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弁護士・亀井英樹先生の法律ノウハウ

家賃保証制度利用の注意点について

第1 保証契約の基本的な内容


 現在、保証会社による家賃保証制度が利用されつつありますが、まだまだ、賃貸借の分野においては、なじみの薄い制度であり、十分にその制度を利用するにあたっての注意点が理解されていない状況にあります。そこで、家賃保証制度を利用する場合の注意点を簡単に説明したいと思います。
 そして、家賃保証制度も民法上の保証契約の一種ですので、まず、保証契約の法的な性質・内容から説明致します。

 民法上の保証とは、保証人と債権者との間で、主たる債務者が債務を履行しないときに代わって履行するという内容の債務を負担する契約を言います(民法446)。
 保証契約とは、債権者と保証人との間で締結される契約であり、その特質として、次の点が認められます。

【1】別個債務性
 保証債務は主たる債務とは別個の債務であり、別個独立性とも言われている。

【2】内容同一性
 保証債務の内容は、主たる債務と同一の内容を有します。但し一部保証も可能である。

【3】附従性
 保証債務は主たる債務に付従する。
a.成立における附従性:主たる債務が無ければ成立しない。
b.内容における附従性:主たる債務より重くなることはない。
c.消滅における附従性:主たる債務が消滅すれば消滅する。

【4】補充性
 保証債務は、主たる債務者が履行しないときにはじめて履行しなければならない。
a.催告の抗弁権(民法452):まず主たる債務者に請求せよという抗弁権
b.検索の抗弁権(民法453):まず主たる債務者の財産に執行せよという抗弁権
 但し連帯保証には、補充性はありません。

【5】随伴性
 主たる債務者に対する債権が第三者に移転(債権譲渡等)した時は、保証債務もこれに従って移転する。

【6】無償片務契約性
 保証契約は、債権者が保証人に対して債務を負担したり対価的意義を有する出捐を必要としないため無償契約であり、また、保証人となる者のみが債務を負担し、他に対価的意義を有する債務を負担するものがないため片務契約である。

次ぎに、保証契約の種類としては次のような種類があげられます。


【1】単純保証と連帯保証
 単純保証が、保証債務の補充性が認められ、保証人は催告の抗弁、検索の抗弁を主張できるのに対して、連帯保証は、保証人が保証契約において主たる債務者と連帯して債務を負担する旨約するものであり、補充性がなく、催告の抗弁、検索の抗弁が認められない。

 なお、債務が主たる債務者の商行為によって生じた時、または保証が商行為である時は、商法511条2項に基づき連帯保証とされる。

【2】委託のある保証と委託のない保証
 主たる債務者が保証人に委託したことに基づいて保証契約を締結する場合と、主たる債務者の委託に基づかないで保証人が債権者と保証契約を締結する場合、更には、主たる債務者の意思に反して保証人が債権者と保証契約を締結する場合では、保証債務を履行した場合の主たる債務者に対する求償権の範囲に違いが生じる。

【3】根保証
 債権者と主たる債務者との間の継続的取引から生じ、且つ将来発生し増減する一段の不特定の債務を一括して保証することを言う。金融機関における当座貸し越し契約や手形割引その他の継続的融資による債務、卸商と小売商との継続的売買による債務、賃貸借契約に基づく賃借人の債務、雇用契約に基づく被用者の債務を保証する場合がこれにあたる。
 根保証契約のうち、主たる債務に金銭の貸し付け、又は手形割引により発生する債務の根保証であるいわゆる貸金等根保証契約については、民法改正により、包括根保証の禁止、極度額の定めや元本確定期日の定めの有効要件化が定められた。

【4】その他
 その他、共同保証、手形保証、求償保証、機関保証等の種類もある。


 

第2 保証契約に関する民法改正

 

 根保証契約は,中小企業が融資を受ける際の代表者の個人保証などに多用されています。しかし,現行法の下では,その契約内容をどのように定めるかについて制限がなく,金額・期間について無制限に責任を負う場合もあり(包括根保証契約,保証人)が過大な責任を負いがちであると指摘されていました。
 このため,保証人が負担する責任を予測可能な範囲に限定するなど,根保証契約の適正化を図る措置を講ずることが必要となっていました。そこで、保証人が個人の場合の包括根保証契約に対する法的規制を設けるとともに,保証契約一般について書面によらない保証契約を無効とする法改正が行われました。

