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リプロス代表・松尾充泰の賃貸経営ノウハウ

第5回「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」のリプロス流解体新書

 今回は、前回の続き「II契約の終了に伴う原状回復の考え方」を解説したいと思います。今回のポイントは、入居の経過年数によって、原状回復義務の負担割合が違うこと、また、部屋そのものの経過年数により、そこにある設備の残存価値が入居時から違うことについての考え方が説明されています。

 

 尚、以下のガイドラインの抜粋は、第4回で紹介した図2損耗・毀損事例の区分についての詳細な解説になります。抜粋中のA、A(+G)、B、A(+B)は第4回で解説した図2損耗・毀損事例の区分の事で、今回の解説にも同じ図を加えて解説します。ガイドライン本書では、P10に掲載されています。

 

(前回の訂正)
第4回で、契約の終了に伴う原状回復義務の考え方を2回に分けて解説すると申し上げましたが、解説が長くなった為に3回に分けて解説することになりました。ご了承ください。

----------------------ガイドラインP11  本文抜粋 ここから----------------------
3 賃借人の負担について
(1) 賃借人の負担対象事象
上記区分による建物価値の減少に対する補修等の費用の負担者は、次のとおりとなる。

A: 賃借人が通常の住まい方、使い方をしていても発生すると考えられるものは、1(2)1(第4回の解説にある本文抜粋を参照)の経年変化か、1(2)2(第4回の解説にある本文抜粋を参照)の通常損耗であり、これらは賃貸借契約の性質上、賃貸借契約期間中の賃料でカバーされてきたはずのものである。したがって、賃借人はこれらを修繕等する義務を負わず、この場合の費用は賃貸人が負担することとなる。

A(+G): 賃借人が通常の住まい方、使い方をしていても発生するものについては、上記のように、賃貸借契約期間中の賃料でカバーされてきたはずのものであり、賃借人は修繕等をする義務を負わないのであるから、まして建物価値を増大させるような修繕(例えば、古くなった設備等を最新のものに取り替えるとか、居室をあたかも新築のような状態にするためにクリーニングを実施する等、Aに区分されるような建物価値の減少を補ってなお余りあるような修繕等)をする義務を負うことはない。したがって、この場合の費用についても賃貸人が負担することとなる。

B: 賃借人の住まい方、使い方次第で発生したりしなかったりすると考えられるものは、1(2)3の故意・過失、善管注意義務違反等を含むこともあり、もはや通常の使用により生ずる損耗とはいえない。したがって、賃借人に原状回復義務が発生し、賃借人が負担すべき費用の検討が必要になる。

A(+B): 賃借人が通常の住まい方、使い方をしていても発生するものであるが、その後の手入れ等賃借人の管理が悪く、損耗が発生・拡大したと考えられるものは、損耗の拡大について、賃借人に善管注意義務違反があると考えられる。したがって、賃借人には原状回復義務が発生し、賃借人が負担すべき費用の検討が必要になる。

なお、これらの区分は、あくまで一般的な事例を想定したものであり、個々の事象においては、Aに区分されるようなものであっても、損耗の程度等により実態上Bまたはそれに近いものとして判断され、賃借人に原状回復義務が発生すると思われるものもある。

 したがって、こうした損耗の程度を考慮し、賃借人の負担割合等についてより詳細に決定することも可能と考えられる。
しかしながら、現時点においては、損耗等の状況や度合いから負担割合を客観的・合理的に導き出すことができ、かつ、社会的にもコンセンサスの得られた基準等が存在していないこと、また、あまりにも詳細な基準は実務的にも煩雑となり、現実的でないことから、本ガイドラインにおいては、程度の差に基づく詳細な負担割合の算定は行っていない。


▼参考図 第4回で解説したガイドラインP10 「図2 損耗・毀損事例の区分」

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----------------------ガイドラインP11  本文抜粋 ここまで----------------------

≪ポイント≫
1.建物価値の減少を補って余りある修繕を賃借人(入居者)が負う義務はない
2.経年変化や通常損耗の範囲でも、程度によって賃借人(入居者)の負担になりえる

ポイントの「1」については、ガイドラインの本文中には「Aに区分されるような建物価値の減少を・・・」と書かれた部分の事です。

 これは、図に合わせてグレードアップを説明する為に記載されたと思いますが、この図と解説だけでは勘違いする人がいるかもしれません。

 というのは「A」は、そもそも賃貸人(大家さん)の負担です。

 しかし、上記ガイドラインの文中にもありましたように、「A」に区分されるような経年変化、通常損耗でも、「B」の善管注意義務違反や故意、過失と判断され賃借人(入居者)に原状回復義務(入居者負担)が発生する場合があります。

 また「B」に分類されている善管注意義務違反、故意、過失があり、賃借人(入居者)が負担しないといけない場合でも、このポイントで説明している箇所は同様の事が言えます。

 以下で例を用いて解説します。

例)新品のカーペットを使った入居者が3年間入居して毀損させ交換が必要となった場合
カーペットの代金を6万円と仮定。
カーペットの減価償却は6年とする。
カーペットの残存価値は減価償却6年の半分なので50%
※減価償却については、ガイドラインP12の経過年数で詳しく説明しております。

退去時に、賃貸人(大家さん)が元のカーペットより高級なカーペットを使って原状回復を行い、代金が10万円の場合は入居者負担がいくらになるか?
 

