最近、過剰債務に悩む企業の再建策として「債務の株式化」が注目されています。この方法は多大なメリットがあることから、中小同族法人にも応用できると考えられています。しかし、実行の際には充分そのデメリットも理解してから実行する必要があります。
今回は、その要点にスポットを当てました。
債務の株式化のメリット・デメリット
債務の株式化とは?
債務の株式化(デット・エクイティ・スワップ)とは、借入金(デット)と資本(エクイティ)を交換(スワップ)することをいいます。
つまり債務者である企業は、借入金を返済しなくてもよいかわりに債権者に株式を発行するという方法です。従来、この方法は、債権者である銀行と債務者である企業との間で行なわれることが多かったのですが、中小同族法人にも応用できると考えられています。
会社のB/S
借入金の現物出資
債務の株式化のメリット
社長借入金の株式化によるメリットとして、次のようなことが考えられます。
1自己資本比率が上がる
決算書上、借入金が減少し、資本金が増加するので自己資本比率が上がり銀行の与信審査が有利になります。
2銀行対策になる
自己資本比率が高いことは、それだけ会社の財務基盤が安定していることを意味するので、銀行の印象もよくなります。
3相続対策になる
貸付金を自社株に転換することで評価方法が変更され、対策が行ないやすくなります。
税務上の問題点
借入金の現物出資は資本取引に該当するため、法人に対して課税は発生しません。ただし、資本金等の金額が増加するため、間接的に次のような影響が生じることになります。
1交際費の損金不算入
増資後の資本金が1億円を超えた場合には、定額基準がなくなり全額損金不算入となります。
2中小法人に対する特例
資本金が1億円を超えると以下のような特例が受けられなくなります。
・
法人税の軽減税率…年所得800万円以下の部分22%
・ 中小企業者の機械等の特別償却など
3法人住民税の均等割
資本等の金額が1,000万円を超えた場合には最低均等割が18万円に、さらに1億円を超えた場合は最低均等割が29万円にアップします。
4事業税の外形標準課税
資本金1億円超の法人に対して法人事業税額(=所得割額+付加価値割額+資本割額)が増加することになります。
贈与の問題
1現物出資による株式の割り当てを公正な時価で行なわないと、増資により経済的利益が移転し、みなし贈与の問題が発生することになります。
2会社の一株当たりの純資産価額が増資前・増資後の両方でマイナスの範囲内にある場合は、増資がどのような形態で行なわれたとしても、贈与税の課税関係は生じません。
商法改正(検査役の調査)
平成14年の商法改正により現物出資等の場合における検査役制度について緩和が行われました。具体的に、現物出資等の時における財産価額等の調査について、弁護士・弁護士法人、公認会計士・監査法人、税理士・税理士法人による価格証明を受けた場合には、検査役による調査は省略されることになりました。
検査役の調査は、時間とコストがかかるということで現物出資を行なう際のデメリットとして敬遠される理由の一つでした。
この検査役の調査が省略されると、現物出資がかなり実施しやすくなると考えられます。