 この法改正による新しい保証制度は、平成17年4月1日から施行されています。
保証制度改正の主な内容は次のとおりです。

【1】要式行為化
 根保証契約は書面で行わなければ効力を生じない。

【2】根保証契約の保証の極度額の定め
 根保証契約は、書面上、保証の極度額(主債務の元本、利息及び損害賠償のすべてを含む)を定めなければ効力を生じない。

【3】根保証契約の保証期限(元本確定期日)の定め
 根保証契約において元本確定期日を定める場合は、契約日から5年以内とする必要がある。
契約において元本確定期日を定めない場合は、契約締結から3年を経過した時点で保証する主債務の元本が確定する。

【4】根保証契約の元本確定事由
 以下の事由が発生した場合には、保証人の保証債務の元本が確定する。
ア)債務者や保証人が強制執行を受けた場合
イ)債務者や保証人に対する破産手続開始の決定があった場合
ウ)債務者や保証人が死亡した場合

 保証契約の成立要件についても、保証を慎重ならしめるため,保証意思が外部的にも明らかになっている場合 に限りその法的拘束力を認めるものとすることが相当です。このため、根保証契約に限らず保証契約一般を対象として,保証契約は書面でしなければその効力を生じないものとされました(民法446条2項)。
 ところで、新たに要求される「書面」とはいかなる要式を要するかについては、専ら保証人の保証意思がその書面上に示されていれば足りるとされております。それは、保証契約について書面性を要求する趣旨は,片面的に義務を負うこととなる保証人を保護するため,保証意思が外部的にも明らかになっている場合に限り契約としての拘束力を認めるという点にあるためです。

 また、インターネットを利用した電子商取引等の利便性のため,保証契約がその内容を記録した電磁的記録によってされた場合には,これを書面によってされたものとみなされております(民法446条3項)。

 

第3 更新後の保証人の責任の有無

 

 連帯保証人は、原則として更新後の賃貸借契約に基づく債務についても保証人としての責任を負います。
 例えば、期間の定めのある建物賃貸借における保証人は、原則として、更新後の賃貸借契約に基づく債務についても責任を負うとされた判例(最高裁第一小法廷 平成9年11月13日判決)があります。

 しかし、建物の賃借人の保証人は、賃借人が多額の賃料を延滞させていたにもかかわらず、賃貸借契約が法定更新された等の事情の下では、法定更新後の賃借人の債務について責任を負わないとされた判例があります(東京地裁 平成10年12月28日判決)ので、更新する場合には連帯保証人が責任を負うのかについては注意が必要です。

 

 

第4 保証人の責任の内容

 

 保証債務には、主たる債務である賃貸借契約に基づく賃料支払債務及び利息、違約金、損害賠償その他、主たる債務に従たる債務を含みます。(民法446、447)例えば、賃料債務、利息債務、賃借物毀損等による損害賠償義務についても保証債務として責任を負います。
 但し、賃借物返還義務については、契約終了後、賃借物返還までの損害賠償義務として、保証責任を負うことになります。その理由は、賃借物返還義務自体は賃借人本人しか履行できない債務であるからです。

 

 

第5 連帯保証の特質

 

 保証人が主たる債務者(賃借人)と連帯して債務を負担した場合(連帯保証)、連帯保証人は、催告の抗弁(民法452)、検索の抗弁(民法453)を有しません。(民法454)
 したがって、保証会社が家賃保証を行う場合にも、それが連帯保証として行うのか、単なる保証として行うのか注意する必要があります。

 

 

第6 保証人の求償権


 保証人の求償権については、委託を受けた保証人か委託を受けない保証人かで法律上も差違が生じます。まず委託を受けた保証人の求償権としては下記の内容が認められております。

【1】保証人が弁済その他自己の出捐をして債務を消滅させた場合の他、過失無くして債権者に弁済すべき裁判の言い渡しを受けただけの場合も求償権がある(民法459条)。

【2】事前求償権を有する。(民法460条)
 I   主たる債務者が破産の宣告を受け、且つ、債権者がその破産財団の配当に加入しないとき。
 II 債務が弁済期にあるとき。
 III  債務の弁済期が不確定であって、且つ、最長期をも確定することができない場合において、
保証契約の後10年経過したとき。

