平成18年5月に新しい会社法が施行されましたが、その中でも最低資本金制度の撤廃は、これから法人を設立される方にとっては、大きな改正項目といえます。
これまで最低資本金の規制により、有限会社から株式会社への組織変更や法人の新規設立の妨げとなっていた方にとっては、その障壁が緩和されることになります。
今回は、最低資本金制度の撤廃による組織変更などについて取り上げておりますので、ご参考にして頂ければと思います。
最低資本金制度の概要
最低資本金制度は、会社を設立するときには出資する額が一定額以上でなければならないとする制度です。改正前は、会社を設立するときに株式会社は1,000万円以上、有限会社は300万円以上の出資が必要とされていました。しかし、改正後では出資額の規制は設けないこととされ、定款に出資すべき額の下限のみを定めればよいので、最低資本金制度は廃止となります。
最低資本金制度は撤廃されますが、起業の促進という面以外に、既存の会社の組織変更の問題が重要となってきます。例えば、改正前は、有限会社が株式会社に組織変更するためには、純資産額が1,000万円以上ないとできなかったわけですが、今後はそのような障壁はなくなります。
また、合名・合資会社から株式会社に組織変更する規律が会社法により整備されるため、そのような組織変更も今後は生じることになるでしょう。
組織変更
(1)有限会社から株式会社への組織変更手続
有限会社は、社員総会の特別決議により株式会社に組織変更を行うことができ、具体的には、総社員の議決権の4分の3以上を有する者の同意により承認されます。組織変更決議においては、組織変更後の株式会社の定款その他組織変更に必要な事項(例えば、取締役および監査役、株式の割当比率などの事項)を定める必要があります。
なお、組織変更したときは、本店所在地においては2週間以内、支店所在地においては3週間以内に、有限会社について解散登記、株式会社について設立登記をする必要があります。
(2)組織変更と税務
有限会社から株式会社への組織変更に際して、原則として課税関係は生じないこととなります。組織変更は、形式上は「組織変更前の会社について解散登記を、組織変更後の会社について設立登記を行う」ことになるのですが、税法上は組織変更をした場合の会社の同一性に着目し、その解散および設立はなかったものとして取り扱われます。従って、事業年度についても組織変更によって区分せず、連続しているものとして取り扱われます。また、青色申告の取扱い、繰越欠損金、特別償却の残存適用期間、特別償却の不足額の取扱い、各種引当金および準備金、圧縮記帳特別勘定等の取扱い等も組織変更後の株式会社に引き継がれることになります。
なお、組織変更に伴い、不動産については登記名義の変更が必要となりますが、新たな取得としては取り扱われないため、不動産取得税は課されません。
最低資本金制度の撤廃と法人成り
(1)新設法人の消費税の納税義務の免除
その事業年度の基準期間がない法人のうち、当該事業年度開始の日における資本金が1,000万円以上である新設法人については、消費税の納税義務の免除はないとされています。逆に、資本金が1,000万円未満の新設法人は、基準期間がないことにより設立当初2年間は納税義務が免除されます。組織変更の場合は、法人の実態が変わらないという考え方から、この規定の適用はないものとされていますが、個人事業者が法人成りする場合は、現行の法令ではこの規定の適用を受けるものと解されます。この規定は株式会社のみならず合名・合資会社にも適用されます。個人事業者が法人成りをするにはその設立にかかる登記費用がいくらか発生しますが、2年間の消費税の免除を考えると大きな節税になるケースも考えられます。ただし、今後の税制の動向に留意しておく必要はあるでしょう。
(2)交際費の損金不算入
所得税法では交際費の損金算入の上限はありませんが、法人税法では期末資本金額によって損金算入できる上限が決められています。
現行制度では次のようになります。
末資本金額 | 損 金 不 算 入 額 |
1億円以下 | 交際費等 ―(交際費等と400万円×当期月数/12のいずれか少ない金額)× 90%1億円超 |
1億円超 | 全 額 |