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弁護士・亀井英樹先生の法律ノウハウ

民法改正試案における賃貸借の改正点について

出典:法務省法制審議会民法部会
http://www.moj.go.jp/shingi1/shingikai_saiken.html

第1 民法改正試案の公表
平成25年3月11日、法制審議会民法部会において、民法改正に関する中間試案が公表されました。賃貸業務にとって、民法の賃貸借契約の内容が変更されることになれば業務に重要な影響を及ぼすことになります。
このため、まだ、中間試案の段階ですが、今後正式に法改正がなされた場合の対応を早めに準備するためにも、今回の中間試案の内、まず、賃貸借契約の部分について、その内容をお知らせします。

第2 賃貸借に関する民法改正中間試案の内容

    1. 1.賃貸借の成立(民法第601条関係)
      民法第601条の規律を次のように改めるものとする。
      1. (1)賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了した後に返還することを約することによって、その効力を生ずるものとする。

      (改正の趣旨)
      民法第601条の規定を基本的に維持しつつ、賃貸借の終了によって賃借人の目的物返還債務が生ずる旨を明記するものであり、賃料支払債務と並ぶ賃借人の基本的な債務(民法第616条、第597条第1項参照)を賃貸借の冒頭規定に盛り込むものである。

    1. 2.短期賃貸借(民法第602条関係)
      民法第602条柱書の部分の規律を次のように改めるものとする。
      1. (1)処分の権限を有しない者が賃貸借をする場合には、同条各号に掲げる賃貸借は、それぞれ当該各号に定める期間を超えることができないものとする。契約でこれより長い期間を定めたときであっても、その期間は、当該各号に定める期間とするものとする。

      (改正の趣旨)
      本文前段は、民法第602条の「処分につき行為能力の制限を受けた者」という文言を削除するものである。この文言は、未成年者、成年被後見人、被保佐人及び被補助人を指すものとされているが、これらの者が短期賃貸借をすることができるかどうかは同法第5条、第9条、第13条、第17条等によって規律されており、同法第602条の存在はかえって短期賃貸借であれば未成年者や成年被後見人であっても単独ですることができる等の誤解を生むおそれがあることを理由とする。

      本文後段は、民法第602条各号に定める期間を超える賃貸借をした場合にはその超える部分のみを無効とする旨を定めるものであり、同条に関する一般的な理解を明文化するものである。

    1. 3.賃貸借の存続期間(民法第604条関係)
      民法第604条を削除するものとする。
      (注)民法第604条を維持するという考え方がある。


      (改正の趣旨)
      賃貸借の存続期間の上限(20年)を廃止するものである。特則の置かれている借地借家法等ではなく民法第604条の適用がある賃貸借であっても、例えばゴルフ場の敷地の賃貸借、重機やプラントのリース契約等においては20年を超える存続期間を定めるニーズがあるとの指摘を踏まえたものである。
      もっとも、長期の存続期間を一般的に認めると賃借物の損傷や劣化が顧みられない状況が生じかねないこと等から同条の規定を維持(必要に応じて特別法で対処)すべきであるという考え方があり、これを(注)で取り上げている。

    1. 4.不動産賃貸借の対抗力、賃貸人たる地位の移転等(民法第605条関係)
      民法第605条の規律を次のように改めるものとする。
      1. (1)不動産の賃貸借は、これを登記したときは、その不動産について物権を取得した者その他の第三者に対抗することができるものとする。
      2. (2)不動産の譲受人に対して上記(1)により賃貸借を対抗することができる場合には、その賃貸人たる地位は、譲渡人から譲受人に移転するものとする。
      3. (3)上記(2)の場合において、譲渡人及び譲受人が、賃貸人たる地位を譲渡人に留保し、かつ、当該不動産を譲受人が譲渡人に賃貸する旨の合意をしたときは、賃貸人たる地位は、譲受人に移転しないものとする。この場合において、その後に譲受人と譲渡人との間の賃貸借が終了したときは、譲渡人に留保された賃貸人たる地位は、譲受人又はその承継人に移転するものとする。
      4. (4)上記(2)又は(3)第2文による賃貸人たる地位の移転は、賃貸物である不動産について所有権移転の登記をしなければ、賃借人に対抗することができないものとする。
      5. (5)上記(2)又は(3)第2文により賃貸人たる地位が譲受人又はその承継人に移転したときは、後記7(2)の敷金の返還に係る債務及び民法第608条に規定する費用の償還に係る債務は、譲受人又はその承継人に移転するものとする。
        (注)上記(3)については、規定を設けない(解釈に委ねる)という考え方がある。

