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弁護士・亀井英樹先生の法律ノウハウ

定期借家契約の注意点

定期借家契約のトラブルの増加
借地借家法の改正により、定期借家制度が導入されてから、8年経過しましたが、最近、定期借家に関するトラブルについての相談が増加しております。その原因としては、定期借家契約が、一般化し、通常の賃貸借契約形態の一つとなったことにより、馴れが生じたり、全く定期借家契約について知らない社員に行わせたりして、契約上必要な書類の不備などのケアレスミスが発生するようになったことが原因の一つにあると思います。
そこで、今回は、定期借家契約について実務上のトラブルが発生しやすい注意点について説明したいと思います。

定期借家契約締結時の注意点

(1) 定期借家契約の成立要件
まず、定期借家契約を結ぶためには、下記の成立要件を満たさなければなりません。もし、下記の要件の一つでも欠いてしまえば、いわゆる普通借家契約になってしまいます。
[1]書面による契約
公正証書等の書面によって契約しなければならない。(38条1項)
[2]契約の更新がないことの定め
契約書面には、契約の更新がないとする旨を定めなければならない。(38条1項)
[3]事前説明書の交付
建物の賃貸人は、あらかじめ、建物の賃借人に対し、同項の規定による建物の賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により当該建物の賃貸借は終了することについて、その旨を記載した書面を交付して説明しなければならない。(38条2項、3項)

(2) 契約締結時のトラブル
契約締結時におけるトラブルとしてよくあるのが、事前説明書の交付が無い場合です。契約締結時に事前説明書の交付が無い場合には、普通借家契約となってしまい、定期借家契約の成立は認められません。このようなトラブルは、定期借家契約について十分に知らない社員が契約書類をセットしたり、契約の締結を賃貸人から直接依頼受けている不動産会社ではなく、定期借家契約を十分に知らない客付けの媒介業者において契約を締結するような場合に発生しやすくなります。
そして、不動産会社が賃貸人から定期借家契約の締結の委託を受けていたにも関わらず、過失により普通借家契約が成立してしまった場合には、当該賃借人との間で賃貸借契約を解約して退去させるのに必要な費用や、賃貸人が予定していた時期に物件を使用できなくなったことにより生じた損害等について、委託を受けていた不動産会社は賃貸人に対して損害賠償責任を負うことも考えられます。
したがって、定期借家契約が、一般化しつつある現状においては、定期借家契約の成立要件の具備の有無をチェックする体制をきちんととっておかないと逆にミスが発生しやすくなると考えられますので、十分にご注意ください。

定期借家契約の終了時のトラブル

(1) 定期借家契約の終了時の法律要件
契約期間が1年未満の場合は、期間満了により自動的に終了します。しかし、契約期間が1年以上の場合には、期間満了の1年前から6月前までの間(通知期間)に賃借人に対し、「期間の満了により賃貸借が終了する旨の通知」をしなければなりません(借地借家法38条4項)。
そして、通知期間経過後に通知をしたときは、通知の日から6月を経過した後に、賃貸借の終了を対抗できることになります(借地借家法38条4項)。

 

(2) 契約終了時のトラブル
定期借家契約の終了時のトラブルとして多いのは、終了通知が十分でないケースです。不動産会社において、何百何千の賃貸物件を管理している場合に、終了通知を各賃貸物件に期間満了の6か月前までに正確に発送することも徹底しているとは言い難い面があります。その上、当該終了通知が賃借人の不在等により届かなかった場合において、そのまま放置して契約期間が徒過してしまい、賃貸借契約の終了が認められないというケースも少なからずあります。
ところで、不動産会社の過失により賃貸借契約の終了が認められないことにより、賃貸人が予定していた当該物件の利用できなくなり、そのため損害を被った場合には、不動産会社には損害賠償責任が生じる可能性があります。
また、終了通知について、賃借人の中にはわざと終了通知の受領を拒絶するような者も現実に存在します。この場合には、裁判手続をとったとしても、裁判上の手続で賃借人に終了通知の到達を図った上で、更にその時点から6か月経過後でないで契約の終了は認められないことから、賃貸物件の明渡を受けるまで相当長期の期間を要することになることを想定する必要があります。
 したがって、定期借家契約においては、終了通知の発送時期及び到達の有無について、日頃から正確に管理していないと不動産会社や賃貸人に重大な損害が発生する危険性がありますのでご注意ください。

再契約時のトラブル

(1) 再契約の有効性
定期借家契約においては、期間満了により適法に契約が終了したとしても、賃貸人は賃借人との間で、再度賃貸借契約を結んで、賃借人が賃借物件の居住を継続することを認めることができます。この場合、新たに締結する賃貸借契約を一般に再契約といい、法律上も有効と認められております。そして、通常は、新たに締結する賃貸借契約も定期借家契約の方式で締結することが多いのですが、再契約時から普通借家契約に変更することも可能です。
 
(2) 再契約におけるトラブル
再契約においては、まず、終了通知が完了していないにもかかわらず、再契約を締結するという場合が考えられます。この場合には、前の定期借家契約が終了していないにもかかわらず、後の契約も締結され、二重契約となってしまい、契約内容が不明確になることがトラブルにつながる可能性があります。
次に、再契約において、定期借家契約を締結する予定であったにも関わらず、再契約時には、上記の定期借家契約の成立要件を満たしていなかったことから、普通借家契約に変更されてしまうことによりトラブルが発生することもあります。この場合、契約の締結の媒介・代理等をした不動産会社に過失があれば、賃貸人に対して、上記の通り損害賠償責任を負う危険性が生じます。
更に、再契約において、当初の定期借家契約において賃借人に生じた修繕義務を再契約時にも引き継ぐ旨の定めをしておかないと、賃借人の原状回復義務としては再契約時の状態に復せば足りるという不合理な結果が生じる可能性がありますので、再契約時に締結する賃貸借契約書については、その点についての特約条項を定めておく必要があります。

まとめ
以上のとおり、定期借家契約については、普通借家契約と異なり、借地借家法により特別に定められた要件の下で有効に成立していることが認められているため、契約の管理にあたっては、常に要件の具備を確認したり、正確な期間管理が要求されることとなり、それを見過ごせば重大な損害が発生する危険性があるということを十分に認識する必要があります。
このため、定期借家契約を利用して不動産賃貸の経営を行っている不動産会社は、この機会に、定期借家契約の運用に関するコンプライアンスについて見直してみたらいかがでしょうか。

2009.03/31

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亀井英樹(かめいひでき)
東京弁護士会所属(弁護士)
昭和60年中央大学法学部卒業。平成4年司法試験合格。
平成7年4月東京弁護士会弁護士登録、ことぶき法律事務所入所。
詳しいプロフィールはこちら ≫

【著 作 等】
「新民事訴訟法」(新日本法規出版)共著
「クレームトラブル対処法」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「管理実務相談事例集」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「賃貸住宅の紛争予防ガイダンス」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修