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表から分かるように、ガイドラインでは賃借人(入居者)が負担する可能性があるのは、残存価値の部分のみなのです。しかも、善管注意義務違反、故意、過失などがない限り、負担させる事はできません。

 よって、入居者の負担は、3万円が上限です。

 ただし、部分補修ができる場合や、過失の割合などによって、負担額は減少する可能性もあります。

ポイント「2」は、本文の「Aに区分されるようなものであっても・・・」と書かれた部分の事です。上記解説でも少し触れましたが、「費用負担についての区分について」これらはあくまでも一般的な事例を想定したと明記されています。

 そして、「A」に区分するようなものであっても、程度によっては「B」と判断され、原状回復の義務が発生しえると書かれています。

 例えば、タバコのヤニですが、基本的にはガイドラインでは、「A」の通常損耗に分類されています。

 しかし、ヘビースモーカーが充分な換気もせずに短期間の使用にもかかわらず、通常のクリーニングで落ちない状況になった場合は「B」または「A(+B)」つまり、賃借人の負担すべき費用の検討が可能である事を示しています。

 よって、ガイドラインで「A」の通常損耗の範囲として、記載されている箇所においても、賃借人(入居者)の使い方によっては負担を求める事ができるのです。

 ヘビースモーカーで壁の黄ばみが酷い賃借人(入居者)が、通常損耗として負担を拒否した場合は、この部分をしっかりと説明して理解を求めましょう。

 尚、ガイドラインをまだお持ちでない人の為に、この解説の文末にガイドラインに添付されている別表1 損耗・毀損の事例区分(部位別)一覧表(通常、一般的な例示)(ガイドラインP17~P21)をダウンロードできるようにしています。

 こちらを参照してくださると具体的に、「A」に区分されるものは何かなど、事例を用いて紹介されています。賃貸管理や賃貸経営を行う方はこれらをしっかりと知った上で、退去立会いをすれば、賃借人(入居者)にも説得力のある説明ができるのではと思います。

 ただし、通常損耗まで入居者負担をさせていると逆にご自身のモチベーションが下がり、説得力も無くなるかもしれません。

 しかし、そう感じたのであれば、それを機会にしてガイドラインに沿う運営に変えていく事をお勧めします。

 実際、ガイドラインの通りにしたら、食っていけない管理会社や賃貸人(大家さん)がいる事を私は知っています。

 だから、個人的には今すぐガイドラインにすべきですとは、声を大にして言えません。しかしながら、時代は確実にガイドラインに沿った方向へ流れています。

 生意気な事を言うようで恐縮ですが、その流れに逆行すると、物件があり余る今の時代うまく経営できないような気がします。

別表1 損耗・毀損の事例区分(部位別)一覧表(通常、一般的な例示)

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[PDF 161KB]

----------------------ガイドラインP12  本文抜粋 ここから----------------------
(2) 経過年数の考え方の導入
1 経過年数
上記のように、事例区分BやA(+B)の場合には、賃借人に原状回復義務が発生し、賃借人が負担する費用の検討が必要になるが、この場合に修繕等の費用の全額を賃借人が当然に負担することにはならないと考えられる。
なぜなら、Bの場合であっても、経年変化・通常損耗は必ず前提になっているところ、経年変化・通常損耗の分は、賃借人としては賃料として支払ってきているのであり、賃借人が明渡し時に負担すべき費用にならないはずであるから、このような分まで賃借人が明渡しに際して負担しなければならないとすると、経年変化・通常損耗の分が賃貸借契約期間中と明渡し時とで二重に評価されることになるため、賃貸人と賃借人間の費用負担の配分について合理性を欠くことになるからである。
また、実質的にも、賃借人が経過年数1年で毀損させた場合と経過年数10年で毀損させた場合を比較すると、後者の場合は前者の場合よりも大きな経年変化・通常損耗があるはずであり、この場合に修繕費の負担が同じであるというのでは賃借人相互の公平をも欠くことになる。
そこで、賃借人の負担については、建物の設備等の経過年数を考慮し、年数が多いほど負担割合を減少させることとするのが適当である。
経過年数による減価割合については、「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」(昭和40年3月31日大蔵省令第15号)を参考とした。

 これによると、例えば、カーペットの場合、償却年数は、6年で残存価値10%となるような直線(または曲線)を描いて経過年数により賃借人の負担を決定する。年数が経つほど賃借人の負担割合は減少することとなる(図3)。

図3 設備等の経過年数と賃借人負担割合(耐用年数6年及び8年・定額法の場合)

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----------------------ガイドラインP12  本文抜粋 ここまで----------------------