      (改正の趣旨)
      本文(1)は、まず、民法第605条の「その後その不動産について物権を取得した者」という文言について、「その他の第三者」を付加するとともに、「その後」を削除するものである。同条の規律の対象として、二重に賃借をした者、不動産を差し押さえた者等が含まれることを明確にするとともに、「その後」という文言を削除することによって賃貸借の登記をする前に現れた第三者との優劣も対抗要件の具備の先後によって決まること(最判昭和42年5月2日判時491号53頁参照)を明確にするものである。また、本文(1)では、同条の「その効力を生ずる」という文言を「対抗することができる」に改めている。これは、第三者に対する賃借権の対抗の問題と、第三者への賃貸人たる地位の移転の問題とを区別し、前者を本文(1)、後者を本文(2)で規律することによって、同条の規律の内容をより明確にすることを意図するものである。

      本文(2)は、民法第605条の規律の内容のうち賃貸人たる地位の移転について定めるものであり、賃貸人たる地位の当然承継に関する判例法理(大判大正10年5月30日民録27輯1013頁)を明文化するものである。なお、本文(2)は、所有者が賃貸人である場合が典型例であると見て、その場合における当該所有権の譲受人に関する規律を定めたものであるが、地上権者が賃貸人である場合における当該地上権の譲受人についても同様の規律が妥当すると考えられる。

      本文(3)は、賃貸人たる地位の当然承継が生ずる場面において、旧所有者と新所有者との間の合意によって賃貸人たる地位を旧所有者に留保するための要件について定めるものである。実務では、例えば賃貸不動産の信託による譲渡等の場面において賃貸人たる地位を旧所有者に留保するニーズがあり、そのニーズは賃貸人たる地位を承継した新所有者の旧所有者に対する賃貸管理委託契約等によっては賄えないとの指摘がある。このような賃貸人たる地位の留保の要件について、判例(最判平成11年3月25日判時1674号61頁)は、留保する旨の合意があるだけでは足りないとしているので、その趣旨を踏まえ、留保する旨の合意に加えて、新所有者を賃貸人、旧所有者を賃借人とする賃貸借契約の締結を要件とし(本文(3)前段)、その賃貸借契約が終了したときは改めて賃貸人たる地位が旧所有者から新所有者又はその承継人に当然に移転するというルールを用意することとしている(本文(3)後段)。もっとも、賃貸人たる地位の留保に関しては、個別の事案に即した柔軟な解決を図るという観点から特段の規定を設けずに引き続き解釈に委ねるべきであるという考え方があり、これを(注)で取り上げている。

      本文(4)は、賃貸人たる地位の移転(当然承継)を賃借人に対抗するための要件について定めるものであり、判例法理(最判昭和49年3月19日民集28巻2号325頁)を明文化するものである。

      本文(5)は、賃貸人たる地位の移転(当然承継)の場面における敷金返還債務及び費用償還債務の移転について定めるものである。敷金返還債務について、判例(最判昭和44年7月17日民集23巻8号1610頁)は、旧所有者の下で生じた延滞賃料等の弁済に敷金が充当された後の残額についてのみ敷金返還債務が新所有者に移転するとしているが、実務では、そのような充当をしないで全額の返還債務を新所有者に移転させるのが通例であり、当事者の通常の意思もそうであるとの指摘がある。そこで、上記判例法理のうち敷金返還債務が新所有者に当然に移転するという点のみを明文化し、充当の関係については解釈・運用又は個別の合意に委ねることとしている。費用償還債務については、必要費、有益費ともに、その償還債務は新所有者に当然に移転すると解されていることから(最判昭和46年2月19日民集25巻1号135頁参照)、この一般的な理解を明文化することとしている。