【3】求償権の範囲は、支出額のほか、免責の日以後の法定利率による利息、避けることのできなかった費用その他の損害(弁済の費用、強制執行の費用等)を請求できる。

 次ぎに、委託を受けない債務者の意思に反しない保証人の求償権については次の内容が認められております。

【1】求償権は、弁済その他出捐をして債務を消滅させた場合に限られる。
【2】事前の求償権は存しない。
【3】求償権の範囲は、その当時利益を受けた限度で限られる。すなわち、利息、費用、損害賠償を請求できない。
更に、委託を受けないで主たる債務者の意思に反する保証人の求償権については、次の内容が認められております。

【1】求償権は、債務者の現に利益を受けた限度の範囲に止まる。
 また、保証人の求償権の行使については、保証人は、弁済するに際して、事前事後に通知しないと、求償権の制限を受ける場合がありますので、注意が必要です。
 さらに、保証人は、自己の債務の弁済をするものであるが、弁済をなすについて正当の利益を有するものにあたり(民法500条)、弁済により債権者に代位することができます(民法501条)

 

 

第7 保証人の解約権


 ところで、賃貸借契約については、保証人が長期にわたる保証債務の負担を強いられることになるため、保証人を保護する必要性が高く、そのため、保証人は、賃借人が継続して賃料の支払を怠っていて、将来も誠実にその債務を履行する見込みがなくなったのに、賃貸人が解除等をしない場合には、保証人は解約できる(大審院昭和8年4月6日判決)と判断されております。

 また、建物の賃借人の保証人は、賃借人が多額の賃料を延滞させていたにもかかわらず、賃貸借契約が法定更新された等の事情の下では、法定更新後の賃借人の債務について責任を負わないとされた判例もあります(東京地裁 平成10年12月28日判決)ので、賃貸借契約においても保証人の責任については一定の制限が認められる場合があります。

 

 

第8 保証債務の相続性


 保証会社による家賃保証の場合には関係がありませんが、一般の個人の連帯保証人の場合に、相続の問題が生じます。この点、一般の信用保証については、保証の額の限度と保証期間の定めのない場合には、保証人の地位は相続されませんが、賃借人の債務の保証人の地位は相続性が認められております(大審院昭和9年1月20日判決)

 

 

第9 保証人への新たな権限の付与


 以上のとおり、保証人は、保証契約の附従性により、保証契約だけでは、賃貸借契約の解除、賃借物の返還を直接行うことはできません。
 そこで、保証人に過度の負担を免れさせるために、賃借人から保証人に委託することにより、賃借人に代わる賃貸借契約の解除権の行使(代理行使)並びに、賃借物件の明渡権限を付与することにより、一定の限度で保証債務の範囲の限定を図ることも認められる場合があります。具体的な委託内容としては、契約解除権、賃借物明渡権限、残置物処分権限が考えられます。

 しかし、保証人が、その権限を不当に濫用した場合には、賃借人の建物賃貸借契約上の地位及び、財産権の保護との関係で重大な問題が生じる可能性があります。
 また、刑事上犯罪と評価される場合には、民事上も当該権限の行使は不法行為又は公序良俗違反と評価される危険性が高いと考えられます。
 例えば、住居侵入罪、器物損壊罪等に該当することも考えられます。したがって、保証人が賃借人に代わって権限を行使できる場合は、保証人保護の必要性が高く、賃借人の権限の行使を待っていたのでは保証人に重大な損害が生じる場合等に限定される必要があると考えられます。

 

 

第10 人的担保制度の新たな展開

 

 これまで、分譲用の不動産のためのローンの保証会社は存在しましたが、賃料債務を保証する保証会社は殆ど存在しませんでした。
しかし、ここ最近、個人の連帯保証人に代わり、賃借人の賃料債務を保証会社が業務として保証する会社が現れるようになりました。
 賃料債務の保証方法は、保証契約によるほか、債務引受の方法をとるなど、賃料債務保証会社によって異なっている。また、保証の範囲や、保証料についても、現在のところ、個々の保証会社が独自に設定しており、一般的な基準やガイドラインも存在せず、賃借人にも、保証会社の内容について周知されているとは言い難いものです。

