を賠償しなければならないものとする。
      1. (1)相手方が当該情報を契約締結前に知り、又は知ることができたこと。
      2. (2)その当事者の一方が当該情報を契約締結前に知っていれば当該契約を締結せず、又はその内容では当該契約を締結しなかったと認められ、かつ、それを相手方が知ることができたこと。
      3. (3)契約の性質、当事者の知識及び経験、契約を締結する目的、契約交渉の経緯その他当該契約に関する一切の事情に照らし、その当事者の一方が自ら当該情報を入手することを期待することができないこと。
      4. (4)その内容で当該契約を締結したことによって生ずる不利益をその当事者の一方に負担させることが、上記(3)の事情に照らして相当でないこと
        (注)このような規定を設けないという考え方がある。

      (説明)

      契約を締結するかどうかの判断の基礎となる情報は、各当事者がそれぞれの責任で収集すべきであり、ある情報を知らずに契約を締結したことによって損害を受けたとしても、相手方は、そのことによって何ら責任を負わないのが原則です。これが原則であることには異論がなく、本文の第1文は、これを明文化した規定を新たに設けるものです。

      もっとも、この原則に対する例外として、当事者の属性等によっては、個別の事実関係に応じて、信義則に基づき、相手方がその当事者の一方に対して情報を提供しなければならないとした裁判例も多く、また、このような義務が生ずる場合があることは学説上も支持されてきました。本文の第2文(ただし書)は、これらの裁判例等を踏まえ、交渉の当事者の一方に対して相手方が情報提供義務を負う場合がある旨の規定を新たに設けるものです。

      情報提供義務が発生するための要件として、(1)情報を提供すべき当事者が問題となる情報を知り、又は知ることができたこと、(2)情報の提供を受けるべき当事者がその情報を知っていたら全く契約を締結しないか、その条件では契約を締結しなかったことを、情報を提供すべき当事者が知ることができたこと、(3)情報の提供を受けるべき当事者が自ら情報を入手することを期待できないこと、(4)その当事者の一方に不利益を負担させることが相当でないことという四つを掲げています。また、情報提供義務違反の効果としては、損害賠償を想定しています。

    情報提供義務に関する規定を設けることに対しては、契約交渉における当事者の関係は多様であって、一律の規定を設けるのは困難であることから、規定を設けないという考え方があり、この考え方を(注)で取り上げています。

第5 契約の解釈

    1. 契約の内容について当事者が共通の理解をしていたときは、契約は、その理解に従って解釈しなければならないものとする。
    2. 契約の内容についての当事者の共通の理解が明らかでないときは、契約は、当事者が用いた文言その他の表現の通常の意味のほか、当該契約に関する一切の事情を考慮して、当該契約の当事者が合理的に考えれば理解したと認められる意味に従って解釈しなければならないものとする。
    3. 上記1及び2によって確定することができない事項が残る場合において、当事者がそのことを知っていれば合意したと認められる内容を確定することができるときは、契約は、その内容に従って解釈しなければならないものとする。
      (注)契約の解釈に関する規定を設けないという考え方がある。また、上記3のような規定のみを設けないという考え方がある。

      (説明)

      契約をめぐる紛争には契約の解釈によって解決が図られるものが少なくないが、民法には契約の解釈に関する規定が設けられていません。本文1から3までは、契約の解釈という作業の重要性に鑑み、これに関する基本的な原則を新たに規定するものです。

      本文1は、契約の内容についての理解が当事者間で共通しているときは、契約は、契約書の記載や口頭での会話における表現が一般にどのような意味で理解されているかにかかわらず、当事者の共通の理解に従って解釈しなければならないという最も基本的な原則を明文化するものです。

      本文2は、契約の意味について当事者が共通の意味で理解していたかどうかが明らかでない場合における解釈の原則を定めるものです。この場合には、当事者が契約の締結に当たって用いた契約書の記載や口頭での会話における表現が通常どのように理解されているかが重要な考慮要素となるが、これにそのまま従うのではなく、当該契約の個別の事情を踏まえて、当事者がその表示をどのように理解するのが合理的かを基準とすることとしています。

      本文3は、契約が成立したと認められる場合において、本文1及び2によっても契約内容を確定することができない事項が残る場合における契約解釈(いわゆる補充的解釈)の基準を取り上げるものです。

      契約内容のうち、その点について合意がなければ契約が成立したと認められない事項について、本文1及び2によってもその内容を確定することができないときは、契約の成立は認められません。これに対し、契約の成立に必要な事項以外の事項について、本文1及び2によってもその内容を確定することができないときは、その内容を補充することが必要になります。例えば、当事者が合意していなかった事項について紛争が生じた場合が考えられますが、これらの場合にも、慣習、任意規定、条理など、一般的な場面を想定して設けられたルールを直ちに適用するよりも、まず、当該契約に即した法律関係を形成することを考えることが契約制度の趣旨に合致することから、本文3は、契約内容を確定することができない事項があることを当事者が知り、その事項について合意をするとすればどのような合意をすると考えられるかが確定することができるのであれば、その合意の内容に従って契約を解釈するという考え方に従って規定を設けることとしています。

