新会社法では、相続人に対して、会社が相続株式の売渡しを請求できるようになりました。今回は、この制度の概要と、その手続き及びメリットついてご説明します。
新会社法における相続人等に対する売渡しの請求制度
旧商法のもとでは、株式に譲渡制限をつけることによって、売買等による株式の譲渡を制限することができました。しかし、相続や合併、会社分割などでは、譲渡制限株式であっても株式は承継され、その人が会社に好ましくない人であっても株主になるのを防ぐことはできませんでした。
会社経営にとって好ましくない者が突如として株主になることや、株式が分散することによる紛争を未然に防止したいというニーズがあったため、平成18年5月1日より施行された新会社法では、会社が定款に自社の株式を買い取る定めをすることにより、相続等で株式を取得した者に対し、(自己)株式を売り渡すよう請求できることになりました。
本制度を適用するには
◆ 適用要件
1譲渡制度株式の発行会社であること。(その会社の発行する株式の全部又は一部に譲渡制限が付いている〔非公開会社〕こと)。
2相続など、いわゆる一般承継により譲渡制限株式を取得した者に対し、「その株式を会社に売り渡すことを請求できる旨」の規定が定款に定められていること。
本制度の適用に当たっては、自己株式取得については分配可能利益を限度とする財源規制の適用(会社法4611五)があるため、当該法人に相当額の分配可能利益があって、かつ資本的にも余裕があることが大前提となります
相続等の場合の自己株式売渡請求の手続き
株式会社の株主に相続が開始し、その株式会社が上記2の用件を満たしているときは、その相続により株式を承継する者が会社にとって好ましくない者であると会社が判断すれば、その者が取得した株式について売渡請求を行うことができます。
◆ 売渡請求の手続きの流れ
1定款に会社が相続人等に自己株式の売渡を請求できる旨を規定する。
2相続等があったことを知った日から1年以内に株主総会の特別決議を経て株主に請求する。
3株式の売買価格は当事者間の協議によることが原則であるが、協議が整わない場合には、裁判所に売買価格決定の申立てができる(ただし、当該申立ては売渡請求の日から20日以内にする必要があります。また20日以内に申立てがなく、かつ当事者間での売買価格の成立がない場合には、売渡請求はその効力を失います。)
本制度の導入のメリット
旧商法のもとでは、相続等で分散してしまった株式を事実上の経営者に集中させようとすれば、経営者が株主から買い取るか、株主が会社に提供するのが一般的でしたが、いずれにしても株主が譲渡に応じなければ取得は不可能でした。このような時に、新会社法では、本制度を適用して、分散された株式の買取を会社が強制的に行うことによって事実上の経営者に株式を集中させることができるようになりました。
しかし本制度のもとでは、正統な後継者が相続した株式についても、逆に会社から売渡請求がされてしまう可能性もあります。それは一定の株式を共同経営者が所有している場合などです。 以上のように、新会社法における「相続人等に対する売渡しの請求」を利用するにあたっては、定款の変更などの手続きを行うほか、事前に会社の株主構成や財務状況の分析など多くの事項について検討する必要がありますので、本制度の利用については専門家に相談することをお奨めします。