公認会計士・友弘正人先生の税制ノウハウ
個人事業における<必要経費>計上のポイント ~税務署の<否認>に備えた準備をしておく~
【はじめに】
個人の事業において支出する費用のうち一体どの範囲までが<必要経費>として認められるのか?特に「交際費」は<仕事>と<プライベート>の区別が曖昧な部分が多く、税務調査において税務当局からはその支出は「交際費」ではなく「家事費」であり必要経費にはならないとして否認されやすい項目です。
そこで今回は税務署から否認されやすい経費項目について分かり易く解説をいたします。
【 I 】「家事費・家事関連費」とは
「家事費」とは・・「衣服費・食費・住居費・娯楽費・教養費などのように、個人の消費生活上の費用」のことです。
⇒当然、必要経費には算入できません。
「家事関連費」とは・・「接待費・交際費にその例が多いのですが、必要経費と家事費の性質を併有している費用」のことです。
⇒(1)
経費の主たる部分が業務の遂行上必要であり
(2) その必要である部分を明らかに区別ができる場合にのみ必要経費にできます。
■経費計上の<ポイント>
- 「家事関連費」は当然に必要経費となる支出ではありません。一定の要件を満たす場合に限り必要経費への算入が認められる支出です。よって
(1) 業務の遂行上必要でないもの
(2)
50%以上が個人的な支出であるもの
(3) 必要経費と家事費との区別が明確でないもの
についてはその支出の全てが必要経費には算入されません。
【 II 】「交際費」とは
「交際費」とは、法人税法では「交際費、接待費、機密費その他の費用で法人がその得意先、仕入れ先その他事業に関係のあるもの等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出するもの」をいいます。
交際費の基本的な意義は所得税においても大きな違いはないと考えられます。
ただし、個人事業者の経費の場合は支出の中に個人的な「つきあい」が含まれやすいため個人的つきあいの部分と業務に必要である部分とを明確に区別しなければなりません。
【 III 】否認されやすい事例
1. ゴルフプレー代の必要経費性(接待交際費)
- < 裁判所の判断 >
裁判所は事業者Aが定期的にゴルフ場でゴルフをしていること、ゴルフ場主催の大会等への参加が多いこと、自己のプレー代のみしか負担していないこと等から事業者Aのゴルフを個人の趣味、娯楽としておこなっていると判断して必要経費性を認めませんでした。
<
ポイント >
ゴルフ関連の支出が必要経費として認められるのは、その費用が業務上直接必要であったと認められる場合のみです。本来、ゴルフプレー代、年会費、ロッカー使用料は家事関連費と考えられるので、それらの費用のうち業務上必要と認められるものだけが必要経費になります。
- < 裁判所の判断 >
家事関連費を按分する方法について、裁判所は「接待交際費のような経費は、本来これらの支出毎に検討をし、家事関連費に該当するものがあればそれを控除すべきものであり、一定割合を乗じて家事関連費を控除するという計算は特段の事情がない限りなじまない」と判断しました。
<
ポイント >
家事関連費が必要経費に算入できるのは、<業務の遂行上必要である部分を明らかに区分することができる>場合のみに限られています。そして、実際に区分していない場合には、そのすべての支出が必要経費とは認められません。したがってこの按分による方法では必要経費とは認められないことになります。
■ゴルフプレー代を必要経費にするための注意点
- (1)顧客、同業者、仕入先等とプレーする場合は、事前に稟議書等を作成し、相手方が業務関連者であり事業上の有益な情報を得る目的があることを明らかにする。
- (2)ゴルフを行った日時、場所、参加者の氏名、会社名、役職、得られた情報の内容などを記録しておく。
- (3)
事業の関連性はプレーごとに判断しプライベートの性格が強いものについては、個人の負担とし、業務と私用を明確に区別しておく。特にゴルフ場の競技会等は個人的な趣味とみなされる可能性が高いので注意する。
- (4)年会費やロッカー使用料等の維持費については、個人使用と業務を日数等で按分しておけば業務使用については必要経費に算入できる可能性が高い。
2. 家族従業員だけの慰安旅行の必要経費性(福利厚生費)
- < 裁判所の判断 >
青色専従者である妻を慰安する旅行であっても、従業員の勤労意欲を高めるものとはいえない。旅行の内容からして、社会通念上、使用者が使用人の慰安旅行として一般的に行っている旅行ではなくサラリーマンの家族が行う家族旅行と異なるものではない。したがって業務の遂行上必要なものとはいえない。
<
ポイント >
福利厚生の趣旨は従業員の勤労意欲を高めるといった目的のために支出される経費であるので家族従業員だけの旅行では「勤労意欲を高める」部分と「単なる家族旅行」の部分を明確に区別することは客観的に困難であり、必要経費に算入することはできないと考えられる。慰安旅行が必要経費として認められるのは家族従業員以外に雇用する従業員がこの旅行に参加している場合で「勤労意欲を高める」ことが客観的に立証できれば必要経費算入が可能であると考えられます。
【 IV 】最後に
個人事業者に対する税務調査では特に「交際費」が調査の対象となる傾向にあり、その中でもゴルフ関連の経費の税務否認が目立ちます。何年も税務調査がない場合は段々とあいまいになりがちな項目ですので税務調査に備え普段から「事業」と「プライベート」の支出を区別しておきましょう。
2011.06/28
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友弘正人 (ともひろまさと)
(公認会計士・税理士・CFP・行政書士)
昭和24年生まれ。
中央大学商学部卒業。昭和50年公認会計士第2次試験合格開業。監査法人大成会計、アクタス監査法人社代表社員を経て、平成12年株式会社トータル財務プラン代表取締役。株式会社アート相続プラン代表取締役を兼任している。
NHK文化センター、商工会議所、日本経済新聞社、中小企業センター、三和総研、日本総研、その他講義・講演マネジメントサービス活動を展開。
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