    1. 5. 合意による賃貸人たる地位の移転
      不動産の譲受人に対して賃貸借を対抗することができない場合であっても、その賃貸人たる地位は、譲渡人及び譲受人の合意により、賃借人の承諾を要しないで、譲渡人から譲受人に移転させることができるものとする。この場合においては、前記4(4)及び(5)を準用するものとする。


      (改正の趣旨)
      本文前段は、合意による賃貸人たる地位の移転について定めるものであり、判例法理(最判昭和46年4月23日民集25巻3号388頁)を明文化するものである。一般に、契約上の地位の移転には相手方の承諾が必要とされているが(前記第21参照)、賃貸人たる地位の移転については、少なくとも目的物の所有権の移転と共に行う限りにおいては、相手方の承諾は不要とされている。

      本文後段は、本文前段の合意承継の場面における法律関係の明確化を図るため、当然承継の場面における前記4(4)及び(5)の規律を準用するものである。

    1. 6.不動産の賃借人による妨害排除等請求権
      不動産の賃借人は、賃貸借の登記をした場合又は借地借家法その他の法律が定める賃貸借の対抗要件を備えた場合において、次の各号に掲げるときは、当該各号に定める請求をすることができるものとする。
      1. (1)不動産の占有を第三者が妨害しているとき
        当該第三者に対する妨害の停止の請求
      2. (2)不動産を第三者が占有しているとき
        当該第三者に対する返還の請求

      (改正の趣旨)
      対抗要件を備えた不動産の賃借人が賃借権に基づく妨害排除請求(本文(1))又は返還請求(本文(2))をすることができる旨を定めるものであり、判例法理(最判昭和28年12月18日民集7巻12号1515頁等)を明文化するものである。他の法律が定める対抗要件としては、借地借家法第10条・第31条、農地法第16条等がある。対抗要件の不存在を主張する正当な利益を有しない第三者(不法占拠者等)に対する妨害排除等請求の要件としても対抗要件の具備が要求されるかどうかについては、それが要求されないという解釈を排除する趣旨ではない。

    1. 7.敷金
      1. (1) 敷金とは、いかなる名義をもってするかを問わず、賃料債務その他の賃貸借契約に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に対して交付する金銭をいうものとする。
      2. (2) 敷金が交付されている場合において、賃貸借が終了し、かつ、賃貸人が賃貸物の返還を受けたとき、又は賃借人が適法に賃借権を譲渡したときは、賃貸人は、賃借人に対し、敷金の返還をしなければならないものとする。この場合において、賃料債務その他の賃貸借契約に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭債務があるときは、敷金は、当該債務の弁済に充当されるものとする。
      3. (3) 上記(2)第1文により敷金の返還債務が生ずる前においても、賃貸人は、賃借人が賃料債務その他の賃貸借契約に基づいて生じた金銭債務の履行をしないときは、敷金を当該債務の弁済に充当することができるものとする。この場合において、賃借人は、敷金を当該債務の弁済に充当することができないものとする。

      (改正の趣旨)
      本文(1)は、敷金(民法第316条、第619条第2項参照)の意義を判例(大判大正15年7月12日民集5巻616頁等)や一般的な理解を踏まえて明確にするものである。

      本文(2)は、敷金返還債務が生ずる時期を明確にするものである。判例(最判昭和48年2月2日民集27巻1号80頁)は、賃貸借が終了し、かつ、目的物が返還された時に敷金返還債務が生ずるとしている。また、賃借人が適法に賃借権を譲渡したときも、賃貸人と旧賃借人との間に別段の合意がない限り、その時点で敷金返還債務が生ずると考えられる(最判昭和53年12月22日民集32巻9号1768頁参照)。そこで、本文(2)では、これらの理解を明文化することとしている。

