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公認会計士・友弘正人先生の税制ノウハウ

事業承継を考える

(1)考える…自社はどうなる
昭和30年代、40年代に若くして会社を創業し、辛酸をなめて現在の優良な会社に作り上げた中小企業のオーナー経営者の皆様は、今では70歳、80歳の高齢になり、事業を次世代に引継ぐ時期を迎えています。
彼らは、全て自分の決断と責任で、現在の地位を自分一人で築き上げてきました。良い意味でも悪い意味でも、いわゆるワンマン社長が多く、いざ事業承継を考える時、何も手を打ってこなかった、後継者が育っていない、後継者がいない等々、問題山積みの会社が多くあります。
後継者がいない場合は、会社自体を売却または合併(M&A)して、事業を存続承継させ、雇用も継続させてゆくことが可能ですし、会社を廃業することも選択肢でしょう。また、株式を公開して、資本と経営を分離し、経営を他に委託することも考えられます。
しかし、大部分の中小企業のオーナー経営者は、子息等の親族や役員等から次代の後継者を決定し事業を承継させたいと考えています。
この事業と経営を、誰に、いつ、どのように承継させてゆくか。これを考えることが「事業承継の問題」です。その承継コストは安いに越したことはありません。

(2)事業承継とは何を承継するか
承継する内容の一つは「経営権の承継」で、もう一つは「財産権の承継」です。

(3)経営権の承継とは
経営権の承継とは、経営を実質的に自分の意思で実行できる権限を掌握することで、具体的には「代表取締役社長」の交代です。
現経営者は会長職や相談役に就くにしても大株主であるのが通常ですから、後継者を株主総会において取締役に選任することは容易ですし、取締役会を牛耳っているので、代表取締役に選任することも簡単です。このように、「経営権の承継」は後継者が決まっておれば、問題なく行うことができます。

(4)財産権の承継とは
財産権の承継とは、会社の所有権=株式を、現経営者から承継することです。後継者が社長の座を承継しても、株式を所有していなければ、解任される可能性もあり、中小企業においては、取引先、従業員等も、実質的な経営者という見方はしないでしょう。株式は財産的価値を持ち、それは会社の価値そのものです。株式が承継されれば、財産の所有者が移動しますので、課税が発生します。
オーナー経営者が所有する株式を、いつ、どのような方法で、後継者に移転させるかによって、課される税目が違ってきます。
オーナー経営者が生前に株式の承継を行う場合、有償で売買すればオーナー経営者に譲渡税がかかり、無償で贈与すれば後継者に贈与税がかります。贈与の方法は、承継期間、総額、コスト予想、ほかの事情により、ケースバイケースで暦年課税方式か相続時精算課税方式のどちらか有利な方法を選択します。
オーナー経営者の死亡時に株式が子息等の相続人に承継されれば、相続税が課されます。(後継者が相続人以外の場合は、遺言による遺贈となりますが、いずれも相続税が課されます。)
優良会社の場合は、株価も高く、株式の評価額もかなりの額になりますので、その株式の承継コスト=税金が莫大なものになる場合が多いです。(特に、非上場会社の株式は、上場会社に比べて高い傾向があります。)

(5)事業承継コストは安いが一番!安いは早いが一番!
前記のように事業承継コストは、いつ、どのような方法で承継させるかによって、課税される税目が異なり、税率も違いますので、やり方によっては税負担に大きな差が生じます。早くから財産承継に問題意識をもち、財産承継を経営権の承継とともに長期的・計画的に時間をかけて行うことが、事業承継コストを安くする一番の方法です。

(6)何もせず、相続時に慌てふためくは最悪
何も対策をせず、残念にも相続を迎えた場合はどうでしょう。
株価は相続発生時点で評価しますので、株価を引下げるための打つ手は限られます。また、莫大な相続税になりますと、納税資金にも困ります。相続財産が土地や上場株式であれば換金できますが、非上場株は買手が見つかりません。非上場株の物納も、最近は収納要件等の取扱いが明確化されましたが、要件は厳しいです。一定要件の買受希望者がいる場合と財務指標が一定規準の会社が要件ですが、どちらの場合も買受け後の経営権の掌握を含めた観点で考え、対策する必要があります。
また、相続時の株式相続は、個人財産の遺産分けの一環として捉えられますので、経営権承継という側面を考えずに遺産分割協議を終え、次世代の会社経営にトラブルの芽を残す場合も、よく見受けられます。株式の相続財産としての評価は、後継者にとって絶対的な値打ちはありますが、事業に携わらない他の相続人にとって、その値打ちはありません。それを相続税評価額の方法で評価し、財産分けの対象にし、その相続の結果として、多額の納税資金が必要となるので、相続人間の遺産分けトラブル、事業承継上の問題に派生するのです。
事業承継を相続時にやらねばならないのは、最悪のケースです。

(7)株は評価を下げて生前に移転する
ある社長曰く「当社は、毎決算期ごとに自社株の評価を税理士さんにやってもらっています。高くならないように工夫して決算をしています。」
私「ん!それで社長どうしたんですか。評価を下げて移転してないんですか。」
株式の相続対策は多くあり、基本的には、

 ・株価そのものを下げる
 ・株数を増やし、株価をうすめる
 ・持株数そのものを減らす

がありますが、事業会社の事業状況は常に変動していますし、自社株評価に影響を与える上場株式相場も変動しています。商法、税法、税務行政も変化してゆきますので、現時点で考えられる最善策を確実に実行して後継者に早く移すことが重要です。

(8)現経営者の責任

以上のように、事業承継については種々の困難な問題が伴ないます。
特に経営権については、誰に承継させるかを決められるのは、オーナー経営者自身しかできません。ここが決まらなければ、全ての対策がスタートしません。次に、財産権の承継について、現オーナー経営者が生前に後継者と共に対策を立てるべき問題です。どちらも早いが一番です。
自分が築き上げた会社の事業承継の道をつけるのは、現経営者の最重要責務です。
 

2006.02/21

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友弘正人 (ともひろまさと)
(公認会計士・税理士・CFP・行政書士)
昭和24年生まれ。
中央大学商学部卒業。昭和50年公認会計士第2次試験合格開業。監査法人大成会計、アクタス監査法人社代表社員を経て、平成12年株式会社トータル財務プラン代表取締役。株式会社アート相続プラン代表取締役を兼任している。
NHK文化センター、商工会議所、日本経済新聞社、中小企業センター、三和総研、日本総研、その他講義・講演マネジメントサービス活動を展開。
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