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不動産・コンサルタント倉橋隆行先生の不動産投資ノウハウ

相続対策の落とし穴! 不動産コンサルタント始末記 突然の相続対策

はじめに

 日本では、資産家、つまり相続税が発生する程度の資産がある人の家系の人なら必ずといってよいくらい、相続争いに巻きこまれている。
 私自身も、多くの相続関係のコンサルティングの仕事を手がけてきたが、一次相続、つまり資産家の父親が亡くなったときに、まだ母親が健在という場合は、母親がその調整役を担うから揉めることは少ないのであるが、二次相続、つまり母親が亡くなったときの相続では一次相続で不満をもった兄弟同士で争うケースがほとんどである。

 

 ちなみに、相続関係で相談にみえるクライアントの多くは、「まさか、うちの子供たちに限って・・・。」と一様に口にするが、私の経験では、程度の大小はあるが、揉めなかったケースは一件もないのが現状である。
 争いのタネは、相続人間で自分の取り分をめぐっての「遺産分割協議」の不調。
 相続対策という大きな視点に立つと、「円滑な遺産分割」「相続税納税の為の資金の確保」、そして「相続税納税額の軽減」、この三つが大きな柱といえる。
当たり前の話であるが被相続人(資産を残して亡くなる人)は、これらの手立てを亡くなる前に行っておく義務があるのである。
 しかし、昔から日本人は多額の相続税を収めなければならない程の資産を所有している家系であっても、不思議なぐらい相続対策には疎い。
 というより、欧米先進国では相続対策は資産家の被相続人の責務であるという捉え方をしているのに、日本では、そういう教育が劣っている。
 円満で有利な相続対策をするには、どのような専門家にアドバイスを受けるか、どのような会社に依頼すればよいか、などの選択によって、解決策を見出すことはある程度できるのであるが、残念ながらわが国では、資産家にその選択肢がないのが現状である。
 税理士は相続税の計算はできるが、総体的な資産の評価、特に不動産には疎いし、弁護士は単発的な相談相手にはなるが、継続してコンサルティングをしてくれるということは少ないし、それをするためには多額な費用が掛かってしまう。また、普段、不動産の取引を依頼している不動産業者では、あまりにも頼りがいがないなど、相談する相手が未成熟な社会であって、相談にのってくれる専門家が身近に一人もいないのである。
 そういった事情であるから仕方がないのかもしれないが、現実、資産家は、亡くなれば多額な「相続税」を支払い、更に、それを相続する相続人に争いがないように円満に分け与えなければならないという義務があるのだから、積極的に解決策を見出してゆかなければならないのも事実である。
 しかしながら、素人判断で行った相続対策で失敗するケースも少なくない。
 相続対策の恐怖から逃れる為に、電話や飛びこみセールスの「相続対策に絶対有利ですよ」といった巧みな口車に乗せられて、人気のない畑のど真中にアパートを建てたり、詐欺まがいの口車にのせられて、多額な借金をして一時払いの変額保険に入ったり、マーケットを無視して空室率の高い高額なビルを買ったり、結果的に、大事な財産を失うケースが頻繁に起こっているのも事実であるから、確かに必要な相続対策ではあるが、安易で、無計画な相続対策は、命取りにもなりかねない。
 また相続が発生すると、相続発生日、つまり資産家が亡くなったときから10カ月で相続税は支払わなければならず、支払いができなければ物納(お金の変わりに物で納める)か、延納(税務署の決めた金利を付加して相続税を分割支払い)をするかしかないのである。

 

 今回のケースでは、突然の相続対策事例を検証したい。

 