      本文(3)は、敷金返還債務が本文(2)前段により具体的に生ずる前における敷金の充当に関する規律について定めるものであり、判例法理(大判昭和5年3月10民集9巻253頁)を明文化するものである。

    1. 8.賃貸物の修繕等(民法第606条第1項関係)
      民法第606条第1項の規律を次のように改めるものとする。
      1. (1) 賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負うものとする。
      2. (2) 賃借物が修繕を要する場合において、賃借人がその旨を賃貸人に通知し、又は賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないときは、賃借人は、自ら賃借物の使用及び収益に必要な修繕をすることができるものとする。ただし、急迫の事情があるときは、賃借人は、直ちに賃借物の使用及び収益に必要な修繕をすることができるものとする。
      (注)上記(2)については、「賃貸人が上記(1)の修繕義務を履行しないときは、賃借人は、賃借物の使用及び収益に必要な修繕をすることができる」とのみ定めるという考え方がある。

      (改正の趣旨)
      本文(1)は、民法第606条第1項の規定を維持するものである。

      本文(2)は、賃借人の修繕権限について定めるものである。民法第608条第1項が含意しているところを明文化するものであるが、賃借物は飽くまで他人の所有物であることから、賃借人が自ら修繕し得る要件については、契約に別段の定めがない限り、修繕の必要が生じた旨を賃貸人に通知し(民法第615条参照。通知の到達に関しては前記第3、4(2)(3)参照)、又は賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が必要な修繕をしないことを要するとする一方で、急迫な事情がある場合には例外を許容することとしている。もっとも、あらゆる場面に妥当する細かな要件を一律に設けるのは困難であるとして、「賃貸人が修繕義務を履行しないとき」という比較的抽象度の高い要件を定めた上で、その解釈・運用又は個別の合意に委ねるべきであるという考え方があり、これを(注)で取り上げている。
      なお、賃借人が必要な修繕をしたことにより民法第608条第1項の必要費償還請求権が生ずるかどうかは、専ら同項の要件を満たすかどうかによって決せられるため、当該修繕が本文(2)の修繕権限に基づくものかどうかという問題とは切り離して判断されることを前提としている。

    1. 9.減収による賃料の減額請求等(民法第609条・第610条関係)
      民法第609条及び第610条を削除するものとする。


      (改正の趣旨)
      減収による賃料の減額請求について定める民法第609条、減収による解除について定める同法第610条の各規定を削除するものである。これらの規定は戦後の農地改革以前の小作関係を想定したものであるが、現在は農地法第20条(借賃等の増額又は減額の請求権)があるため、上記各規定は実質的にはその機能を失っているとの指摘がある。また、上記各規定は、不可抗力によって賃料より少ない収益を得たことのみを要件として賃料の減額請求や解除を認めているが、農地法第20条や借地借家法第11条のように賃料の額が経済事情の変動により不相当となったことや近傍類似の土地の賃料に比較して不相当となったこと等を考慮することなく、収益が少なかったことのみをもって賃料の減額請求や解除を認めるのは相当でないとの指摘もある。本文はこれらの指摘を踏まえたものである。

    1. 10.賃借物の一部滅失等による賃料の減額等(民法第611条関係)民法第611条の規律を次のように改めるものとする。
      1. (1) 賃借物の一部が滅失した場合その他の賃借人が賃借物の一部の使用及び収益をすることができなくなった場合には、賃料は、その部分の割合に応じて減額されるものとする。この場合において、賃借物の一部の使用及び収益をすることができなくなったことが契約の趣旨に照らして賃借人の責めに帰すべき事由によるものであるときは、賃料は、減額されないものとする。
      2. (2) 上記(1)第2文の場合において、賃貸人は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを賃借人に償還しなければならないものとする。
      3. (3) 賃借物の一部が滅失した場合その他の賃借人が賃借物の一部の使用及び収益をすることができなくなった場合において、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は、契約の解除をすることができるものとする。
      (注)上記(1)及び(2)については、民法第611条第1項の規律を維持するという考え方がある。

