同族会社の経営者が、所有する財産の殆ど全てがその会社の株式である場合には事業承継を考えるうえで株式の分散というリスクがあります。例えば経営者の願う後継者が同族会社の株式の全てを相続すれば、その他の相続人から遺留分の減殺請求を受け、その結果、後継者の経営基盤が脅かされる場合があります。そこで生命保険を活用して後継者が円滑に同族会社の株式を相続する方法を考えます。
優良な中堅企業は、相続税の納税で苦労します
このケースでは後継者乙が甲の所有するA社株式の全てを相続することによって丙の遺留分が侵害される恐れがあります。そのような場合に備えて生命保険を活用して減殺請求を受ける金額に相当する相続財産を創出します。
今回は契約者をA社、被保険者を甲、受取人をA社とする無解約返戻金型定期保険に加入することを想定してみます。
※ 無解約返戻金型定期保険には保険期間を通じて解約返戻金はありません。
≪ 保険の処理の概要 ≫
契 約 形 態 | 経理処理方法 | ||||
契 約 者 | 被保険者 | 死亡保険金受取人 | 保険料取扱 | 死亡保険金 | 解約返戻金 |
A 社 | 経営者(甲) | A 社 | 全額損金算入 | 益金算入 | 無 し |
※ 保険料の負担はA社となります。
この契約形態により支払われる保険金は法人税が課せられることなります。
死亡保険金を退職金として支給し相続税を節税します
A社が受取る保険金は収益の発生となり益金として取り扱われます。A社はいったん収益として保険金を受取るわけですが、この保険金を原資として甲の死亡に基因する死亡退職金を遺族に支払うことにします。法人税法上この死亡退職金は、不相当に高額な部分は別として損金として処理することができます。この死亡退職金の損金算入時期は、原則として株主総会の決議等によりその額が具体的に確定した日の属する事業年度ですが、これを支払った日の属する事業年度に損金処理することも出来ます。 こうして支払われた死亡退職金は、相続人が相続によって取得したものとみなされます。そこで、乙が全てのA社株式を相続し、その他の相続人は死亡退職金を受取ります。 こういった手法を用いてA社株式以外の相続財産を形成して他の相続人からの減殺請求に対処することができます。
≪ 無解約返戻金型定期保険での計算例 ≫
後継者が自社株全部を相続するために準備する資金を3,000万円と見積もり、同額を死亡保険金として設定した無解約返戻金型定期保険に加入して15年後に相続が発生する場合を仮定します。
保険期間 | 20年 |
受取保険金 | 3,000万円 |
契約時年齢 | 60歳 |
年間保険料 | 639,690円 |
死亡退職金 | 3,000万円 |
≪ 生命保険による資金創出額 ≫
受取保険金-支払保険料総額=生命保険による資金創出額
3,000万円-9,595,350円=20,404,650円
(639,690円×15年)
≪保険金の取得による法人の所得の増減 ≫
受取保険金-死亡退職金=法人の所得の増減
3,000万円-3,000万円=0円
社内規程は事前に見直しておきましょう
生前給付金を受けた場合の取扱い
契約した生命保険にリビングニーズ特約を付した場合は被保険者の余命が6か月以内と診断された場合に、主契約の死亡保険金の一部又は全部を被保険者が生前給付金として受取ることができます。この生前給付金は疾病により重度傷害の状態になったことなどにより生命保険契約に基づき支払を受ける所得税の非課税所得(身体の傷害に基因して支払を受けるもの)に該当します。この生前給付金は被保険者(又は指定代理請求人)が受取ることになります。
リビングニーズ特約を付して、その給付を受ける場合は事前に税理士等に御相談ください。
最後に
生命保険の加入に当たっては、加入目的を明確にして適正な保険を選択する必要があります。今回は事業承継を円滑に行うための資金の手当を設例に考えてみました。 生命保険の資金創出効果は退職金、借入金の返済、収益物件の大規模修繕費の原資等他にも様々な場面で活用できますので、ご検討される場合は税制上の取扱いも合わせて関与税理士に御相談ください。