    以上に対し、契約の解釈に関する規定は解釈の硬直化を招くとして、設けるべきではないとの考え方があるほか、本文3は必ずしも確立されたものではないとして、本文3のような規定のみを設けるべきでないとの考え方があり、これらの考え方を(注)で取り上げています。

第6 約款

    1. 約款の定義
      約款とは、多数の相手方との契約の締結を予定してあらかじめ準備される契約条項の総体であって、それらの契約の内容を画一的に定めることを目的として使用するものをいうものとする。
      (注)約款に関する規律を設けないという考え方がある。

      (説明)

      約款に関する後記2以下の規律を新たに設ける前提として、それらの規律の対象とすべき約款の定義を定めるものです。

      現代社会においては、大量の定型的取引を迅速かつ効率的に行うことが求められる場面が多い。これを実現するため、契約の一方当事者があらかじめ一定の契約条項を定めたいわゆる約款を準備して、個別の交渉を省き画一的な内容の契約を結ぶことが必要だといわれています。しかし、民法の原則上、当事者の合意がない契約条項が拘束力を有することは本来ないため、このような約款に拘束力が認められるかどうかが明らかでありません。そこで、約款を用いた取引の法的安定性を確保する見地から、本文において約款を定義した上で、後記2において約款が個別の合意がなくても契約内容となる根拠規定を設けることとしています。ここでは、契約内容を画一的に定める目的の有無に着目した定義をすることとしています。

      他方で、約款に関して新たな規律を設ける必要性が乏しいとして、規律を設けるべきでないとする意見があり、これを(注)で取り上げています。



    1. 約款の組入要件の内容
      契約の当事者がその契約に約款を用いることを合意し、かつ、その約款を準備した者(以下「約款使用者」という)によって、契約締結時までに、相手方が合理的な行動を取れば約款の内容を知ることができる機会が確保されている場合には、約款は、その契約の内容となるものとする。
      (注)約款使用者が相手方に対して、契約締結時までに約款を明示的に提示することを原則的な要件として定めた上で、開示が困難な場合に例外を設けるとする考え方がある。

      (説明)

      約款が契約内容となるための要件を新たに定めるものです。

      約款を使用した契約においても、約款の拘束力の根拠は、究極的には当事者の意思に求めるべきであると考えられることから、まず、約款を準備した契約当事者(約款使用者)と相手方との間に約款を用いる合意があることを要件としています。なお、この合意は必ずしも明示的な合意である必要はありません。

      そして、相手方が当該約款を用いた契約を締結することに合意するか否かを判断できるよう、契約締結時までに相手方が約款の内容を認識する機会が確保されている必要があります。

      その上で、約款の内容を認識する機会をどの程度保障すべきかについては、約款の定義(前記1)との関係が問題となる。約款の定義において、契約内容を画一的に定めることを目的とするものに対象を限定し、個別の条項に関して交渉可能性が乏しいものが想定されていることからすると、ここで開示を厳格に求めるのは、相手方にとって煩雑でメリットが乏しい反面、約款使用者にとっては取引コストを不必要に高めることになる。このことを踏まえ、本文では、約款使用者の相手方が合理的に期待することができる行動を取った場合に約款の内容を知ることができる状態が約款使用者によって確保されていれば足りることとしています。ここでいう合理的に期待することができる行動は、その契約の内容や取引の態様、相手方の属性、約款の開示の容易性、約款の内容の合理性についての公法的な規制の有無等の事情を考慮して定まるものと考えられます。

      他方で、契約の拘束力を当事者の意思に求める原則をより重視する観点から、約款使用者が相手方に対して事前に約款の内容を明示的に提示することを原則的な要件として定めるべきであるという意見があり、これを(注)で取り上げています。



    1. 不意打ち条項
      約款に含まれている契約条項であって、他の契約条項の内容、約款使用者の説明、相手方の知識及び経験その他の当該契約に関する一切の事情に照らし、相手方が約款に含まれていることを合理的に予測することができないものは、上記2によっては契約の内容とはならないものとする。


    2. (説明)

      約款が前記2の組入要件を満たす場合であっても、その約款中に含まれているとは合理的に予測できない条項(不意打ち条項)があるときは、その条項には組入の合意が及んでいないと考えられます。そこで、約款の拘束力を当事者の合意に求めること(前記2参照)の帰結として、不意打ち条項については、その内容の当否を問わず契約内容にならないとするものです。

      ある契約条項が不意打ち条項か否かの判断を、個別の相手方ごとに具体的にするか、想定している相手方の類型ごとに抽象的にするかについては、解釈に委ねることとしています。

      なお、ある契約条項の総体が前記1でいう約款に該当する場合であっても、結果的に個別の契約条項について当事者が合意をした場合には、その契約条項は、不意打ち条項には当たりません。この場合は、その契約条項は当該合意によって契約の内容になったと考えられるからです。本文において、不意打ち条項である場合に「上記2によっては」契約の内容とはならないとあるのは、このことを表現するものです。