      (改正の趣旨)
      本文(1)前段は、民法第611条第1項の規定を改め、賃借物の一部滅失の場合に限らず賃借物の一部の使用収益をすることができなくなった場合、一般を対象として賃料の減額を認めるとともに、賃借人からの請求を待たずに当然に賃料が減額されることとするものである。賃料は、賃借物が賃借人の使用収益可能な状態に置かれたことの対価として日々発生するものであるから、賃借人が賃借物の一部の使用収益をすることができなくなった場合には、その対価としての賃料も当然にその部分の割合に応じて発生しないとの理解に基づくものである。

      本文(1)後段は、賃借物の一部の使用収益をすることができなくなったことが賃借人の責めに帰すべき事由によるものであるときは、本文(1)前段の例外として賃料の減額はされない旨を定めるものである。これは、賃料債務の発生根拠に関する上記理解を踏まえたとしても、賃借人に帰責事由がある場合にまで賃料の減額を認めるのは相当でないとの指摘を踏まえたものであり、この限りにおいて民法第611条第1項の規定を維持するものである(請負、委任、雇用、寄託の報酬請求権に関する後記第41、1(3)、第42、4(3)イ、第43、1(2)、第44、6参照)。

      本文(2)は、賃借物の一部の使用収益をすることができなくなったことによって、賃貸人が賃貸借契約に基づく債務(例えば当該部分のメンテナンスに関する債務)を免れ、これによって利益を得たときは、それを賃借人に償還しなければならない旨を定めるものである。民法第536条第2項後段の規律を取り入れるものであり、同法第611条第1項の下では従前必ずしも明らかではなかった規律を補うものである。
      もっとも、以上の本文(1)(2)に対しては、民法第611条第1項の規律のほうが合理的であるとして、同項の規律を維持すべきであるという考え方があり、これを(注)で取り上げている。

      本文(3)は、民法第611条第2項の規定を改め、賃借物の一部滅失の場合に限らず賃借物の一部の使用収益をすることができなくなった場合一般を対象として賃借人の解除権を認めるとともに、賃借人の過失によるものである場合でも賃借人の解除権を認めることとするものである。賃借物の一部の使用収益をすることができなくなったことによって賃借人が賃借をした目的を達することができない以上、それが一部滅失によるものかどうか、賃借人の過失によるものかどうかを問わず、賃借人による解除を認めるのが相当であると考えられるからである。賃貸人としては、賃借人に対する損害賠償請求等によって対処することになる。

    1. 11.転貸の効果(民法第613条関係)
      民法第613条の規律を次のように改めるものとする。
      1. (1)賃借人が適法に賃借物を転貸したときは、賃貸人は、転借人が転貸借契約に基づいて賃借物の使用及び収益をすることを妨げることができないものとする。
      2. (2) 賃借人が適法に賃借物を転貸したときは、転借人は、転貸借契約に基づく債務を賃貸人に対して直接履行する義務を負うものとする。この場合において、直接履行すべき債務の範囲は、賃貸人と賃借人(転貸人)との間の賃貸借契約に基づく債務の範囲に限られるものとする。
      3. (3)上記(2)の場合において、転借人は、転貸借契約に定めた時期の前に転貸人に対して賃料を支払ったとしても、上記(2)の賃貸人に対する義務を免れないものとする。
      4. (4)上記(2)及び(3)は、賃貸人が賃借人に対してその権利を行使することを妨げないものとする。
      5. (5)賃借人が適法に賃借物を転貸した場合において、賃貸人及び賃借人が賃貸借契約を合意により解除したときは、賃貸人は、転借人に対し、当該解除の効力を主張することができないものとする。ただし、当該解除の時点において債務不履行を理由とする解除の要件を満たしていたときは、この限りでないものとする。
      (注)上記(3)については、民法第613条第1項後段の文言を維持するという考え方がある。

      (改正の趣旨)
      本文(1)は、適法な転貸借がされた場合における賃貸人と転借人との関係に関する一般的な理解を明文化するものであり、本文(2)と併せて民法第613条第1項前段の規律の内容を明確にすることを意図するものである。

