相続した不動産を居住用財産として申告すれば、3千万円控除等により譲渡税はわずかで済みます。しかし、現実は甘くはありません。税務署は調べます。国税不服審判所も調べます。事例をあげました。
Aさんの場合
平成5年 実家の土地家屋を相続
平成10年 実家に住民票を移す
平成12年 実家を譲渡、翌年に居住用財産の特例を受けて譲渡申告
平成15年 税務署より特例の適用の否認・課税処分を受ける。
国税不服審判所に提訴
Aさんの主張
その実家には生まれてからずっと住んでいた。結婚後も住むつもりだったが、両親が健在なこともあり、結婚後は借家を借りて移り住んだ。両親が亡くなった後は、子供たちの教育環境からすぐに実家には戻れなかったが、平成10年、長女が卒業、独立したのを機会に住民票を実家に戻した。もっとも、それ以前から、勤務先が実家から近いこともあり、母が亡くなって一人になった父親の世話や実家の管理も兼ねて実家に帰り、生活していた。しかし、長男は勤務先が借家に近いことから、引き続いて借家に住んでいる。
それに、確定申告は税務署に指導してもらったが、譲渡の特例の適用不可とは言われなかった
税務署の処分理由
Aさんがこの家を時折使っていたことは否定しないが、
1 子供は平成10年までは借家から通勤・通学していた。
2借家の電気水道使用量は減少していない。
3実家で電気を使用再開したのは平成10年11月だが、それ以後も電気・水道はほとんど使われていない。
4Aさんの勤務先への通勤届出の住所は借家になっている。
これらのことから、Aさんの生活の本拠は借家であって実家ではない。即ち、実家は居住用財産にはあたらない。
国税不服審判所の調査
(1)Aさんからの答述
1実家に本格的に住んだのは平成10年11月だが、私も、特に妻はそれまで頻繁に行き来していた。
2実家には父に買ってあげた冷蔵庫やテレビがすでにあったし、長男が借家に残る事から、引っ越しはしなかった。
3洗濯は長男の分と一緒に借家で行い、風呂は実家近くの銭湯を使っていた。
(2)実家近隣住民への聞き取り調査
1Aさんは全く住んでいない。
2人が住まなくなってから長いのでクモの巣が張り、雑草も伸びている。
3時折門灯が点くこともあったけれど、住んでいる様子はなかった。
4Aさんから転居の挨拶もなかったし、町内会にも入っていない。
国税不服審判所の判定
平成16年10月国税不服審判所は、税務署の課税処分を正当と認める裁決をしました。税務署に事前相談したことには、Aさんが説明した状況に沿って、税務署職員が申告書の書き方を説明したにすぎないとの結論です。
実際に住んでいないと否認されます
住んでいないのに、住んでいたことにして確定申告書を作成するのは簡単です。しかし、税務署もプロです。住民票を移したぐらいでは、すぐ見破られます。
別事例では、銀行と証券会社へ住所変更届をしていない、というところまで調べていました。
「住んでいた」のと「住んでいたことにした」のは違います。
「住んでいたことにすれば大丈夫」と簡単に思われるかも知れませんが、現実はそう甘いものではありません。