≪ポイント≫
減価償却の対応年数に応じて残存価値は年々減少するため、賃借人(入居者)の負担割合も減少する
ここでは、経過年数に応じて原状回復義務の負担割合が下がる事を説明しています。

 例であげているカーペットの場合、入居時に新品のカーペットでも、6年後に退去した場合は、残存価値が10%しかなく、賃借人(入居者)の過失より100%の負担割合による原状回復を求めても、金額にすればカーペットの価格10%の負担しか求めることができないという事です。

 個人的には、この減価割合や残存価値の10%に違和感を覚えます。そもそも、この算出方法は旧大蔵省が税金を取る目的で考え出したもので、賃貸住宅としての設備であるカーペットなどの価値を図る上で、この考えを用いるのはふさわしくないと思うからです。

 例えば、クロスにしても、安物のクロスと10年保証を売り文句にしている高品質のクロスでは、残存価値が違います。

 ただ、これを用いた背景を想像すると、他に参考にするものがなかったのだとは思います。

 よって、論理的に、また客観的にその残存価値を説明できるものであれば、この限りではないと私は考えます。

----------------------ガイドラインP13  本文抜粋 ここから----------------------
2 入居年数による代替
経過年数の考え方を導入した場合、新築物件の賃貸借契約ではない場合には、実務上の問題が生じる。すなわち、設備等によって補修・交換の実施時期はまちまちであり、それらの履歴を賃貸人や管理業者等が完全に把握しているケースは少ないこと、入居時に経過年数を示されても賃借人としては確認できないことである。
他方、賃借人がその物件に何年住んだのかという入居年数は、契約当事者にとっても管理業者等にとっても明確でわかりやすい。
そこで本ガイドラインでは、経過年数のグラフを、入居年数で代替する方式を採用することとした。

 この場合、入居時点の設備等の状況は、必ずしも価値100%のものばかりではないので、その状況に合わせて経過年数のグラフを下方にシフトさせて使用することとする(図4)。

 なお、入居時点の状態でグラフの出発点をどこにするかは、契約当事者が確認のうえ、予め協議して決定することが適当である。

 例えば、入居直前に設備等の交換を行った場合には、グラフは価値100%が出発点となるが、そうでない場合には、当該賃貸住宅の建築後経過年数や個々の損耗等を勘案して10%を下限に適宜グラフの出発点を決定することとなる。

図4 入居時の状態と賃借人負担割合(耐用年数6年、定額法の場合)

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----------------------ガイドラインP13  本文抜粋 ここまで----------------------


≪ポイント≫
入居時の設備等の経過年数によって、そもそもの残存価値は違うため、それに応じた負担割合となる。

先と同じようにカーペットを例に説明すると、入居時に6年経過したカーペットであれば、毀損させ交換が必要となった場合でも10%が妥当な金額になる事を示しています。

このガイドラインは未然のトラブルを防ぐ事を目的にして作成されています。ここに、国土交通省からの良いアドバイスが書かれています。

 赤字にしている「入居時点の状態でグラフの出発点・・・」というところです。

 入居時の状態を予め協議して決定する事で、ある程度のトラブルは避ける事ができると思います。それでは、いつ協議するのか?

 実は、ガイドラインには書かれていません。

 私はあえて、それを書かなかった、または、書けなかったのだと推測しています。

 なぜなら、公正な協議をしようと思えば、契約前に協議して決定するのが最善だと思いますが、今の商慣習上を考えると現実的ではありません。

 実務上可能なのは、鍵の引渡が終わった契約後になると考えたのでしょう。

 もし、ここに契約前や契約時に予め協議して決定する事が適当であると書かれると、ガイドラインに沿った運用ができない賃貸人(大家さん)が続出してしまいます。
また、そんな事を書くと契約時に協議した覚えがないと言い出す入居者が続出し、かえってトラブルを増やす事になるかもしれません。

 よって、いつ協議するかは、「なるべく早くにした方が良い」としか私も言えません。競技するお勧めの時期は、この解体新書の第3回で紹介した「入居時・退去時の物件状況及び原状回復確認リスト」を入居時に署名捺印してもらうタイミングが良いのではと思います。

 今回、第3回で紹介したこのリストに残存価値の割合を記載する箇所を追加したファイルを用意してみました。参考までにご覧下さい。

次回は経過年数を考慮しないもののと、賃借人の負担対象範囲を解説します。

「入居時・退去時の物件状況及び原状回復確認リスト」

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[PDF 16.1KB]
【注意】
このページは個人の解釈を元に作成していますので、解説による責任はいかなる場合も一切負いかねます。ご了承くださいませ。

2004.08/24

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松尾充泰 (まつおみつひろ)
(賃貸不動産経営コンサルタント)
昭和43年大阪生まれ。
96年に賃貸不動産業界での職務経験を生かし、賃貸不動産業界向けソフトウェア開発会社、アクセス株式会社を設立。その後、賃貸不動産会社に対する業務コンサルティング、大家さん・賃貸不動産業界のビジネス支援サイトを運営する、株式会社リプロスを2003年に設立。