      本文(2)は、適法な転貸借がされた場合における転借人が賃貸人に対して直接負う義務の具体的な内容について定めるものであり、民法第613条第1項前段の規律の内容を一般的な理解に基づいて明確にするものである。

      本文(3)は、民法第613条第1項後段の規律の内容を明確にするものであり、判例法理(大判昭和7年10月8日民集11巻1901頁)を明文化するものである。もっとも、転貸人と転借人との間に弁済期の合意があるというだけで本文(3)の規律の適用を免れるのは不当であるとして、同項後段の「前払」という文言を維持すべきであるという考え方があり、これを(注)で取り上げている。

      本文(4)は、民法第613条第2項の規律を維持するものである。

      本文(5)は、適法な転貸借がされた後に原賃貸人と転貸人との間の賃貸借契約が合意解除された場合には、その合意解除の時点において債務不履行解除の要件を満たしていたときを除き、原賃貸人はその合意解除の効力を転借人に主張することができない旨を定めるものであり、判例法理(最判昭和62年3月24日判時1258号61頁、最判昭和38年2月21日民集17巻1号219頁等)を明文化するものである。

    1. 12.賃借物の全部滅失等による賃貸借の終了
      賃借物の全部が滅失した場合その他の賃借人が賃借物の全部の使用及び収益をすることができなくなった場合には、賃貸借は、終了するものとする。


      (改正の趣旨)
      賃借物の全部滅失その他の賃借物の全部の使用収益をすることができなくなったことを賃貸借の終了事由とするものであり、判例法理(最判昭和32年12月3日民集11巻13号2018頁、最判昭和36年12月21日民集15巻12号3243頁等)を明文化するものである。

    1. 13.賃貸借終了後の収去義務及び原状回復義務(民法第616条、第598条関係)民法第616条(同法第598条の準用)の規律を次のように改めるものとする。
      1. (1) 賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに附属させた物がある場合において、賃貸借が終了したときは、その附属させた物を収去する権利を有し、義務を負うものとする。ただし、賃借物から分離することができない物又は賃借物から分離するのに過分の費用を要する物については、この限りでないものとする。
      2. (2) 賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負うものとする。この場合において、その損傷が契約の趣旨に照らして賃借人の責めに帰することができない事由によって生じたものであるときは、賃借人は、その損傷を原状に復する義務を負わないものとする。
      3. (3)賃借人は、賃借物の通常の使用及び収益をしたことにより生じた賃借物の劣化又は価値の減少については、これを原状に復する義務を負わないものとする。

      (改正の趣旨)
      本文(1)は、民法第616条(同法第598条の準用)の規定のうち収去義務及び収去権に関する規律の内容を明確にするものであり、賃借人の収去義務及び収去権に関する一般的な理解を明文化するものである。

      本文(2)(3)は、民法第616条(同法第598条の準用)の規定のうち原状回復義務に関する規律の内容を明確にするものであり、賃借人の原状回復義務に関する一般的な理解を明文化するものである。このうち本文(3)は、いわゆる通常損耗(経年変化を含む。)の回復は原則として原状回復義務の内容に含まれないとする判例法理(最判平成17年12月16日集民218号1239頁)を明文化するものである。

    1. 14.損害賠償及び費用償還の請求権に関する期間制限(民法第621条、第600条関係)民法第621条(同法第600条の準用)の規律を次のように改めるものとする。
      1. (1)契約の趣旨に反する使用又は収益によって生じた損害の賠償は、賃貸人が賃貸物の返還を受けた時から1年以内に請求しなければならないものとする。
      2. (2)上記(1)の損害賠償請求権については、賃貸人が賃貸物の返還を受けた時から1年を経過するまでの間は、消滅時効は、完成しないものとする。
      3. (3)賃借人が支出した費用の償還請求権に関する期間制限の部分を削除するものとする。