 数年前、私の知り合いの地主さんが自宅前の道路清掃を日課にしていた所、後ろから走ってきた乗用車にはねられて事故死したことがあった。
 その地主さんは近隣に多数の不動産を所有し、また自宅も広い屋敷に住んでいた資産家の為、相続税納税額を計算してみると、2億2000万円にものぼり、明らかに相続破産の状況にあった。
 生前、相続対策などにはまったく無頓着で、現金預金は1500万円程度あるだけだったので、とても相続税を納めることなどできなかったのである。
 また生命保険金と事故の賠償金は合わせて8500万円程度降りる見込みだったから、それでも用意できた現金は1億円にしかならず、相続納税額の半分にも満たない。
 その時、その事実を知った奥さんがいった言葉が印象的だった。
 「主人の死亡保険金や事故の賠償金なのに、全部、税金でもっていかれてしまうんですね。」
 確かに、言われてみれば矛盾がある。
 事故で突然亡くなった遺族に1円も残らず、素通りして税務署にもっていかれてしまうという事実。
 確かに、残された遺族からしてみれば、釈然としないのもよくわかるような気もするが、しかし、これが相続税納税の事実である。
 相続税のシステムを考えている人や、相続税の納税に関係ない人からすれば「それだけの資産があるんだからしかたがない」と思われるかもしれないが、日本の資産家の多くは単なる「土地持ち」のケースが少なくない。
 場合によっては、価値のないような土地に対してまで多額な評価がなされているケースが少なくなく、何も考えずにそのままの評価で申告してしまえば、不当に高額な相続税を借金で支払い、その後、その借金が支払えずに、土地を売却しようとしても売却できず、 結局、全財産を競売にかけられてしまうことも、事実として存在するのである。
 結局、この方の場合、広大な敷地部分の不動産鑑定評価を出し、実勢価格に基づき相続税の申告を行った。ちなみに4億円近い評価が1億4000万円程度にまで下がり、納税額は1億2000万円程度にまで下げることができた。

 

 さて、相続対策は、発生してから対応しているようでは明らかに遅過ぎることを知るべきである。

 

 相続対策を行わなかったばかりに、失う必要もない資産を失い、親族同志の「醜い争続」を招いてしまう。そうならないためには被相続人となる本人、および家族のものは「相続税は亡くなったときの大きな負債」であるという危機意識を強くもち、家族全員で相続対策を考えるようにしたい。そして、不良資産や権利の複雑なものなどは、その処理に時間が長く掛かってしまうことが多いから、目標を立てて徐々に処理しておくようにする。
 場合によっては、処分するものは処分し、運用益のあるものは、更に運用益が出るように資産の整備を行う。所有資産の内容によって、流動的に資産防衛の戦略を立てていかなければならない。
 いずれにせよ資産家(地主)は、生前から早めに信頼できる専門家をパートナーとして選任し、あらゆる角度でのアドバイスを受けながら資産防衛を図っておく必要がある。
 相続対策は例えて言うならば、将棋と一緒で、勝とうと思えばいろいろと手を考えなければならないし、一手の打ち方を間違えると致命傷をうけて、体勢を取り戻すのに大変な手間とコストがかかってしまうものである。
 本書では、実例を中心にケーススタディとして、読みやすく仕上げてみた。
 もちろん登場人物は、すべて仮名にさせて頂き、内容についても、多少、加筆させて戴いている。
 また登場人物の言語については、当時の様子をリアルに再現する為、そのままの口調を再現させて戴いている。
 本件、ケーススタディが、単なる読み物ではなく、多くの資産家(地主)にとって、本書を通じ、少しでも資産防衛策のお役に立てれば幸いであると考えている。

 

2005.09/27

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倉橋隆行 (くらはしたかゆき)
1958年9月25日生
96年に(社)全国賃貸住宅経営協会横浜南部支部支部長に就任し、翌年、同協会の神奈川連合会の創設に伴い副会長に就任。98年、不動産業界に関するシンクタンクである不動産体系研究所創設に伴い、取締役所長に就任。99年、総合的な月貸し賃貸の運用会社である(株)月極倶楽部を創立、代表取締役に就任。同時に(株)三春情報センターを退職。そして、資産運用管理会社である(株)CFネッツを創立し、代表取締役に就任。2001年、2002年JREM国際CPM協会副会長就任。2003年4月、IREM(全米不動産管理協会)より、CPM(公認不動産管理士サーティファイド・プロパティマネージャー)の称号を日本で初めての公式試験受験による取得者となる。現在、グループ企業4社の代表取締役と取締役、その他公益法人の役職をこなし、超多忙な仕事をこなしている。
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