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リプロス代表・松尾充泰の賃貸経営ノウハウ

第2回「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」のリプロス流解体新書

≪原状回復をめぐるトラブルとガイドラインを読み始める前のポイント≫

 ガイドラインを疎ましく思う賃貸不動産業界の関係者は多いと思います。

 しかし、これからは、避けて通ることのできない問題ですので、しっかりと理解してガイドラインを上手に使って頂きたく思います。

 しっかりと理解すれば、原状回復をめぐるトラブルは怖くありません。

 前回にも同様の事を書いているのですが、退去立会時の必須アイテムにしてください。

※本文中の表記について
 『 』の太い文字は「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」からの抜粋を示しています。


 今回もまだ、本文の解説には入れませんが、ここが、一番重要になります。

 ここを理解した上で読んでいただければ、ガイドラインの本文に書いてあることの裏に潜む、「何故」このような事をガイドラインに書いているのかといった読み方もでき、理解も深まります。

○本ガイドラインの位置付け

(ページ番号なし、目次の次で第1章の前のページにあります)
 ここには、ガイドラインはどのような形でまとめられたものであるかが書かれています。

 このページは非常に重要で、退去立会の時に使えます。

 そのシーンとして、入居者がガイドラインを盾に退去時に契約書を無視した主張をした場合、ここに書かれている以下の事を説明するとよいでしょう。

 『民間賃貸住宅の賃貸契約については、契約自由の原則により、民法、借地借家法の法令の強行法規(※1)に抵触しない限り有効であって、その内容について行政が規制する事は適当ではない』と書かれています。

 まず、冒頭に民間賃貸住宅の契約については、契約自由の原則とあり、このガイドラインが適用されるとは書いていません。

 よって、まともに適用されるのは、行政・公団などの公的資金が注入された民間以外の賃貸物件である事が伺えます。

 そして、今回の改訂版で新たに『有効であって』と追記されています。

 個別の契約を無視して、ガイドラインを振り上げる入居者側に、違法な内容でなければ、有効である事を解りやすく示したものです。

 そもそも、締結した契約書の内容を無効だと叫ばれては、何の為の契約書かわかりません。

 「契約条項をはじめ特約なども合理性があり違法性がなく、入居者がその事を理解した上で契約しているなら有効である」と書いているものと解釈できます。

 注意すべきは、消費者契約法です。

 消費者にとって一方的に不利な契約で合理性に欠くと裁判官により判断されれば、その特約は無効になります(消費者契約法第10条に抵触)。

 また、契約締結時の重要事項説明において、入居者が将来、原状回復の負担する部分がガイドラインを超え入居者にとって不利な契約であれば、この事実を通知する必要があり、それをしない場合も無効とされるおそれがあります(消費者契約法第4条に抵触)。

 これ以外も考えられるところがありますが、これは、今後「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」の「原状回復にかかる判例の動向」で詳しく解説したいと思います。

 また、位置づけにはこのようにも書かれています。

 『したがって、本ガイドラインについては、賃貸住宅標準契約書(※2)と同様、その使用を強制するものではなく、原状回復の内容、方法等については、最終的には契約内容、物件の使用の状況等によって、個別に判断、決定されるべきものであると考えられる』ここに、記載されているようにガイドラインには強制力がないことを入居者に説明してあげる必要があります。

 そして、『本ガイドラインは近々の裁判例やや取引等の実務を考慮のうえ、原状回復の費用負担のあり方等について、トラブルの未然防止の観点から、あくまでも現時点において妥当と考えられる一般的な基準をガイドラインとしてとりまとめたものであると書いてあります。

 これは、何を意味するかと言えば、このガイドラインは、平成16年2月現時点においての妥当であり、将来はこのガイドライン通りに従っているからといって裁判に負けないかと言うとそうではない事を理解しておく必要があります。

 このガイドラインを裁判所が考え方として採用しているようですが、このガイドライン自体が、1回目のガイドラインの発表後に発生した判例を元にして一部改定しており、原状回復をめぐる裁判結果は、時代とともに少しずつ変わるからです。