      (改正の趣旨)
      本文(1)は、民法第621条(同法第600条の準用)の規定のうち賃借人の用法違反による賃貸人の損害賠償請求権に関する期間制限(除斥期間と解されている。)の部分の内容を維持しつつ、同法第600条の「契約の本旨に反する」という表現を「契約の趣旨に反する」という表現に改めるものである。「本旨」という言葉は法令によっては「本質」といった意味で用いられることがあり、そのままでは賃借人による用法違反の態様等を限定する趣旨に誤読されるおそれがあるとの指摘があるため(前記第10、1(1)参照)、そのような誤読を避けることを意図するものである。

      本文(2)は、賃借人の用法違反による賃貸人の損害賠償請求権に関する消滅時効(民法第167条第1項)について新たな停止事由を定めるものである。この損害賠償請求権は、賃貸人が賃貸物の返還を受けた時から起算される1年の除斥期間(本文(1))のほかに、賃借人が用法違反をした時から起算される10年の消滅時効(民法第167条第1項)にも服するとされており、長期にわたる賃貸借においては、賃貸人が賃借人の用法違反の事実を知らない間に消滅時効が進行し、賃貸人が賃貸物の返還を受けた時には既に消滅時効が完成しているといった事態が生じ得る。本文(2)は、このような事態に対処する趣旨のものである。

      本文(3)は、民法第621条(同法第600条の準用)の規定のうち賃借人の費用償還請求権に関する期間制限(除斥期間と解されている。)の部分を削除するものである。賃借人の費用償還請求権(同法第608条)と同様の法的性格を有する他の費用償還請求権(例えば同法第196条、第299条等)についてはこのような期間制限がなく、賃借人の費用償還請求権についてのみこのような期間制限を設ける必要性、合理性は乏しいと考えられることを理由とする。

  1. 15.賃貸借に類似する契約
    1. (1) ファイナンス・リース契約
      賃貸借の節に次のような規定を設けるものとする。
      1. 当事者の一方が相手方の指定する財産を取得してこれを相手方に引き渡すこと並びに相手方による当該財産の使用及び収益を受忍することを約し、相手方がその使用及び収益の対価としてではなく当該財産の取得費用等に相当する額の金銭を支払うことを約する契約については、民法第606条第1項、第608条第1項その他の当該契約の性質に反する規定を除き、賃貸借の規定を準用するものとする。
      2. 上記アの当事者の一方は、相手方に対し、有償契約に準用される売主の担保責任(前記第35、4以下参照)を負わないものとする。
      3. 上記アの当事者の一方がその財産の取得先に対して売主の担保責任に基づく権利を有するときは、上記アの相手方は、その当事者の一方に対する意思表示により、当該権利(解除権及び代金減額請求権を除く。)を取得することができるものとする。
    2. (2) ライセンス契約
      賃貸借の節に次のような規定を設けるものとする。
      当事者の一方が自己の有する知的財産権(知的財産基本法第2条第2項参照)に係る知的財産(同条第1項参照)を相手方が利用することを受忍することを約し、相手方がこれに対してその利用料を支払うことを約する契約については、前記4(2)から(5)まで(賃貸人たる地位の移転等)その他の当該契約の性質に反する規定を除き、賃貸借の規定を準用するものとする。
    (注)上記(1)及び(2)のそれぞれについて、賃貸借の節に規定を設けるのではなく新たな典型契約とするという考え方、そもそも規定を設けないという考え方がある。