    1. 約款の変更
      約款の変更に関して次のような規律を設けるかどうかについて、引き続き検討する。
      1. (1)約款が前記2によって契約内容となっている場合において、次のいずれにも該当するときは、約款使用者は、当該約款を変更することにより、相手方の同意を得ることなく契約内容の変更をすることができるものとする。
        1. ア.当該約款の内容を画一的に変更すべき合理的な必要性があること。
        2. イ.当該約款を使用した契約が現に多数あり、その全ての相手方から契約内容の変更についての同意を得ることが著しく困難であること。
        3. ウ.上記アの必要性に照らして、当該約款の変更の内容が合理的であり、かつ、変更の範囲及び程度が相当なものであること。
        4. 工.当該約款の変更の内容が相手方に不利益なものである場合にあっては、その不利益の程度に応じて適切な措置が講じられていること。
      2. (2)上記(1)の約款の変更は、約款使用者が、当該約款を使用した契約の相手方に、約款を変更する旨及び変更後の約款の内容を合理的な方法により周知することにより、効力を生ずるものとする。

      (説明)

      本文(1)(2)は、契約の成立後に、組み入れられた約款の内容を変更するための要件を定めるものです。

      約款を使用した契約関係がある程度の期間にわたり継続する場合には、法令の改正や社会の状況の変化により、約款の内容を画一的に変更すべき必要性が生ずることがあるが、多数の相手方との間で契約内容を変更する個別の同意を得ることは、実際上極めて困難な場合があります。このため、実務上は約款使用者による約款の変更がしばしば行われており、取引の安定性を確保する観点から、このような約款の変更の要件を民法に定める必要があると指摘されています。本文(1)(2)は、このような指摘を踏まえ、約款の変更の要件に関する試みの案を提示し、引き続き検討すべき課題として取り上げています。これらの要件の当否について、更に検討を進める必要があるとされています。



    1. 不当条項規制
      前記2によって契約の内容となった契約条項は、当該条項が存在しない場合に比し、約款使用者の相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重するものであって、その制限又は加重の内容、契約内容の全体、契約締結時の状況その他一切の事情を考慮して相手方に過大な不利益を与える場合には、無効とする。
      (注)このような規定を設けないという考え方がある。

      (説明)

      約款に含まれる個別の契約条項のうち約款使用者の相手方に過大な不利益を与えると認められるものを無効とする規律を設けるものです。このような契約条項は、現在も民法第90条を通じて無効とされ得るものであるが、当事者の交渉や合意によって合理性を確保する過程を経たものではない点で他の契約条項と異なるため、別途の規律が必要であると考えられます。他方で、ある契約条項の総体が前記1にいう約款に当てはまる場合であっても、個別の契約条項について当事者の合意がある場合には、合意の過程において一定の合理性を確保されているものと考えられるため、本文の規律の対象となりません。本文の対象を「前記2によって契約内容となった契約条項は」としているのは、このことを表現するものです。

      不当性判断の枠組みについては、これを明確にする観点から、比較対象とすべき標準的な内容を条文上明らかにすることとしています。具体的には、ある条項が不当か否かは、その条項がなかったとすれば適用され得たあらゆる規律、すなわち、明文の規定に限らず、判例等によって確立しているルールや、信義則等の一般条項、明文のない基本法理等を適用した場合と比較して、相手方の権利義務が変更され相手方に過大な不利益を与えているかという観点から判断するべきであり、本文に「当該条項が存在しない場合と比し」とあるのは、このことを表現するものです。

      不当条項であると評価された場合の効果については、無効としています。不当条項に関する同様の規律である消費者契約法第8条から第10条までや、民法第90条の効果が無効とされていることを踏まえたものです。

    他方、契約条項の内容を制限する規律を設けると、自由な経済活動を阻害するおそれがあるとして、本文のような規律を設けるべきでないという意見があり、これを(注)で取り上げています。

第7 結語
今回の民法改正試案の紹介は、賃貸業務や家賃債務保証業務に関わりの深い保証契約の変更点や契約の締結に関する改正点についてでしたが、上記の通り、これまでの実務に重大な影響を及ぼす可能性の高い変更点が多くあります。このため、正式な改正がなされる前に、上記の改正点に即して実務の内容についても変更すべき点の検討に入るべきではないかと思います。
今後も、民法の改正試案の中で特に注意する必要のある改正点について紹介していきたいと思います。

2013.05/21

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亀井英樹(かめいひでき)
東京弁護士会所属(弁護士)
昭和60年中央大学法学部卒業。平成4年司法試験合格。
平成7年4月東京弁護士会弁護士登録、ことぶき法律事務所入所。
詳しいプロフィールはこちら ≫

【著 作 等】
「新民事訴訟法」(新日本法規出版)共著
「クレームトラブル対処法」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「管理実務相談事例集」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「賃貸住宅の紛争予防ガイダンス」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修