 また、保証会社の業務として単に金銭的な債務保証だけでなく、積極的に賃借人に代わって解約明渡の業務を行う保証会社も出現しており、その業務が賃借人の権利、利益の保護の要請に反しないかどうかについても今後議論が出てくることが予想されます。
 その上、これまで、連帯保証人がなくても賃借が可能な物件は公営住宅やUR都市機構の賃貸物件等の公立の賃貸物件を除けば殆ど皆無でした。そのため、資力があっても連帯保証人の無い者は、賃借することが難しく、旅館、ホテル、ウィークリーマンション、マンスリーマンション等の割高な宿泊施設、短期賃借物件を利用するほかありませんでした。

 しかし、賃料債務保証会社が今後一般化すれば、誰でも、連帯保証人が無くても、一定の保証料を支払うことにより、自由に賃貸物件を賃借することが可能となり、賃貸市場の飛躍的な流動化にもつながることが予想されます。
 また、今日のインターネット社会においては賃貸物件の差別化の手段として、連帯保証人が不要であることを謳う不動産会社も出現しつつあります。
 このように、賃貸建物においても分譲用不動産と同様に、利用者が連帯保証人制度という人的な拘束から解放されることにより、より流通性が高まることが予想されるとともに、賃貸人やサブリース会社等の賃貸物件の経営者にとっても、賃料債務の保全が確保されることにより安定した賃貸経営が可能になり、賃貸人の破産や抵当権の実行、サブリース会社の破綻等の賃貸経営のリスクの軽減にも大きく寄与していくことが予想されます。

 以上のように賃料債務保証会社は出現して歴史的にはまだ間がないものですが、今後飛躍的に増大していくことが予想され、それに伴い悪質な保証会社の出現も懸念されるようになっています。
 このため、賃貸保証に関する業界の健全な発展と適正な保証業務を確保するために、平成18年7月に財団法人日本賃貸住宅管理協会内に、新たに、賃貸保証制度協議会が設立されました。

 今後は、賃貸保証業務の一般市民への周知と保証業務の適正化は、賃貸保証制度協議会を中心として行われることになるものと予想されます。
 ところで、賃貸保証制度を利用した場合の問題点としては、まず、滞納の評価について新たな問題が発生すると考えられれます。

 現在、保証人による賃料債務の弁済があった場合には、賃貸借契約上は滞納と評価されない可能性が高いと考えられます。したがって、賃貸保証会社による保証弁済が行われている内は、滞納の発生が無く、賃貸人が滞納による契約解除ができない可能性があります。

 この場合、滞納により契約解除を実現するためには、【1】賃貸保証会社による保証債務の弁済があったことをもって滞納と同視するか、【2】賃貸人は、賃借人の滞納により賃貸借契約を解除して初めて賃貸保証会社に保証債務の弁済を請求する手法をとる必要があることになります。

 次ぎに、現在、賃貸保証会社は、主たる内容である賃料債務の保証の他、【1】賃借人の信用についての審査と、【2】賃借人が滞納したときに、賃借人に代わって建物の明渡に協力する業務を行っているものがあります。

 このうち、【1】の信用の調査については、その内容が差別に亘らないようにしたり、その個人情報の取り扱いについて慎重に取扱う必要があるなどの配慮が求められております。
 また、【2】の建物明渡協力業務は、刑事上の処罰規定の抵触のおそれもあり、極めて慎重に業務を行う必要があると考えられます。

 さらに、現在保証会社は、賃借人が滞納した場合に、督促等の業務を行った場合に手数料を請求している場合が多い。そのような手数料等の定めが、民法90条の公序良俗や、消費者契約法10条との関係で無効と判断される場合も生じる可能性がありますので、この点も今後議論を重ねる必要があると思います。

 

2007.09/25

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亀井英樹(かめいひでき)
東京弁護士会所属(弁護士)
昭和60年中央大学法学部卒業。平成4年司法試験合格。
平成7年4月東京弁護士会弁護士登録、ことぶき法律事務所入所。
詳しいプロフィールはこちら ≫

【著 作 等】
「新民事訴訟法」(新日本法規出版)共著
「クレームトラブル対処法」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「管理実務相談事例集」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「賃貸住宅の紛争予防ガイダンス」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修