    (改正の趣旨)
    本文(1)は、いわゆるファイナンス・リース契約のうち一定の類型のものについて、新たに明文規定を設けるものである。

    本文(1)アは、ある財産の所有者でない者が当該財産の使用収益をすることを内容とする契約であって、当該財産の使用収益の対価としてではなく金銭を支払うことを約するものを対象として、当該契約にはその性質に反しない限り賃貸借に関する規定が準用される旨を定めるものである。ファイナンス・リース契約には様々な類型のものがあるため、その中にはユーザーがリース提供者に支払う金銭が使用収益の対価と評価されるもの(賃貸借と評価されるファイナンス・リース契約)が存在するとの指摘がある一方で、ユーザーがリース提供者に支払う金銭が使用収益の対価とは評価されないものも少なくない(最判平成7年4月14日民集49巻4号1063頁等参照)。ファイナンス・リース契約のうち後者の類型のものは、本文(1)アの契約に該当することになる。ここで準用されない賃貸借の規定として民法第606条第1項(賃貸人の修繕義務)及び第608条第1項(賃借人の必要費償還請求権)が例示されているのは、財産の使用収益をする者が支払う金銭が当該財産の使用収益の対価ではないため、当該財産の修繕義務や必要費を負担する義務が発生しないことを根拠とする。

    本文(1)イは、この契約の当事者の一方が相手方に対して、有償契約に準用される売主の担保責任を負わない旨を定めるものである。財産の使用収益をする者が支払う金銭が当該財産の使用収益の対価ではないことから導かれる帰結を明文化するものである。

    本文(1)ウは、当該財産の使用収益をする者が、当該財産の取得者がその取得先に対して有する売主の担保責任に基づく権利を取得することができる旨を定めるものである。取得することのできる権利から解除権及び代金減額請求権を除いているのは、これらの権利がいずれも当該財産の取得者とその取得先との間の契約に対する形成的な効果を与えるものにすぎず、損害賠償請求権や瑕疵修補請求権のように当該財産の使用収益をする者の保護に直接つながるものではないからである。

    もっとも、以上の本文(1)については、使用収益の対価として賃料を支払うことは賃貸借の本質的な要素であるからこの要素を欠く契約を賃貸借に類似するものとして整理するのは相当でないこと、賃貸借の規定の一部の準用のみによって適切な規律を設けるのは困難であること等を根拠として、本文のような規定を賃貸借の節に設けるべきではないという考え方、そもそも本文のような規定を設けるべきではないという考え方があり、これらを(注)で取り上げている。

    本文(2)は、知的財産の利用許諾に関する契約(いわゆるライセンス契約)を対象として、当該契約にはその性質に反しない限り賃貸借に関する規定が準用される旨を定めるものである。賃貸人たる地位の当然承継に関する前記4(2)から(5)までについては、ライセンス契約の性質に反するとの指摘があることから、準用されない規定として例示することとしている。ライセンス契約には無償のものも多いとの指摘があるが、そのような無償のライセンス契約を否定する趣旨ではなく、飽くまで典型的なライセンス契約の要素を明文化する趣旨のものである。

    もっとも、以上の本文(2)については、知的財産を対象とするライセンス契約と有体物を対象とする賃貸借契約とを類似のものとして整理するのは相当でないこと、賃貸借の規定の一部の準用のみによって適切な規律を設けるのは困難であること等を根拠として、本文のような規定を賃貸借の節に設けるべきではないという考え方、そもそも本文のような規定を設けるべきではないという考え方があり、これらを(注)で取り上げている。

第3 結語

上記のとおり、民法改正中間試案の内容については、まだ、確定したものではありませんが、賃貸借の条項だけを見ても、相当の変更が予定されております。変更の内容については、基本的にこれまでの判例を踏襲し、明文化したものがほとんどですが、中には明渡後の賃貸人の損害賠償請求権について除斥期間を設けるなど、全く新しい規定も認められます。このため、今後、民法の改正に備えて、予め改正の内容を把握しておくことは重要であるので上記の内容を是非ご参考にしていただければと思います。
なお、今回は賃貸借の条項に限って紹介しましたが、他にも実務上影響のあると考えられる改正案については、次回以降に紹介したいと思います。

2013.03/19

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亀井英樹(かめいひでき)
東京弁護士会所属(弁護士)
昭和60年中央大学法学部卒業。平成4年司法試験合格。
平成7年4月東京弁護士会弁護士登録、ことぶき法律事務所入所。
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【著 作 等】
「新民事訴訟法」(新日本法規出版)共著
「クレームトラブル対処法」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「管理実務相談事例集」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「賃貸住宅の紛争予防ガイダンス」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修