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弁護士・亀井英樹先生の法律ノウハウ

定期建物賃貸借契約に関する最高裁判決について

出典:裁判所ホームページ

【1】定期建物賃貸借の成立要件

定期建物賃貸借契約の成立要件は、借地借家法38条1項に基づき、下記のとおりの成立要件を満たす必要があります。

  1. (1)公正証書等の書面によって契約しなければならない。(38条1項)
  2. (2)契約の更新がないこととする旨を定めなければならない。(38条1項)
  3. (3)賃貸人があらかじめ書面を交付して定期借家権の説明を行ったこと(38条2項)

上記の成立要件の内、(3)の事前説明書については、これまで、独立した書面で無ければならないのか、それとも契約書と一体でも良いのかについては、これまで解釈に争いがありました。
平成24年9月13日に下された最高裁判決は、この点を明確にしたので、下記のとおりお知らせします。

【2】平成24年9月13日最高裁判決の判旨

1.事案の概要

  1. (1)  本件は、第1審判決別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という)を上告人に賃貸した被上告人が、本件建物の賃貸借(以下「本件賃貸借」という)は借地借家法(以下「法」という)38条1項所定の定期建物賃貸借であり、期間の満了により終了したなどと主張して、上告人に対し、本件建物の明渡し及び賃料相当損害金の支払を求める事案であり、上告人は、同条2項所定の書面を交付しての説明がないから、本件賃貸借は定期建物賃貸借に当たらないと主張していた。
  2. (2) 被上告人は、不動産賃貸等を業とする会社である。上告人は、貸室の経営等を業とする会社であり、本件建物において外国人向けの短期滞在型宿泊施設を営んでいる。
  3. (3) 被上告人は、平成15年7月18日、上告人との間で、「定期建物賃貸借契約書」と題する書面(以下「本件契約書」という)を取り交わし、期間を同日から平成20年7月17日まで、賃料を月額90万円として、本件建物につき賃貸借契約を締結した。本件契約書には、本件賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により終了する旨の条項(以下「本件定期借家条項」という)がある。
  4. (4) 被上告人は、本件賃貸借の締結に先立つ平成15年7月上旬頃、上告人に対し、本件賃貸借の期間を5年とし、本件定期借家条項と同内容の記載をした本件契約書の原案を送付し、上告人は、同原案を検討した。
  5. (5)  被上告人は、平成19年7月24日、上告人に対し、本件賃貸借は期間の満了により終了する旨の通知をした。

2.判旨
期間の定めがある建物の賃貸借につき契約の更新がないこととする旨の定めは、公正証書による等書面によって契約をする場合に限りすることができ(法38条1項)、そのような賃貸借をしようとするときは、賃貸人は、あらかじめ、賃借人に対し、当該賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により当該建物の賃貸借は終了することについて、その旨を記載した書面を交付して説明しなければならず(同条2項)、賃貸人が当該説明をしなかったときは、契約の更新がないこととする旨の定めは無効となる(同条3項)。
法38条1項の規定に加えて同条2項の規定が置かれた趣旨は、定期建物賃貸借に係る契約の締結に先立って、賃借人になろうとする者に対し、定期建物賃貸借は契約の更新がなく期間の満了により終了することを理解させ、当該契約を締結するか否かの意思決定のために十分な情報を提供することのみならず、説明においても更に書面の交付を要求することで契約の更新の有無に関する紛争の発生を未然に防止することにあるものと解される。
以上のような法38条の規定の構造及び趣旨に照らすと、同条2項は、定期建物賃貸借に係る契約の締結に先立って、賃貸人において、契約書とは別個に、定期建物賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により終了することについて記載した書面を交付した上、その旨を説明すべきものとしたことが明らかである。そして、紛争の発生を未然に防止しようとする同項の趣旨を考慮すると、上記書面の交付を要するか否かについては、当該契約の締結に至る経緯、当該契約の内容についての賃借人の認識の有無及び程度等といった個別具体的事情を考慮することなく、形式的、画一的に取り扱うのが相当である。
したがって、法38条2項所定の書面は、賃借人が、当該契約に係る賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により終了すると認識しているか否かにかかわらず、契約書とは別個独立の書面であることを要するというべきである。
これを本件についてみると、前記事実関係によれば、本件契約書の原案が本件契約書とは別個独立の書面であるということはできず、他に被上告人が上告人に書面を交付して説明したことはうかがわれない。なお、上告人による本件定期借家条項の無効の主張が信義則に反するとまで評価し得るような事情があるともうかがわれない。
そうすると、本件定期借家条項は無効というべきであるから、本件賃貸借は、定期建物賃貸借に当たらず、約定期間の経過後、期間の定めがない賃貸借として更新されたこととなる(法26条1項)。

【3】今回の最高裁判決について

今回の最高裁判決は、定期建物賃貸借の成立要件である、事前説明書の交付について、契約書とは別個の独立の書面であることを明確にしたもので、定期建物賃貸借契約の実務に大きな影響を与えるものと予想されます。
もし、定期建物賃貸借契約の書類が、今回の最高裁判決に反して、契約書と一体となっていた場合には、それに基づく賃貸借契約は定期建物賃貸借契約としての効力が認められず、普通建物賃貸借としての効力しか認められないと考えられます。
したがって、現在使用している契約書類をもう一度確認して、今回の最高裁判決において判示したように独立した書面であるか否かを早急に確認することをお勧めします。

2013.02/05

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亀井英樹(かめいひでき)
東京弁護士会所属(弁護士)
昭和60年中央大学法学部卒業。平成4年司法試験合格。
平成7年4月東京弁護士会弁護士登録、ことぶき法律事務所入所。
詳しいプロフィールはこちら ≫

【著 作 等】
「新民事訴訟法」(新日本法規出版)共著
「クレームトラブル対処法」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「管理実務相談事例集」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「賃貸住宅の紛争予防ガイダンス」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修