 なにより、そもそもこれはガイドラインであり、法律ではないのです。

(※1)強行法規・・・強行法規とは当事者の意思とは関係なく適用される法規の事です。
(※2)賃貸住宅標準契約書・・・平成5年1月29日住宅宅地審議会答申を受けて作成されたもの
    国土交通省 賃貸住宅標準契約書について
    http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/torikumi/keiyaku/kei01.html

○本ガイドラインのポイント
 
 ここは、ページ番号もふっていないので読み飛ばしそうなところですが、ポイントと書いているように重要な部分なので、しっかりと読んで頂きたく思います。

1.原状回復の定義
『(1)建物の価値は、住居の有無にかかわらず、時間の経過により減少するものであること、また、物件が契約により定められた使用方法に従い、かつ、社会通念上通常の使用方法により使用していればそうなったであろう状態であれば、使用開始当時の状態よりも悪くなっていたとしてもそのまま賃貸人に返還すれば良いとすることが学説・判例等の考え方であることから、原状回復は、賃借人が借りた当時の状態に戻すものではないことを明確にし、原状回復を「賃借人の住居、使用により発生し建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損(以下「損耗等」という。)を復旧すること」と定義して、その考え方に沿って基準を策定した』
 簡単に言えば、普通に使用していて部屋が汚れたり、劣化したりするのは当たり前であり、通常の使用による損耗等は、原状回復に含まれないことを示しています。

 くどくなりますが、故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗を復旧させる事を原状回復と言っているのです。

 つまり、契約書に原状回復の義務として、明記しリフォーム費用を負担してもらう事を考えていても、それは叶わない願いである事がわかります。

2.判例を参考資料に付けた意味の説明
 『(2)実務上トラブルになりやすいと考えられる事例について、判断基準をブレークダウンする事により、賃貸人(大家さん)と賃借人(入居者)との間の負担割合を考慮するうえで参考となるようにした』とあります。ブレークダウンなんて書いてあるので分かりづらいですが、要するに判決の要旨には判決に至ったプロセスを書いているので、負担割合についてはこれを参考にしてみてくださいと言うことです。
 判決に至ったプロセスが重要ですので、そこを抑えてください。例えば、マスコミの報道では大抵「原状回復問題で入居者側に勝訴」と判決結果しが報道されていません。これだけを聞くと「理由はどうあれ、消費者に有利」などの間違った認識を与える可能性があります。何故、そうなったかというプロセスを理解し、どうしていれば貸主側が勝訴できるのかを考えてみましょう。

3.経年経過による負担の違い
 『(3)賃借人の負担について、建物・設備等の経過年数を考慮することとし、同じ損耗等であっても、経過年数に応じて負担を軽減する考え方を採用した』つまり、新築時に入居者した入居者が3年後に解約する場合と10年後に解約する場合とは、原状回復で求める事のできる費用負担が違うという事です。これは1で説明している原状回復の復旧とはもとの状態にする費用を負担するのではなく、時間の経過と応じて負担する割合が軽減する事を説明しています。詳細については、第1章の原状回復にかかるガイドラインで解説したいと思います。

まとめ
1. 民間の賃貸契約は特約も含めて強行法規に抵触しないかぎり有効
2. ガイドラインには、強制力はない
3. ガイドラインは作成現時点での一般的な基準を示したものにすぎない
4. 原状回復は賃借人(入居者)が借りた当時の状態に戻す事ではない
5. たとえ損耗等であっても、経年経過について考慮される

【注意】
このページは個人の解釈を元に作成していますので、解説による責任はいかなる場合も一切負いかねます。ご了承くださいませ。

2004.06/22

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松尾充泰 (まつおみつひろ)
(賃貸不動産経営コンサルタント)
昭和43年大阪生まれ。
96年に賃貸不動産業界での職務経験を生かし、賃貸不動産業界向けソフトウェア開発会社、アクセス株式会社を設立。その後、賃貸不動産会社に対する業務コンサルティング、大家さん・賃貸不動産業界のビジネス支援サイトを運営する、株式会社リプロスを2003年に設立。