長らく続いている景気低迷のもとでは、当然ながら企業の収益が減少し、その結果として税収入が大幅な減収となっています。そのためだけではないでしょうが、最近の国税の税務調査では綿密な調査が実施されることが多いように思われます。
中でも相続税の税務調査に関しましては、税務署員から指摘される度に、早い時期から注意していれば回避できたと思われる項目があります。
今回は、そのような相続税の税務調査でもっとも指摘されやすい項目として、預貯金名義についての注意点を取り上げたいと思います。
名義預金とは?
相続税の税務調査において、税務署員から指摘を受ける相続財産は、預貯金が大多数といえます。
それは故人名義ではなく、故人の家族(妻、子、孫など)名義の預金、いわゆる名義預金といわれるものです。
なぜこの名義預金が税務調査で問題になるのでしょうか?
最初に、故人の相続財産となる預貯金は、どういう預貯金なのかといいますと、
「故人の名義の預貯金だけが相続財産」という思い込みがあります。
しかし、
「名義いかんに拘らず、資金の出所が故人のものである預貯金すべてが相続財産」ではないかというのが税務署の見解です。
◆家族名義の預金にしておけば相続財産からはずすことができる、という間違った認識のもとに名義を変えた。
◆金融機関の担当者から、成績のために新しい名義の預金を求められて名義変更した。
という理由で名義を変えてしまった預貯金はすべて故人の預貯金なのです。
「これは間違いなく妻のものだ」と言える根拠がある預金ならいいのですが、出所がハッキリしない預金や、明らかに疑わしい預金などは間違いなく指摘を受けています。
では、どういう預金がターゲットとなるのでしょうか。
例1)専業主婦である妻の預貯金3,000万円
収入のない専業主婦が3,000万円の貯蓄を持っていることは、ほとんどありえません。
税務調査では「家事をしていた対価として夫からもらったお金がたまった」などと反論するのですが、すべてを妻の預貯金であると、認めてもらえることは少ないようです。
例2)遠方に住む18歳の孫の預貯金1,000万円
例1の主婦と同じく、収入のない未成年の孫がこれだけの貯蓄があるのは、普通に考えてありえないことです。
その上、金融機関への届出印鑑、住所などが故人と同じであれば、孫が預貯金をしているという実体が全く認められないですから、間違いなく故人が管理していたものと認定されるでしょう。
また、困ったことに、「郵便局に預けていれば、ばれないですよ」などと世間ではいまだに言われることがよくあります。確かに以前は、税務署が郵便局に調査に行くのはあまりないという事のようでした。しかし最近では銀行などと同じように、税務署が税務調査のために郵便局に対して文書照会や現地調査をしています。
ですから、郵便局の貯金が税務署にばれないことはありえなくなっているのです。
税務署の調べ方
ではここで、税務署がどのようにして預貯金を調べているのかを見てみましょう。相続税申告書が提出されてから税務調査に来るまでに、税務署員は次のような事前調査を行っているようです。
◆申告書に記載されている金融機関に対して、被相続人と同じ姓の名義人全員の預金明細を提出させて家族名義の預金の存在とその内容を確認します。
◆名義預金と思われる口座の開設時の印鑑届出票や入出金時の伝票を調査して、筆跡などを基に誰が手続きしているかを確認します。
また皆様のお手元にある預貯金通帳と同じものを資料としてコピーしています。
⇒この時、税務署員は金融機関の応接室などで作業をするため、金融機関の職員は誰の預貯金を調査しているのかわからないことが多いようです。
◆故人の名義の預貯金、名義預金と思われる家族名義預貯金の過去3~5年間の通帳内訳を調査して、大きなお金の出入りをチェックします。
そして、実際の税務調査時には、
◎家にある全ての印鑑(同居人全員のものです!)を捺印した一覧表を作成し、その印影と全通帳の届出印鑑を照合します。
◎聞き取りなどにより、預貯金の入出金の動きを確認してきます。
預貯金の動きはすべて通帳などに記録されています。その記録を基に、これだけの綿密な調査が実施されますので、安易な方法での資金移動はすべて把握されてしまうということがお分かりいただけたと思います。
もし、名義預貯金をお持ちの場合は、必ず専門家にご相談をされることをお勧めいたします。